巨大な機械に圧倒された、作業場の光景
成瀬勝一さんの職人仲間の作業場には木の香りが充満していた。材木を裁断する重機がゴーっと大きな音を立て始めると、おがくずを吸い上げる為の巨大な掃除機の様な機械が動き出し、それに取り付けられた袋に空気とおがくずとが流れ込こむ。
今までに見たこともない大規模な機械に圧倒され、本当に自分の力で家具なんか作れるのかどうか尻込みをしてしまう。もし成瀬さんに家具作りの基本を教えてもらっても、毎回工房に来て機械を借りなくてはいけないのであればあまりにも荷が重すぎる。今回の家具作りを通して習得したかったのは思い立った時に身近な環境で自分の手によって家具を作り出すスキルであって、きっとそれが僕の理想とするDIYの形なのだ。
「ここでは注文家具ではなくて、既製品の大量生産型の家具を作っています。大丈夫、市場に出回っている家具がどのように造られているか見てもらいたかっただけなのでここにある機械は使わないから。」
僕の怯んだ顔から察してくれた成瀬さんはそう言って家具に使われる様々な材料を見せてくれた。
化粧板、合板、一枚板…。どの材木でつくるか。
杉、桐、松など材質の異なる材木が工房には並んでいる。また、木材の表面にメラミンボードと呼ばれる木目調の化粧板が貼られた板や合板、一枚板など製法が異なる材木が厚さや大きさ別に整理されているのが目に入った。
「どの材木で造りましょうか?」
折角の一生モノの手作り家具なのだから、合板に塗料などが塗られている化粧板料ではなくて、リアルな木の質感が感じられて木目が美しい材木を使いたいと思っていた。そして出来れば釘を使わずに組み立てられるホゾ組の家具を作りたいと告げると、「価格も抑えられて木目も綺麗なパイン材の合板が造りやすい」と成瀬さん。パイン材はホゾ組に適しているらしく、長く使えば使うほど、木と木同士が閉まってくるのだという。
素材と製法を固めた僕は、家に戻って詳細な寸法を決定するために収納する予定の機材を床に広げてみた。その上で、暗室で使うプリンターを天板に載せた時の作業のし易い高さ、収納した長物の三脚やストロボ用のスタンドを取り出しやすい扉の幅などを考える。しかし、定規を使って正確に描いたわけではないので全体的なデザインのバランスがわからない。
目指すのは1950年代のミッドセンチュリー調なデザイン。そこで自分が使いやすい幅、奥行き、高さで美しいベストなバランスを決めるために、CADという設計図を起こせるiPad用アプリケーションを使ってラフを描いてみた。タブレット上で数値を入力すると線を引いてくれるので正確なバランスが分かりとても便利だ。30日間の試用期間も設けられている。
Do It Yourself から、「Do Imagine Your-life」へ
家具のサイズやデザインを決めながら想像していたのは、それが自分の生活の一部に組み込まれた姿。家具、住空間を想像する事は暮らしを創造することであって、さらに自分自身でその家具をつくる事は、自分の生活システムをゼロからより良い形で再構築することになる。
DIYとはDo it Yourself(自分でやる)の略ではなく、Do Imagine Your-life(自分の生活を想像する、想像せよ!)の略なんではないかと思えてきた。ちょっと字余り気味なのはさておいて…。
ひとまず出来たラフ案を持って成瀬さんを訪ねると、僕が決めた寸法に合わせて細かく材木の厚みやホゾを組むのに必要な幅などを加え、画面や紙面では大きさのイメージがつかみにくいだろうからと、新聞紙を設計したサイズに折ってみせてくた。
まだ平面でのイメージサイズだけど、こうやって実際に形にしてみるといよいよ本格的に実感が湧いてくる。幅1575mm、奥行き500mm、高さ800mm。左側に幅500mmの観音開きの扉が二つ、右側には3段の引き出し付き、正面から見るとメインの箱部分を三分割したようなバランスで、設置場所の床の掃除がしやすいように150mmの4本の脚をつける。これが僕のチェストなのだ。
後日、ホームセンターで天板、側板、扉と引き出し前板に使用するパイン材、天板の下地に使うベニヤ板、背板に使用する桐材を購入し、その場で指定通りのサイズに木材をカットしてもらった。ものの10分程でカットは終わるので、最初にサイズを決めてから購入時に加工をしてもらった方がいい。木材、カット費で2万円ほど。僕の理想とするデザインのミッドセンチュリー家具は100万に近いお値段なので、何故か妙なオトク感に包まれる。
さて、この材料がどんな家具になっていくのか。