岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/09/28
今日は、2019/09/08配信の岡田斗司夫ゼミ「宮崎駿を精神分析できるのが、『風立ちぬ』でも『もののけ姫』でも『千と千尋』でもなく、『ポニョ』である理由」から無料記事全文をお届けします。
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本日のお題と「目指せ登録10万人」
【画像】スタジオから
こんばんは。岡田斗司夫ゼミです。
今日は9月8日ですね。一応、外は台風で、なんか、どんどん強いことになってるみたいですね。
今日は『崖の上のポニョ』。先月はちょっとだけ話したので、今回で、まあ、これで決着という感じでやってみたいと思います。
一番最初はね、最近、全然、雑談をやってないから、雑談しようかなと思ったんですけど。今週は、もうずっと台風が近づいてて、気圧が低くてシンドくて、グダグダしてるだけだったんです。
事務所が手狭になってきたので、そろそろ引っ越そうと思っているんですけども。まあ、事務所を引越しても、スタジオはこのまま動かさないんですけど。ただ、プラモデル類は新しい事務所の方に持っていこうと思っているので、10月くらいに、後ろの棚の配置が大きく変わると思います。
さっきも言った通り、最近、雑談が出来てないんですよ。来週も本の話をしようと思っているから、再来週くらいに雑談スペシャルやりたいと思います。なので、質問とか励ましのお便りでも、なんでもいいですから、再来週くらいまでに、メールをくれれば嬉しいです。
・・・
YouTubeの方は、いよいよチャンネル登録者数が10万人に近づいて来ました。このペースで行くと、ヘタしたら、来週の日曜の9月15日までには10万人を超えちゃうかもわからない。
ただ、10万人といっても、YouTuber業界では、もう全然、大した事のない数字なんですよ。もう本当に、これまで弱小の小規模チャンネルだったところから、中規模になったくらいで。
よく芸能人の人たちが言っている「目標は100万人!」というのは、もう僕にとっては、全く遠い話で。
今、「チャンネル登録してなかった」とコメントしてる人がいたんですけど、「頼むから登録してくれよ!」と思います(笑)。
まあ、登録するとどんな良いことがあるのかというと、どうも噂によると「チャンネル登録者数が10万人を超えると、Googleから人間扱いしてもらえる」そうなので、出来れば人間扱いして欲しいなと思うので、10万人を超えた特典の「銀の盾」というのも、貰ったら後ろの棚に飾りますから、ぜひよろしくお願いします。
別に、10万人という数字がYouTuber業界としては全然大したことはないというのは、もう、みんなもわかっている通りだと思うんですけど。ただ、自分的には「よし、ちゃんと10万人を目指そう!」と思って、一応、半年くらい掛けてやってきた準備が、ようやっと叶うことになるわけだから、「ああ、なんか久しぶりに達成感がある」って。いわゆる「ダイエットしてて、体重がちゃんと減っていることを、数値として自分で管理できている」っていう気持ちよさがあるから、なかなか良いんですよね。
10万人を超えたら、何かイベント=変なステッカーを発行しようと思うので、よろしくお願いします。
じゃあ、今週の『なつぞら』から行きましょうか。
『なつぞら』予測、放送時期の背景と千遥の「出番予想」
【画像】スタジオから
今週の『なつぞら』です。
今週は、死んでしまった天陽くんとなつの対話のシーンがありました。
(パネルを見せる)
【画像】天陽くんの絵 ©NHK
ちょっと暗くてわかりにくいんですけど。ここにあるのは天陽くんの絵なんですよね。なつが天陽くんの絵と向かい合って話すシーンで「いつの間にか天陽くんがそこに出てきて、なつと2人で話すことになる」という話になっています。
別に、オカルトっぽい話というわけではなくて、「なつが自分の思っていることを天陽くんに整理してもらう」というか「後ろから背中を押してもらう」という感じなんですけど。これがまあ、なかなか良いシーンなんですね。
なぜ、良いシーンだと僕が言うのかと言うと、ただ「この天陽くんの絵が、いつの間にか本物の天陽くんに変わってた」くらいだったら、別に何とも思わないんですよ。でも、実は、6月くらいの放送では、この天陽くんが描かれた絵には、もともとなつが描いてあったんですね。
【画像】なつの絵 ©NHK
自分の好きな女の子の絵を肖像画として描いてたんだけど、その女の子は東京に行ってしまって、その時に貰った手紙には「私は仕事を頑張らなければいけないので、もう帰らない」と、ハッキリとした意思が書いてあったんですよね。
その手紙を見た天陽くんは、大好きな女の子の肖像画の上から、赤い絵の具でググッと塗り潰して、その上に自分の肖像画を描いたんですよ。
なので、このシーンは「なつが天陽くんに話しかけている」ように見えて、実は「なつは天陽くんの肖像画の奥にある自分自身と話している」というふうに作られているんです。
なので、「ああ、脚本家はこれを狙っていたんだな」と。6月の放送を見た時点で「このなつの肖像画を塗り潰すシーンは、後々の伏線だな」と思ってたんですけど、ようやっとここで伏線が解消されたか、と。
まあ、このシーンは僕的には「はいはい、なるほどなるほど」くらいだったんですけども。ちょっと感動しちゃったのが、その後なんです。
天陽くんの遺作となったのが、この「雪月」っていう十勝のお菓子屋さんのお菓子のパッケージなんですね。このパッケージの包装紙を天陽くんが描いたんです。この包装紙が、超カッコよかったんです。
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【画像】包装紙 ©NHK
まあ、あの、ツッコミどころとしては、いろいろあるんですよ。「雪月」なんですよ、このお菓子屋さんの名前は。「雪月」なのに、この包装紙には「雪」もなければ「月」もないという。「昭和40年代にこれはありえないだろう」というような、アバンギャルドな包装紙なんですけど(笑)。
この包装紙に描かれているのは、十勝の大自然の中、女の子が1人立って景色を見てて、その視線の先には農場の柵がバーっと走ってて、向こうの方には山が見える。
この風景が、ちょっとカッコよくて、グッと来てしまいました。
・・・
というわけで、お待たせしました。ついに『アルプスの少女ハイジ』が始動したわけですね。
『アルプスの少女ハイジ』をドラマの中で扱うことは、もう、前からわかっていた通り。「ああ、これはクライマックス前で、スタッフ全員で十勝にロケハンに行くぞ」と言ってたら、もう、来週の予告で、みんなでロケハンに行ってるシーンがありました。
(パネルを見せる)
【画像】ロケハン ©NHK
イッキュウさんが娘の後ろでズッコケてて見えないんですけど、おそらく、全員集合しています。
ロケハンで一番大事なのは「美術監督を連れて行くこと」なんですよね。「美術監督を連れていって、実際の世界を見せる」というのが大事なんですけど。でも、美術監督は天陽くんのお兄ちゃんなので、別に連れて行かなくてもいいんですよね。だけど、一応、一緒に行っているという感じになっています。
この元ネタになったのが、『アルプスの少女ハイジ』製作時に実際に行われた、スイスでのロケハンですね。
(パネルを見せる)
【画像】スイスのロケハン
左から、若き頃の宮崎駿、若き頃の小田部さん、若き頃の高畑さんと並んでいますけど。
この『アルプスの少女ハイジ』という、1974年1月に始まったアニメ。ロケハンに行ったのは73年なんですけど。このアニメが、もう、どれだけ画期的で、どれだけその後のアニメの作り方を変えたのか。特に、その頃まで、アニメはテレビマンガと言われてたわけですね。
まあ、そういう話は、そのうちしたいと思います。
これをやるからには、『アルプスの少女ハイジ』をドラマ内で扱うということなんですけど。タイトルは、『十勝の少女そら』にして欲しいところですけど。
予想通り、最終回では、オープニングのアニメとドラマ内のアニメ、あと登場人物を混ぜるくらいのことはやるかもわかりません。
つまり、登場人物が動いているところをビデオで撮って、それをロトスコープでアニメーションとして動かして、キャラクター達と合わせる。または、『メリー・ポピンズ』みたいに、実写の人物とアニメとの合成は……しないと思うんですけど。「オープニングのアニメと劇中のアニメが重なる・繋がる」というのはやるはず。
まあ「やるはず」という言い方にはなるんですけども。
・・・
さらに今週、ついに、その企画書が出てきました。
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【画像】企画書 ©NHK
企画書には、「作品紹介:テレビ漫画」「タイトル:未定」とあります。まだ『大草原の小さな家』か、もしくは『大草原の少女ローラ』をやると見せかけていますけど、絶対にそんなことはないはずです。
「作画監督:奥原なつ、演出:坂場一久」と書いてあります。ところが、注目すべきは「放送開始:1974年10月、全39話」という部分。ここが、ちょっと不思議なんですよ。
なぜかというと、実際の『アルプスの少女ハイジ』は、1974年1月6日から放送がスタートしてるんですね。
じゃあ、なぜそれを10月と言うのか? 書かなくてもいいんですよ。別に「1974年夏」とか「秋」とか書きゃあ良いんですけど。
なぜ10月と書かなきゃいけなかったのかというと、まあ『宇宙戦艦ヤマト』があるからですね。実は『宇宙戦艦ヤマト』は『アルプスの少女ハイジ』の裏番組なんです。
そこら辺を少しまとめてみたんですけど。
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【画像】なつ37才の番組
『アルプスの少女ハイジ』というのは、74年1月から4クール=1年間放送されてるんですね。
それに対して、『宇宙戦艦ヤマト』は74年10月。
だから、「『ハイジ』と『ヤマト』はライバルだった」とか、もしくは「『ハイジ』の大ヒットによって『ヤマト』が打ち切られた」という話があるんですけども、実際はそうではなくて、被ってた期間は、実際には3ヶ月くらいしかなかったんです。『ヤマト』が打ち切られたころには、『ハイジ』がもうとっくに終わってたから、別にそれが理由で打ち切られたわけでもなんでもないんです。
じゃあ、なぜ……ここには、僕が勝手に『北海道の少女そら』って書いてるんですけど、これは勝手に僕がつけたタイトルですからね。
なつとイッキュウさんが北海道に行った時に、空に向かって「やるぞ! そら!」と叫ぶという、不自然なセリフがあったので、「これはもう、脚本家の伏線だ」と。まあまあ、伏線をちゃんと張りたいんだけど、あんまり上手くない人なんですよ。なので、クライマックスで作ることになるアニメのタイトルは「そら」になるだろうというのが僕の予想なんですけど。
なぜ、現実の歴史では放送期間にズレがあったところを、ドラマでは揃えて来たのかというと、「おそらく『宇宙戦艦ヤマト』がライバルになったことで、『そら』は視聴率で負けて打ち切りの危機に瀕する!」というのが、クライマックスの一山になるに違いないからですね。
あ、これはもう、僕の妄想ですよ? 僕の妄想なんですけど。「打ち切りの危機に遭うに違いない」と。
となると、この人が登場するわけですね。「のんの出番はここだ!」という予測なんですけど。
(パネルを見せる)
【画像】のんの出番予想
前回、「『宇宙軍艦ムサシ』の悪のプロデューサーとして出演するんじゃないか?」と言いました。
しかし、「NHKもそこまで冒険しねえだろう」と。「レプロエンタテインメントと、そこまで正面切って喧嘩する根性はねえに違いない」と。「元SMAPのメンバーもあんまり使わねえしな!」と。
ということは、そら役の声優として、なんか「山へ帰って来たんだよ、わーい!」という声だけやらせて、本人は後ろ姿しか映さないという、ちょっとレプロ側に気を使いつつも、「朝ドラ100作目ですから、今までの全主演女優を出します!」というのをやるんじゃないのか、と。
ということで、「のんの出番はここだ!」予想としては、僕の本命は「悪のプロデューサーとして『宇宙戦艦ムサシ』を打ち出して、『そら』を打ち切りに追いやりかけたプロデューサーとして出てくる」というのをやって欲しいんですけども。対抗としては「ちょい役の声優」くらいでしょう。
・・・
となると、最後のクライマックスは「『そら』が打ち切られるかどうか?」になるはずなんですよ。……あ、これ、僕の妄想ですよ?
そして、もう1つ「離ればなれになった妹とどう再会するか?」なんですよ。
なつには千遥っていう妹がいましたよね?
でも、あの妹の役者さんって、たぶん、16か17くらいだと思うんですけど、『アルプスの少女ハイジ』がオンエアされる頃って、なつは37歳なんですよ。なつと妹は3歳か4歳差だったから、再登場する頃には、34歳くらいになってなきゃいけないわけですね。
でも、あの妹の役者さんに34歳の妹を演じさせるのは、これはもう、無理なんですよ。
では、どうするのか? こうなると、もう「妹はその頃、既に死んでいて、残されたその一人娘は妹にそっくりだった」という設定で出す以外にないと、僕は思っているんです。
「死んだ妹の遺言を伝えにきた、残された一人娘は妹そっくりだった」とかなら、19歳で娘を生んだとしても、その時点での年齢は14歳くらいだから、可能だろうと。
ということで、「妹千遥の出番はここだ!」予想というのも作ってみました。
(パネルを見せる)
【画像】千遥の出番予想
設定としては「千遥の遺児」です。立場は「カルピス乳業の跡継ぎ」です。そして、決め台詞は「『そら』をもっと見たい!」です。
『宇宙戦艦ヤマト』……じゃないな。『宇宙軍艦ムサシ』の爆発的な人気に負けて、『そら』は打ち切り寸前になります。しかし、そこへ助けの手が伸びる。
なつの妹千遥は、実はスポンサーとなるカルピス乳業の御曹司と結婚していたんですね。こんな結婚をしたから、戦災孤児という過去を隠したわけです。
その後、跡継ぎを生んだあと死んじゃったんですけど。ここで、一人娘であり母千遥にそっくりな女の子が「『そら』をもっと見たい! 私が打ち切りにはさせません! 私に出来ることは何かありませんか?」と言いに来るんです。
その結果、カルピス一社提供の『カルピスまんが劇場』がここで誕生して、資金援助する、という話になるんじゃないかと。
さらに後には、この千遥の一人娘は、カルピス乳業……ドラマの中では名前は変わるでしょうけど。カルピス乳業みたいなところの協力を取り付けて、十勝にアニメスタジオを作ってくれる。
なつたちが勤める、理想のアニメを作れるというスタジオです。
たぶん、そのアニメスタジオの名前はスタジオシロッコというんですよね。「シロッコ」というのは、イタリア語で「熱い風」という意味なんですけども(笑)。
そして、そんな、イタリア語で「熱い風」という意味の名前を持ったスタジオシロッコは、後に、劇場アニメ『なつと千遥の神隠し』でアカデミー賞を穫ることになる。
もう、これでいいじゃん!
いや、『なつぞら』って、最終話までの撮影はもう終わってるそうだけど、「ナレーションで、なんとかこう、こっちの方に持って来てよ!」と思うんですよ(笑)。
というわけで、今週の『なつぞら』予想でした。
また来週は違うことを言うと思います。
「鈴木プロデューサー役は?」(コメント)
ああ、鈴木プロデューサー役ね。あんな悪い顔が出来る人は誰だろうね?
「鈴木さん本人がいいんじゃない?」(コメント)
そんな、酷いな。まあ、それでもいいんだけどね。
質疑応答『ポニョ』の「観音様」「心霊スポット」
【画像】スタジオから
じゃあ、次の話題に行ってみましょう。『ポニョ』ですね。
久しぶりにネコロンの出番です。
【画像】ネコロン
ネコロン:恐怖! 地元民も恐れる『ポニョ』の心霊スポットにゃあ!
ということで、チャンネル会員池尻三津男さんからのお便りです。
私は『ポニョ』の舞台になった広島県福山市に住んでいます。
前回の『ポニョ』のお話で、グランマンマーレの巨乳が小金井丸に迫ってくる部分で、小金井丸の船員が「観音様だ!」と叫びます。
なぜ、グランマンマーレを見て観音様だと思ったのか不思議に思っていました。しかし、船に迫ってきたのが、巨大なおっぱいだと考えたら納得いきました。
鞆の裏には地元の人がよく知る観音様がいます。まさに崖の上にある観音堂なのですが、阿伏兎観音(あぶとかんのん)という航海の安全と安産、特に母乳がよく出るようなご利益あり、お堂の中にはたくさんのおっぱいの絵馬。
地元の船乗りは「大きなおっぱい=阿伏兎観音様の化身」だから、「あ、観音様!」と言ったのかということで、とても納得出来ました。
これですね。おっぱい絵馬がいっぱいあるんですね。
(パネルを見せる)
【画像】おっぱい絵馬
手作りの、おっぱいを象ったやつが。
ええと、阿伏兎観音だけではなく、瀬戸内海には、岡山県などにも他のおっぱい観音がいっぱいあるんですけど。
・・・
池尻さんの話はまだ続きます。映画後半のモデルになった場所についてです。
ポニョと宗介が後半で行く場所、実際の場所は福山グリーンラインとその一帯です。
観光リゾート有料道路福山グリーンラインは、その後、児童が殺害され死体が遺棄される事件があり、地元では有名な心霊スポットになりました。
地元の人間にとっては映画後半部は心霊スポットの目白押しです。
大津波の後、町の人が山の上のリゾートホテルを目指しているのは、なぜなのか? モデルとなったのは、どれもググれば心霊スポットとしての記事がいっぱい出て来る場所です。
この世かあの世かわからないような映画で、町の人みんなが心霊スポットであるホテルを目指す姿に、地元民は恐怖を感じます。
ホテルの看板がカメラの前を横切ったり、ホテルの存在をアピールしているように見えます。
ということで見てみたんですけど。
(パネルを見せる)
【画像】宗介とポニョ © 2008 Studio Ghibli・NDHDMT
確かに、宗介とポニョの船が行くシーンで、この「山の上ホテル」って看板が、不自然にこうシューッと通り過ぎるんですよね。何か意味ありげなんですよ。
この山の上ホテルというのは、宮崎駿がロケハンで訪れる20年くらい前に廃墟となったホテルだそうです。
「なぜ、みんなでホテルを目指しているんでしょうか?」って書いてあるんですけども。
もうね、この辺は「解釈したければいくらでもどうぞ」という、宮崎駿からのサインなんですね。
「『ポニョ』は死後の世界を描いた作品」という説もあるかもわからないけど、でも、この町の人たちはおめでたい大漁旗とかを出してもいるんですよね。
なので、『千と千尋』の頃にやったような、死を暗示させたり連想させるものを出すことで、中を読まれるということをやられたくないから、わざと反対のものも出して、ちょっとわかりにくくしているんですね。
そうやってわかりにくくしているからこそ、余計に宮崎駿の無意識がむき出しになっちゃってる映画になっていると思います。
・・・
まだお便りは続きます。
山の中の道路でリサの車が止まってしまいます。
なぜ、車は止まってしまったのでしょうか?
リサの車と同様に、観音様が通り過ぎた小金井丸もエンジンが停止しています。
ちなみに福山グリーンラインの心霊現象として、とても有名なのは「車のエンジンがかからなくなる」というものです。関係あるのでしょうか?
グリーンライン辺りの最後の疑問はトンネルです。なぜ、ポニョはトンネルに入るところで「ここ、嫌い」と言ったのでしょうか?
モデルとなったのは、室浜トンネルか、阿伏兎隧道(あぶとずいどう)だと思います。児童誘拐殺人事件の時、トンネル近くに死体が遺棄されたため、トンネルも有名な心霊スポットです。
こんなふうに書いてあって、「もう嫌だよ!」って思うんですけど(笑)。
でも、確かにそうなんですよね。
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【画像】ポニョと宗介とトンネル © 2008 Studio Ghibli・NDHDMT
シーンとしては、上からカメラが降りて行って、下まで降りて行くと、ポニョと宗介が手を繋いで入ろうとしている。この時、「止まれ」という字がハッキリ読めるように書いてあるわけですね。
もうね、やっぱり、かなり不気味なシーンとして、わざと作ってるんですよ。
この「子供2人が手を繋いで止まれと書かれた場所に入って行く」っていう光景、どこかで見たことあるなと思ったら、『ウルトラQ』という昔のドラマに「悪魔っ子」というエピソードがあったんですよね。
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【画像】悪魔っ子 © TSUBURAYA PRODUCTIONS Co., Ltd.
これは「悪魔っ子」のレーザーディスクのボックスアートなんですけど。
トンネルとか線路というのは「あの世への道」というのを暗示しているんです。線路というモチーフは『千と千尋』で使ったので、今回はトンネルを使ったんでしょうけども。
この「2人で手を繋いで行く」については、ダイアン・アーバスという、アメリカの貧困とかそういうのをテーマにして撮っていた写真家がいたんですね。
19世紀の末から20世紀の頭くらいに、アメリカ中の貧困家庭で写真を撮っていたんですけど。その中で撮られた双子の女の子の写真が、やっぱり、すごく怖いイメージだったんですよ。
そのダイアン・アーバスという写真家の双子の写真のイメージは、後にスタンリー・キューブリックの『シャイニング』という映画でも使われました。「双子の女の子が手を繋いで出て来る」というだけなのに、ゾッとするという。このシーンは、やっぱりダイアン・アーバスの写真の持っていた不気味さというのを強調してるんですけど。
この「悪魔っ子」というのも、その辺りを強く意識しています。こういうふうに「小さな子供2人が手を繋いで道を行く」といったら、僕らはやっぱり、こう、ちょっと怖いものを感じてしまうんですよね。
と、同時に、ストーリー的にいえば「嫌がるポニョを連れて行く」というのが大事なんですね。
なぜかと言うと、これは宗介の試練なんです。「これからの人生、宗介は夫の義務として、ポニョが嫌がることもやらせなければいけない」と。
「ポニョが蓋を開けてしまったパンドラの箱を戻し、この世界を洪水から救う」という、神話的な試練のシーンでもあるから、こういう構図になっているんでしょうけども。
でも、なんかやっぱり、ちょっと薄気味悪いですよね。
・・・
最後、「エンディングの背景の街が作中に出ている街と違う」という指摘もありました。
「エンディングの絵では海に向かって左側に灯台があって、右側に宗介の家がありました」と。そうなんですよ。
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【画像】家から街へのシーン © 2008 Studio Ghibli・NDHDMT
これ、宗介の家から街に向かうシーンなんですけど。海が左側にあって、宗介の家は後ろにあります。造船所が奥にあるんですね。
ところが、エンディングでは、位置関係が逆になっている。
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【画像】エンディング画面 © 2008 Studio Ghibli・NDHDMT
エンディングでは、カメラが左の灯台が見える風景から、ずーっと右に流れていって、街があって、養老院と保育園の合体したものがあって、さらに宗介の家があるんですね。つまり、宗介の家と、造船所や保育園の位置が左右逆になっちゃってるんですよ。
「左右が反転してるのかと思いましたが、造船所やひまわりの家の位置関係は正しく描いてあります。なぜでしょうか?」という指摘がありました。
これね、確かに矛盾しているんですけども。まあ、最後に語ろうと思います。実は、ここは明らかに意識しているメッセージの部分なので。
この「エンディングで見える街と、映画の中に出て来る街の配置は、なぜ左右逆なのか?」というのは、今日の有料放送の最後で話します。
まあ、大雑把に言うと、これこそ宮崎駿が仕掛けた大トリックなんですね。これまでの自分の作り方というのを、全部ひっくり返して辿り着いた、かなり面白いエンディングだと思います。
あと、実際、今、見せたエンディングの絵の上にスタッフリストが出てくるんですけど。このスタッフリストにも、実はあるスキャンダルが隠されているんです。
こっちは、プレミアムの放課後放送で話す予定です。
・・・
もうね、ここまで25分くらい話しました。
前回、途中で休憩を入れるとかなり楽だったので、ここからは3分、休憩入れますので、トイレに行きたい人はどうぞ。
まだ無料放送は続きますけど、再開は8時28分くらいにして、僕はちょっと休憩してますから、トイレに行ってらっしゃい。
そうだな、今日はコーヒーもあるから、コーヒーを飲もう。
「コメント拾って」(コメント)
はいはい拾うよ。
「3分待ってやるといって、3分待たないムスカ方式」(コメント)
なかなか良いですね。
「積みプラ作りましょう」(コメント)
あのね、積みプラ作ろうと思ったんですけど、愚かなことにレゴを爆買いしてしまったんです(笑)。
なので、ちょっと今月はレゴをやって、あとは『千と千尋』の湯屋のジオラマ作らなきゃいけないので、そっちの方がなかなかシンドそうなんですね。
「ブレランIMAX」(コメント)
ああ、「見たいな」と思いながらもね。
池袋の超巨大なIMAXで映画を見れると、メッチャ良いそうですね。というか「4Kで『ホルス』を見るとすごく良い」って話を、氷川さんが今日、Facebookで書いてたので、「ああそうなのか」と思って。だから、ちょっと見たいものはいっぱいあるんですけど。
「なんのレゴですか?」(コメント)
うーんとね、買った中で一番シンドそうなのは……とりあえず、基本的に僕は街が好きなんですよ。だから、レゴで街のシリーズを買ってるんですけど。
でも、もう3年くらい新しいのを買ってなかったので、新しく出たのが溜まっていたので、それを買ったんですけど。
あとは、一番古い形のミレニアム・ファルコンのレゴを買ってしまって。もうね、小学生の机くらいのサイズの箱が届いて、目の前がもう本当にボワーっとしたんですけど。頑張ってやってみようと思います。
「ジオラマはレゴで作ったら?」(コメント)
そうなんですよね。最終的に、ジオラマはレゴで作れたらすごく気持ちがいいと思うんですけどね。
でも、レゴのオリジナルビルダーになれるほどのセンスも腕もないので、なかなかツラいですね(笑)。
やりたいと思うんだけどね。やりたいことがあるわりに、能力と才能にそんなに恵まれないので、シンドいでございますよ。
あ、28分になったね。じゃあ、そろそろ始めます。
『ポニョ』誕生までの思考過程
【画像】スタジオから
「ジブリがいっぱいCOLLECTION」から出てる『ポニョはこうして生まれた。~宮崎駿の思考過程~』というドキュメンタリーがあるんですよ。
(パッケージを見せる)
【画像】ポニョはこうして生まれた。パッケージ
これ、2枚組なんですよね。2枚組で、1枚目が5時間47分あって、2枚目が6時間45分もあるんですよ。全部で、もう本当に12時間以上あって、メチャクチャ辛いんですけど。まあ、出来るだけ全部、見たは見たんですよ。
全部見たら、やっぱり面白くて。例えば、一番初期の『ポニョ』のイメージは、『崖の上のいやいやえん』というタイトルなんですね。
(パネルを見せる)
【画像】ポニョ初期イメージ © Studio Ghibli・NDHDMT
この時点で、わりとね最初っからフジモトのイメージが決まっていたことがわかります。宗介の方も、一応、それっぽいキャラは描いてあるんですけど。それよりも遥かに大きく、フジモトが描かれている。
あと、ポニョが最初は魚ではなく、カエルのお姫様だった。つまり、グリム童話の『カエル王子』に近い話で、それを男女逆パターンにして「カエルの王女様が男の子にキスをしてもらうと人間になる」という話をやろうとしていたのがわかります。
ただ、もう、このドキュメンタリーって全部で12時間以上あるので、途中で何を見ているのかわからなくなってくるんですよ。あまりにも情報が膨大なので。
なので、今日はこのすごく長いドキュメンタリーの情報の全体構成を簡単に紹介しようと思います。
・・・
というわけで、冒頭はなかなか混乱してたんですけど、作画監督の近藤さんの娘のフキちゃんという女の子をモデルにすると決めてから、一気に『ポニョ』は進みます。
(パネルを見せる)
【画像】フキちゃん
これがフキちゃんなんですけど、「ポニョだよ、まさに!」って、宮崎さんが叫んでます。
とにかく子供らしくない気の強さ。1歳になると哺乳瓶を自分の手で飲むのが当たり前なんですけど、実は、フキちゃんは、親に哺乳瓶を持ってもらわないと飲まないんですよ。
オモチャとかは自分の手で掴む、気が強い女の子なんですけど。ところが、ご飯だけは下々の者、親に持たせて、それを気だるげに飲むという、メチャクチャワガママな少女だそうです。
このフキちゃんの目が釣り上がっているのを見て、「これだ!」というふうにピンと来たわけですね、宮崎さんは。
面白いのが、ピンときて、いきなりボードを描き始めるんですけど。ボードを描きながらですね、「おお、かわいいね。騙されないぞ、俺は!」って言うんですよね。
つまり、「フキの可愛さに騙されないぞ! お前は大した女だ! 親の言うことなんか全然聞かずにワガママで、すごい女に違いない!」って(笑)。
近藤さんは「いや、女の子だからって関係ないですよ。男の子も女の子も子供の頃はそんなもんですよ」って言うんですけど、宮崎さんは「いや、俺は騙されない、騙されないぞ!」と言って、そのまま、こういう絵が生まれたんですね。
(パネルを見せる)
【画像】ポニョ © Studio Ghibli・NDHDMT
それまでかわいく描いていた主人公の女の子の目を、ちょっとつり目にしたんですよね。「気が強く、欲しいものはなんでも欲しいと言う」という、まあ、強欲なキャラクター。「ただ、かわいいだけでなくワガママなヒロイン像が見えてきました」というふうにナレーションが言ってます。
これで、キャラが決まったわけです。「このキャラクターが大津波に乗って、街を海に沈めてまで、自分の好きな男に会いに来る」というお話だということが、宮崎さんの中で一気にまとまったわけですね。
プロットというかお話全体はそれまでに決まってたんですけど、「どんな子がそれをやるのか?」という部分については「そうか! これはフキみたいなワガママな女の子が、目をつり上げて他の迷惑とか顧みずに来る。そこがいいんだ! そこがかわいいんだけど、騙されないぞ俺は!」というふうに宮崎さんが自分自身に言いながら、作っていたんですね。
このドキュメンタリーを見ると、本当に宮崎さんの思考過程が手に取るようにわかるんです。
・・・
その中で迷っていたのが、「じゃあ、どうやって来るのか?」という部分。
(パネルを見せる)
【画像】海を走るポニョ3枚 © Studio Ghibli・NDHDMT
これは有名な、僕も『ポニョ』の中で一番好きな、走りのシーンなんですけど。このポニョの走り方、やっぱりすごい上手いんですよ。
具体的に言うと、「水を踏みしめるシーンでも、僅かに足が水に沈んでる」んですね。
こういう水の上を走るところを描く時って、やっぱり、水面の上を走らせちゃうんですよ。でも、ここではそうじゃなくって。
『もののけ姫』でシシ神が水の上を歩く時に、水の中に蹄が僅かに沈むじゃないですか。ここが宮崎駿の絵のイメージのすごいところだと思うんですけど。やっぱり、『ポニョ』も、ちょっと踏みしめて沈むんです。
と、同時に、この3枚目の絵を見てください。これ、「両足とも浮いている」んですね。
この走っている人間の両足が浮く絵というのは、これまでのジブリのリアリティのあるアニメでは、わりとやらなかったことなんですね。
『未来少年コナン』とか『ルパン』ではやってるんですよ。コミカルだから。
あと、『アルプスの少女ハイジ』でも、ハイジがオープニングでスキップしているシーンでは……これは宮崎さんの絵ではないんですけど、やってるんですね。
そんなふうに、ある種「ファンタジーとしてだったらアリ」「ギャグとしてだったらアリ」なんですけど。リアリティを持ったジブリの作画で、両足とも空中に浮いているという、人間の走りではない描写というのは、これまで描かなかったんです。
だけど、それを『ポニョ』ではあえて描いていったんですね。
(パネルを見せる)
【画像】宮崎駿の説明
これは「子供の走りって本当は重さがないんだよ」って、宮崎駿が一生懸命、作画監督の近藤さんに説明しているところなんですけど。
「重力がないんですよ。だから、止めのポーズが入らなきゃダメだ。これまでのジブリの作画ではなくて、空中で一瞬、止めのポーズが入るような絵でなければダメだ。空中でヒョイと浮いている。この足をこんなふうに蹴上げないといけないんだ」と。
ということで、宮崎さんはいきなり実演を始めます。「両足がなんか浮いているみたいな絵が入っていると思うんだけど」と言いいながら、何回も何回も、自分で空中で止まるような感じで試しているんですね。
昔のマンガのようなアニメをこれで作ろうとしたわけですね。
・・・
あと、ポニョの性格描写で、早いうちから決まったのが「宗介の持っているサンドイッチから、ハムだけを奪う」というシーンなんですね。
(パネルを見せる)
【画像】ポニョとハム © Studio Ghibli・NDHDMT
ピラニアのように奪うわけなんですけど、「ワガママで欲望に真っ直ぐなポニョ」を描いてます。
一応、『天空の城ラピュタ』の頃から「シータのような女の子も、段々したたかになって、年をとったらドーラになる」というところまで、宮崎さんは描いてたんですけど。
でも、「シータがどのようにドーラになるのか?」というのは描かれていなかったわけです。シータからドーラへというのは、やっぱり繋がらないんです。
宗介を振り回すポニョを描くことで、「あのシータですら、子供の頃は、超ワガママな女の子だった」というのを描かないと、シータからドーラまでは行かないんですね。
一番最初の原初の状態では、女の子というのは……後に10歳とか12歳くらいになったら、すごく思いやりがあって優しい子になる。だから、ポニョは映画の後半のクライマックス辺りで、自分の好きなものを赤ちゃんにあげて、ちょっと思いやりのある女の子に成長するんですよ。
だけど、その前の状態は、もっともっとワガママなもの。これを描くことによって、後に大人になってからそういう本性が表に出てきて、ドーラみたいなものになって、それがさらに湯婆婆、銭婆みたいなものになるという、宮崎さんの中での一連の流れが完成するわけですね。
宮崎さんは、『折り返し点1997〜2008』(岩波書店)というエッセイ集の中で、このようにポニョについて述べています。
ポニョは女性原理の生粋の状態。抑えるすべてのものに反撥し、後先考えずにただちに行動し、ほしいものを手に入れるためにつき進みます。食べること、抱きしめること、追いかけることに何の迷いも配慮もありません。多産系で猥雑で、恋ならいくらでもしちゃうキャラクターですが、この映画では幼児のままで、出会う男性によってどんな女性に成長していくか決まるのでしょう。
作画監督の近藤さんが一番わからなかったのは、フジモトなんですよ。
「なんでこのフジモトというのは、グランマンマーレと結婚して、ずっと一緒にいるんですか?」と言うと、宮崎さんは「それはね、永遠の男性像です。女性に苦しめられるんですよ」と言ってるんですね。
それを、美術監督の吉田さんが呆れて聞いてるんですよ。
(パネルを見せる)
【画像】美術監督 吉田昇
この呆れた表情。宮崎さんが言った瞬間に、こんな呆れた顔をしてるんですけど。
しかし、それにさらにかぶせるように、宮崎さんは「亭主は何千人っているんですよ」と。「グランマンマーレには実は何千人も亭主がいて、あの映画に出てきたフジモトは、その何千人のうちの1人に過ぎない。だから男はツラい。その男の永遠のツラさというのを表すキャラクターなんだよ」と言うんです。
それを聞かされた作画監督の近藤さんも、美術監督の吉田さんも、呆れ果てるばかりなんですけども(笑)。
この辺り、ドキュメンタリーのわりと見どころなんです。
で、呆れ果てる2人に、宮崎さんは「僕らの常識で考えちゃいけないんですよ!」って、なんか決まったようなことを言って、「その日の打ち合わせはそれで終わりました」って、宮崎さんが2階に上がって行くシーンで終わるんですけど。不安そうな吉田さんと近藤さんがメチャクチャ可哀想でした(笑)。
まあまあ、こんな感じで『ポニョ』の制作が始まったわけですね。
・・・
ちょっと待ってね。少し一休みしないと、もたないもたない。
「撮影はNHKの若手一人だった」(コメント)
そうそう。NHKの荒川君という兄ちゃんが、1人でカメラを持って。それも「すごい小さいハンディカメラ1個だけだったら持ってていい」ということで、300日間、撮り続けた映像の集大成なんですよ。
NHKでオンエアされたやつって、その中から、さらに1時間くらいに編集したやつを2つのスペシャルにしているんだけど。その中にも、茂木さんとかの語りとかが入ってて、正直、NHK版は面白くないんです。
でも、このジブリが出している、全部で12時間以上あるやつは、本当にひたすら面白いんだよね。
『ポニョ』の本質となる絵「ポニョ来る」
【画像】スタジオから
じゃあ、いつ、『ポニョ』が映画になったのか?
さっきのつり目の女の子が思いついた時点で、キャラクターは出来たんだけど、映画になったのはいつか?
宮崎さんは、よく「映画になる」って言い方をするんですけど、その瞬間はいつなのか?
これについて、2006年6月5日というところから、話が始まります。
それまで、宮崎さんはずっとイメージボードを描いてたんですけど。さっき言ったように、紙の上に鉛筆で描いて、それを着色する。これをイメージボードって言うんですけど。
イメージボードを描いてたところから、急に箱書きを始めるんですね。
箱書きというのは、まあ、ストーリーを並べたものです。「こういう展開になる」というのを字で書いたやつなんですけど。
「イメージボード作りは以前として停滞していました」という、NHKのディレクターの荒川君のナレーションが入ります。
「しかし、この日の夕方、突然、重要な絵が生まれる瞬間に立ち会うことになったのです」と。
ということで、ここからは、ちょっとフリップ多めに説明します。
(パネルを見せる)
(『ポニョはこうして生まれた。~宮崎駿の思考過程~』より)
【画像】宮崎駿
これね、何かというと、宮崎駿が紙の裏表を確かめてるんですよ。ただ、確かめながら、ワーグナーの『ワルキューレの騎行』を口ずさむんですね。「パパパーンパーン、パパパパーンパーン~♪」って。この日から、急に、CDを掛けて口ずさむようになるんですよ。
こう、紙の裏表をパラパラと見ながら「こんな絵を描いちゃっていいのかね?」と、描き始めた絵を見てですね、ニタニタ、ニタニタするんですね。
で、「荒川君、もう帰りなさい」って、冷たい声で言うんですよ。
「この日に限って、まだ明るいうちから帰るようにしきりに勧めます」と。
荒川君も「帰りなさい」とまで言われたから、「今日は不機嫌だな。帰ろうかな?」と思ったんですけど、「これは絶対に何かある。この日を逃したら俺はディレクター失格だ」と思って「帰ります」とは言わずに、遠くからこっそり撮るんですね。
すると、宮崎さんは、自分の描いた絵を見ながら笑い転げてるんですね。「ワッハッハ!」って笑い転げてて、「男の元に駆けつける、すごい絵だね、これ!」って、なんか自分自身で納得してるんですよ。
「僕は宮崎さんが何か大事なことを始めそうな気がして残ることにしました」と。
・・・
ということで、宮崎さんは、こう、最初は鉛筆で線画を描き始めるんですね。
宮崎さんも、もう年を取って来て、昔はHBで描いてたのが、2Bを使って、3Bを使って、ポニョの頃にはもう6Bの鉛筆を使ってるんですね。
それくらい、筆圧がない状態で、それでも絵を描きながら、「これ、怖いよね。これで宗介の元に来るんだからね!」って言ってます。
で、描いた絵に水彩絵の具で着色を始めるんですよ。
ちょっとそれまでの絵と何かご機嫌さが違うし、なんでこんなノリノリなのかよくわからなかった荒川君が「なんでこんなに描けるんですか?」と聞くと、「それは『ワルキューレ』を聴いてたからじゃないかな?」と宮崎さんが言い出すんですね。
さらに、水彩画で描いた上から……これまでの宮崎駿のイメージボードって、鉛筆で線を描いて、水彩で色を塗ったら、それで終わりなんですよ。ところが、その上から、これまで使ったことがない、奥さんが大学生の頃に使ってたというクレパスを取り出して、水彩絵の具を塗った部分をガリガリと塗って、指でこすって汚し始めるんですね。
(パネルを見せる)
【画像】水彩絵と汚し
こんなこと、それまでやったことがないんです。60というか、もう70近くなって画材を新しくするって、結構なものなんですけど。水彩絵の具を塗ったところをクレパスで汚して、その汚しを指でどんどん広げて行くんですよね。
「『ワルキューレ』聴いてたからだと思うんだけど、でも、なんでこんな描き方をしたのか、自分でもわからない」というふうに宮崎さんが言います。
で、ちょっとすみません、写真がブレちゃってるんですけども。
ここで、つぶやくように言うのが「ああ、恐ろしい」なんですね。
これは「なんでこんな絵を思いつくんだろう? 自分が恐ろしい」っていう意味にも取れるし、「『ワルキューレ』の音楽が恐ろしい」という意味にも取れるんです。
この時には、まだ荒川君も、宮崎さんが何を恐ろしいと言っているのか、わからないわけですね。だって「恐ろしい」と言っているのに、楽しそうなんだから。
宮崎さんはさらにクレパスを塗り拡げて行きます。今度は空にもクレパスを塗って、どんどん汚していくんですね。
ヒロインが初登場するシーンが、まさかの曇天なんですよ。宮崎アニメでありえない曇天なんです。
波が荒いというのは百歩譲っていいとして、真っ黒な雲なんです。それも、水彩絵の具で塗ってから、さらにクレパスでそれを汚していて、まさに黙示録的な世界、この世界が終わるような空の色に塗っているんです。
さらに、よく見るとこのポニョの口、への字口なんですね。ポニョがすっくと立ってるんですけど、口がへの字になっている。これもやっぱり、全くヒロインらしくないんですね。そういう絵を描いて行きます。
そして、今描いた水彩絵の具の上にですね、さらに6Bの鉛筆で輪郭線を描き足します。
(パネルを見せる)
【画像】水彩絵に輪郭線
「さらに鉛筆で縁取り、単純な線を強調していきます。」という風にナレーションが流れるんですけど、そうなんですよ。この、今、描いた絵に、さらにザッとした輪郭線を6Bの鉛筆でなぞって、絵を強調して行くわけですね。
宮崎さんはこれをやりながら、字幕にも「チャンチャカチャーン~♪」って出てるんですけど、ずーっとワーグナーの『ワルキューレの騎行』を歌ってるんですよ。
で、クレパスを塗っては伸ばし、塗っては伸ばしして、どんどん絵を汚しながら、自分自身で嬉しそうに「ワルキューレの音楽が鳴り始めたぜ」と言います。
もう、やっぱり顔は笑ってるんですよ。
「これ怖いね、ポニョ来るという絵だよ」というふうに言います。
つまり、「ポニョ来る」というこのシチュエーションが怖いというのが、さっき宮崎駿が言ってた「怖いなあ」という言葉の意味だったんですよ。
じゃあ、このポニョを招き入れてしまう宗介に関してはどうかと言うと。宮崎駿は、フッとこぼしてしまいます。
「可哀想な宗介。いや、宗介は向かい合うんですから」と言うんですけど。宗介に関して、宮崎駿はハッキリと「可哀想」と言うんですね。
つまり「そんな女に惚れられて、海の向こうから、この世の終わりみたいな空と海を率いてくるなんて、なんて宗介は可哀想なんだろう」と。なんか、男の永遠の悲しさを表現したフジモトと全く同じ文脈で「宗介は可哀想だ」って宮崎駿は言うんですね。
宮崎駿は絵を描いている最中に、興奮して立ち上がってしまうんですよ。座ってられなくて、興奮して立ち上がってしまうんですけど。
「ああ怖い。……怖くない。かわいい」って言うんですね。もう本当にね、自分自身に納得させてるんですよ(笑)。
このセリフが本当に聞き所で「ああ怖い。……怖くない。かわいい」って、一番笑ったんですけど。
本音は怖いんです。でも、「これが可愛く見えなきゃダメなんだ」と。「映画を見てる人に、この怖いシチュエーションというのを悟られるのではなくて、この怖いシチュエーションがかわいく見えないといけないんだ、かわいい」と、自分に言い聞かせてるんですね。
そして、ついにイメージボードが完成しました。
画面がブレててすみません。ボードが完成したら、すごい嬉しそうに「いい場所に貼ってやろう」ということで、部屋の中でこの絵を貼る場所を探してたんですけど、ついに入り口隣の電気スイッチの上という、一番目立つ場所を見つけて、そこに画鋲で貼り付けて、すごい嬉しそうに見てるんですね。
そして、「この絵は、『ポニョ来る』と名付けられました」と。
(パネルを見せる)
【画像】水彩画「ポニョ来る」 © Studio Ghibli・NDHDMT
「ポニョ来る」というのが、これなんですよ。最終的にはここまで汚した絵になったんですね。
真っ黒な空と、真っ黒な海が盛り上がって、それが魚になって、その上に半魚人の女が自分の男を迎えにやって来るんですね。
だから、ホラー映画なんですよ。ホラー映画というか「モンスターが美女を求めて闇の世界からやって来る」というのと全く同じことを描いているんですね。
その全く同じものを、かわいく見せようと、「ああ怖い。……怖くない。かわいい」って、自分に言い聞かせてるんですけど。
「怖いものをかわいく見せようとする」というのが、今回の宮崎駿のチャレンジなんですね。
口はキッと結ばれて、目は遥か遠くを見据え、手なんて決意に握りしめられているわけです。魚の上に立ってるというのも、もう本当に、かわいさではなく、アクションモノというか、ホラー映画のワンシーンなんですけど。
・・・
それまで、宮崎駿は何週間もかけて、何十枚もイメージボードを描いてたんですよ。
例えば、宗介の初期のスケッチとか、ポニョのかわいいポーズとか、フジモトが乗っている船とか、冒頭シーンのクラゲとか、本当に何十枚ものボードを描いてたんですけど。
でも、描きあげる度に、宮崎駿は「うーん、違うな」とか「ちょっと思い通りのものにならない」と、ずーと言ってたんです。
なんか「描けてない」とか「逃げてる」とか。逃げてるのは自分でもわかってるんですよ。「描きたくないな」とか、いろんなこと言いながら、イメージボードを描いてたんですけども。
この絵を描いた時に、ついに、カメラ目線で「あの1枚なんですよ」と。
「ポニョ来る」という絵を指して「この映画の本質はあの1枚なんですよ」と言い出します。
で、後ろの他のボードを指差して「こういうの、いっぱい描いてるけど、こうじゃないんですよ」と説明するんですね。
では、なんでこうじゃないのか?
「現象なんですよ。本質はあそこにあるんですよ」って言う。
つまり、後ろに貼った、それまでに描いた絵というのは、あくまでも、ストーリーや設定を説明するために画面の中で起こる現象であって、映画そのものを1枚の絵だけで説明するとしたら、入り口の一番いい場所に貼っている「ポニョ来る」というのになる、と。
ここで宮崎駿は、もう本当に緊張が解けた顔で……それまで、ずっとこの人、煙草を左手に持ってるんですけど、全然吸わないんですよ。あまりに集中し過ぎてて。
その煙草を、うまそうにプカーっと吸って「だから、やっと本質の絵が描けたんですよ」と言うんです。
もう今日、この日に、やっと本質の絵が描けたんですね。
これは、宮崎駿がロンドンで見たジョン・エヴァレット・ミレーの『オフィーリア』の絵ですね。
(パネルを見せる)
【画像】ミレーのオフィーリア
死にゆく姿。オフィーリアという、シェイクスピアの劇に出て来る人物が、川に流されながらこれから死んでしまう中で、消えそうな声で歌っている。でも、その死にゆく彼女の周りには、生命がいっぱい溢れているという、死の世界の中での微かな生命というのを語った絵なんですけど。
これに宮崎駿はすごい感動していたんです。
やっぱり、これだったんですね、宮崎駿が求めていたのは。
「これが映画の最初の1枚なんですよ」と。
「それまでの絵は全部現象に過ぎない」と。
やっと『崖の上のポニョ』の最初の絵が描けた。それが、この「ポニョ来る」なんだ、という話でした。
このドキュメンタリーの前半のクライマックスは、この最初の1枚というのが、ずーっと描けなくて、それがやっと描けた時なんですよ。
宮崎駿の苦悩とか「描きたくなかった」と言っていた恐れ。描けた後の解放感。描いてる時の「チャンチャカチャーン、チャーン~♪」と歌う姿は、これまでの苦悩する宮崎駿と全く逆の、なんか悪ふざけしている爺ちゃんみたいだったんですけど。
『ポニョ』ってね、やっぱり、宮崎駿アニメの中で「面白くない」という人が多いんです。
僕もそうだったんですよ。宮崎アニメの中で、僕、『ポニョ』って、正直、そんなに面白いとは思わないんですけど。
でも、この『ポニョはこうして生まれた。』は面白いんですよ。このドキュメンタリーを見て、宮崎駿の「ああ怖い。……怖くない。かわいい」という独り言を聞いてから見ると、全然、違って見えるから(笑)。
なので、ぜひ、この放送を聞いた後で、金曜ロードショーで録画した『ポニョ』を、もう一回見ていただければいいと思います。
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