「自分にフィットした」「古さを活かして」「個性的な」などなど、リノベーション物件を形容する言葉は数多存在するが、近年そのリノベーション物件ですら「紋切り型」の部屋になってきているのではないかと思うときがある。
「打ち放しの天井」や「壁を取り払った大空間」だったり、ビニルクロスの壁。定番の無垢材フローリングや、見慣れた白のトイレにユニットバス。部屋全体としては違うものの、部分を取り出すと似た要素が並んでいる。ハウスメーカーが作る注文住宅のように、リノベ会社が作る「リノベ部屋」という枠組みが存在するのかもしれない。
もっと「リノベーションだからこそ」の家はないのか? と考えていたら、築85年(!)の大阪最古の鉄筋コンクリート造集合住宅「トヨクニハウス」をArts&Craftsがリノベーションした物件があった。
この物件の持ち主は、地元に暮らし、Iさんより年上とおもわれるこの物件に幼い頃から思い入れがあったIさん。普通85年もの歴史を重ねていれば、さまざまな人が住み、時代に合わせて改修されているのが普通だが、Iさんが選んだ部屋は奇跡的に建築当初の状況を保っていたという。
壁には70年代のカレンダーが掛かり、家具やおもちゃ、当時の冷蔵庫までも残っている状況。別棟では、改装済みの物件が販売されていたにも関わらず、「この雰囲気を残して暮らしたい!」とこの物件を選び、建築当初の姿を残したリノベーションをすることに決めた。
ドアなどの建具や柱・梁は、もちろん当時のものをそのまま使用。玄関横の丸い飾り窓が、とても趣深い。
違い棚や吊り戸棚も、移設しつつもそのまま利用している。木の質感からは、1世紀近くの時を経た年期を感じる。
間取りもほぼ変更なし。ただ、特に苦労したのがお風呂。元々お風呂がない間取りだったため、どう対応するか試行錯誤した末、トイレだった場所へ、シャワーブースを新設した。トヨクニハウスのままの姿を残したいIさんの想いがうかがえる。
工事前の状態
間取りを見ても、完成した空間を見ても、可能な限り既存状態を残したリノベ。古いもの、すでにあるものを活かして新たな価値を付加する“リノベーション”らしい建築だ。
スクラップビルドが基本の日本において、85年の文脈を背負って1つの形を導いたトヨクニハウス。Iさんとともにこれからもっと歴史を重ねてほしい。
トヨクニハウス[Arts&Crafts]