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2013年、PRの仕事 〜傾聴と行動〜
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2013年、PRの仕事 〜傾聴と行動〜

2013-04-09 12:05
    タイトルに「2013年」とつけたのは、今年の2月を境にして傾聴活動に大きな変化があったと実感したからです。なにも、このタイミングで2013年予測とかするつもりではありません。今回、このブログで扱う内容は戦術レベルのことが多いですが、傾聴した後、いかに行動に移せるかはPRの目的や戦略に関わることなのでその辺りも少し説明したいです。

     

    さて、みなさんはどの程度ソーシャルメディアを傾聴していますか?傾聴ツールを使い、会社名、製品名をキーワード登録し、どんな人に、どのように見られているか、言われているか、を確認していると思います。もしかしたら毎日、炎上の火種になっていないか、情報の広がりがいまいちだとか俯瞰的に見ていることもあると思います。また、どのPR活動がメディアに露出し、それがソーシャルメディア上でどのように反応があるかという一連の流れを見ていると思います。

     

    それらはこのソーシャル時代におけるPRの仕事の基本ではないでしょうか。次に本題に入ります。

     

    世の中の話題を味方につける

    今年の2月3日に米ニューオーリンズのメルセデス・ベンツ・スーパードームで開催されたスーパーボールは、試合中に停電が発生しました。その際、多くの企業が停電をパロディにしたり、ジョークにしたりしました。中でもOreoTideが短時間でクオリティの高い画像とコピーをソーシャルメディアに投稿したことは多くの関心を集めました。実は、両社はスーパーボールのスポンサー企業ではないにも関わらずこの停電という話題を上手く活用したのです。また、Audiはライバル企業であるメルセデス・ベンツ・スーパードームに「LEDを送っている最中だ」というウィットを利かしたシンプルなTweetで笑いを誘いました。

     

    世の中の数多ある話題の中で、スポーツイベントは多くの人の関心を引きつけやすいですが、スーパーボールの試合中の停電という信じられない事故は多くの人を落胆させたのも事実です。そのような繊細な状況の中では、単に「話題に便乗する」だけではリスクが伴います。Audiの場合は多くの人がジョークを言っている段階をしっかり見極めた上で、ウィットを利かしたジョークを発信しています。つまり、ソーシャルメディア上の雰囲気を見極め、どのような行動を取れるかを短期間のうちで考え実践したのです。

     

    このように、話題を味方につけることを「Newsjacking(ニュースを乗っ取る、便乗する)」と米マーケティングとリーダーシップの戦略家であるDavid Meerman Scott氏が提唱しています。 私が「話題を味方につける」と敢えて意訳している理由は、そもそもその話題と関係あるのか、誰も傷つけなくできるものであるか、を確認する必要があるためです。また「乗っ取る」や「便乗する」というと、当人や当該企業だけの便益だけが優先されるニュアンスもあるためです。

     

    話題の中には、事故、災害や人災がありますが、いくら良いことを発信しようとしても、当事者や周りの人だけではなく、広く一般にどのように思われるかを綿密に精査する必要があります。それは「悪気はなかった」では済まされず、当人や当該企業の代表が公式に謝罪をしなければいけない自体に発展する可能性もあるからです。

     

    ソーシャルメディア以前でも、特にPRは時勢に敏感である必要があり、それを上手く活用することを求められました。判断基準は過去のPR活動の内容と結果(露出タイプ、メディアアウトレット、レイブレビューなど)が主なものであり、情報の受け手がどんなことを思っているかを把握することは困難でした。ソーシャル時代の現在は、リアルタイムで情報の受け手を傾聴/分析することができます。それゆえ、単にソーシャルメディアを運用する体制を作るだけでなく、全社的に権限委譲、相互学習、情報共有、効果測定をすることができるかが鍵とされます。

     

    以下は、ある話題に対するメディアの第一報から始まる、世の中の興味/関心の推移を現したものです。その際上記のように「話題を味方につける」 方法が少なくとも2つあると考えました。それらについて説明したいと思います。

     

     

    ※色=話題に関する興味/関心の深さを濃淡で表現。リンク付けやRT、いいね!という行為は淡い色、生活者自身の意見や考えは濃い色。大きさはそれらの量を概略的に示す。

     

     

    ①ジャーナリスト、メディアの傾聴とその後の行動

    まず、ある話題の第一報(速報、ニュースフラッシュ)があったとします。その話題に対してジャーナリストがどのように反応しているかを見ます。FacebookやTwitterでも「特定の人を分別するリスト」を作成することができるので、ジャーナリストとメディアの扱っている範囲や分野ごとに分類してみるといいでしょう。

     

    次にジャーナリストとメディアの反応、意見や考えを見てみましょう。ジャーナリストを一番先に見るという行為は、一次的に彼らの業務を通して得た経験値や思考というフィルターを通して見るということです。その後、ソーシャルメディアでの他者とのやり取りで意見や考えがどのように変化しているかを見てみます。ネガティブな意見や考えがどのように変わったか、その切り口やトーンで判断します。

     

    メディアの場合、その話題を一番欲しているメディアがどのメディアになるのかを確認する必要があります。「話題を味方につける」行動を取ったとき、それを知らせるメディアアラートの対象先と成り得るメディアを見極めるためです。話題に対して興味/関心を持たないメディアに、自社の行動(例:ソーシャルメディアの投稿)をお知らせしてもスパム行為にしかなりません。

     

    「話題を味方につける」行動はジャーナリストのフィルターで考え、その後自社との関連性を精査することです。そして、それをお知らせする対象も興味/関心を持つ対象を限るという一連の作業とリアルタイム性が必要になります。ソーシャルメディアの投稿が一番やりやすい理由は、当該ソーシャルメディアが短期的に情報を拡散する性質を持つものがあるから、運用面では承認プロセスが簡素であることや短文であっても何かしら表現が可能であるからです。

     

    ②ソーシャルメディアの傾聴とその後の行動

    上記①を経て、ソーシャルメディアの傾聴に移ります。ソーシャルメディアだけの傾聴では、部分的な流行りの域を出ない場合があるからです。理想的な「話題を味方につける」フローは、ジャーナリストから学び、自社の個性を出し、ソーシャルメディアで盛り上がったきたタイミングで、メディアと自社のソーシャルメディアアカウントで情報が発信されるフローです。

     

    「ソーシャルメディアで盛りあがってきたタイミング」はリアルタイム検索、RSS、アラート、トレンドワード、まとめサイトなどソースを複合的に見る必要があります。それらの内、一つだけで盛り上がっている状態ではありません。これを判断するには、体制や経験値、情報に対するリテラシーなどが必要です。戦術=ソーシャルメディア上で「話題に便乗する」という枝葉だけでは話題を味方につけることはできません。

     

    そのため、PRの位置づけ、戦略を決める基本的な考え方まで考え抜きチームに浸透していないと小手先の対応だけになり、後は運任せということになりかねないです。Audiの場合、非常にシンプルなTweetなので、容易に話題を味方につけているイメージはありますが、競合企業のことを言及している点、ユーモアという非常に難しいトピックを扱っている点を見ると、リテラシーの高いスーパー・ソーシャルメディア・ストラテジストがいるだけでは実現できないと推察します。

     

    余談ですが、ソーシャルメディアの傾聴では、ワードクラウドのように言及されているワードの大きさや太さで注目されていることを瞬時で表現するツールが使えるといいですね。もっといえば、サーモグラフィーのようにニュートラル、ネガティブやポジティブが色で判別でき、広がりが一目で分かるようなツールがあれば理想的です。ソーシャルメディアだけでなく、ジャーナリスト、メディアや他のソースを関連付け俯瞰的に見ることができるツールが出てくると非常に面白いと思います。

     

    気をつけたいこと

    話題を味方につける中で、ミーム(meme)の概念を思い出すことは重要です。ミームとは、かのMerriam-Webster’s dictionaryでは “an idea, behaviour, style, or usage that spreads from person to person within a culture”としています。訳は「一定の文化様式に基づき、アイデア、態度、スタイルや利用が人伝いに広がること」。対して、バイラル(viral)は “quickly and widely spread or popularized especially by person-to-person electronic communication”、「電子コミュニケーション上で、事柄が早くかつ広範囲に渡り人伝いに広がること」ぐらいになるでしょうか。

     

    バイラルの拡散能力に対して、ミームは一定の文化様式に力点があることが違います。この文化様式を履き違えると、無視されるか、もしくは炎上の火種になりかねません。繊細な眼力と多様な意見がでるチーム力がなければ扱うことは難しいでしょう。最近流行ったハーレムシェイクを味方につける場合でも、当人や当該企業の機敏はもちろん妥当な理由が求められるわけです。

     

    ソーシャル時代は「ノリが瞬時で見極められる」時代だということです。反対に、上手いなぁ、流石だなぁと思ってもらえる素養を身につける必要がある時代といってもいいと思います。そのような素養を得るにはある程度時間がかかるものです。そのもっと先には、日本人が感じることができる、ある状態を突き詰めた結晶ともいえる文化様式「粋」を感じ取ってもらえるには1年や2年程度で済まないでしょう。

     

     

    終わりに、次回以降は変化するメディアの動向や事例を取り扱ってみたいと思いますので、引き続きご覧いただけると嬉しいです。


    by 鬼頭 正己
    RSSブログ情報:http://media.looops.net/kito/2013/04/09/2013pr_la/
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