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毎日をちょっとだけ楽にする“想像力”。「SNOW SHOVELING」店主に聞く、珠玉の「冬ごもり」本
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毎日をちょっとだけ楽にする“想像力”。「SNOW SHOVELING」店主に聞く、珠玉の「冬ごもり」本

2019-12-11 12:30
    「食生活が偏る」、「肌が荒れる」、「気持ちもふさぎ込む」など、どうしてもネガティブな文脈で語られがちな、冬の部屋時間。だけど寒い時期だからこそ、部屋にこもって身体をいたわったり、精神的にも豊かになったりできるはず。

    心も身体もポジティブになれる「冬ごもり」を探求するROOMIE編集部は、今回、「SNOW SHOVELING BOOKS & GALLERY」店主の中村秀一さんを訪ねました。本のプロに、「冬ごもり」におすすめの9冊をセレクトしてもらいましたよ。

    隠れ家的場所にある、あたたかで親密な部屋

    NOWHAW「”slee” parka」24,000円(税抜)わが家のようにリラックスして過ごせる、屋内外兼用のパジャマ

    この日はあいにくの雨。おまけに風も強くて、11月末にして本格的な冬の到来を肌で感じる寒さ。どんよりとした空につられて、心まで冷え切ってしまいそう……。

    そんなとき脳裏に浮かんだのが、本や古家具に囲まれた暖色そのもののあの部屋。あそこに行けば、心も体もあたためられるかも。

    駒沢大学駅から歩いて20分ほど。「SNOW SHOVELING BOOKS & GALLERY」は、駒沢通りの深沢不動交差点のほどちかく、薄ピンク色のビルの2階にひっそり、とあります。

    こういうビルのなかにある店って、おしなべて、初めてドアを開ける瞬間緊張するから苦手なんだよな〜……。

    と、ドキドキしながら店の前に着くと、そんな気持ちを察してか、「Don’t be afraid. Because it’s safe here.」と言っているドア。

    もうすっかり小説世界の中な気分であります。えいや!っと思い切って“壁抜け”すると、そこに店主の中村さん。

    以前「みんなの部屋」にも出演してくれた中村秀一さん

    中村秀一
    1976年生まれ。グラフィックデザイナーとしてのキャリアを3年ほど続けたあと、自分が気持ち良く働き続けられる仕事を模索。海外の個性的な本屋に魅せられ、本屋という空間を自己発信の場に決めた。2012年に、ブックストア「SNOW SHOVELING BOOKS & GALLERY」をスタート。

    起き抜けのような無造作ヘアとチャーミングな笑顔で迎えてくれる中村さんに、「おうおう、寒かったろう?」と、ぬくふわな毛布でばっさと包まれるような錯覚に陥る。

    この日中村さんの元を訪れたのは、「冬ごもり」のための本を紹介してもらうため。事前に「冬に読みたい本」「眠る前に読みたい本」「休みの日に読みたい本」といったテーマを伝えていたのでした。

    「本当は全テーマに村上春樹の本を当てはめることもできたんですが、さすがに辞めておきました!(笑)」と、同じく村上春樹好きである僕の心をくすぐってくるが、ここはおとなしく、今回の趣旨に沿って選書を伺うことに。

    その1. 「冬に読みたい本」

    「部屋づくりの鍵は、実際に存在する場所をいかに具体的にイメージできるか」。以前どこかのインタビューで、こんなことを話していた中村さん。ならば、冬にイメージする具体的なものは何かと訊ねてみると、「煖炉」と即答だった。

    「東京の家で暖炉をもつのは難しいけれど、冬に旅行するときにはできるだけ煖炉付きの部屋を選ぶようにしています。

    焚き火も好きですね。実は神奈川県に山小屋を持っていて、休みの日は毎週そこに行って焚き火をする。火が消えないように薪をくべながら、ただずーっと見てるだけなんですが。何もしないって結構難しいので、僕にとってすごく大切な時間です」(中村さん)

    『神の子どもたちはみな踊る』の『アイロンのある風景』(村上春樹)
    『火を熾す』の『火を熾す』(ジャック・ロンドン)

    「冬と言われて思い出すのは、この2作品。いずれも焚き火が登場するお話なのですが、一方は趣味やライフワークとして焚き火をする話(アイロンのある風景)、もう一方は生きるか死ぬかの壮絶な状況下での焚き火(火を熾す)、とテーマはかなり異なります。ちなみに、『アイロンのある風景』のお話のなかに、『火を熾す』が登場します。

    特に『火を熾す』については、冬になると毎年必ず読みます。実際に焚き火をしながら読むことも多い。

    アラスカを犬と一緒に歩く青年が、強風豪雪のなかでただ火を熾そうとするという、ストーリー自体はすごく短いものですが、とにかく独特の余韻があって、解釈の余地も大きい。

    『火を熾そうとしているけれど、実はこの青年は死のうとしているんじゃないか』とか。だから、同じ本なのに、読むタイミングによって自分も揺れ動くんです。毎年同じ時期に読むと、面白いですよ」(中村さん)

    聞いてるだけで情景が浮かび、音が聞こえてくる。でも、煖炉はもちろん、山小屋も持っていない僕にとっては、情景も音もわりかし距離が遠い。日常レベルではどうだろう?

    「日課にしているのは、お風呂で本を読むこと。選ぶのは、濡れてもいい文庫の短編ものやショートショート。1時間くらいはつかりっぱなしだから、自然と読書量も増えます」(中村さん)

    よし、それなら今晩から実践できそうだ!

    その2. 「眠る前に読みたい本」

    湯船でカラダをホクホクになるまであたためてから、ふわふわのベッドに入るのが何より気持ちいいのも、冬。眠るまでの時間は、絶好の読書時間でもある。

    「人生暗いことの方が多いじゃないですか、そういう意味では、ちゃんと朝が来るっていうのは希望です。今日の悪いものをキャリーオーバーせず、ちゃんと清算するという意味でも、物語に現実逃避するのは有効な手段だと思いますよ」(中村さん)

    『羊をめぐる冒険』(村上春樹)

    「半分はダジャレです(笑) 『羊を数える』っていう。半分は、冒険活劇なので、いい夢を見られそうだなと。眠る前と聞いて、最初にパッと思いついたのがこの本です」(中村さん)

    『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』(村上春樹)

    「村上春樹が自身の創作活動について語った、19本のインタビュー集です。タイトルが、思わせぶりだと思いませんか? でも、最後まで読むと意味がわかる。つまり、小説家である彼にとっては、夢を見ることと書くことが同義ということ。

    夢では無意識的に、起きているときは有意識のなかで、物語をつくっているわけなんですよね。そう考えると、『物語を書くために毎日僕は目覚めるのです』とも読み替えられる。

    もちろん僕も含め、誰もが小説家というわけじゃない。でも、夢と私生活って、意外なところでリンクしていることが多い。誰もが気づきを得られる本だと思います」(中村さん)

    『谷川俊太郎質問箱』(谷川俊太郎)

    「谷川さんが、いろんなひとからの質問に答えるというシンプルなテーマなのですが、なんといっても彼は詩人なので、その答えが面白い。ユーモアでかわしてみたり、現実的な解釈からは程遠い答えだったり。

    でも、世の中って結構そうで、何でも真剣に答えればいいかというとそうでもないし、図星を言うと怒るひともいたりしますよね。

    この本に書かれてあることを、なんとなく自分の悩みに置き換えて読んでみると、結構すっきりします。それぞれが短いので、パラパラと読んでいるうちに寝落ちしちゃうっていうのも、気持ちいいですよ」(中村さん)

    『邪悪なものの鎮め方』(内田樹)

    「ここで言う『邪悪なもの』っていうのは、人間に計り知れないもののことや、一個人では答えの出せないもの。いわゆる、オカルトや怪奇現象を含めた危機的状況のことです。

    この本は、そういった答えのない問いについて、なんとか答えを導き出そうというもの。実際の生活には、リアリティのないものも数えられます。

    ただ、人間には想像力がある。一見役に立たなそうでも、想像力をもってすれば、必ず何かに活かせる。それって、現代社会には特に必要なことだと思います。

    『こんなことありえない、以上』って切り捨てるのはすごく簡単だけど、この本みたいに想像力を鍛える読書って、ものすごく大事な気がします」(中村さん)

    その3. 「休みの日に読みたい本」

    休みの日には山小屋に行くことも多い、と言っていた中村さん。都会の喧騒から束の間離れて、自然のなかで自分と向き合う。優雅でオトナだなぁ。

    でも、中村さんって、そもそも普段からそんな雰囲気がある。中村さんにとって休みの日とは、という問いへの答えが、まさにそれでした。

    「まず、『休日』って言葉に、僕は違和感を覚えます。少なくとも僕にとっては、休むための日ではない。

    ショート(規定演技)とフリー(自由演技)があるフィギュアスケートのようなもので、僕の場合は、週5の本屋の日が規定演技。ある程度ルールが決められたなかで過ごします。残りの2日は、ノールール。あまり予定を入れるのは好きじゃなくて、朝起きて、『さあ今日は何しようかな』というのが幸せです」(中村さん)

    『アートの入り口[アメリカ編]』(河内タカ)

    「タイトルにある通り、アートを語った本。でも、その語り方がすごくカジュアルなんです。歴史を紐解いていったり、音楽や町とつなげたりして。いわゆる“お勉強型”じゃないから、『面白いエッセイだな』ってなんとなく読んでると、なんとなくアートがわかっちゃう。

    休みの日には、これを読んでいるだけで美術館に行った気になれるし、逆に、やることないからってこれを読んでたら、思わず美術館に行きたくなる。そういう本です」(中村さん)

    『優雅な生活が最高の復讐である』(カルヴィン・トムキンズ)

    「まずは、タイトルが素晴らしい。休みの日にはもってこいじゃないですか?

    内容としては、1920〜30年代の文化人である夫妻の記録。アーティストや作家との交友が描かれています。いまの一般的な生活とはかなりかけ離れていますが、休みの日こそ、そういう拡張をするのがいい」(中村さん)

    (「中村さんにとって、優雅な生活とは?」と聞いてみると)

    「僕にとっての『優雅な生活』は、時間をこちらが支配している状態。Aをやっていても、Bが楽しそうだと思ったら素直にBをできること。それって結構難しいですよね。

    でも、重要ではない小さな約束のために、すごく面白そうな大きなことを諦めるのってもったいない。正直に、AじゃなくてBがしたいって言う。そういう意思表示が大事だと思います。

    特に日本ではそういう考えはスタンダードじゃないかもしれないけれど、誰かがやっていかないといけないから、僕は個人的なレベルで意識するようにしています。そうやって、自分の好きなことやひとに囲まれて、自分の気分をいい状態にキープするのが、僕にとっての『優雅な生活』です」(中村さん)

    『4001の願い』(バーバラ・アンキプファー)

    「4001個の『願い』がただただ羅列された、ウィッシュリストです。本当にしょうもないものもありますが、なぜか読んでいて面白い。この本の翻訳を担当した向井千秋さんは、入院中の友人にこの本をプレゼントしたそうです。とにかく希望を持てるから。

    読んでいるだけでも面白いですが、当然、自分のウィッシュリストを作りたくなってくるはず。僕も、実際に作りました。小学生みたいですけど、前向きな気持ちにしかならないから、結構楽しいですよ」(中村さん)

    冬ごもりで、想像力を蓄えよう

    月並みですが、最後に本の魅力について聞いてみました。

    「本を読むことは、想像力を育むこと。人生や生活って、そんなに簡単じゃないですよね。だからこそ、一見役に立たない物語をいかに自分に手繰り寄せて活かすかが大事だし、それが一番楽しいと思いますよ。すべては想像力、です。最強だと思いますよ、荷物にもならないし」(中村さん)

    幸い、冬には、本を読むのにぴったりな場面がいたるところに転がっている。常に本を傍らに、とは言わないけれど、1日のどこかに本のある時間を作ってみるのもいいんじゃないでしょうか。「冬ごもり」は、想像力をたんまり蓄えるチャンスかも! 

    それはそうと、「全部のテーマに村上春樹の本を当てはめることもできた」というのが、やはり気になる……。同じように気になるあなたは、ぜひ「SNOW SHOVELING BOOKS & GALLERY」まで足を運んでみてください。

    Photographed by Kaoru Mochida

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