本当の「怪物」は人間かもしれない。
「人類」や「地球」を救うことがテーマのSF作品はたくさんありますが、自分たちを守ろうとする人間が必ず正義だとは限りません。自分を守ろうとするあまり、平気で残酷な行為をやってしまう......そんなダークな人間の姿を描いたSF作品もまた、数多くあります。
そこで今回は「io9」から、人間の本性が垣間見える名作SF10本をご紹介します。
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1. 『遊星からの物体X』を逆の視点で描いた小説『The Things(ザ・シングス)』
映画『遊星からの物体X』では、他生物の体を乗っ取っていくエイリアンを相手に、戦う人間の姿が描かれています。が、そもそもこのエイリアン、原作では2千万年前に乗っていた宇宙船が南極に不時着して氷漬けになっていたところを、人間たちに解凍され、叩き起こされたわけです。
SF作家ピーター・ワッツによる短編小説は、このストーリーをエイリアンの視点から描いています。なぜわざわざ掘り起こした? 帰ることもできないのに? なぜ生き返らせた途端に殺そうとする? それなら氷漬けのまま殺してくれればよかった。
『遊星からの物体X』の原題は『The Thing』。エイリアンを「それ」と呼んでいますが、短編小説の題は『The Things』。エイリアンにしてみれば人間こそが、何だかわからない恐ろしい物体X(Things)なのです。
2. 小説『宣伝キャンペーン』(収録本『天の向こう側』)
1953年に発表された、アーサー・C・クラークのブラックユーモアに満ちた短編小説。
SF人気に沸くハリウッドで最新の特撮技術を駆使したSFホラー映画が完成し、大々的な宣伝キャンペーンが行われます。映画は恐ろしい宇宙人が地球を侵略するというストーリー。映画会社はあらゆる手を使い、世界中の人々に「宇宙人が襲ってくる!」、「地球が危ない!」と宣伝します。
と、そこに本物の宇宙人がやって来ます。彼らの目的は地球と平和な関係を築くことでしたが、「宇宙人は危ない」と散々刷り込まれてきた人々は...。
人間は思い込みや集団心理で何をするかわかりません。未知のものはただでさえ恐ろしく、いざというときは動物的な防衛反応が働きます。そう考えると、スピルバーグの『未知との遭遇』的な遭遇を果たすことは、至難の業なのかもしれません。
3. 映画『第9地区』
この映画の人間たちは、難民として地球に訪れたエイリアンをすぐに攻撃したりせず、何とか人道的に援助しようと試みます。それでも、エビにしか見えない異星生物を同じ社会に受け入れることはできませんでした。
アパルトヘイトを思い起こさせる南アフリカの難民キャンプで、エイリアン達は人間からさまざまな差別や嫌がらせ、暴力を受けます。主人公のヴィカスにしても、もし彼に特殊な事情がなかったら、そこまで彼らに協力的にはならなかったでしょう。
人間は自分たちへの脅威が明らかになると、結局、それまで建前で見せていた道徳心だって、あっさり覆すことができるのです。
4. 「セカンド・ルネッサンス」(映画『アニマトリックス』)
映画『マトリックス』シリーズのスピンオフ・アニメ『アニマトリックス』の「セカンド・ルネッサンス」では、マシーンが人間を支配するまでの200年の歴史が明かされます。
人間に代わる労働力として使われるようになったマシーンが、いつしか感情を身につけ...と、大体は他のSF作品と同じなのですが、酷いのは彼らが人間から受ける仕打ちです。銃で撃たれ、戦車に潰され、大型ハンマーでめった打ちにされる様子は、いくらマシーンに生命がないとわかっていてもむごすぎます。
これらのシーンはホロコースト、ベトナム戦争、天安門事件など、人間の歴史で実際にあった出来事を対マシーンに再現して描いたもの。作品はフィクションでも、ここに描かれた人間の残酷さは本物なのです。
5. ゲーム『ギアーズ・オブ・ウォー』シリーズ
地球によく似た惑星セラの人間は、突如地底から出現した凶暴な生物ローカストとの戦いを強いられます。一見、人類の生き残りをかけて戦う主人公たちが「善」で、彼らを襲うローカストが「悪」のように思われますが、ゲームをプレイしてみると...話はそう単純ではないようです。
ローカストの住む地底を先に荒らしたのは、新たなエネルギー資源を掘り出そうとした人間たち。敵の出現であっという間に滅亡の危機に陥った人間は、地上のローカストを一掃すべく、惑星の地表の90%を自ら焼き尽くしてしまいました。多くの逃げ遅れた人々と一緒に。
プレーヤーは人類政府COGの戦士として、行き場をなくしたローカストに銃を向けます。そしてローカスト出現の背景がわかった後も、結局は人類に都合のいい選択をするのです。
全滅するのが人類か、それ以外の生き物かを選ぶとしたら、人は自分たちを選ぶ以外ありません。でも、それが「正義」か? というと、どうでしょうか。
6. 小説『世界の合言葉は森』アーシュラ・K・ル・グィン
『ゲド戦記』で有名なル・グィンのSF小説。植民惑星ニュー・タヒチで大規模な森林伐採を進める地球人と、森に住む原住民アスシー族の物語です。
アスシー族には知能もあり、独自の文明を築いていましたが、地球人は体の小さい彼らを動物のように扱い、奴隷にしてしまいます。さらに話が進むほどに、地球人の身勝手で暴力的な性質が浮き彫りに。ただ、人類学者のリュボフ博士だけは、そんな地球人のやり方に疑問を持っていました。
あるとき、リュボフ博士が地球人について非難すると、仲間の1人がこう答えます。
「博士、あなたが研究している連中は、そのうち押しつぶされ、恐らく淘汰されていく。世の中はそういうものです。博士もご存知のはずだ。これが人間の本質であり、あなたにもそれは変えられないということを。」
7. 映画『E.T.』
最初は怖がりながらも、E.T.と友達になっていった子どもたち。それに引き換え、E.T.を「捕獲」した大人は無菌スーツとビニールシートで防御し、E.T.が死んだら解剖してDNAを調べることにしか興味がないようです。
この映画は子どもの視点と同じ低い位置から撮影され、家族以外の大人の顔は終盤まで映さないなど、さまざまな工夫をして子どもだけに見える世界を描いています。機械とデータが頼りの冷徹な科学者たちは、純粋な心をなくした大人を象徴する姿なのです。
8. 小説『終わりなき戦い』ジョー・ホールドマン
(結末ネタバレ注意)
遠い宇宙の果てで、地球の宇宙船が異星人に攻撃された! そこから地球人とトーラン人の長い長い宇宙戦争が始まります。地球人は何千光年も離れた宇宙空間に軍隊を送り込み、トーラン人に対して大規模な報復攻撃を行いました。
戦争が始まって千年以上が経った後、新しいタイプのクローン人間の誕生により、長い歴史で初めてトーラン人とコミュニケーションをとることが可能になります。そう、それまでは互いに攻撃するだけで、対話することがまったくなかったのです。
そこで、ある事実が判明します。それは千年以上の戦争をまったく無意味にしてしまう、驚きの事実でした。やられたらやり返すのもよく考えてからにしないと、実は悪者は自分たちかもしれない、という話です。
9. 映画『地球の静止する日』
(ネタバレ注意)
地球にやって来た異星からの使者クラトゥは、宇宙船から降りてすぐに、平和と友好のために地球を訪れたことを告げます。ところが、地球人の最初のリアクションは彼に発砲することでした。
クラトゥは宇宙からのメッセージを何とか伝えようとしますが、冷戦まっただ中の地球では世界各国の代表者を集めることすらできません。よそ者への恐怖と不信感でいっぱいの地球人は彼を危険だと決めつけ、捕まえようとします。
クラトゥが地球に来た理由は、そんな地球人の野蛮さにありました。地球上で互いに争うのはかまわないが、開発が進んできたロケットや核兵器で宇宙の他の星々に迷惑をかけられては困る―。
技術も哲学も、地球よりずっと進歩した星の人々からすれば、地球人はよほどの野蛮人に見えるんでしょうね。
10. 映画『新・猿の惑星』と『猿の惑星・征服』
『猿の惑星』オリジナルシリーズの3作目『新・猿の惑星』では、3人のサルが1973年の地球にタイムスリップします。知能が高く、言葉を話すサルを見て、人間たちは大ショック。しかも未来の地球がどうなるかを知ってしまい、それを防ぐにはこの賢いサルを殺すしかないと考えます。
それに続く『猿の惑星・征服』は、サルによる支配がどのように始まったかを、2011年の『猿の惑星: 創世記』とはまったく違うストーリーで描いた作品でした。1991年の未来(映画公開当時)、人間は賢いサルを奴隷にして暮らしています。サルたちは人間から受ける酷い仕打ちの数々に怒り、ついに反乱を起こすのです。
もし本当に未来からのサルやエイリアンがやって来たら、私たち人間はどうするんでしょう? 『猿の惑星』のように、相手に逆に支配される未来がわかっているなら、恨みを買うような真似だけはしないほうが良さそうです。
[via io9]
(さんみやゆうな)
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