自分の想像の枠をはるかに超えたものとの出会いは、驚きとともに子どものころに感じていたワクワクした気持ちを思い出させてくれます。
そんな気持ちにさせてくれたのが、やくしまるえつこさんが「アルス・エレクトニカ賞」で日本人初のグランプリを受賞した、というニュース。快挙です。
世界最大の国際科学芸術賞で、日本人初のグランプリ受賞音楽家・アーティスト・プロデューサーとして活躍するやくしまるえつこさん。「相対性理論」というバンドのボーカルとしても有名です。
そんな彼女が、世界最大の国際科学芸術賞「アルス・エレクトロニカ賞」の『STARTS PRIZE』でグランプリ(Grand Prize for Artistic Exploration)を受賞したのです。
グランプリを受賞した『STARTS PRIZE』は、世界中でもっとも優れた、科学・芸術・テクノロジーがクロスオーバーした作品を決める賞で、欧州委員会(EC)からの命を受け実施しているもの。そのレベルの高さは、メディアアート界のオスカーと評されるほど!
受賞した作品は、『わたしは人類』(英語名:Etsuko Yakushimaru - "I'm Humanity")。
どんな作品なのかというと...
バイオテクノロジーを用いて制作した作品であり、"人類滅亡後の音楽"をコンセプトに新しい音楽──伝達と記録、変容と拡散──の形を探るプロジェクトで、人類の歴史上初めて「音楽配信」「CD」「遺伝子組み換え微生物」の発表された音楽作品。
とのこと。
とてもとてもわかりやすく言うと、「音楽とCDと微生物を作った」ということになります。
日本に古くから生息するバクテリアのDNAを音楽に残すそして、この作品の基になっているのが、微生物の塩基配列。塩基配列とは、遺伝子情報であるDNAなどの並び順のこと。
『わたしは人類』の楽曲で用いられたのは、日本に古くから生息するシアノバクテリアの一種である微生物・シネココッカスの塩基配列。つまり、微生物のDNAの並び順を基に作曲したということになります。
さらに、この楽曲の情報をDNAコード化し、DNAを人口合成して、この微生物の染色体に組み込み、実際に『わたしは人類』の遺伝子組み換え微生物を制作しました。
やくしまるさんによると、
「この音楽をDNA情報にもつ遺伝子組換え微生物は自己複製し続けることが可能である。いつか人類が滅んだとしても、人類に代わる新たな生命体がまたその記録を読み解き、音楽を奏で、歴史をつなぐことになるだろう」
と話しています。
つまり、未来の人がこの遺伝子組換え微生物に出会って、そのDNAコードを読み解いたら、いまとつながる可能性があるということ。まさに記録と伝達そのものです。
シネココッカスという微生物の塩基配列を元に、音楽とCDと微生物を作った、というのが『わたしは人類』という作品なのです。
音楽は時空を超えて拡散していくこの作品について、やくしまるさんはこう話しています。
「人類は古来より伝達と記録によってその歴史を継続させてきた。そして音楽の歴史もまた、伝達と記録、ひいては変容と拡散の中にある。歌われ/奏でられた音楽は、口承で/楽譜で/ラジオで/レコードやCDで/クラウドで、他者に伝えられ/複製され/演奏され、その過程で変異を発生させながら時空を超えて拡散する。音楽とメディアの深いかかわりは、伝達と記録の関係性であり、それは遺伝子とDNAであるとも言える」
人類の歴史は、伝達と記録によって途切れることなく続いてきて、それは音楽も同じ。そして、伝達と記録の関係性は、生物におけるDNAと同じでもある。
壮大な歴史の流れから見たら、自分の人生はほんの一瞬だけど、DNAによってそれはずっと続いていきます。そんな思いが込められているのが『わたしは人類』。タイトルの意味も納得できます。
遺伝子情報を動画で視覚的に感じるそして本日、『わたしは人類』のふたつの映像作品が、みらいレコーズオフィシャルYouTubeチャンネルにて公開されました。ひとつめは、『わたしは人類』の実際の遺伝子情報を基にしたビデオです。
この映像は 1970年代に登場した生命の誕生、進化、淘汰などのプロセスを簡易的なモデルで再現したシミュレーションゲームである「ライフゲーム」のアルゴリズムを使って作られています。
もうひとつの映像は、で、2016年12月に『わたしは人類』の遺伝子組換え微生物が展示された山口情報芸術センター [YCAM]での、やくしまるえつこのバンド「相対性理論」による『わたしは人類』のライブパフォー マンス映像です。
このライブパフォーマンスでは、シネココッカスのDNAに基づき『わたしは人類』の譜面中に仕掛けられたトランスポゾン(ゲノム上を転移する、突然変異の原因となる遺伝子)のパートにおいて、実際に突然変異が起こるアレンジで演奏されました。
遠い昔から続いてきた人類の歴史。DNAという情報に置き換えて作品に残すということは、やくしまるさんが生きた証を刻む行為そのものです。
自分がいつこの世から消えるかなんてわからないけれど、DNAの記録は伝達され続けていくはず。そう思うだけで、頭のながぐわーんとどこまでも広がっていく。想像の枠を超えるって、気持ちいい!
文/ダーシー
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