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【イベント/一般先着】2025年2月16日(日)不思議堂【黒い猫】~浅草の宴~
2025年2月16日(日)不思議堂【黒い猫】ファンイベント~浅草の宴~開催決定!
当店およそ2年ぶりの『宴』が開催です!浅沼店主と土田店員は、11月26日まで販売中の
『不思議堂【黒い猫】オンラインくじVol.2』の衣装と同じ、この和装で出演予定です。
素敵な和装に身を包んだお2人を、皆さまどうぞお楽しみに!
ゲストは両部に、石井孝英さん、夏目響平さん。
第一部に、野津山幸弘さん。
第二部に、木島隆一さん。
イベントでは、番組でも大好評だった企画をやります!第一部 温怪談(あったかいだん)ゲスト:怪談家 ぁみ さん第二部 催眠術ゲスト:催眠術芸人 細野哲平 さんもちろん、オリジナル物語【阿吽】の生朗読もあります!
両部とも『怖くない不思議』でお届けしますので、怖いのが苦手な方でも大安心!
そして場所はなんと浅草!
宴の合間に街を散策し、下町情緒を感じてみるのもおススメです!11月16日(土)10時よりチケットぴあにて一般先着販売を実施いたします皆さまのご来場をお待ちしております。★下記概要と注意事項をかならずご確認のうえ、お申し込みください。------------------------------------------------------------浅沼晋太郎・土田玲央『不思議堂【黒い猫】』~浅草の宴~■開催概要・会場 雷5656会館(浅草)・開催日 2025年2月16日(日)・開催時間 第一部 開場12:30、開演13:00(終演14:30予定)第二部 開場16:30、開演17:00(終演18:30予定)※時間は当日状況により多少変わる可能性があります。※公演時間は約90分を予定しています。・出演者 MC:浅沼晋太郎、土田玲央両部ゲスト:石井孝英、夏目響平第一部ゲスト:野津山幸宏、ぁみ第二部ゲスト:木島隆一、細野哲平■お申し込み受付スケジュール【チケットぴあ/一般販売】(先着)◎受付期間:2024年11月16日(土)10:00~※若干数の販売となるため、見切れ席チケットも同時に販売いたします。
※販売予定枚数に達し次第販売終了となります。▼お申し込みURL■チケット
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★特典グッズ付きチケット 価格/13,200円(税込)・チケット特典は『お守り風アクリルキーホルダー1個&ミニラジオ収録エムカード1枚』です。・第一部と第二部でデザインとラジオ内容が異なります。・チケット特典はイベント当日に会場でのお渡しとなります。★通常チケット 価格/8,800円(税込)
※申込枚数制限/おひとりにつき各部1枚※イベント当日に、会場でご観覧いただけるチケットです。※チケットを紛失された場合や一般チケットでは、特典をお渡しすることはできません。----------★見切れ席 特典グッズ付きチケット 価格/13,200円(税込)・チケット特典は『お守り風アクリルキーホルダー1個&ミニラジオ収録エムカード1枚』です。・第一部と第二部でデザインとラジオ内容が異なります。・チケット特典はイベント当日に会場でのお渡しとなります。★見切れ席 通常チケット 価格/8,800円(税込)
※申込枚数制限/おひとりにつき各部4枚※イベント当日に、会場でご観覧いただけるチケットです。※チケットを紛失された場合や一般チケットでは、特典をお渡しすることはできません。※座席位置により出演者や演出が見えない、または見づらいお席になります。
※当日の座席位置の変更、返金等には一切対応できませんので、あらかじめご了承いただいたお客様のみご購入ください。----------■注意事項/あらかじめ以下にご同意のうえでご購入ください。<チケットについて>●申し込みにはチケットぴあへの会員登録(無料)が必要です。●チケットは、1枚につきおひとり様のみ入場可能です。●主催者都合による公演中止の場合を除き、お客様の体調不良のほか悪天候・天災およびそれに伴う交通機関トラブルなど、事情の如何に関わらずチケットの変更・キャンセル・払い戻しには応じられません。●チケットの転売およびオークションへの出品は固くお断りします。出品や転売が判明したチケットでの入場をお断りする場合があります。●車椅子で来場をご希望される場合は、チケットご購入後、後述の【KADOKAWA イベントサポート】までご相談ください。車椅子席には限りがありますので、ご了承ください。<イベントについて>●会場内での写真撮影・録画・録音(携帯電話によるものを含む)等は禁止となります。撮影や録音が判明した場合、会場から退出いただいたうえで、フィルムの没収、データの消去などの対処をいたします。●公演中、携帯電話での通話は一切禁止となります。会場内では携帯電話の電源をお切りいただくか、マナーモードに設定していただき、通話はおやめください。●会場内での飲食および喫煙は禁止となります(水分補給のみ可能です)。●公演中マスクの着用は任意となります。●会場への再入場は不可となります。●かならず券面指定の席でご観覧ください。席の移動やお客様同士での席交換、席から離れてのご観覧はできません。●公演中の応援グッズ(うちわ、ペンライトなど)の使用はご遠慮ください。●会場内および周辺にて生じた来場者に起因するトラブル・事故・盗難等につきましては、主催者は一切の責任を負いかねます。●天災や不慮の事故、各種感染症の拡大により、イベント内容を変更および開催を中止する場合があります。●当日の様子(参加者の発言、容貌などを含みます)は、各種メディアおよび弊社の出版物・Webサイト等に、無償かつ無期限で掲載・配信等させていただくことがあります。<ご入場について>●前日および深夜・当日早朝からの来場・整列は禁止となります。●入場の際、身分証等を確認させていただく場合がありますので、かならず「チケットに記載されている氏名」が確認可能な「身分証明書」をお持ちください。●会場までの往復の交通費は、来場者の自己負担となります。また、駐車場はありませんので公共交通機関をご利用ください。●開場時の混雑状況により、入場までにお時間をいただく場合があります。お時間には余裕をもってご来場ください。●会場内への飲食物の持ち込みはご遠慮ください。ただし、ペットボトルなど蓋の閉まる飲み物のみ持ち込み可能です。また、火器・危険物の持ち込みは、固くお断りいたします。●途中入場の場合、イベントの進行状況によりしばらくお待ちいただく可能性があります。●当日チケットをお持ちでない方は、理由の如何に関わらずご入場いただけませんのでご注意ください。<ご入場のお断り・返金対応について>運営スタッフの判断で以下に該当すると判断した場合は入場をお断り、もしくは途中退場していただきます。その場合、返金対応はいたしかねます。(1)明らかに体調が悪い様子の場合。(例:断続的に強く咳込んでいる場合など)(2)未就学児童の入場および酒気を帯びた方。(3)イベントレギュレーションに反する行為が認められる場合。(4)スタッフの指示に従わず指定席を守らない、公演中に大声を出す、周りの方に迷惑になるなどの行為が見られる場合。<プレゼント類について>●本公演では、プレゼントボックスのご用意はありません。プレゼント、ファンレター、スタンド花、楽屋花など一切のお預かりをお断りいたします。また、直接お渡しいただくこともできません。---------------------------------------------------■お問い合わせ・チケットの抽選確認・購入についてチケットぴあ ヘルプ・公演内容についてKADOKAWA イベントサポート※かならず「【黒い猫】浅草イベントについて」とご明記ください。※対応は土日祝日を除く平日となります。イベント当日のお問い合わせにはお答えできません。※サポートは日本国内に限ります。 -
【11月12日(火)】令和6年11月記~ホラー映画の不思議~【不思議堂 黒い猫】
2024年11月12日(火)20時からは
不思議堂【黒い猫】~ホラー映画の不思議~
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆世にあふれる「不思議な話」をあつめる店 それが不思議堂【黒い猫】
怪談・都市伝説・占い…様々な「不思議」を携えて
今宵も素敵なお客様が【黒い猫】を訪れます。
声優ゲストは、 濱健人さん!
今宵の不思議テーマは『ホラー映画の不思議』
専門家ゲストは映画監督・白石晃士さん!
ぜひお楽しみに!
■出演
店主・・・浅沼晋太郎
店員・・・土田玲央
声優ゲスト・・・濱健人
専門家ゲスト・・・白石晃士(映画監督) -
【連載物語】不思議堂 黒い猫【阿吽】~ふたりの陰陽師編~ /第二話【陰陽師一族】
season2~ふたりの陰陽師編~第二話『陰陽師一族』著:古樹佳夜絵:花篠
第一話 前編
第一話 後編◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆雪明の急襲を受け、負傷した吽野の右腕を満月は見る。
「腕がもげなくてよかったな。胴にくらってたら危なかっただろう」「怖いこと言うのやめてくれない?」軽口だろうが、今の吽野にとっては恐怖でしかない。「強運だって話さ。とはいえ、呪詛は強力だし放っては置けない。……雪明を探すにも、まずはこいつの手当てだな」「満月さん、お願いします。先生を助けてください」阿文の真摯な訴えを聞き、吽野は内心嬉しく思っていた。日頃は尻を叩かれ、時に呆れられ……様々なお小言も受けてきたが、こんな風に大切にされると、阿文が相棒で良かったと思わされる。
「ついてこい」二人を引き連れ、神社を後にした満月は、脇目もふらずに歩み始めた。どこに向かうのかはっきりはしなかったが、二人はその背中を妙にたのもしく感じた。ノワールのことは気掛かりだったが、今は先を急ぐ。深夜の街はひたすら静かで、不安を掻き立てる。それを振り切るには、ただ黙って前に進むしかない。深夜の商店街を突っ切ったところで、突き当たった大通りでタクシーを拾った。目的の場所は別の街にあるらしかった。繁華街の細い路地、そのど真ん中でタクシーは止まった。ライトアップされたいかがわしいポスターや、美男美女の巨大な看板、ネオンに縁取られた怪しげな店名が、吽野と阿文の目に突き刺さる。深夜だというのに道にちらほら通行人がいるし、酩酊した人間が地面を這ったり、舐めたりしている。何か嫌なことでもあったのだろうか。阿文はあられもない姿で寝転ぶ酔っ払いたちに思い巡らせた。「これ以上は道が細くて無理だから」タクシーの運転手に降りるように促され、満月は勘定をして後部座席に座る二人に合図する。タクシーが過ぎ去る音を聞きながら、満月に誘われて脇道を進む。路地は生ごみのような腐臭がしている。ちょろちょろと足元を駆け抜けていったのはドブネズミの親子だった。両サイドのビルも壁面が黒ずんでいて、少し擦ったら服に粘性の黒い汚れが付いてしまった。「ここだ」急に立ち止まって、満月が振り返る。彼の目の前には押し扉があるのでなんらかの店だとは思うが、看板は出ていない。「なんだいここは」訝しむ吽野に構わず、満月は二人の背中を強引に押して店内に入るように促す。「俺の店」「は?お前経営者だったの?」――チリンチリンドアベルが忙しなく鳴る。「いらっしゃ〜い」店員と思しき金髪の青年が、携帯に目を落としながら、適当に挨拶した。満月よりも若く、二十代前半か、もしかしたら十代かもわからない。今時の若者らしく、細く小さな顎に、整った眉が印象で、アイドル然としている。唇にはピアスが刺さっていた。カウンターと小さなテーブルが二つあるだけの手狭な店内に、客は誰もいなかった。薄くかかっている昭和歌謡は、店の隅に置いてある蓄音機から流れていて、プツプツ不穏な音を立てている。
「な〜んだ、店長か」「なんだとはなんだ」「ちゃんと一杯飲んでけよ」
仲がいいのか、敬語は使わない仲なのか。満月に雑な言葉を投げた後、背後の棚から適当なウィスキーボトルを掴んで、慣れた手つきでグラスに注いだ。それから、流れるようにグラスを追加で二つ手に取る。どうやら吽野と阿文の分のようだが、注文も聞かずに同じ酒を注ぎナッツと一緒にテーブルに並べ始める。何もかも、淡々としている。店員は三人分の酒を出した後、自分の分もグラスに注いで、グイと煽る。おそらく店長である満月のツケだ。
「その人たち、満月の友達?」「そんなとこだ」店員はようやく携帯から目を離して、頭からつま先まで二人の姿を見る。「もしかして、言ってた狛犬の?人外連れてくる時は、前もって知らせてよ。びっくりするだろ」その言葉に驚いた。吽野と阿文の正体を一瞥で察するとは。満月と店員が言葉を交わす間、吽野はあたりを見回す。背後に大きな藁人形が吊るされていて、天井にはびっしりお札が貼られている。店のディスプレイにしては、悪趣味だ。
「いい趣味してるね……」吽野が満月に呆れた視線を送る。「不思議堂だって大差ないだろ」満月はグラスを煽る。「ここね、怪談バーなんだ。界隈じゃ結構有名だよ」「怪談バーだって?」「酒を飲みながら怪談話を嗜むって趣向だよ」吽野の問いに満月は答える。
また変なところに連れてきて。平常時ならいざしらず、腕を負傷している今、遊びに来ている場合ではない。内心不安を抱えた吽野だったが、察した満月は、吽野の口から不満が溢れる前に、言い添えた。
「こいつも陰陽師で賀茂家の直系だぞ」「カモちゃんって呼んで」青年は笑ったつもりのようだが、口元が歪むだけだった。表情筋が死んでいるらしい。「カモさんは先生の手も治せますか?」会話を楽しむ余裕はないと、阿文は矢継ぎ早に切り出した。カモは促されて吽野の腕を一瞥する。「げぇ! そんな本気の呪詛、こんなとこに持ってこないでよ」カモはあからさまに嫌な顔をした。その様子を見て、吽野もどうするんだよ、と満月に視線を送る。「応急処置は俺よりカモが得意だ」満月が吽野の肩を叩き、落ち着けと促す。「それに、安倍の呪いに関しては俺よりも詳しいんじゃないか?賀茂は安倍の師匠すじだろ?」「安倍ってことは……この呪詛、同業者の仕業? 道理で強力なわけだ。相当腕利きなんじゃない?」「これをかけたのは雪明だ」満月が答えると、カモの表情は変わった。「雪明が……? 適当言うなって。奴は死んだだろ」「そう思ってたんだがな」満月はグラスの中のものを飲み干して、カウンターに置いた。少なからず、満月も動揺を感じているようだった。まさか、三人が見た白い青年は、幽霊だったのだろうか。店内に数秒の沈黙が走った。
「仕方ない。見せてみな」カモは仰々しく、業務用のビニール手袋を両手にはめてから、吽野の腕に触れる。さっと検分して、カウンターの下から札を取り出すと、吽野の腕に湿布のようにビタリと貼り付ける。その衝撃を受けて、大袈裟に痛い痛いと吽野は唸った。阿文は「あんまり騒がないでくれ、恥ずかしい」と嗜めるが、カモは構わないと言い放った。淡々と処置を進めていき、腕に包帯を巻いていく。程なく処置は終わり。カモは飲み途中だった自らのグラスに口をつける。
「はい、いっちょあがりだよ」「あれ……痛くない」吽野は驚いて、自らの腕をまじまじと見る。いっときはジクジクと痛んでいたのだが、カモの施した治療は効果てき面だった。安心したのも束の間、カモは言い添えた。「この呪詛、術者じゃないと解けないと思うよ。全身腐る前に、さっさと雪明を探したほうがよさそうだね」カモの言葉は吽野に容赦無く突き刺さる。そうなのだ。状況は余り好転していない。二人の主人も瀕死の状態で、状況は想像以上に悪い。問題解決の鍵を握るのは、安倍雪明だけ。けれども、どこにいるのかも検討がつかない。吽野は、彼のことを何も知らないのだから、探しようもなかった。
「先ほど雪明さんは、満月さんの幼馴染だと仰ってましたよね?」先に切り出したのは阿文だった。雪明のことを改めて聞き出そうと、満月に迫る。満月の顔が曇る。そして、何事か思い出したのか苦い表情で唇を噛んでいた。「奴のことを話す前に、俺たちの家のこと――陰陽師である蘆屋家と安倍家の因縁について、話しておこうか」そう言って、満月はおもむろに語り出した。「平安の頃より、陰陽師を生業とする安倍家と蘆屋家は意識し合う仲ではあったが、物語に描かれるような敵対関係はなかった。現に、俺と雪明は同い年で、生まれた頃からの馴染みだった。お互い期当主候補でもあったし、ガキの頃は切磋琢磨して、よく遊ぶ仲でもあった」「どっちかが女なら結婚してたんじゃない?って、周りが噂するくらい、ベタベタでさー」同じく、カモも陰陽師一家であるから、満月とは馴染み深いことが窺えた。カモの言葉を、満月は寂しそうに受け止め、ありし日の記憶に「そうだったな」と微笑んだ。「俺はあんま好きじゃなかった。いっつも薄ら笑いを浮かべてさ、妙に含みのある喋り方も油断ならない」「カモとは相性が悪いだろうな」親友の悪口に腹を立てることもなく、満月はカモの評を笑い飛ばしていた。案外仲良くやってたのか、意外だなと、吽野が感想を口にすると、「同業のよしみというのもあるし、共通の敵によって結束していった歴史もある」「共通の敵、というのは……?」阿文が尋ねると、満月は居住まいを正した。「その名を、厭魅丸(えんみまる)。強大な悪鬼だ。元を辿れば呪詛の塊で、平安の昔から今に至るまで、その遺恨は残り、また新たな呪詛を生み出している」「平たく言うと、『祟り』ってやつね〜」グラスにウィスキーを注ぎ、ほろ酔いで上機嫌になっているカモが付け加える。「これも鬼の祟りさ」満月は自らの目を指さして言い放つ。「その青い目が?」阿文が覗き込む。「千里眼とか言ってなかったか?」居酒屋での話を覚えていた吽野が訝しむと満月はうなずいた。「『青眼』というのを知っているか。その昔、安倍晴明が白蛇から授かったとされるもので、これを持つものは獣の声を理解し、未来予知ができるという。この目を安倍家から譲り受け、蘆屋は今日までその恩恵を受けているのさ」遡ること平安の末期。厭魅丸に対峙した当時の蘆屋の当主は、戦いに敗れ目を負傷した。呪詛が両目の眼球を溶かし、たちまち眼玉は爛れ落ちた。そして、二度と光を見ることはなかったという。以来、蘆屋家当主候補の嫡男は、先天的に失明している。これを補うために協力したのは安倍家当主だった。 晴明が貰い受けた貴重な『青眼』を、友人である蘆屋家に譲ったのだという。「とんだ災難をもらってんな」想像以上の困難に、吽野は同情の念を抱く。当事者の満月はあっけらかんとして、「陰陽師であれば、多かれ少なかれ呪詛の影響は受けているものだ」と受け流した。「同業の中で最も深刻なのは、安倍家じゃない?」聞いていたカモが投げかけると、満月も同意だと頷く。「安倍一族も厭魅丸の呪詛をもろに受けてるからなぁ」「どんな祟りを受けているのですか?」興味津々の阿文は、満月の方を窺った。人の不幸を喜ぶものではないと頭では理解しつつも、陰陽師の過酷な世界を垣間見れるとあって、気持ちは抑えられていなかった。それを察してか、満月も小さく笑って答えた。「吽野のソレに似た感じだな」今や包帯でぐるぐる巻きになった吽野の腕を一瞥し、嫌なことでも思い出すように言い淀んでから言葉を続けた。「痣が全身を浸食して衰弱する呪い。安倍家嫡男は短命の呪いに今も苦しんでいる。雪明も若くして死んだ。十九の年だった」安倍雪明という人物は、赤ん坊の頃から病気がちで、呪詛が障りとなって最期は衰弱死した。生まれながらに右腕に大きな黒い痣を持っていたという。ぽつぽつと語る満月は少し気落ちして見えた。グラスの酒をじっと見つめたまま、二人での思い出を思い返した様子だった。多感な時期に失った友であるのだから、心痛は察するに余りある。阿文は面白がったことを申し訳なく感じていた。「雪明は短命だったが、力の強い陰陽師だった。厭魅丸の調伏の意志を俺に託して逝ったんだ」「なら、どうして俺に式神をけしかけたんだ?」吽野は困惑する。満月が言うことがたしかであるならば、神社で傷を負わされた状況とは真逆のことをしているのだ。満月は顎を擦り、考えを巡らせていた。「あれは、本当に雪明か……俺にはわからない」「わからないってなんだよ?」はっきりしない答えに、吽野はつい声を荒げる。「見た目は雪明だったの?」質問を投げかけたのはカモだった。「そうだ。あれには実体もあった。しかし、中身が……何とも言えないな」口ぶりから、満月自身も確信は得ていないようだったが、カモが一つの推測を口にする。「……厭魅の術……反魂を試されたとか?」「俺もそれを疑っている。だが、誰がなんのために?」満月とカモは揃って首をひねった。
『厭魅』……その言葉の意味は、『呪い殺すこと』。人形など形代を用いて、対象を呪う行為そのものであり、陰陽師が得意とする技だ。そこに、屍人の魂を呼び戻す『反魂の儀式』も加えて、何者かを呪い殺すための屍鬼を作り出したのでは、と推測をしているのである。「雪明ってのはゾンビ野郎なのか?そんな奴が、どうやって俺の呪いを解けるんだよ……?」吽野は言いようのない不安から、満月の袖を掴んだ。「安心しろ。奴は見た感じ、陰陽師としての役割を果たしている。でなきゃ、こんな高度な呪詛はかけられない。かけた呪詛なら解くこともできる。また雪明と戦う必要はあるだろうが……」「要は打ち負かして、解かせればいいのですよね」阿文が尋ねると、満月はそうだ、と頷いた。吽野はあんぐりと口を開ける。「簡単じゃなさそうだがな。あんな物騒な妖怪を操るなんて、あいつこそ化け物じみてる」「……たしかにな。雪明の力は衰えてないどころか、むしろ生前よりも増しているように見える。反魂の術の影響なのかは不明だが。ともかく、俺一人で太刀打ちはできるかは、正直五分だ」「おいおい!」必死の形相で、吽野は突っ込む。今の生命線は、悔しいが満月の存在なのだ。弱音を吐かれては困る。
「ただし、お前らが俺に協力して戦う気があるなら、勝機は十分にあるぞ?」満月は不適な笑みを二人に向けた。とたん、察した吽野はゲッとカエルが潰れたような声を漏らした。「もしや、さっきの要領で、満月さんの式神になれば、ということでしょうか」「わかっているじゃないか」大きく頷く満月に、吽野はブンブンと首を横に振って抵抗する。「冗談じゃない!あんな手荒なこと、許されていいはずないだろう!俺たちは神の遣いだぞ。主人以外の人間の思い通りに動くものか」「先生。背に腹は変えられないだろう」騒ぐ相棒とは真逆で、阿文は満月の提案に賛成していた。過去に助けてもらった満月への厚い信頼がそうさせるのかもしれない。「でもさ、阿文クンも見ただろう?四つ這いになって、化け物に齧り付かされて……酷い目に遭ったんだ」「まあ、慣れない戦い方ではあるな」「そうさ。陰陽師とは相性が悪すぎる。全然息が合ってなかった」「練習が必要なのは確かだな」満月はチラとカモの方にも視線を向ける。ああ、そういうことかと、カモの方も心得たようだ。「言ってなかったかもしれんが、カモの式神遣いは大したもんだ」「はぁ?」吽野が怒気を含んで対抗すれども、陰陽師たちは意にも介さない。カモはどこからともなく取り出した馬用の鞭を両手で持ち、しならせながら歪んだ笑みを浮かべた。「管狐の調教ならお手のものだが、犬はな……どこまでできるのやら」「ひっ……!」尖った息を漏らし、吽野は阿文に縋り付く。「先生、これも試練だ」式神としての厳しい修行が今まさに始まろうとしていた。【第二話 了】◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆※本作『阿吽』のご感想・ファンアートなどは#あうんくろねこ をつけてX(旧ツイッター)にて、ぜひポストください。[本作に関する注意]---------------------------------本作(テキスト・イラスト含む)の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信、譲渡(転売、オークションを含む)すること、あるいSNSなどネット上への公開・転載等を禁止します。また、内容を無断で改変、改ざん等を行うことも禁止します。
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