クエンティン・タランティーノ監督が2013年のベスト映画に選んだ、イスラエル発のスリラー映画『オオカミは嘘をつく』。
今回は、本作の監督・脚本のナボット・パプシャド&アハロン・ケシャレスのお二人にインタビューして参りました。ジョニー・トー監督の名作『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』のリメイクでのハリウッドデビューも決まり、今話題のコンビです。
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先生と生徒からタッグの監督・脚本家になったアハロン・ケシャレス(左)とナボット・パプシャド(右)
――本作はストーリー展開ももちろんですが、登場人物のキャラクターの濃さも印象的でした。それぞれにモデルやイメージした人物はいるのでしょうか?
アハロン・ケシャレス(以下、アハロン):本作に限らず、映画を作る時は毎回「あるジャンルのある作品において、ある登場人物がイスラエル人だったらどうなるだろう?」と考えるんですね。
例えば「イスラエル人のダーティハリーがいたら、どういう人物だろうか?」といった感じです。そして、「韓国の復讐ものの映画の復讐者がイスラエル人の父親だったら?」と考えると、本作に登場するようなジョークが生まれます。
キャラクターが濃くなる他の要素としては、大抵の映画では答えの出ない、ある意味答える必要のない疑問に答えを出しているという点も大きいと思います。
例えば、復讐映画や拷問映画は数多くありますが、どうやって武器や拷問器具、拷問用の地下室を手に入れたのか? ということへの答えは描かれません。なので、叫んでも誰も助けに来ないような地下室のある家を手に入れるまでのくだりを本作には入れました。
クエンティン・タランティーノ監督やコーエン兄弟の作品にも、そういったシーンは多いです。彼らは他の映画では問われない疑問に対して、正しい答えとなる映画を作っているんだと思います。
ナボット・パプシャド(以下、ナボット):プロットも、常に「もしもこうだったら、どうだろう」というのを何通りも考えて作っています。
例えば、「もしも、本来はクライマックスで描かれることが作品の冒頭で描かれたら?」といったことを考えると、ストーリーを語るときにアイデアが必要となります。これは作り手にとっては挑戦的なことですが、観客にとっては面白みが増すやり方です。
――前作の『ザ・マッドネス 狂乱の森』も本作も、緊張状態を限界まで引っ張りに引っ張って、最後の最後にカタルシスがドーン! とくる作品だと感じたのですが、こういった展開が好きな理由はなんでしょうか?
ナボット:ブライアン・コックス主演の『アダプテーション』に出てくる台詞がすべてですかね。
アハロン:美しい映画はたくさんあるけど、結末がひどいとすべてが台無しになるし、その結末しか観客の心には残らないもの――といった意味のやつですね。これは正しくて、良い映画だったのか、それとも悪い映画だったのかというのは、結末で判断されます。
映画は観客と明確にコミュニケーションをとらないといけない芸術です。本や絵画は観客が自分のペースで考えながら楽しめますが、映画はそうはいきません。90分から120分という時間、大勢の観客に語りかけ、会話をしなければいけません。そして、作り手には話を最初から最後まで聞いてもらうように努力する責任があります。
そういった点で優れている作品を挙げると、例えばデビッド・フィンチャーの『セブン』があります。あの結末は見る者を打ちのめしますよね。ブライアン・シンガーの『ユージュアル・サスペクツ』の結末は、気付かなかった自分はなんて馬鹿なんだ......と思わせます。
ああいった結末は、ストーリーテリングの妙や映画のモラルについて考えさせてくれる、映画館を出た後に「プラスアルファの収穫があった」と感じさせてくれるものです。こういう感想を持てる作品こそが良い映画だと思うので、自分たちもそういった映画作りを常に心がけています。
――前作はイスラエル初のホラーで本作はスリラーと、いわゆるジャンル映画が続いていますが、ジャンル映画を作る上で何かこだわりはありますか? 作っていて一番楽しいと感じるのはどういったところでしょうか?
ナボット:もちろん全ての映画に当てはまるわけではありませんが、優れた脚本と優れた俳優さえ用意できていれば、例えカメラワークや音楽が悪くても、映画というのはなんとなく機能はすると思うんです。
しかし、良いジャンル映画は優れたカメラワーク、優れた音響、優れたサウンドトラック、優れた編集などなど、すべてが優れていないといけません。
ジャンル映画を作るというのはジェットコースターを作るのと一緒で、ペースをコントロールして、観客の感情が作り手が意図したように動くように導かなければいけないからです。観客に「ここは叫ぶところ!」とか「ここは笑うところ!」といったことを、シーンごとに伝えなければいけません。
なので、ジャンル映画を作る一番の楽しさというのは、大勢の、世界中の観客とコミュニケーションをとれる上に、瞬間瞬間の観客のリアクションが見られることだと思います。観客と一緒に劇場で見ていて、自分たちが意図したタイミングで意図したようなリアクションをとってくれたら、本当に嬉しいです。
――ここ数年、アメリカを中心にホラーゲームが盛り上がっており、映画化や映画関係者のゲーム作品への参加も多いです。年々映画とゲームの結びつきは強くなっていますが、監督はゲーム製作に興味はありますか?
ナボット:僕はゲーマーなので、機会があればゲームの現場には是非参加してみたいですね。最近のゲームだと『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』が最高でした。クレイジーな第二次世界大戦ものが大好きなので(笑)。
アハロン:ものすごく短くてシンプルな内容になると思いますが、僕はアタリで育ったので、アタリのゲームを作りたいですね(笑)。アタリはゲームハードの中でも金字塔だと思っています。『スペースインベーダー』とか『カラテカ』とか、最高でしょう?
ナボット:(アハロンに向かって)そういえば『テトリス』の映画やるよね?
アハロン:あれは一体どうなるのか全然わからない(笑)。
ナボット:ジョエル・シュマッカー監督とマイケル・ベイ監督は意図せずに『テトリス』みたいな映画を作っているようにも見えますけどね(笑)。『トランスフォーマー』シリーズにはいつも驚かされます。
――日本映画がお好きとのことですが、好きな、もしくは自分の作品の出演させたい俳優・女優は誰でしょうか?
アハロン:もし仲代達矢を若返らせることができるのなら、出演してほしいですね。彼はオーバー・ザ・トップなものからメロウなものまで、善人から悪人まで、本当になんでもできるので大好きです。
ナボット:最近だと渡辺謙です。カリスマ性があるのはもちろんですが、彼は英語でしゃべっても、日本語でしゃべっても、すごく映画的になる俳優で、台詞を聞いていて心地良いんですよね。
アハロン:でも、日本史上最高の俳優は宍戸錠でしょう。頬が印象的なのもありますが、『殺しの烙印』での彼の演技は圧巻です。
――ここ最近見た映画で衝撃を受けたものはありますか?
アハロン:デビッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』。とにかくサプライズが多くて、嫉妬するほどよくできた作品でした(笑)。
『氷の微笑』や『危険な情事』といった80年代の映画のテイストを見事に取り入れた傑作だと思います。自分たちもああいう映画を作れるように頑張らないといけないですね。
ナボット:リーアム・ニーソン主演の『A Walk Among the Tombstones(ローレンス・ブロックの『獣たちの墓』原作映画、日本公開日未定)』は面白かったです。
ものすごく70年代テイストのスローペースなキャラクター作品で、昨今の映画スタジオから生まれたとは思えないくらいでした。『96時間』の別バージョンでは全然ないんです(笑)。映画スタジオは一体何を思ってこの作品を作ったんだろう? ということを考えさせられたという意味でも、興味深い作品でした。
アハロン:あまり評判は良くないみたいですけど、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『オンリー・ゴッド』も映画で見られること、見せられることの限界に挑んでいる傑作だと思います。クレイジーな作品ですけどね(笑)。
後は、ジェイク・ギレンホール主演の『Nightcrawler(原題、日本公開日未定)』も素晴らしかった。2013年のベスト映画の一つだと思います。
ナボット:これから公開される映画も面白そうなものが多いですよね。ポール・トーマス・アンダーソン監督の『Inherent Vice(原題、12月全米公開、日本公開日未定)』は恐らく最高でしょう。例え期待ほどではなかったとしても、クレイジーな映画なのは間違いないと思います(笑)。
コーエン兄弟の『HailCaesar(2016年全米公開予定)』もありますし、世界中から良い作品がどんどん公開されますね。ごめん、自分が見たい映画を言ってるだけだねこれ(笑)。
――恐らく次に日本で見られる、お二人が参加している作品は『ABC of DEATH2』になるかと思うのですが、その次に予定している作品に関して言えることがあれば教えてください。
アハロン:まだ言えないんですよね(笑)。
ナボット:でも期待していてください!
最後の質問への答えが、この取材後に発表された『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』のリメイクでした。
『オオカミは嘘をつく』は、とにもにかくにも映画が好きで好きで仕方がない監督コンビが仕掛ける、最後の最後まで見逃せない巧妙なスリラー作品。爆笑シーンも多いので、ジャンル映画はちょっと......という方も是非ご覧ください。タランティーノ監督の2013年ベスト映画に選ばれたことにも納得がいくはずです。
『オオカミは嘘をつく』は11月22日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開。
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[『オオカミは嘘をつく』公式サイト]
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(スタナー松井)
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