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■書き下ろしではあるけれど自分の曲としてもいろいろと展開したい!
“レコード会社から「アーティストの●●向けに新曲を作ってもらいたい」と言われて曲を作ったんだけど、あまりにも出来が良かったんで、自分の同人CDにもボカロによる歌唱で収録したい。そういうことは可能なのか?”
という質問をボカロPからいただいたことがあります。多少の違いはあれ、第三者のために書き下ろした楽曲を、自分のCDにも収録したくなるということは、ボカロPさんたちにはよくあるようですね。
なかには、「最初からそう考えていて、その話はレコード会社の人に伝えたはずなのに、ちゃんと理解されずに(もしくは、キチンと説明することができずに)、その曲および音源を自分の同人CDや第三者(例えばインディーズレーベル)のCDに使用することができなくなってしまった。」というトラブルを多数相談されたことがあります。
ここではそんなトラブルを未然に防ぐにはどうしたら良いかを考えてみたいと思います。
【そもそもボカロPさんがやりたいこととは】
ボカロPさんとしてやりたいと思っていることと箇条書きにしてみました。もちろん、ボカロPさんによっては「んなこたぁ考えてないよ(笑)」という場合もあるでしょうが、これまでにお話してきたボカロPさんの中で「考えている人が多いかなぁ」と思うことを書いてみました。
1:作った楽曲(音楽著作権)の権利は自分に残したい。
2:作った音源=サウンドトラック(隣接権)はボカロボーカルで自分の同人CDにも使いたい
3:ニコニコ歌い手さんにも歌ってもらいたいので音源をサイトにアップして自由にDLさせたい
これについて順を追って考えてみたいと思います。
1について、著作権がボカロPさんに残ること自体は、初めにレコード会社の人とお話をしておけば問題になることは無いと思います。重要なのは「著作権の信託区分」をどうするかです。
一般的にレコード会社の法務担当者やプロデューサーは「ボカロPがどんな音楽活動をするのか」についての知識をほとんど持っておりません。
もし、ボカロPさんがはじめから「これは書き下ろし楽曲なので提供後に自分がその曲を別展開することなど考えていない」ということであれば全く問題ないのですが、初めにレコード会社のブロデューサーと「楽曲提供後もその曲をボカロボーカルで展開しても良い」と約束されている場合、きちんと「どういう展開をするのか」について 「権利のことがよくわかる担当者」 と話を詰めておく必要があります。
例えば、その曲を自分のサイトやピアプロにアップするつもりであれば、「配信権を管理団体に預けない」もしくは「配信権をイーライセンスに預けて自分のサイトやピアプロを著作権印税免除サイトとして指定する」という作業が必要ですし、自分の同人CDに収録するつもりであれば、「録音権を管理団体に預けない」もしくは「イーライセンスに預けて自分の同人CDを著作権印税免除対象として指定する」という作業が必要です。
そして、どちらの場合にも「そういう預け方ができる音楽出版社に曲を預ける」必要があります。
そこまで突っ込んだ話をあらかじめそのレコード会社のプロデューサーと話をしてみるのは結構大変ですが、後々のことを考えると結構重要です。
「書き下ろしの曲だけど自分でも展開したい」という主張は、レコード業界的には「ちょっと異例」のことなのですが、ボカロP界隈では意外と普通に主張されています。逆に言うと、こういう異例な主張に対しても柔軟に対応できるかどうかで、そのレコード会社のプロデューサーが「ボカロP文化をわかっているかどうか」が解るというものです。
2については最初に次のことを明確に決めておかなければいけません。
つまり今回の契約が「原盤制作における業務委託契約」なのか「原盤のライセンス契約」なのかです。たとえその対価が仮に10万円と決まっていたとしても、その10万円が「原盤譲渡に対する対価」なのか「原盤の非独占ライセンス契約(CDおよび二次使用含む)」においてその使用料が「一括で支払われた対価」なのかを明確にするべきです。
当然、その原盤に自分でボーカロイドを打ち込んで曲を制作して着うたや同人および他社のCDに収録する場合には、後述の「非独占ライセンス契約」にする必要があります。
この考え方は一般的なレコード会社のプロデューサーには「まじかよ!」と言われるようなものなのですが、主張してみる価値はあります。
実はこのような展開例というのは、ワタシの周りでもいくつか事例があるので、できれば、実名表記で事例を紹介したいと思っています。現在、その事例をここに掲載してよいかを某メジャーレベール様にお伺いを立てているところです♪
3についてはメジャーレーベル的にはかなり異例の展開です。
2の交渉が成立して、原盤ライセンスの契約で同意を得られれば3については問題ないのですが、妥協案として「カラオケ原盤はレコード会社に帰属するけど、ボカロPが自分の同人CDに当該カラオケ原盤を使用することは認めます」という結論になった場合、ボカロPさんが「そのカラオケ原盤をネットにあげて、それを歌い手さんに自由にDLしてもらい、それを歌ってみた動画にしてニコ動にアップしてもらいたい」と主張した場合、ほとんどのメジャーレーベルは「いや、それは無理だよ」的な回答をすると思います。
「自社管理の原盤の二次展開」について、メジャーレーベルはほぼ「本能的に」NOというはずです。これはメジャーレーベルのDNAに刻まれている本能みたいなもので、自社管理の原盤について「ネットにあげて、自由な二次展開を許諾することで、元楽曲自体のマーケットへの浸透がより高まる。」というような考えを持った「ボカロ文化=n次創作文化」を理解しているプロデューサーは、大手レコード会社1社あたり1~2名いれば良い方、というぐらい希少で貴重な存在だと思います。
このあたりについては、私も時間をかけてジックリとメジャーレーベルの方と意見交換を続けていく必要があるなぁ、とつくづく感じている次第です。
(2013年1月11日追記)
以下に実際にボカロPさんが書き下ろし曲をの「原盤権」をボカロPさんに帰属したままメジャーレーベルに提供した事例を紹介します。
※株式会社ワーナーミュージック・ジャパン様のご許諾をいただき下記の文章を掲載しております
Junkyさんの作った「I love」は彼が「綾乃美花さん」のために書き下ろした楽曲で、 Junkyさんが打ち込んだカラオケ原盤に、綾乃美花さんの歌唱がのった原盤は株式会社ワーナーミュージック・ジャパン(以下「WMJ社」)が権利を有していますが、カラオケ原盤そのものはJunkyさんに帰属しています。
ですので、みさなんご存知の通り、この曲は(同じカラオケ原盤を使い)「鏡音リン」による歌唱トラックをのせた形で、 JunkyさんのCDにも収録されていますし、着うたにもなっています。
そして、鏡音リン版の原盤印税はJunkyさんにのみ支払われております。
つまり「Junkyさん制作のカラオケ原盤の権利はJunkyさんが保持し、 WMJ社はそのカラオケ原盤のライセンスを受け、それに綾乃美花さんの歌唱トラックを加え制作した二次原盤の権利を有している」ということになっています。
例えメジャーレーベルであろうと、このような条件を認めてもらえる場合もあります。
ボカロP文化に大変深いご理解を示していただいた、ワーナーミュージック・ジャパン様には大変感謝しております。また、まずは「誠意を持って交渉する」ということの大切さを改めて認識いたしました。
※綾乃美花さんバージョンの市場への露出が、鏡音リン版のニコニコ動画への投稿より後になってしまったため、「鏡音リン版を綾乃美花さんがカバーした」と思われている方もいると思いますが、実は、Junkyさんが実際に綾乃さんと面談を行い、 Junkyさんが綾乃さんのイメージで綾乃さんのためにつくった当該曲が「I ♥」だったのです。
その後、あまりの曲の出来の良さにJunkyさんが鏡音リン版を制作し自分のCDに入れたという経緯があります。
ただ世の中への露出は、リン版が先、綾乃美花さん版が後という順番でした。
“レコード会社から「アーティストの●●向けに新曲を作ってもらいたい」と言われて曲を作ったんだけど、あまりにも出来が良かったんで、自分の同人CDにもボカロによる歌唱で収録したい。そういうことは可能なのか?”
という質問をボカロPからいただいたことがあります。多少の違いはあれ、第三者のために書き下ろした楽曲を、自分のCDにも収録したくなるということは、ボカロPさんたちにはよくあるようですね。
なかには、「最初からそう考えていて、その話はレコード会社の人に伝えたはずなのに、ちゃんと理解されずに(もしくは、キチンと説明することができずに)、その曲および音源を自分の同人CDや第三者(例えばインディーズレーベル)のCDに使用することができなくなってしまった。」というトラブルを多数相談されたことがあります。
ここではそんなトラブルを未然に防ぐにはどうしたら良いかを考えてみたいと思います。
【そもそもボカロPさんがやりたいこととは】
ボカロPさんとしてやりたいと思っていることと箇条書きにしてみました。もちろん、ボカロPさんによっては「んなこたぁ考えてないよ(笑)」という場合もあるでしょうが、これまでにお話してきたボカロPさんの中で「考えている人が多いかなぁ」と思うことを書いてみました。
1:作った楽曲(音楽著作権)の権利は自分に残したい。
2:作った音源=サウンドトラック(隣接権)はボカロボーカルで自分の同人CDにも使いたい
3:ニコニコ歌い手さんにも歌ってもらいたいので音源をサイトにアップして自由にDLさせたい
これについて順を追って考えてみたいと思います。
1について、著作権がボカロPさんに残ること自体は、初めにレコード会社の人とお話をしておけば問題になることは無いと思います。重要なのは「著作権の信託区分」をどうするかです。
一般的にレコード会社の法務担当者やプロデューサーは「ボカロPがどんな音楽活動をするのか」についての知識をほとんど持っておりません。
もし、ボカロPさんがはじめから「これは書き下ろし楽曲なので提供後に自分がその曲を別展開することなど考えていない」ということであれば全く問題ないのですが、初めにレコード会社のブロデューサーと「楽曲提供後もその曲をボカロボーカルで展開しても良い」と約束されている場合、きちんと「どういう展開をするのか」について 「権利のことがよくわかる担当者」 と話を詰めておく必要があります。
例えば、その曲を自分のサイトやピアプロにアップするつもりであれば、「配信権を管理団体に預けない」もしくは「配信権をイーライセンスに預けて自分のサイトやピアプロを著作権印税免除サイトとして指定する」という作業が必要ですし、自分の同人CDに収録するつもりであれば、「録音権を管理団体に預けない」もしくは「イーライセンスに預けて自分の同人CDを著作権印税免除対象として指定する」という作業が必要です。
そして、どちらの場合にも「そういう預け方ができる音楽出版社に曲を預ける」必要があります。
そこまで突っ込んだ話をあらかじめそのレコード会社のプロデューサーと話をしてみるのは結構大変ですが、後々のことを考えると結構重要です。
「書き下ろしの曲だけど自分でも展開したい」という主張は、レコード業界的には「ちょっと異例」のことなのですが、ボカロP界隈では意外と普通に主張されています。逆に言うと、こういう異例な主張に対しても柔軟に対応できるかどうかで、そのレコード会社のプロデューサーが「ボカロP文化をわかっているかどうか」が解るというものです。
2については最初に次のことを明確に決めておかなければいけません。
つまり今回の契約が「原盤制作における業務委託契約」なのか「原盤のライセンス契約」なのかです。たとえその対価が仮に10万円と決まっていたとしても、その10万円が「原盤譲渡に対する対価」なのか「原盤の非独占ライセンス契約(CDおよび二次使用含む)」においてその使用料が「一括で支払われた対価」なのかを明確にするべきです。
当然、その原盤に自分でボーカロイドを打ち込んで曲を制作して着うたや同人および他社のCDに収録する場合には、後述の「非独占ライセンス契約」にする必要があります。
この考え方は一般的なレコード会社のプロデューサーには「まじかよ!」と言われるようなものなのですが、主張してみる価値はあります。
実はこのような展開例というのは、ワタシの周りでもいくつか事例があるので、できれば、実名表記で事例を紹介したいと思っています。現在、その事例をここに掲載してよいかを某メジャーレベール様にお伺いを立てているところです♪
3についてはメジャーレーベル的にはかなり異例の展開です。
2の交渉が成立して、原盤ライセンスの契約で同意を得られれば3については問題ないのですが、妥協案として「カラオケ原盤はレコード会社に帰属するけど、ボカロPが自分の同人CDに当該カラオケ原盤を使用することは認めます」という結論になった場合、ボカロPさんが「そのカラオケ原盤をネットにあげて、それを歌い手さんに自由にDLしてもらい、それを歌ってみた動画にしてニコ動にアップしてもらいたい」と主張した場合、ほとんどのメジャーレーベルは「いや、それは無理だよ」的な回答をすると思います。
「自社管理の原盤の二次展開」について、メジャーレーベルはほぼ「本能的に」NOというはずです。これはメジャーレーベルのDNAに刻まれている本能みたいなもので、自社管理の原盤について「ネットにあげて、自由な二次展開を許諾することで、元楽曲自体のマーケットへの浸透がより高まる。」というような考えを持った「ボカロ文化=n次創作文化」を理解しているプロデューサーは、大手レコード会社1社あたり1~2名いれば良い方、というぐらい希少で貴重な存在だと思います。
このあたりについては、私も時間をかけてジックリとメジャーレーベルの方と意見交換を続けていく必要があるなぁ、とつくづく感じている次第です。
(2013年1月11日追記)
以下に実際にボカロPさんが書き下ろし曲をの「原盤権」をボカロPさんに帰属したままメジャーレーベルに提供した事例を紹介します。
※株式会社ワーナーミュージック・ジャパン様のご許諾をいただき下記の文章を掲載しております
Junkyさんの作った「I love」は彼が「綾乃美花さん」のために書き下ろした楽曲で、 Junkyさんが打ち込んだカラオケ原盤に、綾乃美花さんの歌唱がのった原盤は株式会社ワーナーミュージック・ジャパン(以下「WMJ社」)が権利を有していますが、カラオケ原盤そのものはJunkyさんに帰属しています。
ですので、みさなんご存知の通り、この曲は(同じカラオケ原盤を使い)「鏡音リン」による歌唱トラックをのせた形で、 JunkyさんのCDにも収録されていますし、着うたにもなっています。
そして、鏡音リン版の原盤印税はJunkyさんにのみ支払われております。
つまり「Junkyさん制作のカラオケ原盤の権利はJunkyさんが保持し、 WMJ社はそのカラオケ原盤のライセンスを受け、それに綾乃美花さんの歌唱トラックを加え制作した二次原盤の権利を有している」ということになっています。
例えメジャーレーベルであろうと、このような条件を認めてもらえる場合もあります。
ボカロP文化に大変深いご理解を示していただいた、ワーナーミュージック・ジャパン様には大変感謝しております。また、まずは「誠意を持って交渉する」ということの大切さを改めて認識いたしました。
※綾乃美花さんバージョンの市場への露出が、鏡音リン版のニコニコ動画への投稿より後になってしまったため、「鏡音リン版を綾乃美花さんがカバーした」と思われている方もいると思いますが、実は、Junkyさんが実際に綾乃さんと面談を行い、 Junkyさんが綾乃さんのイメージで綾乃さんのためにつくった当該曲が「I ♥」だったのです。
その後、あまりの曲の出来の良さにJunkyさんが鏡音リン版を制作し自分のCDに入れたという経緯があります。
ただ世の中への露出は、リン版が先、綾乃美花さん版が後という順番でした。