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ちゃこのこさん のコメント

生朗読が聴きたくて我慢できずに先程ミステリにゃんになりました。
早速、第一話第一章「大江山よりの便り」読ませていただきました。浅沼さんは音域・演技の幅が広いので、どんなトーンで演じられるんだろう?と想像し脳内再生しながらあっという間に読んでしまいました。
阿文の、お客様には愛想良く吽野にはツン猫にはデレも玲央くんの声で想像したらぴったりはまり役って感じて、生朗読がとっても楽しみです。

No.1
37ヶ月前
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著:古樹佳夜 絵:花篠 ------------------------------------------- 下町の風情漂う商店街。最奥に不思議堂がある。 ボーンボーンと 真向かいの時計店の振り子時計が夕暮れ時を告げた。 裏手の飲み屋から、ガヤガヤと酒呑たちの笑い声が 聞こえてくる頃だが、 そんなことなどお構いなしで、 吽野は一心不乱に 売れない冒険小説を執筆していた。 吽野 「裏の飲み屋、楽しそうだな……それに引き換え、俺は机に齧り付いて、 何してんだろうねぇ……」 吽野の集中は完全に切れてしまった。 吽野 「あ〜ダメだ……。阿文クン……」 阿文 「時計屋から聞こえただろう。今は五時」 吽野 「そうじゃなくてぇ、お茶ちょうだい。あと、お腹も減ってきたよ。 オニギリでも握ってくれないかな〜」 阿文 「今忙しい」 玄関横の椅子に腰掛けた阿文は 先ほど届いたばかりの夕刊を読んでいた。 吽野   「そんなこと言わないで手伝ってよぉ。執筆って頭脳労働なのに。 少し休ませて欲しいなぁ」 カウンター内から聞こえる甘えた子供のような声。 吽野のだらしない訴えは、阿文の神経を逆撫でした。   阿文 「茶ぐらい自分で淹れてくれ」 吽野「 は〜。阿文クン助手でしょ? 助手の仕事を全うしてよ」 阿文 「僕だって仕事してる。先生が書いてる間は店番してるだろ」 吽野   「新聞読んでるじゃん」 ガラガラと引き戸を開ける音がした。 阿文は新聞から顔をあげる。目があったのは白いワンピースを着た女性だった。   阿文 「いらっしゃいませ」   阿文の愛想のいい声に、吽野は顔をしかめる。 優しげな声も、涼やかな笑顔も、 自分に向けられることはほとんどないからだ。 阿文 「どうぞ、開店中ですので、ご遠慮なくお入りください。お嬢さん方」   女性は阿文を見るなり、 顔を赤らめ、もじもじして俯いた。 阿文に見つめられて言葉を失ったらしい。 代わりに、店内をキョロついていた、 友達と思しき青い服の女性が 「ちょっと覗いただけでーす」と、元気に言った。 一向に入ってこようとしないので、阿文は諦めて、 また新聞に目を落とした。 結局、二人は店内に入りもせず、 引き戸を閉めて遠ざかっていった。 吽野 「冷やかしかよ」 阿文   「日常茶飯だ。よっぽど店内に面食らうのかな。 入ってくる人は半々だ」 吽野 「あの二人、ジーッと阿文クンを見てたね。頬なんぞ赤らめて……」 阿文 「ちゃんと聞いてたか? 小声でチンドン屋呼ばわりしてたが」 吽野   「目立つって意味だよ。阿文クンたら常人より美しいからね!」 阿文 「あ、そう」 吽野 「ちぇ……せっかく煽てたのにー」 阿文は客のことも吽野の軽口も 全く気にしていなかった。 それよりも新聞の方に夢中だった。   阿文 「へえ。今年は凶作で、大きな地震があるらしい」 吽野 「何それ?」 阿文 「新聞の見出しにそう書いてある。ある農村から出た予言だそうだ」 吽野   「予言―?」 阿文   「不吉なことの前触れ……人面牛が生まれた……なるほど」 吽野   「そんな胡散臭い情報を新聞に載せるなんてどうかしてるよ。 この科学の時代に!」   阿文 「今日日眉唾記事は珍しくもないさ。オカルトだって娯楽として確立してる」 吽野 「そうかな? この前の新聞記事にもさ……」   吽野が言いかけて、阿文は被せるように言った。   阿文 「ぶつくさ文句言ってないで 仕事をしたほうがいいんじゃないか? 一向に筆が進んでないが」   吽野   「飽きた」   阿文は冷ややかな視線を向けた。   吽野   「何よーその氷の眼差し。阿文クンこわーい」 阿文   「はあ……ヘソを曲げられても厄介だしな。ここはおだてとくか」 吽野   「ちょっと、何か言った?」 阿文   「吽野先生の執筆能力が高いことは重々わかっている。 大人気とまではいかないが、荒唐無稽な空想冒険小説を書けるのは、 大した才能だ」 吽野 「大人気じゃない……荒唐無稽……。本当のことだとしても、言い方をまろやかに!」 阿文 「……控えめな人気。地に足がついてないなりに、奇抜で馬鹿馬鹿しく面白い」 吽野 「もうやめて!」 阿文 「あ、そうそう。先生は家から一歩も出ようとしないから 知らないだろうが、先生の小説は近所の子供から評判良いぞ」 吽野 「え、それ本当?」 阿文 「……とはいえ、 重版がかからないのは、 貸本屋があるせいか、買うほどでもないと思われてるのか」 吽野 「もうそれ以上正論の刃で突き刺さないで!」 散々阿文に言われた吽野は、不貞腐れたようにため息をついた。   吽野 「あーあ。こんな三文小説じゃなくて、劇の台本を執筆したいんだけど。 俺の本業は劇作家なんだから」 阿文   「またそんなこと言って。知ってるぞ。劇台本を書き出すと、 『小説が書きたい』って言い出すんだ」 吽野 「天邪鬼ってやつかなー」 阿文 「天邪鬼じゃなくて、むらっ気が強いだけだろ。そんなんじゃ困る! 小説の上りは僕ら二人とノワールの生活も支えてるんだぞ」 吽野 「わかってる〜。飢え死になんてごめんだよ」 阿文 「不思議堂に並ぶ骨董品だって全然売れないし。 今月に入ってからの売り上げは、聞いて驚け、なんとゼロだ」 吽野 「無理して売らなくていいじゃん。全部俺のコレクションなんだもん。 安い値段で切り売りしたくないのー」   その時、玄関を引っ掻くような音がした。 途端に、阿文は目を輝かせ、急いで玄関の扉を開けた。   阿文 「ノワール〜! おかえりぃ、お散歩は楽しかったか?」 ノワール 「わ〜〜ん!」   阿文の足元に黒猫がすり寄ってきた。   阿文 「よしよし」   阿文は夢中になってノワールの頭を撫でた。 その拍子に足元にひらりと一枚の紙が舞った。   吽野 「阿文クン、毛玉が何か咥えて持ってきたようだよ」 阿文 「なんだろう……? ああ、ハガキだな。うち宛だ」 吽野 「郵便受けからこぼれ落ちたのを持ってきたのか。犬みたいだな」   吽野の言葉に、ノワールを毛を逆立てた。まるで、自分は犬じゃない!と 抗議でもしているようだ。 ノワールと吽野の間に、緊迫した空気が漂うが、 阿文は全く気づいておらず、眉間にシワを寄せていた。   阿文 「筆文字でびっしりと要件が書かれてる。えーと……」 吽野 「どうしたの?」 阿文 「申し訳ないが、文字の癖が強くて……」 吽野 「貸して」 阿文 「読めるのか?」 吽野 「随分崩れた字だけど、かろうじてね」 阿文 「そういえば先生の文字に似てるな?」 吽野 「うるさいな」   吽野はハガキを読み上げ始めた。   吽野 「拝啓、不思議堂店主殿。 あんたが奇妙な出来事の問題解決をしてると知り、 この通り手紙を出した」 阿文 「奇妙な出来事の問題解決……?」 吽野 「ああ。この前、俺が新聞広告に出したんだよ。 珍事、オカルト、怖い話大募集!ってね」 阿文    「ちょっと、そんなこと僕は聞いてないんだが。第一、 ついさっき胡散臭いものを馬鹿にしてなかったか?」 吽野 「書き物のネタになるなら大歓迎!」 阿文 「調子がいいったら……」 吽野 「今までだって不思議な事件に手を貸すことはあったじゃない」 阿文 「先生の趣味の範囲でな。万屋みたいなことを専業にする気はないぞ」 吽野 「専業じゃなくて、これはいわば飲み屋の裏メニュー的な……」   吽野の言い草に、阿文はため息をついた。   阿文 「まあいい。せっかく依頼を出してくれたお客さんを 無碍にできない。続きを読んでくれ」 吽野 「はいはい。えーと…… 『早速だが、頼みたいことってのは、自分のアニキのことです』」 阿文 「お兄さん?」 吽野 「『アニキを救って欲しいんです。最近、根城にしてる山で、怪異がおきました。 それが自分らのせいだと、周りの人間に濡れ衣を着せられて迷惑してます。 自分たちは、素人さんにはもう手を出さないって決めてるんで、 そんなわきゃないって反論したんですが……』」 吽野は手紙の違和感に気づいた。   吽野   「素人さん、って……もしや、このアニキって、その筋の人?」 阿文 「さあ……わからんが、続きを読んでくれ」 吽野   「おやおや。阿文クン、興味持っちゃってるねー」 阿文 「早く」 吽野 「『 ぜひ、自分たちの住む大江山に足を運んで、解決してもらいたいんです』」 吽野 「ええ? 出張するの?」 阿文 「うーん、この場合は致し方ないだろう。 ここで怪異の正体を探るなんてできないし」 吽野 「えーやだなぁ。俺が出不精なの、知ってるでしょ」 阿文   「元はと言えば、先生が撒いた種だろうが!」 吽野 「『もし引き受けてくれるなら、この手紙が届き次第、こちらにお越しください。 早ければ早いほど嬉しいです。お待ちしております。 茨木童子』」 阿文 「差出人が茨木……? 場所が大江山か……もしや」   その時、黒電話の音が店内に響いた。   阿文   「電話だ」   途端に吽野はびくりと肩を震わせる。   吽野   「担当編集の催促だ! 取り立てだ! 阿文クン出ないで!」   間髪入れずに、阿文は電話をとった。   阿文 「はい。不思議堂黒い猫です」 吽野 「阿文クーン!!!」 阿文 「ああ、はい。吽野の原稿の進みですか……いつ上がるのか? えーと…… 先生、締め切り過ぎてるらしいが、いつできるんだ?」 吽野 「三日後」 阿文 「三日あれば大丈夫だそうです。はい、うちのがご迷惑をおかけして…… よろしくお願いします」 阿文は電話を切った。   吽野 「阿文クン、善は急げだ」 阿文 「おい、執筆はどうする」 吽野 「ちょっと気分変えたいし、出張もいいな〜って思って!」 阿文 「本音は?」 吽野「……編集の原木さん、明日にはここに訪ねてきそうで怖すぎる」 阿文 「締め切り守らないくせに、本当にプレッシャーに弱いよな」 吽野 「よくご存知で」 阿文 「まあいい。行こうじゃないか、大江山へ」 吽野 「やったー! さすが、阿文クン、クールぶってるくせにノリがいいね!」 阿文 「ちゃんと執筆道具は持っていけよ」 吽野 「へいへい」   阿文は素早く屈んでノワールの額を撫でた。   阿文 「ノワール、留守を頼む」 ノワール 「な〜ん」   ノワールは、わかったと言わんばかりに、鳴き声をあげた。   吽野 「あの毛玉、ほっといて大丈夫?」 阿文 「商店街にいくつも餌場と寝床があるから 数日空けても問題はないだろう。念の為声をかけとくよ」 吽野 「ふーん。ちゃっかりしてるなあいつ」 吽野 「と、ぐずぐずしてたら編集がここに来ちゃうからな。 さあ、阿文クン。日が暮れ切らないうちに切符を買って、汽車に乗らないと」 阿文 「ああ、行こう」   吽野に促され、吽野と阿文は足早に駅へと向かった。 【続】 ------------------------------------------- ------------------------------------------- ※本作『阿吽』のご感想などは  #あうんくろねこ  をつけて ツイッターでツイートいただけますと幸いです ※本章は、2021年11月放送 浅沼晋太郎・土田玲央『不思議堂【黒い猫】』生放送の ch会員(ミステリにゃん)限定パート内にて、 浅沼店主と土田店員が生朗読を行う予定です ぜひ、物語と一緒にお楽しみください (※朗読は、本章の全編ではない場合がございます) [本作に関する注意]------------------------------------------ 本作(テキスト・イラスト含む)の全部または一部を無断で 復製、転載、配信、送信、販売すること、 あるいはSNSへの発信を含むウェブのアップロード、 ウェブサイトヘの転載等を禁止します。 また、本イラストの内容を無断で改変、改ざん等を行うこと、 オークション等への出品も禁止します。 -----------------------------------------------------------------  
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