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俺の棒銀と女王の穴熊〈4〉 Vol.5
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俺の棒銀と女王の穴熊〈4〉 Vol.5

2013-12-21 13:00
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     少しばかり昼寝をすると、来是はパソコンに向かった。
     匿名掲示板の専用ブラウザを起動し、ブックマークを開く。

    『【爆乳】神薙紗津姫ちゃんを応援するスレ【アマ女王】』

     ここのところ、このスレッドを眺めるのが日課になっている。
     紗津姫が将棋ファンの間で有名なことは以前から知っている。しかしその人気は最近になってますます高まっていた。もちろんNHKの将棋フォーラムに取り上げられたことがきっかけだ。関東高校将棋リーグ戦の特集回は夏休みの終わり頃に放送されたが、その動画は将棋女子の回と合わせて、いろんなサイトにアップロードされている。

    〈女流アマ名人も確実だよなあ。出水摩子はプロ入りするし〉
    〈プロにならないのかなこの子? 指導対局受けてみてえ〉
    〈つーかこんな先輩がいたら絶対将棋に集中できねえw〉

     書き込みの内容はだいたい自分も同意できるものだったが、それは違うと言いたいものもある。
     彼女に認められたい。そう思えば、何もかも目に入らないくらい盤面に集中できる。……少し前までは、それができていたはずだったのだが。

    〈本人このスレ知ってるのかな?〉
    〈見たらすげえショック受けそうw〉
    〈でも自分がどう見られてるかとか自覚あるだろ? 案外冷静に受け止めるかもw〉

     紗津姫はあまりネットはしないと聞いている。わざわざ自分の名前を検索してこのスレを見つけている可能性は、まずないだろう。
     ……冷静に受け止めるというのは、ありうるかもしれない。並大抵のことには動じない人なのだ。

    〈将棋フォーラムはこの子を司会にしろ! 視聴率倍になるぞ〉
    〈もうどこかの芸能事務所が目をつけていても不思議じゃないよな〉
    〈将棋アイドルとして売り出すのも面白そうだね〉

     将棋アイドル。
     最初はなんと大胆な計画だと思ったものだが、彼女の対局姿を目にした者なら、誰でもその考えに行き着いても不思議ではないのかもしれない。
     だらだらとネットサーフィンしてからパソコンの電源を切り、再びベッドに寝転がった。
     ……紗津姫は迷っている様子だったが、おそらく伊達の誘いを受けるだろう。
     名人という最高のネームバリューをバックに普及活動ができる。これ以上の恵まれた環境は他にありえない。
     ぜひその天職を掴んで、夢を叶えてほしいと思う。
     だから、それはそれとして真剣に考えてほしい。
     自分にもチャンスはあるままなのか。無条件で伊達を選ぶようなことはないのか。
     伊達の告白から数週間経っているが、これほどのデリケートな問題、まだ彼女もはっきりした答えは出せないと見るのが妥当だろう。
    「とにかく……学園祭だな」
     彼女が二年連続でクイーンの栄冠に輝く。その最高のタイミングで告白すれば、いかに自分が真剣なのかわかってもらえる。
     それにあと二ヶ月も経てば、紗津姫の伊達に対する気持ちも固まっているに違いない。そんな読みだった。
     ――悠長にすぎる、かもしれない。
     告白するならさっさとしろ。そう言う人もいるかもしれない。
     だが、今は局面が一段落するのを待つ。果敢に攻めるばかりが人生ではない。
     学園祭までの二ヶ月間で、関東高校将棋リーグ戦を戦ったときと同じ気力を取り戻し、それ以上の棋力を身につける。それから一気呵成に勝負に出る。
     これが最善手と信じたからには、断固としてその方針を貫くのだ。
    「……つーか、ミスコンに出ないとか言ったらどうしよう?」
     彼女の性格からして、周囲からの後押しを断れないだろうが、絶対ではない。やっぱり出ません、そんな可能性もわずかだが考えられる。
     もちろんミスコンに出なかったからといって、告白をやめるなどというつもりはないのだが……もっとも適切なタイミングを逸してしまうのは、モチベーションにも関わってくる。
    「よし、まずはミスコンに出る気になってもらおう!」
     紗津姫のやる気を引き出すにはどうしたらいいか? 来是は寝転がったままで、頭を捻って考え続けた。
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