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第5章 カグラヤ怪奇事件ファイル
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第5章 カグラヤ怪奇事件ファイル

2018-12-07 11:00
    ついに来た! いよいよ来た! やっと来た!
     乾坤一擲(けんこんいってき)、天王山、関ヶ原の戦い……徳若実希(とくわか みき)にとって、確実に人生の転換点となるであろう、この記念すべき日が!
     土曜日、午後一時五〇分。
     思えば、大学入学のため三重県に引っ越してきて一ヵ月。慣れない独り暮らしに戸惑い、大学では打ち解けられず、ゴミ出しの分別の甘さから大家さんに叱られ、ホームシックで泣きそうになって……それでもどうにかやってこられたのは、『カグラヤ怪奇探偵団』のおかげだ。
     オカルト、心霊、超常現象、UMA……この世には、いまだ科学では解明できない、恐るべき謎がひしめいている。類まれなる知性によってそれらを解き明かし、人々を救わんとする怪奇探偵、その名も『かぐりん』! そして、彼によって運営されるホームページこそが、カグラヤ怪奇探偵団である。かぐりんのSNSには、怪奇事件に悩む人々の書き込みが後を絶たない。
     実希も一年前、まだ高校生だった頃、オカルトな事件を解決してもらったことで、すっかりシンパになってしまった。今ではカグラヤの中核メンバーとして認識されているほど、のめり込んでいる。元々占いなどは好きだったので、ユーザー同士の交流で、そっち関係の相談を受けたりすることもある。
     今日はなんと、そのカグラヤ怪奇探偵団のオフ会があるのだった。そんじょそこらのオフ会とはワケが違う。
     素性をまったく公開せず、リアルで会ったという話も聞かない……そんなかぐりんに、直接会いませんかと誘われた。これを信頼の証と言わずして、なんと言おう?
     誰かに自慢したかったが、秘密にしてくれと言われていた。というか、話す相手もいないし。
    (もしかして、探偵助手に任命されたりとか~? ふふっ、うふふふ……)
     そんなわけで実希は、この日のために用意した勝負服を着て、待ち合わせ場所へと向かったのだった。
     ……あやしいと思わなかったわけではない。なぜ突然会いたいと言われたのかもわからない。でも、この一年で築いたかぐりんと自分の絆は、確固たるものだと信じていた。顔も素性も知らないが。
    『──あんた、おっとりしとるんやし、だまされんようにな?』
     高校時代の友人の言葉が自然と思い出されたが、頭を振って追い出した。自分では人並みにしっかりしていると思っているのだ。
     指定されたコンビニの駐車場で、胸を弾ませながら待った。
     ……来ない。
     最初の三〇分はワクワクしていたので全然気にならなかったが、四〇分……五〇分……一時間を過ぎた頃には、さすがにおかしいと思い始めた。
    (まさか、かぐりん……事故にあったとかじゃ……!?)
     だまされたのでは? と思うより先に、相手が心配だ。
     連絡を取ろうにも、連絡先を交換していない。警察に連絡した方がいいかも? 落ち着かない気分でいると、ふと声を掛けられた。
    「とくちゃん、待たせてすまないっ!」
     反射的に目を向けた。
     とくちゃん。そのハンドルネームで自分を呼ぶということは、相手はかぐりん以外に考えられない。にも関わらず、そこにかぐりんらしき人物はいなかった。
     そこにいたのは、高校生くらいだろうか? 見るからにお嬢さま然とした品のある少女と、それよりもっと小さな人影の二人組だった。人影の方は、格子模様の帽子と同じ柄のコートを羽織っており、外見からはパーソナリティーが判別しづらかった。見た感じ、小学生くらいの男の子のようだ。
     帽子のツバの下から、キラキラと澄んだ瞳が実希を見ていた。
    「え? えっと……?」
     実希が戸惑っていると、男の子が口を開き、先に実希を呼んだのと同じ声で言った。
    「正直に言うけど、キミのコトを試してたんだ。ゴメン」
    「た、ためすって……?」
    「ボクはすぐ話し掛けたかったんだよ。でも、アカリが用心した方がいいって言うもんでね。キミが悪い人じゃないことは、この一年でわかってたんだけど……」
     アカリ。聞き覚えのある響きだった。それは、かぐりんと共にカグラヤ怪奇探偵団を切り盛りしている、副団長の名前だ。
     お嬢さまっぽい少女が言葉を継いだ。
    「本当にすみません。わたくしどもの仲間になってもらうには、イイ人というだけでは、ダメなのです。あなたがどれだけ本気なのか、知る必要があったのですわ」
    「は、はあ……」
     男の子は勢い込んで駆け寄ってくると、実希の手を取った。
    「とくちゃん! キミこそ我々の仲間にふさわしいよ!」
     実希はまだ困惑していた。脳の情報処理が追い付いていない。
    「あの、待って待って……えっとぉ~……誰かなぁ?」
     少女と男の子は顔を見合わせ、
    「無理もない反応ですわね」
    「確かに。ボクとしたことが、言い忘れてたよ」
     男の子は実希の手を離すと、自分の胸に手を当てて言った。
    「初めまして。ボクがかぐりんだ」
    「ウソやぁ~~~~っ!」
     実希は思わず叫んでしまった。
    「だ、だってかぐりんは、落ち着いてて、大人の余裕たっぷりで……それでいてユーモアも兼ね備えた、ナイスガイやのに~!」
    「ははっ、照れる」
    「ウソや~、こんなんウソや~……」
     押し寄せてくる現実に頭を抱える実希へと、少年は申し訳なさそうに言った。
    「ダマすつもりはなかったんだよ。ボクはボクらしくふるまっていただけで……なんて、こんなのは言い訳だな。キミやみんなに勘違いされていることを知ってて、訂正しなかったんだから」
     実希は顔を上げた。
    「かぐりん……」
    「その上、キミを試すようなことをして。幻滅されてもしょうがないね。ゴメンよ……」
     男の子の憂い顔に、実希の心がキュンとした。
    「いっ……いいわっ!」
     実希は小さな手を取ると、ぐっと顔を寄せた。
    「おねーさん、許しちゃうっ! だってかぐりんは、かぐりんだもの。ちょっとビックリしちゃったけど、勝手に思い込んでたのは私の方だし!」
     かぐりんの顔が、ぱっと明るくなった。
    「本当に? ありがとう、とくちゃん!」
     手を繋いでキャッキャしながら、実希は密かに思う。
    (それに、よく見るとこれはこれで……)
    「カワイイ……」
     しまった、口に出ていた。
    「えっ?」
    「い、いやっ、なんでもないわ~……え、えっと、それより! 私を試してたっていうのは、一時間待たされたことよね? 私、待つのは得意だから平気だけど、どうしてそんなことしたのかしらっ? 仲間になるっていうのは?」
     ごまかしもあって、実希は質問を重ねる。
    「わたくしが説明いたしますわ」
     アカリがそう言って、歩み寄ってきた。
    「わたくしどもは、最近、悩んでいるのです。というのも、かぐりんさんの元に届く依頼の数が、減ってきておりまして……」
    「え、そうなの?」
     ホームページは、それなりににぎわっていると感じていたのに。
     かぐりんが、言葉を受けて口を開く。
    「仲間内で固まりつつあるから、しょうがないんだけどね。そろそろ新しい活動をして、新規の依頼人を増やさなきゃいけないんだ」
    「考えているプランもあるのですが、それには人手が足りないのです。そこで、とくちゃんさんにお手伝いをお願いしたいのですわ」
    「お手伝い? するする~!」
     実希は即答した。
     あのかぐりんが、こんな小さな男の子だったことは驚いたが、それでも憧れは消えていない。それに、副団長のアカリにもなにかと世話になってきた。ふたりの力になれるなら、願ってもないことだ。
    「キミならそう言ってくれると思った」
     実希の返答を聞いて、かぐりんはうれしそうに笑った。言動などは大人びているが、その表情は年相応だ。
    「それじゃあ、ボクらのアジトに案内するよ。話の続きはそこでしよう!」


     かぐりんの本名はカグラナツキ、アカリはそのまま名前で、ホナミアカリ。それぞれ小学六年生と、高校一年生だそうだ。
     一般常識で考えると、ふたりともまだ幼いと言っていい年齢である。アジトといってもせいぜい互いの家か、公園にダンボールでこさえた秘密基地とか、そんなごっこ遊びだろうと実希は思っていた。
     ところがどっこい、案内されたのは、住宅街の一角にある立派なアパートだった。一室丸ごと、カグラヤで使っているそうだ。
     室内には、事務机にパソコン、ファイルラック、テレビにソファーと、必要最低限の家具しかなく、生活感はない。いかにも事務所といった風で、いささかファッション的な印象があった。
    「──ようこそ、とくちゃん。我らが怪奇探偵団のアジトに」
     ぽかーんとしている実希へと、かぐりんことナツキは腰に手を当て、誇らしげに言った。
    「本当ならこういうとき、上等なバーボンでも出すべきなんだろうけど、あいにく切らしててね。オレンジジュースでいいかい?」
    「いやいや、私も未成年……」
     促されてソファーに腰を下ろし、周囲を見渡しながら、実希は口を開いた。
    「すごいなぁ、本格的~……どうやって借りたの、この部屋?」
     台所から運んできたコップをテーブルに置きながら、アカリが返す。
    「このアパート、父の所有ですの。空き部屋は自由に使っていいそうなので、お借りしているのですわ」
    「アパートって……えっ、全部!?」
    「ええ」
     嫌味なく、優雅に微笑むアカリ。
     ナツキは事務机の前の椅子に腰を下ろすと、くるりと半回転させてこちらを向いた。肘掛けに片肘を立て、拳で顎を支える。その仕草はダンディーだったが、外見が可愛げのある少年なので、ユーモラスになってしまっていた。
    「アカリはウチの副団長だけど、ボクのパトロンでもあってね。怪奇探偵団の活動をバックアップしてくれているんだ」
    「へえぇ~!」
     見るからにお嬢さまっぽいとは思ったが、実際にお嬢さまだったらしい。
    「金銭面でも世話になってるけど、彼女自身もすこぶる有能なんだよ。まったく、ボクにはもったいないほどの助手さ」
     アカリがゆるやかに首を振った。
    「かぐりんさんだからこそ、わたくしは一緒にいるのですわ」
    「はは、ありがとう。期待を裏切らないように頑張るよ」
     いったいこのふたりの間柄は、どんなものなのだろうか? ちょっと想像がつかない。彼氏と彼女、とか?
     ナツキは続けて、しみじみと言った。
    「それにしても、とくちゃん。キミが大学で三重県に引っ越してきたって聞いて、ボクは運命を感じたよ。新しい仲間を入れるなら、キミがいいって思ってたから」
     実希は自然と頬が緩むのを感じた。かぐりんに認められた! そのことは素直に嬉しい。彼がちょっとばかり、想像と違っていたとしても。
    「うんうん、それでそれで? 何をするの?」
     ワクワクが抑えきれず、そのまま空でも飛びそうな調子で腰を浮かせた。
     ナツキは楽しそうに笑った。
    「ふふっ。とくちゃん、ガールズラジオって知ってるかい?」
    「え? それって……ガルラジのことよね? 御在所のサービスエリアで、ラジオ放送をするっていう」
     実希の通う大学は、敷地内に立派なスタジオがあったり、毎年学祭にはアーティストを招いたりして、メディア方面に力を入れている。ガルラジについての情報も、かなり早くから学内に流れてきていた。
     ナツキは驚いた顔で、
    「知ってるの? 話が早くて助かるなぁ! あのね、そのガルラジのグループ応募枠に、ボクらで応募してみようと思ってるんだ」
    「カグラヤ怪奇探偵団、出張ラジオ版、といったところですわ」
     アカリが補足するのに、ナツキは頷(うなず)き、
    「毎週、リスナーから募集した怪奇な出来事を紹介したり、たまに怪奇事件を解決して、レポートしたりするんだ」
    「ミニFM放送を選んだ理由は、ふたつありますわ。ひとつは、普段わたくしたちに興味を持たない、広い層へアプローチができること。そしてもうひとつは、ガルラジという後ろ盾があれば、地域に根ざした情報が手に入りやすくなることです」
     ふたりの言葉に、実希はぶるっと震えた。怖かったわけでも、トイレを我慢しているわけでもなく、武者震いというやつだ。
    「すごいっ! それ、面白そう~!」
    「だろ? ふふん♪ ウェブ発のボクらで、ラジオ業界に新しいブームを巻き起こしてやろうじゃないか! そのために、信頼できそうな仲間を探してたってわけ。どう? とくちゃん、協力してくれる?」
    「もちろんよ~!」
     と、意気揚々と片腕を上げてから、ふと気が付いた。
    「あ、でもかぐりん。それだと正体バレちゃうかもしれないけど、いいの?」
     ナツキは頷いた。
    「まあ、あえて明かすつもりはないけど、バレるのは覚悟の上さ。さっきも言ったけど、別に隠してたわけじゃないんだ。勘違いされてても、あえて訂正はしなかったけどね」
    「そうなんだ……って、あれ?」
     そこで実希は、もっと大きな疑問に思い至った。
     小首をかしげて言う。
    「確かガルラジって、女の子しか応募できないのよね? なら、もうひとりは?」
     ふたりは顔を見合わせ、
    「もうひとりって?」
    「多分、かぐりんさんのことを、勘違いしているのではないかと」
    「あ、あー! なるほど……そうか」
     ナツキはなにやら覚悟を決めた様子で、再び実希に向き直ると、片手で帽子のツバをつまんだ、そのまま帽子を脱ぎ去れば、ばさりと音がして、男性にしては長すぎる髪の毛が流れ落ちてきた。
    「とくちゃん……ボクは、女だ」
    「ウソやぁ~~~~~~~~~~~~~っ!」
     実希は思わず叫んでいた。
    「待って待って、かぐりん! うそって言って! だってかぐりんが……あのかぐりんが女の子なんて! 趣味は葉巻と筋トレです、みたいなイメージやったのに~! おヒゲの剃り跡がジョリジョリしてそうなイメージやったのに~!」
    「い、いや……なんか、ほんとにゴメン……」
     ナツキの憂い顔に、実希はハッと我に返った。
    「う、ううん、私の方こそごめん! またかぐりんに、自分の勝手なイメージを押し付けて……おねーさん、かぐりんが小学生でも、女の子でも、大好きよ!」
    「ありがとう、とくちゃん!」
     パッと花が咲いたようなナツキの笑顔に、実希は内心思う。
    (それに、これはこれで……)
    「カワイイかも……?」
     また声に出ていた。
    「え?」
    「い、いや、なんでも……そ、それより、私は何をしたらいいのかしら? 応募書類とか、書いたらいいのかな?」
    「ううん、それはボクとアカリがやる。とくちゃんもアイディアがあるなら、言ってくれたら助かるけど」
     ナツキの言葉を受け、アカリは実希へと頷いた。
    「事務仕事なら、お任せくださいまし」
     なるほど、リアルでは会ったばかりだが、団長であるかぐりんや、副団長のアカリの手腕は実希もよく知っている。書類を書くくらい、ふたりなら朝飯前だろう。
     ナツキが言葉を続ける。
    「とくちゃん、キミには対外的なことをお願いしたいんだ。ボクらは世間的には子供だから、責任能力がないからね。そこだけは、どうしようもないんだよ」
     メンバーに年長者がいれば、何かと融通が利くということだろう。
    「うん、わかったわ! おねーさんに任せてちょうだい!」
    「それと、放送が始まったら、三人でパーソナリティをやるからね。とくちゃんはオカルト担当ってことで頼むよ」
    「え、ええっ!? 私、ラジオなんてやったことないけど~……!」
     途端に及び腰になる実希へと、ナツキは優しく言った。
    「大丈夫、とくちゃんの占いやオカルトの知識があれば、きっとうまくやれるさ」
    「そ、そうかしら? うふふ」
     そう言われると、本当にできそうな気になってくるから不思議だ。小学生でも、女の子でも、関係ない。ナツキは確かなカリスマ性を持っていた。やっぱり、あのかぐりんなのだ。そのことが実感できた。
     ナツキは再び椅子をくるりと回すと、事務机に向き直った。スタンバイ状態だったノートパソコンを起動させる。
    「さてと……それじゃあ、応募書類を書いちゃおう。神楽菜月(かぐら なつき)に、穂波明莉(ほなみ あかり)、っと……とくちゃん、本名を打ち込んでくれる?」
     カタカタ、手慣れたブラインドタッチでキーボードを奏でながら、菜月が言った。
    「あ、うん」
     席を立ち、ナツキの脇からキーボードを打ち込む。隣から女の子らしい石鹸の香りがして、倒錯的な気持ちになる。
    「ところでとくちゃん。この後何か予定はあるかい?」
    「ないよ~、何かするの?」
     今日は一日、かぐりんとエンジョイするつもりで、予定は空けてある。
    「ちょっと遅くなるけど、平気?」
    「うん、独り暮らしだから、大丈夫よ」
     菜月は明莉へと目を向けた。
    「もう機材は届いてるんだっけ?」
    「ええ、万全ですわ」
    「よし。それなら今日、撮影もやっちゃおう……ふふっ、忙しくなりそうだ!」
     ふたりの会話に、実希は首を傾げた。
    「撮影?」
    「カグラヤ活性化プランのひとつでね。いつもボクがやってる怪奇事件のフィールドワークを、動画にして公開するんだよ。ガルラジが始まる前に、少しでも話題にしておきたいからね。うまく連動させることができたら、相乗効果が見込めるはずだ」
    「わぁ、それも面白そう~!」
     他人事のように目を輝かせている実希へと、菜月は半身に振り向いて言った。
    「とくちゃんにも、一緒に出演してもらうんだよ?」
    「え、ええっ!?」
    「大丈夫、大丈夫。とくちゃんならできるよ! ボクもフォローするし」
    「う、うん……わかったわ! やってみる!」
     菜月に言われると、すぐその気になってしまうのだった。
    『──あんたチョロいんやから、気ぃつけなかんで?』
     高校時代の友人の言葉が思い出されたが、頭を振って追い出した。自分はちょっと人よりのんびりしているだけで、チョロいとか、ダマされやすいとか、そんなことはない!
     ……はずだ。


     三重県四日市市。
     県下最大の人口を誇り、伊勢湾沿岸に広がる大工業地帯は、夜ともなれば美しい光の海を描き出す。それでいてちょっと郊外に足を向ければ、緑豊かな田園風景が広がり、自然を感じることができる。
     そんな近代的な工業都市にも、怪奇譚(たん)はやはり存在した。
     さる公園の敷地には、霊が集まるとか。駅前にある公園は戦国時代にはお城があって、成仏できない落ち武者の怨霊がさまよっているとか。市の図書館は戦後しばらく病院として使われており、今でもどことなくひんやりした空気が漂っているとか。港湾地区に夜訪れたところ、海から上がってくる人影を目撃したとか……
     中でも最近、ちょっとしたウワサになっているのが、南部にある公園だった。
     大きな墓地が併設されており、元々心霊スポットとしてそこそこ有名な場所だが、このひと月の間に霊現象に遭遇したという報告が相次いでいるそうだ。
     くだんの公園までは、電車で三〇分ほど。応募データを書き込んでから向かった。到着する頃には、日が傾いてきていた。
    「──というワケで、ボクたち調査員は、現場にやってきた。この先に恐ろしい運命が待ち受けているなんて、知りもせずに……」
     公園の入り口、手にしたスマホに向かっておどろおどろしく語る菜月。バッグを肩から下げており、中にはスマホ用のポータブルHDDや、ノートパソコンが入っている。
     辺りは緑に覆われた小高い丘になっており、のどかな雰囲気で、怪奇なウワサの現場とはとても思えない。しかし、菜月の語り口が真に迫っているので、実希はぞくっとした。
    「か、かぐりん……ここってやっぱり、なにかあるの? 私たち、どんな運命に巻き込まれちゃうの……?」
     恐る恐る尋ねれば、菜月は朗らかに笑った。
    「あははっ、今のは動画で使うナレーションだよ。でも、何かあった方が面白いし、ちょっと期待はしてるかな」
    「そ、そうよね! あは、あはは……はぁ」
     心霊動画などを見るのは好きだが、実際に自分が来るとなると、期待半分、怖さ半分といったところだ。
     パソコンで見せてもらったSNSに上がっている報告は、細部には相違がみられるが、大まかな流れは共通していた。夜遅くに公園の近くを通りかかると、どこからともなく不気味なお経と、恨みがましい呻き声が聞こえてくる、というものだ。 
    「報告は夜に集中していますわ。本番は日が落ちてからとして、明るいうちに下調べをしておくべきですわね」
     明莉(あかり)が冷静沈着として言う。怖がっているのは自分だけらしい。
    「そうだね。とくちゃん、行こう」
     と、菜月(なつき)は、スマホを持っていない方の手で、実希の手を取った。
    「はっ、はわぁ~……!」
     一転して幸せ気分な実希だったが、歩くうちに木々が途切れ、立ち並ぶ墓石が見えてくるに至って、そんな気分もしおれてしまった。西日の中、立ち並ぶ墓石たちはさびれた迫力があって、もし菜月と手を繋いでいなかったら、帰っていたことだろう。
    「うふふふふっ……いいっ! いいですわっ! この雰囲気……わたくし、とても興奮してきました!」
     明莉がいきなりテンションを爆発させたので、実希はビクッとした。目を向けてみれば、その両目は爛々(らんらん)と輝き、今にも舌なめずりでもしそうな表情をしている。なまじ顔立ちが端正なので、異様な迫力があった。そういえば副団長としてのアカリは、心霊系の話題になると、やたらと長文を書き出す人だった。
    「あ、アカリさんって、リアルでも心霊好きなのね……」
     若干戸惑いながら呼び掛けると、明莉はハッと我に返った。
    「あらっ、わたくしったら、はしたないところを……おほほほ」
    「明莉は、霊の存在を証明したいんだってさ」
     菜月の解説に、明莉は頷(うなず)いた。
    「そのとおりです。ただ手軽にスリルを味わいたいとか、友人と騒ぎたいとか、そんな理由でやっているのではありませんの。とくちゃんさんは、人の想いや記憶がずっと残ることが証明できたら、素敵だと思いませんか?」
    「うん、そう思うわ! もしそうだったら素敵ね」
    「ですわよね! ふふっ、やはりとくちゃんさんとは、気が合いそうですわ!」
     そんな会話をしながら歩いていると、ふと菜月が足を止めた。実希(みき)の手を離し、スマホを口元に持っていく。
    「いよいよボクたちは、怪奇事件との遭遇報告が集中している地点へと辿り着いた。気のせいだろうか? 心なしか、肌寒さを感じる……」
     それから、ふと実希へと水を向けてきた。
    「とくちゃん、何かコメントを」
    「えっ!?」
    「なんでもいいから、気楽に言ってみて。後でそれっぽく編集するから」
    「う、うーん、え~っと……そうねぇ……この辺りは、風水的には、あんまりよくないかもしれないわね。この道の先は丁字路になっているけど、これは路冲(ろちゅう)っていって、道路からの殺気を受けてしまう配置なの。それと、あっちに送電鉄塔が見えるでしょう? 鉄塔は形もよくないし、火の悪い気が集まるから……これはお家の運気の話だけど、お墓って霊にとっては、お家みたいなものよね? だから、よくないかも……」
     とりあえず思い付いたことを言ってみると、菜月と明莉はいたく感心した様子だった。
    「そうそう、これ! こういうのが欲しかったんだ、さすがとくちゃん!」
    「ええ、本当に! とくちゃんさんのうんちくは、カグラヤにもファンが多かったですけど。さすがですわね!」
    「え、ええ? そうかな……うふふっ、ありがとう」
     墓地のど真ん中で、華やかな雰囲気で笑い合っていると、
    「……こらーっ! こんなところで何しとる!」
    「ひぃっ!?」
     いきなり塩辛声が飛んできて、実希は飛び上がった。
     一斉に目を向けると、少し離れた道の先に、バケツを提げた老人が立っていた。ポロシャツにジーパン、サンダルを履いている。白髪の眉毛は鋭く吊り上げられ、苛立ちを露わにしている。
    「あ、ええと……こんにちは」
     菜月が話しかけるが、聞く耳持たずに、
    「帰れ帰れ! こんなところで遊んどったらあかん! いいか? お墓っていうのはな、仏さんたちが静かに眠っとる場所なんだ。騒がしくしたりしたら、バチが当たるぞ! わかっとんのか?」
     菜月が堂々として言った。
    「とんでもない。遊びじゃありませんよ。ボクらは調査に来たんです」
    「はぁ?」
     明莉が一歩前に出た。
    「きもだめしでもしていると思われているなら、誤解ですわ。むしろわたくしたちは、お墓の平和を守りにきたのです。最近こちらで、妙な声を聞いたという人が多くて……」
     老人はちらりと実希を見てから、ため息をついた。
    「意味がわからん……くだらん噂だ、そんなものは」
    「お爺さんは、近くにお住まいなんですか?」
     菜月の質問に、固い表情のまま頷く。
    「最近は不届きな輩(やから)が入り込むで、困っとるんじゃよ。とにかく、お前さんたちも早よ帰ることだ。恐ろしい目に遭ってもしらんぞ!」
     ぶつくさと呟きながら、老人は歩き去っていった。その背中を見送ってから、菜月は口を開いた。
    「ふーむ……怪奇だね」
    「え?」
     実希が尋ね返すと、菜月は顎に手を当て、
    「あのお爺さん、お墓参りに来たのかな? あんなラフな格好で? それに、ウワサをくだらないと言うくせに、恐ろしい目に遭うぞって言うのは、どうも筋が通ってない」
    「どういうことですの?」
     明莉の言葉に、菜月は目を細めた。その横顔がひどく大人びて見えて、実希はどきっとした。自分の趣味がわからなくなりつつある。
    「そうだな……ふたりはこの怪奇事件の報告を見て、気付いたことはなかったかい?」
    「「えっ?」」
     実希と明莉がそろって首を傾げるのに、菜月は頓着なく言った。
    「報告されている遭遇時刻が、綺麗(きれい)に揃いすぎているのさ……ま、とりあえず、夜まで待ってみようか」
     ほどなくして夕暮れとなり、やがて日が落ちた。四月のまだ肌寒い夜風に、実希がふるっとひとつ震えたとき……果たして、怪奇な現象が起こり始めた。
    「──観自在菩薩(かんじざいぼさつ)ううぅ~……かえれ~行深般若波羅蜜多時(ぎょうじんはんにゃはらみったじ)うううぅ~……出ていけ~照見五蘊皆空(しょうけんごうんかいくう)ううぅぅ~帰れ~……度一切苦厄(どいっさいくやく)帰れ~舎利子色不異空(しゃりししきふいくう)帰れ~……」
     報告にあったとおり、凄まじい怨念を感じさせる声と、不気味なお経が混じり合った音色が、どこからともなく聞こえてきたのだ。
    「ひっ、ひい~っ!?」
     実希は震えあがった。まさかこの世の中に、本当にこんな恐ろしいことがあるとは!
    「これは……霊現象ですの!?」
     懐中電灯を手にした明莉が、キラキラと目を輝かせる。怖がる様子はまるでない。
    「さて、どうだろう……落ち着いて、とくちゃん。大丈夫だから」
     菜月は、ポンと安心させるように実希の肩を叩くと、慣れた手つきでカバンから、赤外線カメラのアタッチメントを取り出した。スマホに装着して、声が聞こえてくる方へと早足に歩いて行く。
     またもや怖がっているのは、自分だけのようだった。
    「か、かぐりんっ! 危ないって~! 呪われちゃうわよ~!」
    「大丈夫、大丈夫……え~っと、この辺かな……あ、あった! とくちゃん、明莉、ちょっと来てみなよ」
    「え、ええぇ~っ!?」
     夕闇の中、恐ろしげな声はまだ途切れることなく続いている。近付くのは怖かったが、明莉は呼び掛けに応えて、スタスタと歩いて行ってしまう。独り離れたところに残るのも怖いし、
    (それに、これでも私はおねーさんなんだから、ふたりを守らなきゃ!)
     覚悟を決めて歩き出す。
    「ま、待って~、アカリさん~、ううぅ~……臨兵闘者(りんびょうとうしゃ)、皆陣列前行(かいじんれつぜんぎょう)……臨兵闘者、皆陣列前行……!」
     片手でまじないの九字を切りながら、おっかなびっくり、明莉の後に続く。近付くごとに怨嗟の声も大きくなって、耳を塞ぎたくなってくる……と、不意にぷつりと声が途切れた。まじないが効いたのだろうか?
     菜月は、立派な墓石の後ろに居た。
    「これがウワサの正体さ」
    「す、すごく大きなお墓……確かにこれなら、怨念もすごそうだわ~……!」
    「いやいや、そういうことじゃなくて。これ」
     菜月はそう言って、片手を差し出してきた。その手に視線を落とした明莉が、菜月の示唆するものに気付いた。
    「それは……MP3プレーヤーですの?」
    「うん。墓石の隙間に、差し込まれてたんだ。再生時間が短いのがうまいな。多分、長時間に一度だけ、流れるようにしてあるんだろう。聞こえてきたらすぐ探さないと、見付けられないだろうね」
     実希は驚愕(きょうがく)して言った。
    「ええっ!? それってつまり……霊のせいじゃなかったってこと?」
    「霊魂がMP3プレーヤーを用意できるかどうかについては、議論の余地がありそうだ」
     菜月は何もかもわかっていたかのように落ち着いている。
     明莉が大きく息をついた。それは安堵の吐息というよりは、残念そうな溜息だった。
    「一体誰が、こんないたずらを?」
    「多分いたずらじゃない。理由は……まあ、本人に直接聞くのが早いかな」
    「ほ、本人って?」
     実希の食い気味な問いに答える代わりに、菜月は大きな墓石に刻まれた苗字を指差してみせるのだった。


     翌日の日曜日。午後一番に菜月(なつき)から連絡があって、住所がわかったから一緒に行こうと誘われた。どうやって調べたのやら、その調査能力には舌を巻くばかりだ。当然、気になるので承諾した。
     向かったのは、昨日の墓地からほど近い一軒家である。
     インターホンを押して待つことしばし、ドアが開いて出てきたのはなんと、昨日すれ違ったあの老人だった。
    「──おや、お前さんたちは……」
    「こんにちは、突然すみません」
     余所行きの笑顔で挨拶をしてから、菜月は本題を切り出した。
     自分たちが、ネットで噂になっている心霊現象を調査していたこと、結果、あの墓地でMP3プレーヤーを見付けたこと。その墓石に書かれていた名前を頼りに、この家に辿り着いたこと……
     老人はひとつ息をつくと、実希(みき)へと目を向けた。
    「……お前さんら、なんでそんなことを調べとんじゃ?」
    「え? えっと……」
    「探偵ごっこです!」
     菜月がすかさず返した。その口調も仕草も、普段より幼さと無邪気さを強調している。
    「ボクの友達が、ウワサが怖いって言うから、本当はどうなんだろうって!」
     まあ、カグラヤのSNSに報告があったので、まるっきりウソでもない。
    「そうか、ふむ……」
     まんまと絆されたか、女子三人組だったのがよかったのか、老人はそれほど警戒心を見せずに、あっさりと頷いた。
    「いまさらとぼけても、無駄なようじゃな。確かに、あれはワシがやったことだ。坊主の友達には悪いことをした」
    「ぼ、ぼうず……」
     また男と思われて、若干のショックを見せる菜月に代わって、実希が尋ねた。
    「あ、あの……どうして、そんなことを?」
     老人は表情に憤りをにじませた。
    「うちの一族の墓に、落書きされとったんじゃよ! 目立つから、きもだめしのゴール地点にされとったようでな……それで、面白半分で来る奴らを脅かしてやろうと思ったんだ。少しお灸を据えてやろうと」
     明莉(あかり)が食い気味に前に出た。
    「お気持ち、お察ししますわ! 亡くなった方に敬意を払わないなんて、生きている人間として間違っています!」
     老人はその剣幕に一瞬戸惑った様子だったが、明莉の真剣すぎる様子に、やがて笑みを浮かべた。
    「お若いのに、感心な娘さんだ」
    「でもお爺(じい)さん、このやり方は逆効果でしたね。むしろ、面白がるような連中を呼び寄せてしまう……」
     菜月の言葉に、老人は眉毛を下げて頷いた。
    「そうらしい。どうも話が大きくなってしまったようで、弱っとったところじゃよ」
     昨日墓地で見たときは、居丈高(いたけだか)で怖そうな人だと思ったものだが、今こうして見ると、気弱そうな、小さな老人だった。
     菜月はひとつ頷くと、言葉を続けた。
    「お話はわかりました。ウワサの方は、ボクたちがどうにかします」
    「どうにかって、どうするんじゃ?」
    「ボクらの一連の調査を、動画にして公表するんです。原因が明らかになれば、みんな興味を失くすと思いますから。もちろん、お爺さんには迷惑が掛からないようにはします。ボクたちに任せてもらえますか?」
    「ふむ……お前さんたちは、信用できそうだな」
     老人の素性を明らかにしないことと、動画が完成したら念のためチェックを入れさせてもらうということを条件に、任せてくれることになった。
     連絡先を交換し、意気揚々と帰途についた。
    「──と、まあ、こんな感じかな。カグラヤの活動はどうだった?」
     ゴトンゴトン、帰りの電車の中、ロングシートに三人並んで座っているとき、真ん中の菜月が言った。日曜日の昼間、乗客は多くない。
    「うん、なんだか……まだ夢を見ているみたい……」
     半ば茫然(ぼうぜん)として、実希は返す。
    「イヤじゃなかった?」
    「うん! お墓に行ったときは怖かったし、さっきもお爺さんと、どう話したらいいかって悩んだけど……でも、とってもドキドキしたわ!」
     怪奇な事件を追って、ちょっとした冒険のようなことをして、見知らぬお爺さんと話して……インドア派の自分には、まるで考えられない出来事だった。一昨日のオフ会に出てから、それまでの微睡むような生活とは、まるで違ってしまった気がする。
     実希の返答に、菜月と明莉は顔を見合わせて笑った。
    「それならよかったですわ」
    「キミにお願いして、本当によかったよ。これからもよろしくね」
    「こちらこそ!」
     菜月はおもむろに、膝の上のバッグから、ノートパソコンを取り出して開いた。キーボードを叩きながら言う。
    「ボクたちが解決しなければいけない怪奇な事件は、まだまだたくさんあるからね! 津の方の湖にUMAが出没したとか、鳥羽でUFOが目撃されたとか……ちなみにとくちゃんって、泳ぎは得意な方?」
    「えっ……ひ、人並みには泳げる、けど……?」
    「なるほど。まあ気にしないで。参考程度の話だから」
     どんな調査をするつもりなのか? 不安に思う気持ちもあるが、また菜月にほめられて、その気になってしまうのだろう。
     少なくとも、退屈とは縁のない毎日になりそうな予感はあった。


    「──で、お爺さんにOKを貰って動画を投稿したら、騒ぎも収まったんだよね。あれが、とくちゃんの最初の事件ってわけだ……感慨深いね」
     菜月(なつき)が言って、
    「うんうん! 懐かしいわ~!」
     実希(みき)が返し、
    「とくちゃんさんも、今ではすっかり探偵助手が板についてきましたわね」
     明莉(あかり)が微笑む。
    「うふふっ、ありがとう、アカリちゃん!」
     そんな具合に和気藹々と三人が会話しているのは、東名阪自動車道唯一のサービスエリア、『EXPASA御在所』でのことだった。
     出入り口脇の特設スペースに設営されたブース内、テーブルにはマイクスタンド、周囲にはPA機器。金曜日、午後七時を回ろうかという頃合い。
     記念すべき墓地での怪奇事件から、半年以上が経っている。その間、実に色々なことがあった。西に心霊現象ありと聞けば向かい、東にUMAが出たと聞けば駆けつけ、ときには県外に飛び出したこともあった。
     中でも一番大きな出来事といえば、ガルラジに合格したことだろう。今日がその初公録、観覧席にはかなりの観覧客の姿が見られる。さすがはかぐりん、ウェブ界隈では有名人なだけのことはある。
     実希の気持ちは、あれから変わっていないどころか、ますますかぐりんへのリスペクトは大きくなっていた。全ては、カグラヤの発展のために……今日の放送は、なんとしても成功させなければ。
    「とくちゃん、緊張してないかい?」
     菜月の言葉に、実希はニコッと微笑んだ。
    「してるわよ~? でも、湖にもぐったり、警官さん相手に色々説明したりするよりは、全然、大丈夫かな~って」
     色々あった。本当に……
    「頼もしいですわ~」
     明莉の言葉に、照れ笑いしながら、実希は言った。
    「でも、お墓であの声が聞こえてきたときは、生きた心地がしなかったわ~……ふたりとも、すごかったねぇ!」
    「ふふん♪ まあ、ボクは慣れてるしね」
    「わたくしは霊に会いたい気持ちの方が強いですもの。それはずっと変わりませんわ」
     菜月と明莉が答える……と、菜月が続けて、ふと思い出したように言った。
    「ああ、そう言えば。あの事件には、ひとつだけ不思議なことがあったんだっけな」
    「不思議なこと?」
     実希が尋ね返せば、菜月は淡々と、
    「あのとき確か、お経と声が重なって聞こえてたよね? でも、動画だと声しか聞こえないんだ。それに、お爺さんも、自分の声を録音して流したけど、それだけだって」
    「え……?」
     ぞくり。和やかな空気が一転し、周囲の温度が数度下がった気がした……
    「とくちゃんも聞いたよね? あのお経は、いったい誰が入れたんだろう? 何度聞きなおしても、お経は聞こえないんだよね……」
     実希は思わず叫んでいた。
    「ウソやぁ~~~~~~~~~っ!」

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    原作・多宇部貞人氏による小説「ガールズ ラジオ デイズ」
    ガルラジのネットラジオ番組だけではわからない、彼女たちの日常が明らかになる!?

    多宇部貞人 @taubesadato

    <代表作>
    シロクロネクロ(電撃文庫、全4巻) / 断罪のレガリア(電撃文庫、全2巻) / 封神裁判(電撃文庫、全2巻) 他

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