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自分が死ぬときに聞く音って、どんな音だろう?『グランドフィナーレ』試写会レポート
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自分が死ぬときに聞く音って、どんな音だろう?『グランドフィナーレ』試写会レポート

2016-04-01 01:00
    grandfinale.jpg
    ※この記事はネタバレを含みます

    先日、4月16日公開の映画『グランドフィナーレ』の試写会に参加しました。

    主人公は、世界的に有名な音楽家、フレッド。今は音楽活動から引退し、スイスの高級ホテルでバカンス中です。フレッドの長年の友人で、映画監督のミックも、同じホテルに滞在し、若いスタッフとともに新作映画の構想を練っています。

    物語は、フレッドが、イギリス女王から「楽曲を御前演奏して欲しい」という依頼を断るところから始まります。

    栄華を極めたのに虚しさが残る”現代の光源氏”たち

    フレッドもミックも、名声のあるセレブ、つまり成功者です。意欲的に映画製作に取り込むミックと、娘のレナから「無気力」と言われるフレッドは、一見対照的に見えますが、同じ翳りを抱えています。

    富と名声を得て、家族も持ち、多くの恋をしてきた人生。老境に至り、まるで楽園のようなスイスの高級ホテルに滞在するなんて、多くの人の憧れの人生のようにも思えます。が、二人でいる時も、一人でいる時も、考えていることは一つ、自分の人生の振り返りと、疑問です。

    この二人を見ていて「何かに似てるな~、なんだろう?」と思ったのですが、それは源氏物語の光源氏の晩年です。生まれも育ちもよく、万能で、女性にモテまくり、栄華を極めた光源氏も、晩年は愛する女性に先立たれ、幼い正妻に裏切られ苦悩します。「人生とは一体何だったのだろう?」と。

    一般人としては「お金もあって贅沢できるならそんなことで悩まなくてもいいじゃん……」とも思いますが、富や名声があってもなくても、人間としての悩みは変わらないのでしょう。そして輝かしい時代を持った人ほど、その影が深く暗いものになるのかもしれません。

    『源氏物語』では、晩年に出家した源氏の生活は描かれません。でも、もし仮に現代に”光源氏の出家先”があるとするならば、こんな場所なのかもしれない……と思わせる、美しく静かなスイスの山の中。そこに人間臭いゴタゴタや欲望が迫る、舞台設定とストーリーのコントラストが非常に面白いなと思いました。

    ちょっとした部分が把握しづらい

    こだわりぬいた音楽と、スイスの山野の映像美に魅せられる本作品ですが、うーんと思ったシーンもいくつかあったので書いておきます。

    主人公たちはもとより、名前と人間関係が把握しにくい点。会話のシーンが多いですが、出てくる名前が出演している人のことなのか、回想だけの人物の名前なのかがよくわからない点が多々ありました。

    また、主人公たちは健康状態についていろいろな会話をしますが、全てが本人たちの感想なので、見ている側には辛さがよく伝わらないのも少し残念でした。少しでいいので、フレッドやミックの、年をとって変化した視覚や聴覚の様子があってもよかったんじゃないかな、とも。

    クライマックスのシーンは「ああ、これはもしや…」と思いましたが、だいたい展開が読めてしまったのも少し残念。フレッドがヴェネチアへ行き、そこで過ごすシーンの方のほうが意外性がありましたが、あれもいったいどういう意味だったのか?気になりました。

    体と自然、音楽と映像が作る贅沢な美

    映画の見所の一つが、映像と音楽の美しさです。ある時はモノクロ写真のようにシャープで、ある時は水の中を泳ぐようにゆったりと。インスタレーション作品にも感じられる、洗練された美しい映像と音の世界に引きこまれます。

    すがすがしいスイスの山野シーンももちろんですが、筆者が印象的だったのは、登場人物たちの体と、体が創りだす動きのシーン。ダンスで躍動する体、温泉に浸ってくつろぐ老人たち、マッサージをする手、とても太った人の重い足取り、ミス・ユニバースのダイナマイトボディー。

    それぞれの体が違い、年を取れば変化するということは、コンプレックスや悩みとして捉えられがちです。でもこの映画を見ていると、それはあくまでも自然の一つなのだな、ということを感じました。特に、ゆったりと温泉に浸かるおじいちゃんおばあちゃんの姿を見て、なぜかとても心が和みました。

    生きているということは、肉体を伴ってこの世に存在していることなんだ、と改めて感じます。同時に、それが生きる意欲や楽しみ、悲しみ、残酷さの両面を持ち合わせていることも、余すところなく描き出しています。「ちょっとアートっぽい描写って苦手なんだよな、意味がよくわからなくて」という人もいるかもしれませんが、筆者としては面白く見ることができました。

    「自分が死ぬときに聞く音って、どんな音だろう?」

    老いや生きる意味を問う作品となると、後味が悪いのではないかと思っていましたが、その心配はありませんでした。重いテーマに満ちた世界を開放していくかのように響き渡る『シンプル・ソング』は、アカデミー賞主題歌賞にノミネートされた一曲。圧巻の一言です。

    “人は意識がなくなっても、耳だけは聞こえている”という話を、誰かから聞いたことがあります。映画を見終わったあと、「自分が死ぬときに聞く音って、どんな音だろう?」と想像しました。

    ひとまず、冒頭とエンドロールに流れる『Just (After Song of songs)』という曲が気に入ったので、itunes storeで購入しました。映画のサントラが出たらまた、欲しいなあと思っています。

    (画像は映画公式HPより引用)

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