そんな想いに取りつかれながら読んだ、芥川賞作家・平野啓一郎さんの最新作『マチネの終わりに』(毎日新聞出版)。
簡単に内容を説明すると、主人公の女性・洋子には、婚約中の男性がいるのですが、とあるきっかけで天才ギタリスト・蒔野と知り合います。
そしてたった三度の逢瀬にも関わらず、その恋におぼれ、ついに婚約破棄してしまうまでの事態に。しかし、ほかにもまた蒔野に想いを寄せる女性がおり、洋子と蒔野の運命を大きく狂わせていく...というストーリー。
自分の「心」と「生き方」に向き合うラジオ番組で「日本文学によくある女性像とは違う女性を描きたかった」と語っていた著者の平野さん。
主人公の洋子は、いわゆる外で働く夫を、家を守りながら待つタイプの女性ではありません。自らがキャリアを積み上げるだけでなく、男性ですらひるんでしまうような仕事も積極的に挑戦していきます。
婚約中なのに、婚約を破棄してほかの男を好きになる。
こう見るとどうしようもない女性に見えますが、恋愛においても仕事においても、主人公のさまざまな決断には、「自分の人生を自分の手でしっかりと紡いでいる」という自信を感じました。
価値観は自分で決める「なんとなくこの人と結婚するんだろうな」と思って付き合っているけれど、心のどこかで「本当にそれでいいのかな」と思っていたり、選んだ相手の意向にどこまで沿えるかで悩んだり。
まわりのことを先に考えてしまうあまり、自分の気持ちを押さえ込んでしまうことがありますが、しあわせだと思える人生は自分のなかにだけ答えがあるということ。
そこまで突き詰めて自分の人生と対峙できる現代女性の価値観は、ときに、親の世代には理解されなかったりします。しかし、それこそがまさに平野さんの描きたかった「日本文学によくある女性像とは違う女性」。
「こうするのが当たり前」や「普通は...」という考えかたを、気持ちよく覆してくれる一冊です。
撮影/田所瑞穂
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