自身の妻を主役にした舞台を控える演出家がコールガールと一夜を共にするが、実は彼女は女優の卵で、舞台のオーディションに合格したことから思いも寄らぬ騒動が巻き起こる……。ホリデーシーズンにピッタリな大人のロマンティック・コメディ『マイ・ファニー・レディ』が現在公開中。
監督は『ラストショー』(1971)『ペーパー・ムーン』(1973)の巨匠ピーター・ボグダノヴィッチ。『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソンと『フランシス・ハ』のノア・バームバックをプロデューサーに従え、ボグダノヴィッチ監督自身が企画・脚本を手掛けた13年ぶりの新作です。
登場人物全てがキュートで、愛しくて可笑しくてなぜか涙が出てくる本作。監督に映画について、キャスト陣について、色々とお話を伺ってきました。「最近のアメリカン・コメディは“体液”で笑わせている」等、監督らしいハリウッドの“斬り方”にも注目です。
―映画に出て来るキャラクターがとても魅力的でした。そしてその魅力は俳優さんたちの素晴らしい演技によってさらに輝いていると思います。キャスト起用の理由をそれぞれ教えてください。
ピーター・ボグダノヴィッチ:最初は別の役者でやるつもりだったのが亡くなってしまって、企画が止まってしまったんだ。しかし、オーウェンに出会って、もしかして彼がこの役にぴったりなのではないかとおもった。アーノルドという役の曖昧さは面白い。人助けたりすぐ浮気したり。これを成立させるための役者はチャーミングでスイートでないと。ブラピやディカプリオでは色気があってだめだ。オーウェンにあわせてすこし脚本も変更した。この作品はオーウェンに出会ったから実現したんだ。
ジェニファーには最初、アーノルドの妻デルタ役をオファーしたんだが、断られた。すでに、まえの作品でオーウェンの妻をやったことがあるから、それはやりたくない、別の役がいい、ということだった。それでセラピストの役をお願いした。ジェニファーにキャスリン・ハーンとウィル・フォーテも紹介してもらったんだ。彼らは本当に素晴らしい仕事をしてくれたよ。
イモージェンについては、彼女が座った途端、即座に「この人だ!」と思った。「誰も言わないで欲しいんだけど、あなたに役をあげる」とすぐに言ったくらいだ。オーディションでもなく、脚本とかを読んでもらったわけでもなく、座って彼女と1時間くらい話しただけ。会ってびっくりしたのは、変わっているんだ、彼女は。典型的なものではなく、ちょっと変人だなと。でもとても知的な方で。わざとそうしているわけではないんだ。女優さんによってはわざわざヘンな人のフリをする人もいるけど、彼女はそうではない。彼女自身のキャラクターと役柄をくっつければ、すごく面白いものになるなと思った。あと、英国人だよね、彼女は。なのに、米国のアクセントがすごくうまい。シアターで学んでいるから。英国人には、優れた俳優がいっぱいいるね。
―上の質問に関して、キャスティングを苦労したキャラクターはいますか?
ピーター・ボグダノヴィッチ:「セス」役だ。結構イケている系のスター俳優の方に、自分自身を笑ってもらうような役なのでなかなかやってくれそうな人がいなかった。そんなとき、ジャック・ヒューストンがぜひやりたいと言ってくれたが、進行中のドラマの契約から逃れられず断念して、ノア・バームバックの作品に出ていたこともあり彼の推薦でリス・エヴァンスになった。
―本作はとってもキュートで笑えて、ちょっとシニカルで…ととても良質な大人のドラマだと感じました。そして、人間の描き方に温かさを感じたのですが、人間描写で一番大切にしている事を教えてください。
ピーター・ボグダノヴィッチ:一番大切にしているのは、人生に真に迫っているかどうか、リアルに感じられるかどうかということだ。「ああ、これは実際にそういう人物なんだ」と感じてもらえなければならない。これは役者さんにもよるよ、どんな役者もキャラクターに多かれ少なかれ影響を与えるものだから。役者がキャラになりきるのではなく、キャラを演じるというより自分自身の中にキャラを見つける、これが僕は演技だと思っている。
かつては黄金期のハリウッドの持っていたスターシステム、日本でいえば撮影形式があり、そういうこともうまくいっていた、個性を持った俳優が契約してそこにいて、彼らは演じているというよりは持ち前の美でただそこにいるだけで、観客はそれをリアルに感じたはずだ。ケーリー・グラントだったり、ジョン・ウェインだったり、ジェームズ・ステュアートだったり。しかし、それも今はないものだし、スタジオもそうやってスターを育てようという気はない。50年くらいはとてもうまくいっていたシステムだった。これがハリウッドの黄金期だね。
思うところはたくさんあるんだが、ただ、この作品にそれが出ているとは思わない。最近のアメリカン・コメディというものは全部「体液」で笑わせているんだ、髪の毛に精液がついて爆笑、みたいな。あとはFワードの連発。僕にとっては全然面白くない、チープなコメディにしか見えないし、作られ方じたいもチープだ。コメディこそ、本当に慎重に構築していかねばならないのに。僕は今の作品でも、コメディ以外の作品はあんまり好きじゃない、アニメやSFのCGを使ったようなものが多いから、僕は今、どうも違う時代にいるような感じなんだよね。
―監督にとって、ニューヨーク・ブロードウェイとはどんな場所なのでしょうか?
ピーター・ボグダノヴィッチ:僕はブロードウェイ、演劇は大好きだし演劇で育っているからね。母親が僕が役者になりたいということを察して、NYのチケットを取ってくれたんだ。でも僕は思春期の真っ只中で、そんなのみてられるか、マーティンルイスの新作をみたい、と言って反抗した。しかし母親が、絶対行きなさい、他のコトを絶対やらせない、って断固とした態度だったからイヤイヤ観たんだ。でも見たらもうハマっちゃって。通算300、400本は見ているんじゃないかな。ブロードウェイはどんな場所か? それは世界のみんなが思っている意味と近いのではないかな。僕はずっと舞台の演出がやりたいんだ。25歳くらいからずっと、役者として演出家として舞台にぞっこんだったんだ。
『マイ・ファニー・ガール』現在公開中
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