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『鉄拳8(Tekken 8)』レビュー:対戦ゲームの裾野を広げジャンルを未来へとつなげる一作
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『鉄拳8(Tekken 8)』レビュー:対戦ゲームの裾野を広げジャンルを未来へとつなげる一作

2024-02-16 10:30
    2023年に発売された『ストリートファイター6』は、令和の世に再び対戦格闘ゲームの熱を呼び戻した。そして開発会社もシリーズも異なるものの2024年1月25日に満を持してのリリースとなった『鉄拳8(Tekken 8)』も、対戦格闘ゲームの看板としてこの熱を受け継ぎ、未来へつなげる一作になったと言えるだろう。

    格闘ゲームジャンルを今日までつなげてきた立役者! 「鉄拳」シリーズ最新作

    『鉄拳8』は、3D対戦格闘ゲーム「鉄拳」シリーズの最新作。3D対戦格闘ゲームといえば「バーチャファイター」シリーズが元祖だが、個人的には後発である「鉄拳」シリーズの功績がかなり大きいのではないかと感じている。というのも、「鉄拳」シリーズは3D対戦格闘ゲームのみならず、対戦型格闘ゲームというジャンルそのものを長年支えてきたからだ。

    ジャンルとしての対戦格闘ゲームは、『ストリートファイターII』で大ブームを巻き起こしたものの、その後冬の時代を迎えることとなった。対戦格闘ゲームの元祖「ストリートファイター」シリーズは『ストリートファイターIII』(1997年)から『ストリートファイターIV』(2008年)まで約10年の期間を経ており、3D対戦格闘ゲームの元祖である「バーチャファイター」シリーズも、『バーチャファイター5 ファイナルショーダウン』(2006年)から最新作『バーチャファイター eスポーツ』(2021年)まで10年以上の期間が掛かっている。

    そんな中でコンスタントにリリースを続け、格闘ゲーム冬の時代を支えてきたタイトルこそ、「鉄拳」シリーズだ。実際に同シリーズは世界規模で認知度が高い。プレイヤーによっては、対戦格闘ゲームと言ったら「鉄拳」シリーズと認識している人もかなり多いだろう。

    「鉄拳」シリーズの功績は大きいと書いたのは、こうした理由からだ。今回レビューする『鉄拳8』は、そんな「鉄拳」シリーズの最新作。当然生半可な作品には仕上がっていない。

    「対戦格闘ゲームコミュニティ」を育て未来へつなげる一作!

    筆者は過去に『ストリートファイター6』のレビューで、「対戦格闘ゲームコミュニティ」を丸ごと作り出す……そんなスケールの大きな一作だと書いた。これは、『ストリートファイター6』が対戦のみならず、ゲームの基本を習得できる大ボリュームのストーリーモードを用意したり、対戦を行うメタバース的空間を用意したり……と、これまでゲーム攻略本やゲームセンターが担っていた周辺機能までを取り込んでいたからだ。そして、本作『鉄拳8』にも、『ストリートファイター6』と同等以上の機能が組み込まれている。

    まず本作には、一般的な意味でストーリーモードと呼べるモードが2つ搭載されている。1つめは風間仁をメイン主人公として展開する「ストーリーモード」。

    「ストーリーモード」は、既存の格闘ゲームの大半が実装しているスタンダードなストーリーモードと同様のもの。三島一八が開催する格闘大会「ザ・キング・オブ・アイアンフィスト・トーナメント」をめぐり、「鉄拳」の登場キャラクターたちがぶつかり合う。格闘大会の結果は? 風間仁のデビルの力はどうなるのか? そして三島一八の運命は?……と、「鉄拳」世界のストーリーを鑑賞者として体験できる。

    一方、もう1つのストーリーモードと呼べる存在が「アーケードクエスト」。こちらは『鉄拳8』がビデオゲームとして存在している世界……つまり我々と同じ世界を描いている。風間仁や三島一八はあくまでゲーム内のキャラクターであり、主人公はプレイヤー自身だ。

    「アーケードクエスト」でプレイヤーは自分のアバターを作り、アーケード(ゲームセンター)で『鉄拳8』の対戦を重ねていく。つまり現実世界で『鉄拳8』の腕前を上げていく、1人の格闘ゲーマーの姿が描かれている。

    この「アーケードクエスト」が特徴的なのは、『鉄拳8』のチュートリアルとして機能すると同時に、「対人対戦」のチュートリアルとしても機能することだろう。『鉄拳8』のチュートリアルとしては、風間仁を主人公とする「ストーリーモード」もその機能を持っている。プレイをすることで操作方法を学ぶことができ、キャラクターの技の使用感を知ることができるからだ。

    ただ、操作やキャラクターの使用感を学んだからといって対人対戦で勝てるかというと、まったくそんなことはない。意気揚々とオンライン対戦に繰り出すと、何もできずにボコボコにされてしまうことだろう。その結果、「対戦格闘ゲームっておもしろくねえ!」となってしまうプレイヤーも案外多いというもの。

    こうした積み重ねによってプレイヤー人口が縮小していき、対戦格闘ゲームジャンルは冬の時代を迎えたのだ。

    対戦格闘ゲームに限らず、対人対戦タイプのゲームは概ね「駆け引き」をベースとしている。

    相手の攻めに対してどう攻めるのか?
    技と技をどう組み合わせるのか?
    時に、攻めると見せかけてフェイントをかけたり、あえて敵の攻撃を誘って迎撃する……といったことも必要だろう。

    こうなってくると、どちらがより駆け引きに精通しているかという練度がモノを言うようになる。当然ながら、熟練のプレイヤーに新規プレイヤーが挑んだら、勝てる見込みはほぼない。いや、相手の練度の方が多少上というだけで、勝つのは難しくなってしまう。

    だからこそ、同じ強さのプレイヤー同士を対戦させるマッチングシステムが求められるのだ。とはいえ、マッチングシステムも銀の弾丸ではない。たとえば、そもそも参戦プレイヤーがほとんど熟練者という状況なら、新規プレイヤーに相応しいマッチング相手はごくごく少数というかたちになってしまう。

    では、どうすればいいのか? 『ストリートファイター6』が出したアンサーは「バトルハブ」機能によって、90年代にあったゲームセンターをメタバース的な形式でオンラインに生み出すこと。メタバース内でコミュニケーションを取れたり、グループを作れたりといった機能を用意することで、近いレベルのプレイヤー同士が対戦しやすくなるだけでなく、上級者が初心者プレイヤーに駆け引きのコツを教えることもできるようにしたのだ。

    (▲画像は『ストリートファイター6』)

    とはいえ、「バトルハブ」は対人機能。コミュニケーションをすることが前提の機能(相手とぶつかりあう対戦ではなく)であっても、「対人」というだけで敷居を感じる人もいるだろう。

    「下手だと思われたらどうしよう……」
    「どうコミュニケーションを取ればいいのかわからない……」

    これはゲームだけに限った話ではない。学校や会社、サークルなどなど、はじめてのコミュニティに所属する際、こうした不安を抱かない人の方が少ないはずだ。

    そしてこうした不安に対してのアンサーになる存在こそ、本作の「アーケードクエスト」だ。先ほど触れた通り、「アーケードクエスト」でプレイヤーは、アーケード(ゲームセンター)を舞台に『鉄拳8』の対戦を重ねていく。

    このとき、対戦相手だけではなく先輩としてプレイヤーを導くNPCや、ライバルとなるNPCも登場。ゲーム進行に応じて先輩プレイヤーが段階的にテクニックを教えてくれることで、「鉄拳」における駆け引きを学べるようになっている。また、プレイヤーが習得中のテクニックに合わせた強さのライバルが立ちはだかるので、何もできずにボコボコにされてしまうという悲劇も少なくなる。

    その上でNPCとのやり取りを通じて、コミュニティの雰囲気やそこでどうふるまえばいいのかを学習できる。

    筆者はこの点がかなり画期的だと感じた。一介の新規プレイヤーが、「対戦格闘ゲームコミュニティ」に入っていく際に挫折するであろうポイントをゲームシステム側で丁寧に対策している。少なくともこの観点においては、『ストリートファイター6』の一歩先を行ったシステムだと思う。

    この機能によって本作は、新規プレイヤーが感じるであろう挫折感が最小限に抑えられている。その結果として新規プレイヤーの育ちやすい環境が作られていると感じた。そういう意味で、大袈裟かもしれないが「対戦格闘ゲームコミュニティ」をこの先の未来へとつなげる一作と言えるのではないだろうか。

    爽快感溢れる殴り合いは文字通り「鉄拳」!

    一方、肝心の格闘アクションの部分についてはどうか?……というと、これまでのシリーズの基本を踏襲する、殴り合いの爽快感をより強く感じられる内容に仕上がっていた。ガンガン殴り合い、攻撃が決まるとめちゃくちゃ気持ちイイ。まさに「鉄拳」というタイトルをそのまま体現した格闘アクションと言える。

    本作が踏襲している「鉄拳」の基本とは、操作方法や立ち回りの部分だ。「鉄拳」シリーズの操作は、レバー+4ボタン(左手、右手、左足、右足)で行う。レバーの入力方法とボタンの組み合わせによって異なる技が繰り出されるというかたちだ。

    立ち回りは「置き技」、「スカ確」、「攻め」、という3すくみが基本。「置き技」とは、相手の「攻め」に対して置いておく技のこと。「鉄拳」では、技のスピードが速いため、先行して置いておくように技を出すことで迎撃するわけだ。

    この「置き技」に対して有効なのが「スカ確」。相手の置き技を空振りさせ、その隙にこちらの攻撃を当てること。そして、「スカ確」を狙って防衛気味になった相手に刺さるのが「攻め」となる。

    「置き技」、「スカ確」、「攻め」という要素が目まぐるしく入れ替わるところに、「鉄拳」シリーズのバトルの魅力がある。打撃系メインの攻撃が矢継ぎ早に繰り出され、スピーディーに攻防が展開。そして、打撃がヒットするとド派手なエフェクトとともに爽快な効果音が鳴り響く!

    この爽快感は、『鉄拳8』でも健在。さらに「ヒートシステム」によってより爽快感がアップしている。

    「ヒートシステム」とは、対戦中任意のタイミングで「ヒート」状態になり、キャラクターを強化できるシステム。制限時間があるものの、「ヒート」状態になると「ヒートスマッシュ」や「ヒートダッシュ」という強力な技が使えるだけでなく、一部の技が強化。その上すべての技が、相手ガード時でも削りダメージを与えられるようになる。

    「ヒート」状態になると攻撃のメリットが大幅に増えるため、攻撃の爽快感をより強く味わえるわけだ。また一方で、「ヒート」状態になるための発動技「ヒートバースト」には「パワークラッシュ」がついており、相手の技を受け止めることが可能。このため「ヒートシステム」は、防戦一方となった状態からの打開策として使うことができる。

    これまでの「鉄拳」シリーズの爽快感を踏襲しつつ、より攻撃面での爽快感を強化した本作の格闘アクションは、まさに「鉄拳」の名に相応しいものと言えるだろう。

    ところで、格闘ゲームではその特徴である「コマンド技」も初心者にとってのハードルとなっている。複雑なコマンド技はそもそも入力するのが難しく、何か技を出すだけで一苦労……というのは「格闘ゲームあるある」だ。『ストリートファイター6』もこの対策として、コマンド入力不要で必殺技が出せる「モダン操作」を取り入れていた。

    ……と言ってもそもそも「鉄拳」シリーズは、2D格闘ゲームほどコマンドが複雑ではない。複雑な技も存在しているが、たいていの場合レバーを特定の一方向に対した後、順番にボタンを押す……というかたち。レバー入力しなければならない方向が少ない分、2D格闘ゲームほど「(技を)出すのに苦労する」ことはないだろう。

    ただその一方で、「鉄拳」シリーズは技の数が物凄く多い。ここまで多いとどんなに入力がカンタンでも覚えるのが難しいし、そもそもどれから覚えればいいのか困ってしまう。この点、本作では2つの対策がなされている。

    1つは、「スペシャルスタイル」という操作方法。『ストリートファイター6』の「モダン操作」のようなもので、コマンド不要、ボタン連打で技を出すことができるという操作方法だ。しかも「モダン操作」とは違い、対戦中にいつでもワンボタンで通常操作と切り替えできる。

    2つめは、ゲーム中に確認できるコマンド表のつくり。すべての技が掲載されているコマンド表以外に、使い勝手のいい主要技だけを掲載したコマンド表が用意されている。しかも技の紹介が名称ではなく、「敵が立っているときに使う技」など、対戦中のどんな状況で使うものかを表記してくれているのが便利。

    これら2つの要素のおかげで本作は、誰でも対戦で技を出せるし、いざ本格的に技を身につけようと思ったときでも練習をしやすい。よくできた作りになっていると感心した。

    「格闘ゲーム」「対戦ゲーム」として成立する! 裾野の広い一作

    ここまでに紹介した内容によって、本作は「対戦格闘ゲーム」しても成立するが、と同時に「格闘アクション」「対戦ゲーム」に要素を分解したとしても成立する、そんな作品だと感じた。簡易的なコマンドで技を繰り出し、ド派手に、そして爽快にNPCと戦う「格闘アクション」的な楽しさは、「ストーリーモード」でどっぷり味わうことができる。「対戦ゲームは苦手だけど、キャラクターがド派手に戦うバトルアクションものは好き」という人であっても、きっと楽しめるだろう。

    また本作は、「スペシャルスタイル」を駆使して駆け引き抜きにプレイするのも楽しい。殴り合いが爽快なので、戦うことそれ自体が気持ちイイのだ。このため「対戦格闘ゲームには難しいイメージがあるけど、他プレイヤーと対戦するゲームそのものは好き」という人にも向いている。

    つまり本作は、対象者の裾野がとても広いのだ。プレイヤーの裾野が広がっていけば「対戦格闘ゲームコミュニティ」が盛り上がり、まだ見ぬ強豪プレイヤーが登場してくることだろう。となると「対戦格闘ゲーム」ファンももちろん楽しめる。

    『鉄拳8』は、冬の時代を経て盛り上がっている未来の光景をポジティブに想像せずにはいられない一作となった。「格闘アクション」「対戦ゲーム」そして「対戦格闘ゲーム」、いずれかの要素が好き、あるいは興味はあるという方であれば、ぜひ一度手に取ってみてほしい。

    文/田中一広

    (執筆者: ガジェット通信ゲーム班)

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