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トンガルことは大切だが、嫌われるほどトンガリすぎてもよくないんじゃ、という話
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トンガルことは大切だが、嫌われるほどトンガリすぎてもよくないんじゃ、という話

2012-11-12 10:00
    photo by Thomas Hawk

     

    お世話になっております。

    ループス直人です。

     

    今回は、ビジネスに直結するとは言いがたい内容です。

     

    いつも心に思いやりと謙虚さを。自戒の意味を込めて書きました。どうぞゆるい気持ちでご覧ください。

     

    趣旨は、途中出てくる「セルフイメージビルディング」「セルフブランディング」「パーソナルブランディング」そのものや、その是非、ではなく、それらを題材に個人が (主にソーシャルテクノロジーを使って) 情報発信する際の競争戦略やポジショニングについて考えてみるというものです。

     

     

    「嫌われない」という戦略 

    ソーシャルテクノロジーによって個人の情報発信が簡単に、効果的にできるようになり、法人ではなく個人でも自己に対して第三者が持つイメージに積極的に関与する、ブランディング的(注1)な行為を行うことができるようになってきました。そして、パーソナルブランディングですとか、セルフブランディングのような言葉が生まれてきます。これらの言葉は確たる定義があるわけでもなく、今では個人による、「自分自身の活動に関する宣伝行為」や、「第三者が持つ自分のイメージに対して本人が積極関与する行為」全般を指しているように思います。こういった活動はまあ、「ブランディング」というきちんとした言葉を使うよりは「セルフイメージ・ビルディング」程度にとどめておいた方がよいのかもしれませんが、本エントリではわかりやすさを重視して「セルフブランディング」という言葉を使います。

     

    そういうわけで、「ソーシャルを使ったセルフブランディングで、嫌われないことの大切さ」について考えてみたいと思います。セルフブランディングを行うにあたって、そもそも「嫌われる」必要などないのでは?と思われる方もいらっしゃるかと思います。可能性としては、あるのです。

     

     

    「好かれる」ために必要なトレードオフ

    「セルフブランディングをしよう」と思った時、どんなケースでも「好かれたい相手」はいる。これは間違いないのではないでしょうか。そしてもうちょっと突っ込んだ言い方をすれば、セルフブランディングを行う際には、「自分の限られた時間と、お金と、労力で、より効率よくたくさんの人に深く愛されたい」というような気持ちがあるはずです。

     

    時間やお金が無限にある、世界に一つの愛を求めている。そういうケースではこのエントリはあまり参考にならないかもしれません。

     

    で、「効率」を考えた場合、想い人の好きそうな人として振る舞うことはとても重要です。

     

    「仕事ができる人が好き」

     

    「タバコを吸う人が好き」

     

    「ビッグデータに詳しい人が好き」

     

    「JavaScriptを使って1時間でテトリス実装できる人が好き」

     

    「社会貢献を真剣に考えてる人が好き」

     

     

    ・・・などなど。色々あると思います。

     

    で、その相手に好かれるために振る舞うと、逆の趣味を持っている人には嫌われます。

     

    「タバコを吸う人が好きなAさん」に好かれるためにタバコを始めると、「タバコを吸わない人が好きなBさん」に対する求心力を失います。これはトレードオフの関係にあります。タバコを吸うかどうかを秘密にしていると、Aさん、Bさんどちらからも嫌われない代わりに、好感度にも変化がありません

     

    ある人から好かれるために、それ以外の誰かからの評価を得ることを諦め、好かれたい相手が好むような振る舞いをする。「別の競争相手と区別する」ということから、これを「差別化」といったりします。アメリカの経済学者マイケル・E・ポーター先生の著書、「競争の戦略」ではコストリーダーシップ、集中戦略と並ぶ基本戦略として紹介されています。

     

    ※「競争の戦略」は1980年代に書かれた古典で、最近はこんな感じのようです。
    参考 : CSRからCSVへ ポーターで考える新しい経営

     

    なぜ「嫌われる」必要が?

    セルフブランディングと言うと、主体は個人になるわけですから、お金も時間もかけられる労力も非常に限られてきます。そういった環境の中で、効率良く想い人のハートをキャッチするためには、自分を特徴付けていくことが必要になってきます。

     

    ある業界で有名になるよう「その業界において非常に顔が広い人」という点をアピールしたり (ネットワークの差別化) 、ある属性の女性にモテようと「動物」に自分を例えたり (イメージの差別化) するわけです。

     

    戦略研究で著名な 楠木 健 先生も、著書の中で次のように述べています。

     

    そもそも誰を喜ばせるのか、価値を提供するターゲットをはっきりさせる必要があります。しかし、ストーリーの起爆剤となるようなユニークなコンセプトを構想するためには、もう一歩踏み込むことが大切です。「誰に嫌われるか」をはっきりさせる。(中略) ・・ターゲット顧客から徹頭徹尾喜ばれるということは、ターゲットから外れる顧客にはっきりと嫌われるということです。(中略)・・だれからも好かれている人というのは、本当のところは誰からも好かれていないのかも知れません。誰に嫌われるかを意図する。これが筋の良いコンセプトを描くために最も効果的な入り口であるというのが私の考えです。

     

    楠木 健 「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」P274

     

    例えば、スターバックスは喫煙者から嫌われることを選択した。サウスウエスト航空は機内食や座席指定といったサービスを必要とする顧客から嫌われることを選択した。そういうことです。

     

    これは、前項で挙げたように限られた資源を効率よく扱うための「トレードオフ」という観点からすれば至極妥当な考えに思えます。

     

    ただし、ソーシャルメディアの利用を前提としたセルフブランディングにおいては、この「嫌われる」というエッセンスが命取りになります。これが、本エントリの論旨になります。

     

     

    「嫌われる」必要はない

    実際、楠木先生も上述したほどは「嫌われる」ことを推奨してはおりません。出てくる例も競争相手からしたら嫌でしょうが、利用しない顧客の立場から見えれば特に憎々しいものでもなく、強調の意味でこの「嫌われる」という単語を選んだのだと思います。

     

    それゆえに、この「嫌われる」という考え方を真に受けて実行に移すと大変な目に合うのではないかと思うのです。「無視される」程度で十分。「嫌われる」可能性のある活動は全く合理的ではありません

     

     

     行きすぎた差別化は、ソーシャルにおいてはリスクでしかない

    国民のほとんどが使うようなインフラ・サービスでもない限り、セルフブランディングによって「好かれたい相手」よりも「好かれなくていい相手」の方が数は多いです。例えば「SEO博士」というセルフブランディングをしていく場合のSEOの情報が必要な人とそうでない人の割合を想像してみてください。日本のインターネット利用者は9000万人以上いますが、SEOに興味があったり、必要とする人の数は10%に満たないでしょう。

     

    ソーシャルサービスの多くは、オープンだったり、クローズドだとしても投稿内容を拡散・伝播する仕組みを備えているのが普通です。そしてそのネットワークはフラットな構造を持っています。この前提に立てば、「反感を招く」活動は「支持してくれる人以外の、圧倒的多数を敵に回す」可能性という、大きなリスクがあります。


     

     ユーザーが最強、ソーシャルという世界の掟

    ソーシャルテクノロジーを使ったセルフブランディングにおいて、敵を作ることが大きなデメリットになる大きな理由を2点挙げます。

     

    ひとつはソーシャルテクノロジーのユーザーは「情報発信力」を備えている点。2つめは同様に「情報伝播の制御」も行う点です。

     

    ソーシャルメディアを使ったセルフブランディングで、極度に先鋭化したコンセプトを採用し、多数の反感を買いながら共感する少数派を募る場合どういうリスクがあるか、考えてみましょう。

      

     

    「情報発信力」にまつわる脅威

    単純に考えれば、「炎上」を起こすような情報発信です。普通に考えれば、批判の嵐を巻き起こすような情報発信はすべきではありません。

     

    ただし、中には例外的な考え方をする人もいます。アテンション・エコノミーの現代では炎上マーケティングという言葉もある通り、「炎上したとしても、嫌われていたとしても、知られていない、もしくは無視されるよりはマシ」という考え方があるのも事実です。

     

    この考え方は、B to B では現実味を帯びて見えるのかもしれません。つまり、炎上して一般の生活者が大いに不満を述べたとしても、お金を出してくれるクライアント企業が同意してくれれば関係ない。というロジックですが、これはどう考えてもリスキーです。デーブ・キャロルが作った動画が発端となり、ユナイテッド航空の株価が10%下がった有名な事例にもある通り、現代におけるカスタマーパワーは強大であることは周知の事実であり、そういった可能性を感じさせることは B to B のビジネスと言えどメリットになるとは思えません。

     

    ただ、そこまで顕在化するインパクトは無くとも、潜在的な不支持層が醸成されている可能性には配慮すべきです。潜在的な反感は、弱みや突っ込みどころを見せると一瞬にして顕在化し、偏った世論を形成するかもしれません

     

     

    「情報伝播の制御」にまつわる脅威

    ソーシャルメディアのユーザーは、好きな人の情報は積極的にシェアしますが、嫌いな人の情報はシェアしません。

     

    つまり、セルフブランディングにおける差別化の結果生まれた潜在的反感層は、情報の拡散力を低下させることにつながります。むしろ悪意を込めてシェアすることがあるかもしれません。

     

    セルフブランディング主体者が発信する情報は、「想い人」つまりある対象顧客に向けて特化されています。どんな情報でも必要な人に届けば「お役立ち情報」ですが、役に立たない人にとっては「スパム」でしかないわけです。そして、その「想い人」より、「それ以外」の方が、数的には圧倒的に多い事実を思い出してください。ソーシャルの情報伝播は、情報を受け取った人が「シェア」するかしないかが情報伝達の鍵を握っています。

     

    「この情報必要ないけどあの人には役立ちそうだからシェアしてあげよう」「これよくわからないけどあの人が言ってるんだからいいことなんだろう。シェアしよ。」こういう気持ちは、情報を届けたい、広めたいと考えている人間にとってはありがたいものです。

     

    潜在的反感層の拡大は、生活者からこのような拡散に協力する気持ちを奪い、インフルエンサーの活動を抑制し、情報拡散に対してネガティブに働きます。

     

     

    終わりに

    対象顧客以外から、「無視される」ことは許容できても「反感を買う」「嫌われる」ほどの極端なポジショニングは、ソーシャルテクノロジーを活用する限りはデメリットになります。今回はセルフブランディングという観点ですから、過剰な自慢とか、上から目線とか、手前味噌とか、そういうちょっとしたところに気を使いたいです。

     

    基本となるのは、相手に対する思いやり、尊重、謙虚さ、誠実さ。そういう人として当たり前の価値観を大切にし、ソーシャルメディア上でも強く意識してきっちりやっていく、ということだと思います。

     

    私自身も、最近酔っ払った時の変な投稿が増えているので、自戒の意味を込めて、書いてみました。私は本当に酔っ払うと本当にだめな人間で、しょうもないことばかりしてしまうのですが、どんな時でも謙虚さを忘れないよう、脳皮質の深いところに刻み込みたいものです。

     

     

    脚注 

    ※注1 : ここでいう「ブランディング」は、認知獲得や自分自身や所属組織に対する第三者のイメージ形成に積極的に関わる行動全般を広く指しています。より正確な説明を求める方はデービッド・A・アーカー著「ブランド・リーダーシップ―「見えない企業資産」の構築」などをご覧になるとよいかと思います。

     

     

     


    by 許 直人
    RSSブログ情報:http://media.looops.net/naoto/2012/11/12/self-branding/
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