ハッカソンって知ってますか?
最近ハッカソンイベントが多く行われるようになりましたが、今回、日本ではテレビ局が主催するハッカソンとしては恐らく初めての「TBS TV HACK DAY」についてレポートしたいと思います。
ハッカソンとは、「Hack」と「Maratshon」をあわせた造語で、短期/集中的に共同作業でソフトウェアを開発する、技術とアイデアを競い合うイベントです。
最近では、いろんな企業・地域・団体などが、いろんな目的でハッカソンを行っていますが、今回の「TBS TV HACK DAY」の場合は、「自分たちだけで考えていると従来のテレビ的な発想や、権利関係の規則に縛られ、自由な発想がでてこない」という問題意識から、外部の人たちにアイデアをもとめ、その突破口をみつけたいという目的での実施になります。
テレビは「受動的」で、娯楽の要素が強いメディアであり、インターネットは「能動的」に閲覧し、情報を多く取得する要素が強いメディアだと思っています。ハッカソンの参加者は、インターネットに詳しい人が多いため、出てくるアイデアはどうしても「情報を多く取得する」というインターネットの要素が強い方向性のサービスに偏っていた気がします。
その中で、後で詳しく説明する最優秀賞の「テレブー」は、テレビと話す感覚を体験できる作品で、人間の根本的な問題への解決策(一人は寂しい、誰かと話したい)を提示している作品に思え、とてもいいアイデアが生まれたと思います。
「誰かと話したい」と表現すると、ITに詳しい人はすぐに、「同じ興味の人とつなげてしまえ!ソーシャルだ!」と口にしそうですが、ITに詳しくないテレビ視聴者に対して、それはなんだか違う気がしています。情報を取り込みすぎること、人とつながることは、時にストレスになることもあると思っています。つまりIT関係者が思いつく解決策は、「娯楽」とは違う方向へ行く可能性も高いと思うのです。
ところがこの「テレブー」は、「テレビと会話する」という形で、おじいちゃんや子供(ITでつながっていない人たち)でも利用でき、テレビの気楽さと人とコミュニケーションを取りたいという欲求をうまくバランスし、娯楽性を失わずにテクノロジーの恩恵を受けることができる作品で、個人的にすごくいいなっと感じました。
せっかくいいサービスが産まれたので、このサービスが主催者側と共に発展・進化していき、実際にサービスがリリースされ、利用されるようになり、「ハッカソンで産まれ成功したサービス」のいい事例になってくれたらいいなと思います。
TBS TV HACK DAYについて
「TBS TV HACK DAY」は日本ではテレビ局が主催する初めてのハッカソンイベント。日本最大級のアプリ開発コンテストであるMashupAwards事務局の協力で行われ、予選となるアイデアソンをおこなった後、予選を通過したアイデアを実際に開発する形で、翌週の土日に本選であるハッカソンを行うという二段構成で進められました。
ちなみにアイデアソンとは「Idea」と「Marathon」を合わせた造語で、テーマを定めた上でアイデアを出し合い、それをまとめていく形式のワークショップで、プロトタイプを必要とするハッカソンとは違い、アイデアだけのアウトプットになります。
※MashupAwardsについては以下の記事を参照ください。
→「モノづくりを楽しむ集団MashupAwardsとマッシュアップしようよ!」
ハッカソンのテーマは
「未来のテレビの楽しみ方を追求するアプリケーションやWebサービス」
賞金はなんと100万円!!審査基準毎に贈られた優秀賞にも5万円が贈呈されました。
その他にも、予選であるアイデアソンはテレビ局のスタジオ、司会は女子アナ、TBSグッズのお土産の数々(半沢直樹ノート、倍返し饅頭)と、テレビ局主催のハッカソンらしさがあるなか、なんといっても他のハッカソンとちがっていたのはテレビ取材。
イベントの様子は 3/19(水)25:58~TBSテレビ『オトナの!』でのテレビ放映 も決まっているので、興味のある方は是非ご覧いただければと思います。
審査基準は、以下の4点でおこなわれました。
①アイデア・・・独自性、新規性、優れた着眼点、発展可能性
②完成度・・・実用性、ユーザビリティ、エンタテインメント性
③デザイン・・・芸術性、優れた表現技法
④テーマ性・・・テーマにあっているかどうか?
審査員としては、審査委員長にEast Venturesの松山大河氏、TV側から放送作家の高須光聖氏、プロデューサーの大松雅和氏。インターネット側からはバスキュール取締役の田中謙一郎氏、TechCrunch編集長の西村賢氏という5名でおこなわれました。
優秀賞を獲得した4作品
今回のハッカソンでは、今回紹介する最優秀賞、優秀賞作品を含む9作品の発表が行われました。
<最優秀賞>
対話式でテレビをコントロール出来るぬいぐるみガジェット「テレブー」
テレブー(ぬいぐるみガジェッド)に話しかけるだけで、テレビをつけたり、チャンネルをかえたりします。例えばこんな感じ。
「テレブーただいま」と話しかけると
→テレブー:「おかえりTVつけるね」
(TVがつきます)
「テレブースポーツが見たいよ」と話しかけると
→テレブー:「じゃあ番組かえるね」
(チャンネルがかわります)
また、番組にでてきたキャストのグッズを検索したり、友達がみているTV番組がわかったりもします。
テレブー:「横峰さくら好き?」
→ 「好き好き!」っと答えると「おススメのグッズ情報スマホに送ったよー」
テレブー:「れいこちゃんがゴルフ番組みてるよ。一緒に見る?」
→ 「みるー」っと答えると「番組変えるねー」
ぬいぐるみの中にはマイク、スピーカー、マイコン(mbed)が内臓されており、マイコンの赤外線を使ってTVを操作しています。またテレビのフレームに設置できるテレブーの椅子も3Dプリンターで作っており、椅子にモーターを仕込んでかわいい動きも実装していました。
ティザーサイトもできていますのでこちらも参照ください。
TVのスイッチを押すきっかけがないからTV離れしているんじゃないか?という問題意識から、 TVを擬人化し、もう一人の家族のような存在を目指したというこの作品。テレビを見ている人を前提とした作品が多い中、テレビ局側の大きな問題である「テレビ離れ」に対しての問題解決を投げかけるとてもいい作品だと思いました。
優秀作品は、4項目の審査基準ごとに賞金5万円が贈られました。優秀賞(プレゼンテーション賞)は最優秀賞のテレブーがダブル受賞でしたので、ほかの3作品についてご紹介します。
<優秀賞:アイデア賞>
リビングの照明”と”TV視聴”が連携するサービス「lighTV」
今のTVは画面をみるだけですが、未来のTVは空間を体験するものにしたい!というコンセプトで、フィリップスさんのhueを利用し、テレビの放送内容と同期した照明演出を行い、空間体験を演出したサービス。
ソーシャルで番組の盛り上がりや感動・感情に合わせた照明で部屋を演出します!デモではホラー番組と連動した照明を演出。照明によって、ホラーがさらに怖く感じました。
<優秀賞:デザイン賞>
テレビを見ながら婚活ができちゃうサービス「テレ婚」
男性がスマホでテレビの音声をひろうとそのテレビを見ている女性が表示され、トークルームに入れます。トークルームに入っている状態でテレビをみながら、例えばサッカーの試合でゴールが入り、そのタイミングで端末をふると・・・女性の部屋のランプがかわって、男性が興奮していることがわかります。実際に番組がやっている時にだけ連動され、番組が終わった後話しを続けたいのであれば「♡を送る」というアクションで続けたいという意思表示をします。♡をあげた人がTVを見ていると部屋の照明が教えてくれるので次に話しをするチャンスがあります。
<優秀賞:完成度賞>
Leap Motion を使ったジェスチャー操作でいろんなことができるサービス「Conductor」
TVチューナーをつかってPCでデモを作成。Leap Motionは手のジェスチャーによってコンピューターを操作できる機械です。指1本で人物の顔を囲うと顔認識が行われ、その人の情報を表示してくれます。
この曲なんだっけな?というときは、「M」と描くと曲名が表示されます。手をつきだすと一時停止し、もう一度手を突き出すと再生するなど、手の動きでTVを操れます。
最後は、審査員長を務めていただいたEast Ventures パートナーの松山氏から、「テレブーは人とテレビの新しい関係が提案されており、完成度がとても高かったところが評価されました」と受賞理由が語られました。
また、総評として「いずれの作品もクオリティが高かったと思います。ネット業界とテレビ業界の審査体制でしたが、審査員のディスカッションの中でも新しいアイデアがでてきました。今回のイベントで、テレビ業界とネット業界が融合することで新しいアイデアの可能性があると改めて感じました」と今回のイベントの意義について評価されました。
蛇足:めんどくさいこというよ
最近毎週末、どこかでハッカソンイベントが開催されている気がします。いろんな企業・地域・団体などで、いろんな目的でハッカソンが行われるようになってきていますが、特に最近は今回のように企業が主催で行うハッカソンが増えてきている気がします。(ローソン|NTTドコモ|リクルート|東京証券取引所|朝日新聞社など)
ハッカソンの目的はサービス開発、新しい技術を広めたいため、ネットワーキング、教育、採用など様々だとは思いますが、すべての目的において共通する考え方は「オープン・イノベーション」だと思っています。
「内部と外部のアイデアを組み合わせることで、革新的で新しい価値を創り出す」ことを目的に生まれたのが、「オープン・イノベーション」という考え方。
元々は研究開発により蓄積された企業のクローズドの知見を、第三者に利用可能な状態にすることで、共同研究、アライアンスや事業開発につなげていく手法などを指していました。
これをハッカソンの場に言い換えると、「内なるものと外のものが触れ合う事による化学反応」だと思っています。それはオープン・イノベーションに参加者も主催者も参加するともいえることです。
今回のハッカソンで言えば、参加者本人の「内」なるものは自分のスキル、知見、ノウハウ、「外」なるものは、同じ参加者のノウハウ、知見、またはAPI等の技術、テレビ業界と言うテーマもそうかもしれません。
そして主催の「内」なるものは、テレビが持つ課題であり、業界内の課題、「外」なるものは参加者やAPI企業から得られる外部の知識やネットのノウハウだったりします。
これらが、いろいろなところで化学反応し合い、新しいイノベーションのカタチを探す。そんなカジュアルなオープン・イノベーションがハッカソンにはあります。
ただ、関係者のどちらか一方だけがWinになるハッカソンや、誰かが置いてけぼりになるハッカソンは、本当のオープン・イノベーションでは無いと思っています。参加者同士もそうですし、企業と参加者も同様です。
「オープン」の名の通り全てが公平、公開の状態を指向する事がハッカソンには必要であり、ハッカソンの目的と、参加者の参加意思が合わないハッカソンであれば、やらないでほしいということです。
ハッカソンにおいて大切なことは、参加者、主催者お互いの目的の一致だと思っています。
また、ハッカソンはオープン・イノベーションの宝庫ではありますが、ここから具体的な「事業」が生まれる事は極めて少ないです。
昨今アイデアを実現、具現化する手法は
1.技術の発展
2.必要コストの低下
3.リーン・スタートアップ等に代表される手法の開発
などにより、格段とやりやすくなりました。ただ、このような手法を用い成功のための確率を向上させることはできても、ヒットするサービスが簡単に生み出せるほど物事は簡単ではありません。
オープンイノベーションの一貫として、ハッカソンを実施したいと検討している方に伝えたいことがあります。それは、ハッカソンに期待をしすぎないでほしい。ということです。
2日間や長くて1週間の開発期間で、新規事業やビッグビジネスが生まれるかといったら、そんなことはほとんどありません。 「バスをさがす 福岡」の記事 の蛇足でも述べたとおり、サービスは生き物であり、産まれただけではだめで、使われながら成長していき、はじめて支持され、成果があらわれるものだと思っています。
では何をハッカソンに求めるのかといったら、それは化学反応としてのオープン・イノベーションだと私は思います。それは人×人かもしれないし、人×企業かもしれないし、技術×人かもしれないし、オープン・イノベーションの種類は多数あります。
その中で生まれた「化学反応」を参加者とともに育てることができるのであれば・・・
そのような覚悟をもってハッカソンを実施するのであれば・・・
ハッカソンはとても良いイベントだと思うので、是非実施してもらいたいです。
by 鈴木 まなみ