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  • 小説『神神化身』第二十二話 「舞奏競 果ての月・修祓の儀(中編)」

    2020-10-16 19:00
    Twitter公式アカウント(@kamigami_keshin)にて連載中の小説『神神化身』本文アーカイブです。


    小説『神神化身』第二十二話

    「舞奏競 果ての月・修祓の儀(中編)

     帰りたい。それが、修祓の儀を前にした皋所縁の素直な気持ちだった。

     地元・譜中の舞奏社とはまた違った雰囲気の社に足を踏み入れるのも、覡として修祓の儀を受けるのも、何とも言えない緊張感がある。本当に自分でいいのかという気持ちと、自分がやるしかないのだという気持ちの間で引き裂かれそうだ。
     けれど、もう後戻りは出来ない。闇夜衆、という自ら選んで背負った名前で呼ばれ、皋は揚々と歩み出た。
    「こうして三人で遠くまで来るとワクワクしますね! 元探偵という名前の無職を謳歌している所縁くんはともかくとして、萬燈先生はご多忙ですし! 楽しいなー、これってまるで遠足みたいだと思いません? あ、そうだ。知ってますか所縁くん。遠足って遠いに足って書くんですよ。びっくりですよね」
    「誰もが知ってる知識をトリビアみたいに言ってんじゃねーよ」
     畏まった場所においても、昏見はいつも通りだった。これから修祓の儀が行われるというのに、まるで動物園にでも来たかのような顔でにこにこと笑っている。それを見ていると、少しだけ緊張が解れるのが悔しい。
     萬燈は萬燈で、まるでここがホームグラウンドのように落ち着いている。それどころか社人に対して細やかな気遣いを見せるくらいだ。敵わない。陰鬱な顔をしている皋を見かねたのか。萬燈はいつものように言った。
    「どうした、皋。ここはお前の夢の一里塚だろ。なのに随分浮かねえ顔じゃねえか」
    「完全に浮いてるからだよ。緊張しない昏見と萬燈さんがおかしいんだって」
    「張り切って飛ぼうとするな、落ちなきゃいい」
    「……崖際で必死だよ、こっちは」
     修祓の儀そのものもだが、控えの間には既に果ての月での対戦相手が──相模國の櫛魂衆が控えているという。その顔合わせを考えるだに恐ろしい。
     闇夜衆は、各々目的があって舞奏競に挑む舞奏衆である。この世から殺人を無くす願いを持った皋と、それに対して協力を申し出た昏見と、カミというものに相見えようとしている萬燈は、今のところ同じ方向を向いている。腹の内を全て明かしていないところはあるが。
     舞奏衆である以上、櫛魂衆にも何かしら叶えたい願いがあるのだろう。きっと、負けられない理由があるのだ。
     それを思うと、皋の胸の内に小さな翳りが出る。それでも、皋は負けたくない。負けられない。

     
    「萬燈先生~。やっぱり小説家になったら外に出ずにぬくぬくしながら仕事出来るんですか? 昼夜逆転しててもいい? 印税で遊んで暮らせる?」
    「お前の言ってることは概ね不可能じゃねえわな。なんだ、九条比鷺は俺の稼業に興味があるのか?」
    「だって、将来的にも俺絶対お外に出たくないし……えー、じゃあ俺の本願それにしちゃおっかなー。売れっ子小説家になって夢の印税生活が実現しますように! そして一生ぬくぬく暮らしてー」
    「比鷺はこのままでも一生ぬくぬく暮らせると思うけどな」
    「うん、三言の言葉に他意はないんだろうけど、なんかこう心にくる……」
    「本気なら俺が見てやってもいいが。玉稿を見せるのに俺以上に相応しい男もいないだろう」
    「え? あ? しょ、小説? 無理無理無理、それはマジで死んじゃう、遠回りな自傷。いやむしろストレートな死」

    「八谷戸くんと萬燈先生が出演していた番組、私も観ました。八谷戸くんはスタニスワフ・レムがお好きなんですね? 私は『完全な真空』が好きです」
    「そうなんですか。なんだか昏見さんらしいです。実は、僕にレムを薦めたのは萬燈さんなんですけど」
    「流石は萬燈先生。機会が許せば読書会などもしてみたいですね」

     端から聞いていても楽しそうな会話が飛び交っている。
     ……場が温まってきている。昏見がペンギンの話で無理矢理開いた場に、なんだかんだで全員が順応し始めている。
     別にもっと緊張感があってほしかったとか、ギスギスしてほしかったとかそういうわけじゃない。ただ、そのスピード感に皋が付いていけないだけなのだ。あまりに所在が無さ過ぎて、手元のお茶を何度も飲んで間を持たせている。
     仕事の時のように割り切ってしまえば、会話を回すことも簡単だろう。だが、探偵ライクに話しているところを闇夜衆の二人に、特に昏見有貴に見られるのは嫌だ。視線を隣の昏見に向けると、さりげなく会話を振られるのも耐えがたい。皋が場に馴染めるよう気にされているのが分かってしまう。それはそれで物凄く癪に障るのだ。
     となると、皋のやるべきことは一つだった。相槌を打つのに徹し、観察することだ。
     一番端に座っている九条比鷺は、普通の男子高校生に見える。この雰囲気に萎縮していたかと思えば、一転して懐っこく喋っている辺り、根は屈託無く人好きのする性格なのだろう。九条家というのが舞奏の名門の家だと聞いているから、彼は半ば義務的にここにいるのだろうか。
     少し引っかかりを覚えるのが、現役アイドルの八谷戸遠流だ。アイドルとして場数を踏んでいるからか、こんな場においても全く物怖じしていない。しかし、態度に含みがありすぎる。昏見と同じタイプだ。言葉と本心を完全に切り離せる人間だから、腹の底が読めない。
     そして最後──向かいに座っている六原三言が、一番底の知れない相手だった。舞奏が有名な相模國で一際強い存在感を放っている覡。彼の舞奏は他の地域にも広く知られている。
     それなのに、その目からは我欲がまるで見られない。あれだけ堂々とした舞奏を奉じるからには、もっと主張があって然るべきだと思っていたのに。友人と話しているのを見るに感情の揺れが無いわけではないのだろうが、それにしても本質が凪ぎすぎている。探偵として色々な人間を見てきたが、こんな目をしている人間は初めて会った。
     心の中に絶対にブレない支柱があって、全てをそれで計っているのだろうか。一人の人間をここまで達観させるものとは一体何なのだろう?
    「そういえば、皋さんがCMに出ていらしたゲーム……『絶対推理 サウザンド・ナイト・マーダー』、面白かったですよ。僕はあまりゲームをしない人間なんですが、それでも楽しめました」
     その時、八谷戸遠流が突然そう話しかけてきた。
    「あ? え、どうも……というか、俺はCMに出ただけでゲームの制作には全然タッチしてないんだけど。や、あれ面白いゲームだと思う……うん。伏線もフェアだし探偵の描き方もかなりよかったし」
     探偵時代に断り切れず出演したCM の話題を出されて、一瞬戦いてしまう。話題を振ってきた八谷戸は、そのままカメラの前に立っても通用するくらい、様になった微笑を浮かべていた。まさか、昏見と同じように皋に気を遣って話題を振ってきてくれたのだろうか。そう思うと、今日一番居たたまれない気持ちになる。
     あるいは、六原の方をじっと観察している皋のことを牽制しに入ったのだろうか。……疑い深い探偵だった自分なら、そちらの解釈を採用しただろう。流石に今は考えすぎだろうが。
    「そうそう。あのCMの所縁くん格好良かったですね。自分の推し探偵がただひたすら最高なのって最高なんですよねー! 私が所縁くんに桃園の誓いを立て、生死を共にする決断をしたのも、あのCMがきっかけでした」
    「立てられた覚えも無いし未来永劫立てさせる気も無えんだけど」
    「それでも、とても様になっていましたよ。探偵さんっていうのはああいう場でも映えるんですね」
    「とか言って皋さんに対してにこにこ顔で話してますけど、遠流はアクションパートが苦手過ぎて何度も舌打ちしてました。最終的にサウマダのアクションパートクリアしたの俺なので、あのゲームの深い魅力を完全に理解してるとは言えな……痛っ! 遠流が無言でぶった! 何で!?」
    「まあ、俺もあのアクションパート苦手だったし、別にいいと思うぞ……」
    「お気遣いありがとうございます。皋さん」
     俄に騒がしくなっている場を見ながら、皋は密かに安堵していた。このまま何事も無く、修祓の儀が終わってくれたらそれでいい。
     六原三言が、とある一言を発するまでは、そう思っていた。

    「こうして闇夜衆の皆さんと舞奏競が出来ることを嬉しく思っています。観囃子の皆さんの為に、そして何よりカミの為に」

     その言葉を聞いた瞬間、自分の中で燻っていた違和感に、輪郭が与えられたような気がした。




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    著:斜線堂有紀

    この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。



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    ©神神化身/ⅡⅤ

  • 小説『神神化身』第二十一話 「舞奏競 果ての月・修祓の儀(前編)」

    2020-10-09 19:00
    Twitter公式アカウント(@kamigami_keshin)にて連載中の小説『神神化身』本文アーカイブです。


    小説『神神化身』第二十一話

    「舞奏競 果ての月・修祓の儀(前編)

    「もう一度聞く。お前の本願は何だ? 六原」
     皋所縁にそう言われた瞬間に、六原三言は初めて舞奏競というものを理解した。

      *

     
     舞奏競が行われる前には修祓の儀と呼ばれる催しがある。舞奏競で競い合う二組の舞奏衆が、舞台となる社に集まり、お祓いを受けてカミへの宣誓を行うのだ。これを以て正式に舞奏衆の参加が認められ、二衆は全霊を以て舞奏競に臨むこととなる。
     修祓の儀の場所に選ばれた社は浪磯からも譜中からも、ある程度の距離を取った舞奏社だった。古い歴史のある社に足を踏み入れる時、三言は柄にもなく緊張した。ここに櫛魂衆として来ることの意味を考えると、この一歩は重い。
     けれど、今の三言には遠流と比鷺が付いている。それがどれだけ幸福なことかを理解しているから、不用意に恐れてはいない。修祓の儀の段取りも頭に入っている。きっと、修祓の儀はつつがなく終わるだろう。
     むしろ難儀だったのは、準備を待っているまでの控えの時間だった。

    「ファーストペンギンという言葉があります。可愛いペンギンの群れの中で、最初に海の中に飛び込み魚を捕るペンギンちゃんのことです。もしかしたら海の中には天敵のアザラシがいてぱくりと食べられちゃうかもしれないのに、勇気がありますよね。このファーストペンギンがいるから、海の中が安全かどうか分かるわけです。このペンギンちゃんが食べられなかったら安全ということですから。感動しますよね。尊敬しますよね。でも、あれって実際は周りから押されてうっかり落ちるドジなペンギンなんだそうですよ。申し遅れました、闇夜衆の昏見有貴と申します」
     ほとんど一息でそう言い切ると、昏見はにっこりと笑った。すごい肺活量だな、と三言はまず思った。線の細い美しい顔立ちや、それを引き立てるように長く伸ばされた髪は、淀みなく喋る様子と印象の面で繋がらない。
    「……お前はいきなり何を言ってるんだ、アホ怪……昏見」
    「えー、控えの間に来てから十五分、こうして全く盛り上がらない合コンのように向き合って黙って座ってるばかりだから退屈で」
     昏見の言う通り、控えの間にある長机で向き合ってから、結構な時間が経っている。完全な沈黙に耐えるには辛い時間だ。
     社人が何の気を利かせたのか、あるいは利かせなかったのかは定かじゃないが、席は予め決まっていた。各衆のリーダーにあたる人物が右手前に座り、名簿で言えば殿(しんがり)を務める人間がその奥に座る配置だ。即ち、三言の目の前には、闇夜衆のリーダーである皋が座っている。
    「この私が真ん中に座ったからには仕切らないとなって。私は勇気あるファーストペンギンですよ? 褒めてくださいよ、所縁くん」
     皋所縁が引き攣った顔で喉を鳴らす。──名前と評判だけは聞いていた、例の名探偵だ。意志の強い目と、どこか人目を惹くところがある。視界の端で焚かれたストロボのように、思わず振り返ってしまうような存在だ。三言がじっと見つめていると、皋は咳払いをして自己紹介をした。
    「……どうも、俺が闇夜衆リーダーの皋所縁だ。よろしく、って言うのが正しいのかは分からないけどな。これから戦う相手なんだし」
    「はい! 櫛魂衆リーダーの六原三言です。よろしくお願いします、皋さん」
     合わせてそう挨拶をすると、皋はやや困ったような笑顔で「うわ、元気だな……」と言った。
    「よろしくお願いしますね、六原くん! 元気でとっても素敵です。それに比べて、今日の所縁くんはあんまり元気無いですね。普段私と一緒にいる時は太陽が霞むほど元気なんですが」
    「どこの世界線の話だよ、捏造すんな馬鹿」
    「なら、一応俺も名乗っておくか。知っての通り、俺は萬燈夜帳だ。よろしくな、櫛魂衆」
     一番端、比鷺の向かいに座っている男が、読んでいた本を閉じて朗々と言った。上背のある、とにかく見栄えのいい男だった。発せられる言葉の一言一言が耳に残り、内容如何に関わらず『納得させられてしまう』ような魔力がある。
    「ところで、俺には一人初めましてじゃない人間がいるんだが。なあ、八谷戸」
    「……お久しぶりです、萬燈さん。まさかここであなたに会うことになるとは」
     遠流がすっと目を細める。その表情は、三言でもあまり見たことのないものだった。
    「スタジオで会うのも外で会うのもそう変わらねえよ。むしろ会うのがここでよかった」
    「そうかもしれませんね。では改めまして。櫛魂衆の八谷戸遠流です。よろしくお願い致します」
     遠流が涼やかな微笑を浮かべながら言うと、昏見が楽しそうに「きゃー、本当のアイドルですよ。興奮しますね」と笑った。
     遠流と萬燈が顔見知りだというのは以前にも聞いていたことだ。三言の目からすると、この二人は仲が良さそうに見える。それは正しいし、嬉しいことだ。競い合う間柄であろうと、仲良く出来るならそれに越したことはない。
     残っているのはあと一人。そう思うと、自然と残る一人に視線が向いた。それは周りも同じようで、長机の端に注目が集まる。
     視線の矢に貫かれた比鷺は出来る限り縮こまりながら、地を這うような声で言った。
    「…………えー……、櫛魂衆の九条比鷺です。…………この度はお日柄もよく……
    「どうしたんだ? 比鷺。実況で挨拶をする時はもっと元気じゃないか。それに、はいどーもっていうお決まりの挨拶も無いし。やり直した方がいいかもしれないぞ」
    「三言、それ以上言ったらマジで自害しちゃうからやめて。ていうか何で俺が端っこなの!? せめて遠流の席がよかった! 俺こういうの駄目なんだって! 遠足とか給食とかで端っこの席になると、いっつも俺だけ会話に入れないんだもん! 真ん中らへんで盛り上がってる会話がよく聞こえなくて、みんなが笑うタイミングから一拍遅れて愛想笑いする位置じゃん! こんなのやだ!」
     そうか、席割りが嫌だったのか。だから比鷺は元気が無いに違いない。もし比鷺が真ん中だったら、もっと元気に挨拶が出来ていたんだろう。そう思うと、三言は申し訳なく思った。どうせならゲームをやっている時の生き生きとしている比鷺を見せたかったのに。
    「ほう。俺の向かいが嫌だっていうのも珍しいな」
    「ひっ、いや、萬燈さんの向かいが嫌とかじゃなくて、むしろ光栄っていうか、じ、実はこう見えて俺、萬燈先生の小説のファンだから会えて嬉しいな~って」
    「嘘です。こいつは萬燈さんの著作なんか一冊も読んでいない上に、萬燈さんが恵まれた外見と社会的地位を持ち合わせた有名人だからってだけで若干憎しみを覚えているような拗らせクソ野郎です」
     愛想笑いを浮かべる比鷺の横で、遠流がぴしゃりとそう言い放つ。それを受けた比鷺の顔は、青ざめるを通り越して真っ白になっていた。
    「ちょっ、はっ? ちょっ、な、は? 何で遠流が俺のこと撃つわけ? 何のフレンドリーファイア?」
    「おっと、口が滑った。ごめんな比鷺。僕の口は雑な嘘の前ではよく滑るみたいで」
    「ちょっ、マジ、お前マジで」
    「気にすることはねえよ。お前はこれから萬燈夜帳の著作に出会うことが出来るんだからな。その幸運を噛みしめりゃいいだけだ。そうだろう? 九条比鷺」
    「ひゃ、ひゃい……」
     色々なことが閾値を超えたのか、比鷺は息も絶え絶えになりながらそう答えた。普段ならそろそろ寝込む頃合いだ。
    「いやあ、九条くんは可愛いですね。くじょたんって呼んでいいですか?」
    「……昏見お前、誰彼構わずそんなノリなのか」
    「冗談ですよ、所縁くん。渾名被っちゃいますもんね」
    「そこの心配をしたこと一度も無えんだけど」
    「僕はいいと思いますよ。素敵な渾名だと思います。お前もそう思うだろ? なあくじょたん? おいどうしたくじょたん?」
    「た、助けて……助けて………………」
     俄に騒がしくなった場を見ながら、三言は静かに感動していた。やはりファーストペンギンというのは偉大だ。昏見さんが先陣を切ってくれたお陰で、みんなが急速に仲良くなっている。今まで一人で舞奏に向き合っていた三言にとっては、同じ覡が集まっているだけでも感動する光景だ。おまけに交流まで深められるのだから言うことがない。
     だから、しばらく他愛の無い雑談を交わした後、三言は次の言葉をごく自然に口にした。

    「こうして闇夜衆の皆さんと舞奏競が出来ることを嬉しく思っています。観囃子の皆さんの為に、そして何よりカミの為に」


     その言葉を聞いた瞬間、皋の目に灯る紫が一段階濃く変わった。








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    著:斜線堂有紀

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  • 小説『神神化身』第二十話 「去りゆく僕の送る微妙に長い手紙」

    2020-10-02 19:00
    Twitter公式アカウント(@kamigami_keshin)にて連載中の小説『神神化身』本文アーカイブです。


    小説『神神化身』第二十話

    「去りゆく僕の送る微妙に長い手紙

     この手紙は多分届かないんだと思う。

      というか、届けるつもりも今となってはない。嬉しかったことも悲しかったことも、全部僕が引き受けていくつもりだ。だから、これはただの気持ちの整理のようなものなんだ。三言のちょっとした言葉から作ったあのSNSアカウントと同じ。微妙に長くて、少しだけ独りよがりな手紙になる。

     三言は本当にすごいよ。これは舞奏だけのことじゃない。勿論、あのどこまでも伸びやかな歌声とか、人を圧倒するような存在感とか、一度見たら忘れられないような舞において、三言の右に出る者はいないと思うけれど。そして、その全ては全部僕の憧れだったけど。


     三言のすごいところは、周りの人間に影響を与えずにはいられないところなんだ。三言はいつも周りのことを気にかけてくれるよね。どんな小さなことでも三言は気がついてくれるし、見つけてくれる。僕が言ったちょっとした言葉とか、小さな不安も、何だって掬い上げてくれたよね。なんてことを言っても三言は首を傾げるだろうけど、そういうことをごく自然に出来る君が、どれだけの他の人の救いになっていたか。


     そんな三言だから、周りも力になりたいとごく自然に思うんだろうね。そうして漣のように影響を及ぼして、人を導いていく。三言を北極星だと例えたのは、自分でもなかなか上手いたとえだと思う。遠流も比鷺も、何かを決める時は三言のことを思い出しているんだと思う。僕らはそうやって生きてきた。今まで導いてくれて、本当にありがとう。

     そう、この手紙を送るのは、……書こうと思ったのは、三言が舞奏競に出ると知っているからなんだ。君は舞奏競に出るだろう。どんなことがあっても三言と舞奏を切り離すことは出来ない。あの美しい舞がこの世から失われるのは悲しいことだから、それはそれで仕方のないことなのだと思う。君と舞奏衆を組むことになるのは、やっぱり比鷺かな。……比鷺には化身があるから。そうじゃなくても、比鷺はずっと舞奏自体には焦がれていただろうし。比鷺がなるとしたら、どんな覡になるんだろうと想像したこともある。比鷺は要領がいいし、頑張る時は頑張るだろうから、きっといい覡になるんだろうな。


     

     それを間近で見られないのは、やっぱり寂しい。


     本当は三人と一緒にいられなくなるのも悲しい。


     叶うなら、ずっと四人でいたかった。


     

     僕がいなくなったら、遠流を起こすのは誰になるんだろう。ちゃっかりしてるから、僕がいなくなったら遠流は一人で起きて普通に帰るのかな。反動ですごく真面目になったりして。頑張る遠流っていうのが少し想像出来ないけど、なんだかんだ要領が良さそうだし、努力したら大物になるのかもね。遠流の世話を焼くのは嫌いじゃなかった。でも少しは感謝されたいな。今からでも遅くないから感謝してよね。

     悲しいことはたくさんあるけど、こうしてみんなの元を離れなくちゃいけなくなったことで、みんなのことを走馬燈みたいに思い出さなくちゃいけないことが一番悲しい。自分一人で引き受けていくって決めたのに、弱くてごめんね。でも、これからはもう弱音を吐かない。出来ることは何でもする。離れても三言と遠流と比鷺の幸せを願ってる。


     三言。どうか元気でいてね。あんまり頑張りすぎないで。君はただ、健やかに舞奏に向き合ってくれればいい。舞奏競に出た暁には、自分の舞奏が研ぎ澄まされていくことだけを喜んでほしい。三言が心の底から舞奏を好きだってことを、僕は知っている。君の幸せだけが僕の願いだ。それ以上のことは、もう望まない。


     これが最後のアドバイスになるかな。気づいたことがあるんだ。舞奏はカミの為のものだっていうけど、やっぱり観囃子に向けたものなんだと思う。そして何より、覡本人の為のものなんだと思う。送られた喝采も向けられた歓心も、カミじゃなくて三言の力になるんだ。だから、めいっぱい楽しんでほしい。三言の舞奏はきっとたくさんの人を幸せにするよ。これから始まる舞奏競は、きっと今までで一番素晴らしいものになる。


     

     今までありがとう。


     

     チーズケーキ美味しかった。忘れない。







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    著:斜線堂有紀

    この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。



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