明日、11月10日に発売される『ソードアート・オンライン IF 公式小説アンソロジー』から、川原礫先生による書き下ろし小説の一部を公開いたします!
この掌編は、上級修剣士ライオス・アンティノスとウンベール・ジーゼックが毒ガニに噛まれて入院した結果、キリトとユージオは罪人として連行されず、そのまま北セントリア帝立修剣学院に在籍し続けた世界を描いたアリシゼーション編のIFストーリーです。
どうぞお楽しみください!
「キリト先輩、何か見つけたんですか?」
背後からそう呼びかけられ、俺はじゃりっと音を立てて振り向いた。
笑顔で近づいてきたのは、ダークブラウンの髪を短めに切り揃えた、やや小柄な少女だった。灰色のショートジャケットとボックスプリーツのスカートを組み合わせた装いは、現実世界の渋谷あたりを歩いている高校生の集団にも違和感なく溶け込めそうだ。左腰に吊られた小ぶりなロングソードがなければ、だが。
「いや……魚がいるなー、って」
俺がそう答えると、少女は「魚?」と繰り返してから、隣に立って水中を覗き込んだ。
「あ……ほんとだ。でもこれ、学院の池にもいっぱいいるナナメブナですよ?」
「ありゃ、そうなのか。よく上から見ただけで解るな」
感心する俺を見上げ、少女――ロニエ・アラベル初等練士は、少し照れたように笑った。
「子供の頃、家で飼ってたんです。太陽(ソルス)に照らされると背中が青っぽい銀色に光るから、よく見れば解ります」
「へえ……魚の他にも、何か飼ってたの?」
「犬がいますよ、そろそろおじいちゃんなんですけどとっても元気です。ウェスダラス特産の《ブルハ旋毛種(せんもうしゅ)》っていう、ノーランガルスではとっても珍しい種類なんですよ」
「犬か、いいな」
そう言えば、アスナがかなり本格的な犬好きだったな……と考えてしまってから、俺は強引に思考を遮った。せっかくのピクニックで、ロニエに涙ぐんでいるところを見られるわけにはいかない。
「なんて名前なんだ?」
やや早口になりつつ質問を重ねると、ロニエは一度瞬(まばた)きしてから答えた。
「チル、っていうんです。あの……よかったら、うちまで見にきませんか? もうすぐ夏休みですし、両親もキリト先輩に挨拶したがってますし」
負けじと早口でまくし立てるロニエに、俺は思わず苦笑してしまってから頷いた。
「うん、俺もいちどご挨拶しなきゃなーって思ってたし……」
「ほんとですか!」
ロニエがぱあっと顔を輝かせたその時、またしても後方から俺を呼ぶ声がした。
「おーいキリト、そろそろこっちを手伝ってくれよ」
なお、そのIFストーリーは、アニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』Blu-ray&DVDの完全生産限定版特典小説として、川原礫先生が書き下ろしたシリーズとなります。
その完全生産限定版特典小説の試し読みも、本ブロマガで後日公開しますので、お楽しみに!