元々シアトルで始まったこのイベントシリーズは、現在では東京や京都などを含む世界各都市でも開催されている。その中でも最も盛んなのがSatartup Weekend Bay Areaで、btrax社のCEOのBrandonがデザインメンターをつとめ、ロゴもbtraxがデザインした。今回は、2011年の夏に開催されたイベント中にて、シリコンバレーの投資家、リード・ホフマンとの起業家精神に関しての対談の様子をご紹介したい。
今回のベントの会場として選ばれたのが、Mt. ViewにあるMicrosoftシリコンバレーオフィス。その隣がGoogleでもう一つ奥にいくとLinkedInがある。そして、このイベントでのKeynote Speechを務めたのが、そのLinkedInのファウンダーであり、現在は自身のファーム、Greylockを通してAirbnb, Pandora, Facebook等の多くの有望スタートアップに投資を行う世界屈指のVC、リード・ホフマン(Reid Hoffman)である。ちなみに、彼は1995年から現在までに実に114社のテック系スタートアップに投資を行っている。
スピーチでは、アメリカに於ける起業家の存在意 義や、経済そして社会への影響力、そしてこの国自体が起業家精神の元に成り立っている事を説明。スピーチ最終には、「ビジネスなんて、どっちみち面倒な事ばかりなんだから、やるならデッカくいこうぜ!」と参加者を激励。その直後から彼のフレーズ “As entrepreneurs you should always think big, because it takes the same amount of work and pain as thinking small.” が参加者を中心にTwitter上に拡散されまくった。
本来彼は基調講演のみでの参加予定だったが、スピーチ後の質問コーナーにて参加者からの、”明日も来てくれますよね?” の問いに対し、”まいったな、週末もミーティングづくしで時間がないんだけど…。” とお茶を濁していた。しかし、土曜日のセッション中にこっそり参加者を覗きに来た彼を発見。自分がデザインメンターとして参加している事を伝えると、ラン チタイムが近かった事もあり、30分以内の条件でオフィス内のカフェにて一緒にランチをする事に。カジュアルな雰囲気の中、起業家を応援する立場として、 彼に幾つかの質問をしてみた。
概要:
インタビュー相手: Reid Hoffman (Partner: Greylock, Co-Founder and Exec. Chairman: LinkedIn)
インタビュアー: Brandon K. Hill (CEO, btrax, Inc.)
インタビュー日: 2011年9月10日
場所: Microsoft (シリコンバレー, Mt. View地区)
Brandon: 昨日スピーチは素晴らしかったです。有り難うございました。
Reid: ありがとう。未来のEntrepreneur達の前でスピーチする程エキサイティングな事は無いよね。僕としても光栄だったよ。
Brandon: やはり今の世の中にとって、起業家は重要なんでしょうか?
Reid: もちろんだよ。どんな会社でも最初はスタートアップだし、政府や国家だってある意味起業家精神の元に成り立っている。そして、今以上に起業家的な考え方やスピリットが重要な時代は無いと思う。
Brandon: それはなぜでしょうか?
Reid: 簡単な事だと思うよ。テクノロジーや市場の発達が原因で、物事やマーケットが変化するスピードが急激に早まっており、グローバリゼーションの波も加速して いる。それに併せて企業もアダプトして行かなければいけない。これからの将来に向けて起業家的考えがとても重要になる。これは必ずしも全ての人々が自分の 会社を始めないといけないというわけではなく、いつでも急激な変化に柔軟に対応出来るような、”起業家的”な考え方がキャリア構築の面でもこれからは重要 になってくる。
Brandon: ではどのように起業家精神を学んだら良いでしょうか?
Reid: 現実的に考えて “起業家学” という物は存在しない。むしろ、それを教えるのは不可能だろう。 細かなスキル、例えばビジネスプランの書き方、ビジネスモデルの作り方、マーケットリサーチ、同業他社リサーチ、会計、マネージメントといった内容を学ぶ 事は可能だ。しかし、覚えておいて欲しいのは、起業家とはパイオニアである事。パイオニアとは新しい事にチャレンジする人たちの事なんだ。起業家になるのであれば、新しい事にチャレンジするべきであり、誰も経験した事の無いフィールドに飛び出す事でもある。そこで直面する数々の困難をどのようにクリアして 行くかが起業家精神なんだよ。
Brandon: なるほど。一言で言って優れた起業家とはどんな人たちなのでしょうか?
Reid: 一言で表現するのは非常に難しいな…。そうだな。例えばここ(カフェ)でとんでもなく良いアイディアが思いついたとする。恐らく皆、忘れる前に慌ててナプキンにそれを書き留める。文字だったり、図表だったり。皆そこからビジネスをスタートするよね。でも、最終的にそれを元に世界を変えるような商品やサービ スに作り上げ、大勢の人を雇い、大きなお金を動かす事が出来る人たちは極わずかだろうね。それを達成する為には幾つか重要な心構えがあると思うよ。
Brandon: それはどんな心構えでしょうか?
Reid: まずは常に新しい機会を探す事。いわゆるマーケットオポチュニティだよね。新しいテクノロジーや市場の変化を糧に何か世の中に大きなインパクトが与えられ ないかを模索する。既存の環境で誰もやってなかったようなビジネスモデルはあくまでもニッチ市場であり、大きなリターンは望めないよね。ビッグな成功が欲 しければ自ずと最新のテクノロジーや市場の変化を活用する必要がある。
次に、やるからには大きな目標を掲げる事。たとえ現実的に小さな成功からスタートしたとしても、最終的に大きな目標が無いのであれば、大きな成功はありえない。偶然にビッグになる事は極稀だね。起業家というかなりしんどい役割を請け負うのであれば、グローバル規模でインパクトが与えられるようなビジ ネスモデルで、ビッグなリターンを望んだ方が良い。
そして、優れたチームを作る事。スタートアップの場合、とにかくファウンダーやCEOが注目され、その人自身の延長線上に会社がある様に思われるよね。しかしながら、会社の周りには大きなネットワークが存在している。例えば、COOやCTOだけではなく、立ち上げ時のスタッフ、投資家、株主、そして 顧客までが成功への重要な要素となる。自分1人の能力で全てを成し遂げようと思っているとしたら、起業家としては評価出来ない。
もう一つの要素としては、ラッキーな時とそうでない時の両方を想定してプランニングを立てる事。例えば、ビジネスを展開していると意外な所で商品やサービスが響く時があるよね。当初想定していたプラン上には考えられなかった所にユーザーがいたり、プロダクトが想定してなかった使われ方をされたりとか。そのような事態になった時に、即座に対応し、いつでも方向転換 (Pivot) 出来る様にしておく必要がある。そうしないとチャンスをつかみ損ねるからね。少しでもチャンスの糸口が見えたのであれば、そこに対して全力で方向転換をす る柔軟性が必要なんだ。
その一方で、アンラッキーな事も起るだろう。思ってたやり方でうまく行かなかった際の代替案、いわゆるプランBだね。LinkedInだってユーザー増加率が、当初の予定を大幅に下回っていたので、アドレス帳の追加施策を行って急激にユーザーが増えた。実は、僕はそれに加えプランZも必要だと考えている。プランZとは、何をやっても響かないのであれば、根底からプランを変えてしまう内容だ。結果も出ないのに、ただ頑固にやりたい事に固執するのは良く無い。
最後に、粘り強さ (Persistent)と柔軟さ (Flexible)の両方を兼ね備えている事。当初のヴィジョンをしっかりと持ち続けながら、場合によっては、その時々の状況に合わせて柔軟な対応が出来る。一見相反する二つの素質だけど、起業家にとってはどっちも重要だね。こればっかりは、勉強では身に付かない。身をもって経験するしか無いだろうね。
Brandon: Webやモバイルサービスにおいて、ご自身が投資対象として注目するポイントはありますか?
Reid: 昨日のスピーチでも若干ふれたけど、僕的には人間が持つ “7つの大罪 (Seven deadly sins)” をくすぐるサービスが良いよね。これらは人間が本能的に感じる欲求であり、ビジネス的にもユーザー心理に訴え易い。
ちなみに、7つの大罪とは:
- 憤怒 (Wrath)
- 強欲 (Greed)
- 傲慢 (Pride/Ego)
- 色欲 (Lust)
- 嫉妬 (Envy)
- 怠惰 (Sloth/Laughter)
- 暴食 (Gluttony)
これら人間が持つ本質的な欲求を満たすといった側面から考えるとソーシャルメディアは非常に有利だね。 投資している企業でいうと、Facebookは人間の自己顕示欲、すなわちエゴを満たす。Zyngaは楽しみたい欲求(怠情)を、LinkedInは人間 の強欲な側面を抑えていると言えるだろう。
Brandon: なるほど。そろそろ時間なので、日本の起業家に向けて何かメッセージはありますか?
Reid: さっきも言ったけど、今の時代は物事が急激なスピードで加速し、全てがグローバル規模で展開されている。一方でビジネスは通常ローカルレベルでスタートするのが一般的だと思う。ローカルでスタートしながらも、最終的にはグローバルな展開が出来るのが良いと思うよ。
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【関連動画: Startup Weekend MEGA】
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photo by Joi Ito/Flickr
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