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夕暮れの音律から若さが蘇る瞬間 ~映画『グランド・フィナーレ』を見てきました~
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夕暮れの音律から若さが蘇る瞬間 ~映画『グランド・フィナーレ』を見てきました~

2016-03-26 18:30
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    4月16日(土)から封切られる『グランド・フィナーレ』試写会に行ってきた。監督は『グレート・ビューティ/追憶のローマ』のパオロ・ソレンティーノ。主演はアカデミー賞受賞歴がありナイトにも叙されている英国の名優マイケル・ケイン。主役の親友役としてハーヴェイ・カイテルが、女優役でジェーン・フォンダが登場する。
    ストーリー

    スイスのリゾートホテルである二人の男が向かい合っている。一方はかつて世界に名を馳せた音楽家フレッド・バリンジャー。一方は英国王室から使わされた公的な立場の使者だ。フレッドはかつての人生も音楽ももう終わりだと決めつけてホテルでの保養を楽しんでいた。使者は英国王室から女王の依頼に応じてオペラの指揮をとるよう伝えにきたのだ。しかしフレッドは断ってしまう。『私的な理由』で、と彼は言う――
    一方でフレッドの親友ミックは休暇よりも映画の撮影に熱心な現役の映画監督だ。若い俳優に囲まれ映画のラストシーンの演出に頭を悩ませる。ホテルには様々な人生が交錯する。夕餉では若いアーティストがパフォーマンスを披露。フレッドの娘レナとミックの息子は突然の破局を迎える。ミックの情熱を体現するような若い俳優は演じた当たり役に印象付けられた己に悩み、フレッドに語りかける。かつてのフレッドの代表作『シンプルソング』によって彼は世間に印象付けられ、代表作によって他の作品は埋没してしまった、と。同じ悩みを共有できる俳優や親友とフレッドは語り合う。しかし、娘のレナは家族を省みなかったフレッドを糾弾する。音楽ばかりが彼の人生だった、と。
    再び訪れた女王からの使者にフレッドが明かした胸のうち、『私的な理由』の真実とは?
    欲望と恐怖。人生が満ちるときに人は過去へと水没するのか。
    それでも明日の山の頂きを目指すのか――

    見どころ

    なんといっても音楽のメタファーであろう圧巻の映像が見所である。
    原題を『YOUTH』というこのフィルムは、フレッドの生み出したかつての栄光とその若さとを想起させる黄金の光が満ちている。しかしそれは夕景の光であり止まってしまった時間をあらわす琥珀の光であるようにも見受けられる。
    ストラヴィンスキーやドビュッシーが彩る本作であるが、全編を貫くのはクラシックばかりではない。インディーズ・ロックやポップミュージックが用いられている。マーク・コゼレックやパロマ・フェイス、ソプラノ歌手のスミ・ジョーらが本人役で出演。物語に華を添えている。
    主演と親友役の名優二人の演技は言うに及ばず、ジェーン・フォンダが素晴らしい。
    また娘のレナ役のレイチェル・ワイズには知的な魅力がある。
    父親に省みられることがなく、夫にも浮気をされた女としての悲壮な叫びと軽やかな転身を見せてくれる。

    所感

    老年の音楽家が主人公となれば、オーケストラの重厚な楽曲が流れるのであろうと予測していた。
    クラシック業界の実話、ここでは女王からの依頼を断るというエピソードを基にした映画と聞いて真っ先に思い出したのは『ミュージック・オブ・ハート』である。家族愛をテーマにしたハートフルストーリー、恐らくはきっちりとした生真面目な映画であろうと予測していた。
    そうした推測は大きく裏切られることになった。
    ポップミュージックを謳う若い歌手が登場するオープニングから、この映画はそのように甘やかな一面だけをあらわしたフィルムではないと見せ付けられる。ヴィヴィッドな若いポップスターやミス・ユニバースの美しさと対照的な鎮静的な不穏を醸す老いた者の哀感。隠された欲求不満。シニカルな台詞使いにもそれがあらわれている。しかしけしてロマンチシズムには沈みきらずにいる。老いた者の苦悩が人生の達観や悟りといった境地ではなく、追い求める者としての心理に定められているためであろう。
    豪奢なホテルにはさまざまな大人たち、ある意味ではいびつな人々が登場する。くるみのように固く閉じこもった心を有する音楽家がすでにそうであり、情熱的に撮影に取り組みながらもそれを『遺言』とあらわす監督も本質ではどこか歪だ。愛されなかった娘、棘のあるミス・ユニバース、浮遊できない修行僧、会話のない男女、感動よりも出演料を選ぶ女優――そしてやがてカメラの視点はホテルの外にまで及ぶ。
    ホテルの外に彼が踏み出したとき、そこに現れた彼の妻に彼は語りかける。
    ある衝撃的な一件を経て、老いた音楽家はようやく出演依頼を受けることになる。その真新しい一歩はどこに向いていたのであろう。旋律を奏でるだけの音楽か、愛のある人生か。修行僧、娘のレナの登山、整体師のリラクゼーションの場面はすべてメタファーであり、少なくともそれは『甘い』方向であったと私は信じたい。
    印象的だったのは複雑な姿になってしまった大人たちの間を縫って登場する少年少女たちである。
    少年は音楽家の青春期の代表曲を演奏し、少女は『当たり役』に凝り固まった俳優から埋もれた役を見出す。
    すべて新しい視点は子供にこそある、と言いたげな演出が気にならないでもないが、何と言っても原題は『YOUTH』である。
    若さの象徴としての配役であり、その真意は肉体の若さだけを持ち上げたものではなかろう。
    ラストカットは映画人としての監督の素顔が覗かれる、非常にひねくれた、しかし素直な映画であった。
    アルプス、ローマ、ヴェネチアといったヨーロッパの美しい光景と時にはグロテスクな人間模様が織り成す映像美は必見だ。
    是非、部屋のモニターではなくスクリーンのある劇場に足を運んで身を任せていただきたい。

    グランドフィナーレ
    http://gaga.ne.jp/grandfinale/ 【リンク

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