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俺の棒銀と女王の穴熊【3】 Vol.4
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俺の棒銀と女王の穴熊【3】 Vol.4

2013-09-04 18:00
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         ☆

     終業式を迎えた。
     高校生活初めての夏休みが始まるのだ。誰も彼も浮かれ模様で、今後の計画などを楽しげに話し合っている。
     きっとこの中に、恋人をゲットする幸せ者が出てくるに違いない。あんなことやこんなことに突入してしまうヤツもいるだろう。
     あいにく自分はまだそのときではないが――その下準備を着々と進めるところだ。かつてない灼熱と情熱の夏になりそうだった。
    「んじゃな、春張。また九月に会おう」
    「おう。ところで新聞部って、夏休みはどうするんだ?」
    「読者がいなくなるんだから、何もすることはないな。そもそも取り上げることがないし」
     浦辺は頭を掻きながら答えた。運動部はどこも地区予選敗退のようだし、なるほど学校中が注目するようなイベントはなさそうだ。
    「しかし将棋部はこれからが本番なんだぜ」
    「ほう?」
     関東高校将棋リーグ戦のことを話す。マスメディアならともかく学生の新聞部が取材することはできないだろうが、結果だけでも伝えてやれば、夏休み明けの最初の新聞でどんと取り上げてくれるはずだ。
    「そうか、いよいよ大会デビューか。ま、あまり気張らずに頑張れや」
    「ああ、適当に応援してくれ」
     クラスメートたちに別れを告げて部室へ向かう。そして午前いっぱい部活をこなす。依恋は先日休んだ分を取り戻すように、きっちり真面目に練習に励んでいた。その指し手にはどこか鬼気迫るものを感じた。
    「ぬぐ……負けました」
    「ありがとうございました」
     来是との一局を制しても、まるで表情を変えずさばさばしていた。静かに感想戦を行い、紗津姫のアドバイスを受けながら逐一頷いている。
     なんにせよ、この前よりはずいぶんマシだ。相談に乗ってやったのが功を奏したのかもしれない。
    「一学期の部活はこれで終わりだ。お疲れ」
    「お疲れさまでした! いやー、合宿楽しみです」
     彩文学園は例年、夏休みに入ってすぐ関東高校将棋リーグ戦に向けて合宿を行う。場所は電車で数時間行った先の民宿。何でもすべての客間に足つき将棋盤があるらしく、彩文学園のみならず多くの学生将棋部が合宿に利用しているとのことだ。
     しかもそこは海辺に近く、海水浴も楽しめるとか……。来是の頭の中に、必然的に水着というキーワードが形作られていく。
    「家に帰ったらもう一度プリントをチェックしてくださいね。集合時間が早いですよ」
     率先して盤駒の片付けをしている紗津姫に視線を注ぐ。
     この女王は、いったいどんな水着を持ってくるのだろうか。将棋よりも、そのことばかりが気になってきた。
    「春張くん、嬉しそうですねえ」
     そう言う金子も喜色満面だ。
    「夏合宿こそ高校生の青春だからな!」
    「初体験なのに、わかったように言うわね」
    「だって、きっとそうだろ?」
    「……そうね、夏の一大イベントよね」
     珍しく同調する依恋。加えて、何かを胸に秘めたような面持ち。この合宿を経ていっそう女を磨く決意なのだろうと来是は思った。
     一同解散し、来是と依恋は並んで帰宅の途につく。
     夏真っ盛りの、膨大なエネルギーを放射する太陽。それが来是を心身ともに熱くさせる。素晴らしい未来の予感。
     きっと先輩は、この夏で自分が飛躍的に伸びることを期待してくれている――そう思うと、叫びたくなるほどあちこちが漲ってくる。
     ひとまず英気を養うべく、午後は思い切り遊ぼうと決めた。何をしようかと、とりとめもなく考えを巡らせる。そこで依恋が聞いてきた。
    「ねえ、このあと予定ある?」
    「別にないけど」
    「じゃあお昼食べたらさ、ショッピングに付き合ってくれない」
     この手の誘いを受けるのは久しぶりだった。だいたい荷物持ちをさせられてしまうのだが、中学時代までは依恋に逆らう度胸がなかったので、黙って付き従っていた。
     だが今の俺は、あの頃とは違うのだ。来是は腹に力を込めて返答する。
    「荷物持ちなら断固として拒否する!」
    「かさばるものは買わないわよ」
    「ふうん? じゃあ何を」
    「新しい水着」
     なぜ依恋の水着選びに自分が付き合わなくてはならないのだろうか? しかし女性の水着売り場という抗いがたい魅力に、あえて逆らうこともないだろうと思った。
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