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犬が人の感情に共感するか-」。このテーマは現在も多くの研究者が取り組んでいる課題です。犬同士の間では、遊びの最中などに相手のボディーランゲージを真似たり、表情を真似る行動が観察され、個体間での共感が行われていることが解ってきています。
しかし、犬と人ではどうでしょうか。2012年にロンドン大学で行われた実験では、18頭の犬とその飼い主、犬が知らない人(研究者)が飼い主の自宅のリビングで過ごし、犬がどのように振る舞うかの比較が行われました。
リビングで人達と犬達が過ごす中で、人間は3つの行動を起こします。一つはただ単に会話をする。二つ目は、変な調子で鼻歌を歌う。三つ目は泣いている真似をする。といったものでした。この実験の結果、鼻歌を歌った時には6頭の犬が近寄って来たのに対し、泣き真似をした人には15頭の犬が近寄ってくることがわかりました。
この実験では、ご機嫌な鼻歌ではなく、悲しい雰囲気の泣いているという状況に対して特異的な反応があることは解ったものの、犬が悲しい感情を察したかどうか、という結論には至っていません。

また、多くの逸話で語られるように、犬が人に共感を持つかのような行動はしばしば見られます。たとえば、飼い主の体調が悪い時に、飼い犬が側に寄り添ってくれたなどは、よく聞く話ですね。このような犬の特殊な行動に人はとても喜び、「この犬には私の感情が解っている」と感じる飼い主さんも多いのではないでしょうか。
科学者は、このような飼い主さんが抱くロマンチックな話に「犬はただ人間のボディーランゲージを読んで反応しているだけ」と答えるでしょう。確かに、犬が持つ洞察力は人のそれとは桁違いの性能を持っています。我々人も無意識的に相手のボディーランゲージを読み、意識化での判断に役立ていることが解っています。こうした能力は人だけが持つものではなく、むしろ言語を持たない犬達のほうが高い能力をもっていることは必然と言えます。

私が、日々犬の観察をしていて感じることは”犬は人を観察している”ということです。犬は実によく人のことを観察しています。それゆえに、飼い主が犬を叱れば、犬は叱られている理由が解らなくても反省したような服従的な振る舞いをするのです。理由が解らなくても飼い主が怒っているのを感じて、飼い主をなだめようとするこうした行動は、犬がいかに鋭い観察力や洞察力があることの証となるでしょう。
先述のロンドン大学の実験では、人は泣いている真似をしていました。本当に泣くのではなく、あくまで真似です。では、人が本当に泣いている時は犬がどのような反応をするのか興味深いところです。こうした実験は実施するのが難しいですが、人が家庭内で持つ空気感が犬に多大な影響を与えることは、私の実体験でよく目にする光景です。
 
犬が心身ともに健康であるためには、食事・医療・運動・しつけ・愛情など様々な要因が挙げられます。しかし、これらの条件が揃っていても、犬の情緒が不安定である場合は、家庭内の不和が原因であることがあります。家の中で共に暮らす犬は、飼い主やその家族(犬世界では群れ)の調和が取れていない状況に置かれると、犬自身もその不和に共鳴してしまうことがあります。また、過度に心配性な飼い主が放つネガティブな感情が犬に影響して犬の不安を強めることもあります。
家庭内に不和がある場合は、家族の情緒は不安定であり、そうした情緒不安定な人が犬に接することで、犬も不安定になってしまうのです。心配が強い飼い主は、犬を常に心配した表情で見つめ、心配している眼差しで犬と接しています。こうした飼い主のネガティブな振る舞いが、犬に影響を与えて、結果的に犬も不安定になってしまうのです。
これとは反対に、食事・医療・運動・しつけ・愛情のどれもが不十分であっても、家族の調和が取れている環境に置かれた犬の心は安定する傾向もあります。食事・医療・運動・しつけ・愛情は最低限必要なものです。しかし、重要なのは家庭内の雰囲気だと私は考えています。犬の洞察力はとてつもないほどに鋭く、我々の無意識下での振る舞い(ボディーランゲージや表情)をも一瞬で見抜いてしまうのです。つまり、調和が取れているように振舞っているだけでは意味がなく、本当の意味での家庭内の調和が必要だということです。家庭内が明るく、ニュートラルでポジティブな感情で満たされていれば、犬の情緒の安定にも大きく貢献できるのです。

共感とは、ある個体が持つ感情が、相対する個体に伝わって同じ感情になることを言います。犬に共感力があるかは今後の研究に期待するとしても、犬がとてつもなく鋭い観察力や洞察力を持っていることは明らかな事実と言えるでしょう。
 
精神的にバランスの取れた犬は、人を癒す効果があることは解っています。反対に精神的にバランスの取れた人は犬を癒すことができるのではないでしょうか。

犬に癒される関係から、共に癒し合う関係になれれば、犬との暮らしはもっとハッピーになることでしょう。

※画像は著者が撮影したもの

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(執筆者: MASSAORI TANAKA) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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