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殺処分0の実情

近年、多くの市民の声を反映して、自治体では殺処分0を目標とする取り組みが活発になりつつあります。すでに幾つかの県では達成しているところもあり、全国規模でみれば、殺処分される犬猫の頭数は減少傾向にあるようです。
この成果の裏には、保護団体や個人のボランティアの増加によって助けられていることが挙げられます。つまり、今までは保健所にいる犬や猫の引き取り手が少なく、殺処分を余儀なくされていた状態から、保護団体などが増加し、一時的に犬猫を預かる人が増えたことで殺処分をしなくて済んでいる状態といえるでしょう。
実際には、ボランティアによって支えられている殺処分0と言っても過言ではありません。現在は、ボランティアの家や保護団体の施設に収容されている頭数が増えつつあり、各保護団体やボランティアは犬や猫の飼育費用を個人の出費で賄っているのがほとんどです。ボランティアの経済的負担は大きく、だれでも気軽にボランティアに参加するという状態ではありません。
このような状態で、ボランティアの総数が減ってしまうと、以前の状態に戻ることは簡単に予測できます。また仮に、保健所に持ち込まれる頭数が増加した場合は、殺処分数はいとも簡単に増加します。現状はこのような脆弱なシステムの上で成り立つ殺処分0なのです。

ドイツなどの事例

既にご存知の方も多い、ドイツのティアハイム(民間組合の動物保護施設)では基本的に殺処分は行われていません。ドイツだけではなく、同じく動物愛護先進国である欧州の先進国では、こうした問題に長い間取り組んできました。
ここで例に挙げたティアハイムは日本の保健所とはその成り立ちを含めて根本的な違いがあります。ここで取り上げたいことは、ティアハイムの運営に税金が使われていないということです。ティアハイムの運営資金は、市民や企業からの募金や会員費、相続金によって支えられています。そして、市民はティアハイム内での仕事をお手伝いするというのがボランティア活動として浸透しているようです。
ティアハイムでは、動物を保護するためには税金を使わずに運営し、殺処分も行われていません。一方の日本はというと、環境省保健福祉局が保健所を運営しています。保健所に勤務する職員は公務員となり、職員の人件費は当然、税金で賄われます。さらには保護動物の飼育費用、殺処分を行うための費用も税金によって賄われているといった現状です。

税金は、公共の福祉のために平等に使わる必要があり、一部の動物愛護関係者の精神的利益のために使われるようなことがあれば、これに反対する人も当然ながら現れます。我々の住む社会には、動物以外にも困っている人は大勢います。そうした公共の福祉・利益のために使われる税金は健全性を保つことができますが、動物に一切の関心のない人からみれば、動物愛護活動に使われる税金は、とても偏った使い方であるという指摘に反論することは困難でしょう。

ドイツのティアハイムの事例を振り返ると、施設の運営に税金が使われないという点がポイントになるのではないでしょうか。つまりは、動物愛護精神のある多くの市民や企業によって施設の運営が支えられることで、税金用途の健全性を保っているのです。ティアハイムへの募金は役人が募っているので、完全に税金が使われていないというわけではありませんが、日本の状態と比べれば、その差は明らかであり、動物に関心のない人を納得させるだけのシステムだといえるでしょう。
 
さらに、欧州の多くの先進国では、動物の飼育に関して厳しい法規制があるため、ペットショップでの子犬や子猫の生体販売は行われていません。
イギリスと日本の飼い主の比較研究によれば、国民世帯数あたりの犬の飼育割合は、イギリスでは22%(800万頭)、日本では18%(12万頭)と、割合では大きな開きはないようです。しかし、イギリスで犬を入手するとなると、保護施設かブリーダーへ予約注文する以外の方法はありません。保護施設では比較的簡単に犬を入手できるものの、ブリーダーとなるとハードルが高く、ブリーダー側が飼い主となる人に審査を行うというスタイルが定着しています。
イギリスの方が飼育頭数が多にもかかわらず、飼育放棄は少ないという事も、日本との違いを物語っています。

インプットとアウトプット

動物愛護関係者や、生物学者などからも指摘があるように、容易に犬猫を購入できること(インプット)が、保健所に持ち込まれる頭数を増やしている(アウトプット)という現状があります。ペットショップでの売り上げトップ3犬種と、保健所の持ち込み犬種トップ3が一致していることを見れば、一目瞭然でしょう。
多くのボランティアたちは「助けても助けて、次から次へと保護動物が減らない」と嘆いています。私もその現状を目の当たりにしています。
そこで、環境省などが発表する殺処分0へのアクションプランを見ると、無責任な飼い主を減らすための啓発活動、ペット事業者への規制という項目が挙げられています。しかし実際の活動を見ると、前者の“無責任な飼い主を減らすための啓発活動”は盛んに行われているものの、後者となる“ペット事業者への規制”に充分な動きはありません。行政はアウトプットを減らす方に尽力しているようですが、同時にインプットの調整を行わければ、保護動物の減少は見込めないことは自明であり、行政もそのことは熟知しているはずです。
このような状況にもかかわらず、ペット事業者への規制が進まないのには、これに反対するジャパンケネルクラブを筆頭とした業界団体からの圧力が強くあるからです。市民の声を聞かず、業界に従順な態度を取っているのが今の行政の現状です。

行政が殺処分0にコミットするのであれば、ペット事業者への法規制を強化し、税金を使わずに保護施設を運用するためのプラットフォームを構築する必要があるのではないでしょうか。このままインプットの調整を行わずにいては、保健所に持ち込まれる頭数の減少は期待できないはずです。
 
我々市民をはじめ、行政は年間2兆円産業とも言われるペット業界に対して、どのようにアプローチをかけるのか。また、ボランティア市民の経済的負担をどのように軽減させるのかについて真剣に向き合わなければ「殺処分0」という言葉は、ただ虚しく響きわたるのみで終わってしまうのではないでしょうか。

※画像は著者が撮影したもの。

 

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(執筆者: MASSAORI TANAKA) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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