7月末時点で『バイオハザード RE:4』『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』『ストリートファイター6』『ディアブロIV』『FINAL FANTASY XVI』『ピクミン4』と大型タイトルが多数リリースされており、しかもどれもこれも圧倒的におもしろい。ここまでおもしろいゲームが揃っているんじゃあ、おちおち寝ていられない!
とはいえ寝ないと体調が悪くなってしまい、せっかくのゲームもプレイできなくなってしまう……。だが、そんなゲーマーの救いの主となってくれそうなゲームが登場した。そう、『ポケモンスリープ』だ!
睡眠計測アプリと放置系収集ゲームのシステムを融合したポケモン最新作『ポケモンスリープ』
『ポケモンスリープ』はその名の通り、『ポケモン』の世界観を扱ったゲームの最新作。『ポケモン』の名を冠したゲームのほとんどがそうであるように、本作もまた、ポケモン集めが目的となっている。そして、その方法が、スリープ=睡眠すること。
本作はスマートフォンアプリとして提供されており、スマートフォンの加速度センサーを使って睡眠状況を計測。睡眠状況に応じて、異なるポケモンをゲットできるようになっている。
ちなみに集めるのはポケモンの個体だけではない。その寝顔もあわせてコレクションするかたちになっているため、バリエーションが豊富。しかも、めちゃくちゃかわいいので、非常に集め甲斐のあるものになっている。
また、集めるだけではなく育成要素も存在。本作の看板ポケモンであるカビゴンを育てることで、出現するポケモンが増えていく……という要素だ。
カビゴンは、食べ物を与えることで育成可能。食べ物は、仲間のポケモンが自動的に収集してくれる。ポケモンを仲間にするには、睡眠を計測することで出現したポケモンをゲットすればいい。
いつもならモンスターボールを投げてゲットするところだが、本作ではモンスターボールの代わりに「サブレ」を使う。ポケモンに「サブレ」を与えるとフレンドポイントが増加。一定フレンドポイントまで貯まると、仲間にできるのだ。
睡眠を娯楽化する画期的なゲーム
筆者は本作のことを非常に画期的な作品だと感じている。しかしながら、本作のゲームシステムそのものはさほど画期的ではない。ゲームシステムそのものは、『なめこ栽培キット』や『ねこあつめ』といった放置系収集ゲームと同様と言っていいだろう。
(画像は『なめこ栽培キット』)
放置系収集ゲームでは、ゲームを起動すると、それまでゲームしていなかった時間に基づいてキャラクターが出現する。もちろん個々のタイトルによって、肥料をやったりエサを準備したり設備を整えたりといった要素も影響してくるのだが、基本となっているのは、ゲームを閉じていた時間。「ゲームを閉じる=ゲームをしない」ということが中心にあるからこそ、「放置」ゲームなのだ。
これを踏まえると、睡眠時間に基づきポケモンが出現する本作もまた、放置系収集ゲームの一種といえる。そういう意味では、なんら画期的なところはない。ただ、これまでの放置系収集ゲームと本作は、ある点で決定的に異なっている。
(画像は『ねこあつめ』)
これまでの放置系収集ゲームと本作とで決定的に異なる点……それは、放置時間に意味を持たせている点だ。
既存の放置系収集ゲームでは、放置時間……すなわちゲームを閉じている時間には、特にゲーム的な意味がない。仕事や勉強していようと、食事をしていようと、はたまた睡眠していようと、なんだってOK。放置時間中プレイヤーが何をしていたかは、ゲームにとってどうでもいいこと。
ゲームとは無関係……だからこそ「放置」なのだ。
しかし『ポケモンスリープ』は違う。『ポケモンスリープ』における放置時間は、プレイヤーが何をしていても構わない時間ではなく、『睡眠時間』なのだ。しかも、ぐっすり眠ったのか、うとうと眠ったのかといった睡眠状況がゲームに影響を与える。
視点を変えるとこれは、プレイヤーにとっての毎日の睡眠が、ゲーム的な意味を帯びるということ。ここが画期的なのだ。
人間にとってそもそも、睡眠は意味を持つ行為だ。今日一日活動した疲れを取り、明日一日活動できるようリフレッシュするという意味を持っている。
また、睡眠自体が単純に気持ちいい。うとうととまどろんでいる時の気持ちよさ、ぐっすり眠れた時のスッキリ感などは、快楽といって差し支えないレベルだろう。言い換えるなら、人間にとって睡眠は生存に必要な行為であるとともに娯楽でもある。
……にもかかわらず、おろそかにしがち。
もちろん、仕事が立て込んでいて徹夜しないと間に合わないだとか、不眠症だとかといった、やむにやまれぬケースもある。しかしその一方、筆者のようにプレイしたいゲームが沢山あるから睡眠を削ってしまうだとか、オールナイトで飲み会したいだとかいった具合に、他の娯楽のために睡眠を削ってしまうということも少なくない。
この状況はつまり、「睡眠」の優先度が低くなっているということ。「睡眠」の持つ意味が、他の行為の意味より薄くなっているということだろう。
そして、だからこそ『ポケモンスリープ』が輝くのだ。
本作、『ポケモンスリープ』をプレイすると、睡眠という行為に「ゲームをプレイする」という意味が加わる。健康のためだったり、単純に眠かったりといった睡眠本来の持つ意味だけでなく、「新たなポケモンと出会える」という意味。寝るという行為に新たな楽しさがプラスされているわけで、これはつまり、睡眠をエンターテインメントとして再定義しているわけだ。
これは他のゲームがこれまで成しえなかったこと。だからこそ、『ポケモンスリープ』は画期的なのだ。
でも、画期的な部分はここで終わりじゃない。
睡眠ジャンルの新たな可能性とゲームの新たな可能性
睡眠は、人間の持つ三大欲のひとつと言われている。ただ、ビジネス的な観点で他の2つの三大欲と比べると、かなり特殊ではないだろうか。
他の2つの三大欲……食欲、性欲は、それぞれ娯楽として圧倒的なビジネスマーケットを誇っている。食欲ならグルメ、性欲ならアダルトコンテンツ……といった具合に、「人間の生存に必要だから」を通り越し、娯楽としての需要を持っているのだ。
一方、睡眠欲はそれほどでもない。ベッドなどの睡眠器具は販売されているし、良好な眠りをもたらすとされるサプリメントなども販売されてはいるが、それらの需要は娯楽ではなくヘルスケアだろう。「週末は美味い酒と美味しい食事をたっぷり買って、めちゃくちゃ楽しむぜ!」と、「週末は半日寝よう……」というのは明らかに方向性が異なっている。
そんな中で本作は、睡眠そのものをエンターテインメント化してみせた。これは、ビジネス面において相当画期的なことなのではないだろうか?
本作がヒットしたならそれは、「睡眠をエンターテインメントとしてビジネス化できる」ということ。それは、今までのようにヘルスケアを前提としたもののみならず、娯楽前提の睡眠グッズにもビジネスチャンスがあるということになる。そうなったら、様々な企業から新たな睡眠グッズが発売されることだろう。
つまり、ビジネス的な新ジャンルの可能性という意味で画期的なのだ。
また本作は、ビジネスではなくゲームジャンルという面でも、可能性を示してくれた。それは、「我々の過ごす時間に意味を与える」というエンターテインメントの在り方だ。
我々がゲームをプレイしている時間は、当然ながら、ゲームに消費されている。しかし本作は、我々が「睡眠している時間」をゲーム化しているため、ゲームのために時間を消費しているわけではない。
ゲームのために時間を消費させるのではなく、我々の過ごす時間をゲーム化する……この発想は、散歩しながらポケモンを収集する『ポケモンGO』の時点で既に取り入れられていたが、本作はよりダイレクトに表現されているように思う。
(画像は『ポケモンGO』)
「我々の過ごす時間をゲーム化する」というコンセプト自体は、放置系収集ゲームのシステムをベースにすることで、それほど困難なく実現できるだろう。そう考えると本作は、睡眠ジャンルの開拓のみならず、「人生の時間のゲーム化」という新たなゲームジャンルの種を残してくれたといえる。
寝るのが楽しみ! 目が覚めて楽しい! そして健康
睡眠のエンターテインメント化……。この試みは、少なくとも筆者の体験上は成功している。本作をプレイして筆者は、寝るのも目覚めるのも楽しくなった!
ちなみに筆者は、周辺機器である『ポケモン ゴー プラスプラス』とともに本作をプレイしている。『ポケモン ゴー プラスプラス』は、『ポケモンGO』用の周辺機器として発売されていた『ポケモン ゴー プラス』の後継にあたるデバイス。
『ポケモン ゴー プラス』は『ポケモンGO』でモンスターボールを投げるためのリストバンド型デバイスだったが、『ポケモン ゴー プラスプラス』は形態が円盤状に変更。『ポケモンGO』だけでなく、本作での睡眠計測にも対応している。
『ポケモン ゴー プラスプラス』を使うと、『ポケモンスリープ』アプリを開かずともボタンを押すだけで睡眠計測できる。計測した内容は、後ほど同期可能だ。
また、睡眠時と起床時にピカチュウの声が再生される。就寝時には子守唄を。起床時には、ポケモンセンターで流れるあのテーマを歌ってくれる。
(画像は『ポケットモンスターバイオレット』)
これがなんともカワいい……! 就寝時もカワいいが、個人的には起床時が最高。『ポケモン』のプレイヤーなら、ポケモンセンターで流れるあのテーマ=「回復」と脳に焼き付いているため、目覚めのタイミングで聴くと回復したかのように感じてしまうのだ。
もちろん完全に気のせいではある。だが、気のせいだろうとなかろうと、気持ちのよい目覚めを迎えられるなら最高じゃないか!
筆者は今年で47歳になるのだが、正直なところ精神的にはあまり中学生のころと変わっていない。ゲームを開発したり、専門学校でゲームの企画やプログラムを教えたり、こうしてゲームのレビューを書いたり……というのが仕事なので、毎日ゲーム三昧。愛読書は「週刊少年ジャンプ」と「コロコロコミック」であり、お小遣いの範囲内でポケモンカードを集め、毎週YouTubeでアニポケを鑑賞している。
こうした生活を送ってきたことから、これまで47歳という実感を持っていなかった。しかしながら、最近は体調面で年齢を実感させられることが多い。その筆頭が、「睡眠」。
昔は寝て起きればキレイさっぱり疲労がとれていたのに、最近は疲れが残っている。それどころじゃない。睡眠時間が十分じゃないと、腰やら肩やらといった関節が痛むのだ!
このため、なんとなく床に就くことが億劫になってしまった。一方で、朝は疲れが残っているから、できる限り布団から出たくない。自分史上類を見ないほどのローテンションっぷり。
これが、「老い」だというのか……。そう思っていた。
しかし、本作をプレイし始めて以来、床に就くのが楽しみになったし、朝もピカチュウの歌で気分のよい目覚めが迎えられるようになった。なにやら怪しげな健康器具の体験談めいているが、人間、楽しみがあるとテンションはアガるよねという風にとらえてもらえれば幸いだ。
だからこそ、睡眠について同じような悩みを抱えている人は是非本作を試してほしい。ただ、筆者のようにテンションアゲアゲになるかどうかは、ポケモンが好きかどうかも影響すると思う。
筆者はゲームのみならず、ポケカやアニポケも好きで、とりわけコダック、ヤドン、ヨクバリスが大好きだ。ヨクバリスは未確認だが、本作でもコダック、ヤドンは登場する。だからこそ、出会える楽しみによってテンションがアップする。
一方でポケモン未経験だと、ここまでテンションは上がらないかもしれない。
とはいえ本作は、娯楽目的以外にヘルスケアツールとしての要素も持っている。自分の睡眠リズムを確認し、健康状態を把握するという要素だ。
このため、ポケモンは知らずともヘルスケアツールとして使っている内に、かわいいポケモンたちへの興味が出てくるかもしれない。そうしたら、ぜひ『ポケモンGO』やナンバリング最新作である『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』をプレイして欲しい。
シリーズの世界観を知ることでますます本作が楽しくなり、ひいては寝ることが楽しくなるだろう。やがて最終的には、自分の人生を楽しむことにもつながるはずだ。
本作はそんな、可能性に満ちた一作だと思う。
文/田中一広
(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)
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