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独創的な世界観と圧倒的な画力で支持される鬼才漫画家・古屋兎丸氏の少年たちの思春期の葛藤をテーマにしたカリスマ的人気コミックを原作に、野村周平さん、古川雄輝さん、間宮祥太朗さんら出演で映画化される『ライチ☆光クラブ』。2月13日より新宿バルト9にて公開中、いよいよ27日より全国拡大公開となります。

本作でメガホンをとったのは、『牛乳王子』『先生を流産させる会』、『パズル』など数々の問題作を世に生み出してきた内藤瑛亮監督。映画『残穢【ざんえ】』の姉妹作品「鬼談百景」を手掛けるなど、活躍の幅を広げています。今回ホラー通信では内藤監督にインタビュー。映画について色々とお話を伺ってきました。

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―本作拝見して、『ライチ☆光クラブ』の唯一無二の世界観が見事に映像になっていて感動しました。この作品を実写化するのはとても難しかったのでは無いかと思うのですが。

内藤監督:そうですね。『ライチ☆光クラブ』の世界観は古屋さんの緻密なタッチで作られているので。それをスクリーンで描くことは容易いことではなかったです。ライチファンってすごく熱烈で、舞台版を拝見して、その熱量を肌で感じたんです。だから、あまり奇をてらった事をすると拒否反応を示されるだろうなって感じていて。とはいえ、漫画の中と、映画の中のリアリティって違うので、そのまんまでは成立しない。いかにして漫画にある面白さを、映画的世界で生み出せばいいのか、大変でしたけど、その大変さが楽しかったですね。

作品の規模的にグリーンバックを設置してフルCGという事は出来ないので、このフィクション性が高い世界を撮れるロケ地を探さなければいけませんでした。一つのフロアだけでは無く、一帯が全て使われていない廃工場を見つけて、そこを「螢光町」に見立てようと思い、秘密基地だけでは無く、学校や夜道のシーンも廃工場の中で撮影しています。

―あの工場の雰囲気は凄かったですよね。場所はどちらなんですか?

内藤監督:静岡にある製紙工場です。まだ動いている部分もあるのですが、大半が老朽化していて、入れない場所とかもあって。かなり広いので、スタッフは自転車を使って移動していました。

―原作は以前から読まれていたのでしょうか。

内藤監督:いえ、古屋さんの作品はいくつか読んでいましたが、『ライチ☆光クラブ』は今回初めて。初期の古屋さんの作品ってダークな欲望がむき出しになった、凶暴な印象があったんですよね。『幻覚ピカソ』や『π』の頃からは、話を組み立てていく様になったなと勝手に感じていて、『ライチ☆光クラブ』でその志向が結実したというか。ダークな欲望に突き動かされながら、それをコントロールし、物語を構築していて、初期作からの変化に感動しました。

どんな文化もそうですが、先人達があらゆる表現をやってしまった後にデビューをすることの難しさがあると思います。古屋さんの作品は“脱構築”という形で、つまり批評的なスタンスで出て来て、そこから物語を構築していく方向へ転換していくのが、驚きつつ、妙に納得したんです。日本映画も、90年代って脱構築的な作品が多かったと思うのですが、2000年代になって物語を語り始めたなという印象があって。「壊した後にもう一度建ててみよう」というのが共通している気がして。

―古屋先生とは何度かお会いしましたか?

内藤監督:結構密にコミュニケーションを取らせていただいたと思います。ホンを書いたら、プロデューサーにチェックしてもらって、ある程度まとまったら、古屋さんから意見をもらってフィードバック、という事を何度かやりました。古屋さんは、高校生の時にオリジナルの舞台を観たという事もあり、この『ライチ☆光クラブ』には思い入れが強いので。オーディションもずっとお付き合いただいて、色々アドバイスをもらいながら進めました。現場にもいらっしゃって、自分の描いた世界が3Dになっていることを喜んでいて。ゼラの椅子に座って記念撮影をされていましたが、本当に佇まいがゼラっぽいんですよ(笑)。

―古屋さんから、こうして欲しいというお願い等はあったのでしょうか。

内藤監督:古屋さんがこの作品の参考にしたのが、御巣鷹山の事件だったそうです。一人生き残った少女がいて、その少女を救出した時の映像がとても印象的だったと。惨劇の中に少女だけが生き残った光景が、胸にせまったそうなんです。少年達が破滅していくのに反比例して、少女とロボットの愛が紡がれ、少女だけが生き残る、そこは大事にして欲しいと言われました。

―ダークだけど美しくて救いがある、というストーリーはその事件への想いもあったのですね。キャスティングも難しかったのでは無いでしょうか?

内藤監督:キャラクターの核となるものが、役者本人の資質と重なっている事が大切だなと。ヴィジュアルも大事なのですが、「この人ってヤコブっぽいとこあるよね」みたいな、キャラクターと通じる本人の素の部分を重視していました。なので、オーディションも1年くらいかけて。

野村さんは『パズル』(2014)で会って、ガキ大将的な所があったんですよね。同年代の男性キャストが自然と野村さんについていくような。そこがタミヤっぽくて。楽しい現場だったし、また一緒にやりたいなと思って、声をかけました。今回の現場で、僕とスタッフの意見がズレたことがあって、そうしたら野村さんが「内藤さんはどうしたいですか?僕は監督の意見に従います」って言ってくれて、そういうところもタミヤっぽい、男らしさがありました。

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内藤監督:ジャイボは、強烈な愛情を持った人物で、しかも一番人気のキャラクターなので、オーディションでは「ジャイボをやりたい」と立候補する俳優も多かったですね。「僕は性同一性障害です」とか「ゲイなので演じられます」とか。でも、ジャイボってゲイだから演じられるというのともちょっと違うなと思って。間宮さんは素の部分的にはジャイボと違うタイプの人間ですが、演じたあとに「この役、難しいですね」と言っていて、ジャイボが抱える感情の複雑さを感じてくれる人なら上手くいくだろうと思い、お願いしました。ジャイボはゼラが女性でも愛したのだと思うし、ゼラの魂に寄り添いたいと思っている。間宮さんは現場でも「ジャイボの気持ち」というのを一番に考えてくれて、「ジャイボならここはこうしないと思う」等と、意見を言ってくれる事もありました。

ゼラは最後まで一番悩みましたね。ゼラって説明台詞が多い役柄で、説明台詞って映画では間が抜けてしまうので避けたいのですが、でもそれが無いとゼラじゃないし、というのがあって。過剰な台詞にリアリティを持たせて演じられる人、というのが難しかったですね。古川さんは静かな中に狂気を感じるという、ゼラに通じる雰囲気があって。オーディションで一度ゼラを演じてもらって、良かったんですけど、古川さんがこれまで演じてきたイケメンキャラとは真逆のキャラなので、そこまで振り切っていけるのか、迷いがあってすぐに決定は出来なかったんですね。不安を抱えつつも、オファーしたんですけど、リハーサルで完璧に役を作り込んできたので、「おぉ!」とアガりました。「これがゼラだ」と古川さんが教えてくれたような気分でした。

―また、古川さんの童顔なのに背が高い、というヴィジュアルが二次元っぽさもあって。

内藤監督:シーンによって表情も全然違うのがすごいですよね。普段は狂気に満ちていて、でもメガネと帽子とってジャイボとイチャイチャしている時は可愛らしい感じで、最後はただののび太君みたいな(笑)。実際に古川さんも「帽子を取ると弱気になるんです」と言っていて、中に弱さや繊細さを抱えた、“表面的な支配者”というのをとても理解して、演じきってくれました。

―映画の中ではエグいシーンやスキャンダラスなシーンが全く下品では無くてとても美しかったんですよね。そうした役への真摯な取り組みがあったからこそなのかと、今お話を伺って思いました。また、内藤監督ファンにはたまらないゴアシーンもしっかり入っていました。

内藤監督:自分に監督の依頼が来たという事はそういう事だよね?(笑)という感じで、しっかりやらせていただきました。イケメン目当てで観に来た方は、ちょっと「ギャー!」ってなるかもしれませんね。でもそういったショックを与えるのって映画の役割でもあるのかなと。しかも、この作品の場合はただの残酷シーンでは無く、少年達の魂が浄化されていく殺戮なので、悲惨なだけでは無いんですよね。あと、『ライチ☆光クラブ』って女性ファンがほとんどですけど、男性もノれる話だと思うんですよね。男子にも観に来て欲しいです。

―内藤監督の作品が好きなホラー好き、男子諸君も楽しめると私も思います。

内藤監督:僕の名前を覚えてくれている観客はほとんどが男子だと思うので(笑)。イケメン達が殺されていく場面をキャッキャしながら見る、というのでも全然楽しいと思いますね。

―今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!

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