都内屈指の人口を誇り、東京23区の西部に位置する世田谷区。

一般的には、“二子玉川”や“成城”のような高級住宅地のイメージが強いかもしれません。その一方で、下町風情を残す町並みもを擁するのも同区の大きな魅力です。

中でも、駅の南北に2つの便利な商店街が広がり、新宿や渋谷へのアクセスも良好。かつ家賃相場が比較的安価な“千歳船橋”は、世田谷暮らしに人情や温かみを求める人にはうってつけのエリアと言えるでしょう。

今回ご紹介するのは、そんな千歳船橋エリアに位置するマンションで、昨年8月から同棲をスタートしたRyosukeさんとYunaさんのお部屋。

入居前のタイミングに、インテリアショップとして有名な「ACTUS」によるリノベーションが一部に施されていたとのことで、築30年超の古さをまったく感じさせません。

抜群の採光の中、白壁をバックに配置されたインテリアはより一層魅力を放ち、観葉植物も青々として活力に満ちていました。

73.81㎡の広い空間を存分に生かし、おふたりの美意識を見事に反映したその暮らしを覗いてみましょう。

名前(職業):Ryosukeさん(アートディレクター), Yunaさん(モデル)
場所:東京都世田谷区
面積(間取り):73.81㎡
家賃:18.2万円
築年数:33年

編集部作成



この部屋に決めた理由

まずは、物件探しを始めた時期や理由について尋ねてみました。

「2019年の夏に付き合い始め、昨年の初夏ぐらいにYunaとの同棲を決めたんです。それから、物件探しをスタートしました」(Ryosukeさん)

実はこの部屋、最初に見つけたときは家賃が20万円オーバー。

予算に合わないからしばらく保留にしていたところ、2ヶ月ほど経って物件サイトに再掲載されているのをたまたま発見。現在の家賃(18.2万円)まで下がっているのを見て、すぐに引っ越しを決めたそうです。

部屋に求めていた条件は、広さや3口以上のキッチンコンロ、風や光を通す抜けの良さだったので、この物件はまさにうってつけだったのだとか。

「Ryosukeはもともと3年ぐらい千歳船橋に、私は下北沢に住んでいたのでこの部屋との距離が近く、荷物の移動も楽でした。彼、昔は最寄りの小田急線の遅延が多いことをボヤいていましたが、最近はリモートワークが中心になったこともあって部屋の広さや土地にも満足しているみたい。

商店街にはスーパーマーケットのオオゼキや安い八百屋さんがあるので、ふたりで買いものするのも楽しいですよ」(Yunaさん)

余裕を持ってダブルベッドやクローゼットを置ける、6.5畳の寝室も魅力的

お気に入りの場所

光に満ちた15畳のダイニングキッチン

奥に見える2脚はKnoll マルセルブロイヤー作「チェスカチェア」

おふたりがお気に入りとして真っ先に挙げてくれたのは、レースカーテンを通してやわらかな光が差し込むダイニングキッチン。

空間の主役を飾るのは、デンマークの老舗家具メーカー、カール・ハンセン&サン(CARL HANSEN & SON)のダイニングチェアとダイニングテーブルです。

どちらもデンマーク家具デザイナーの第一人者、ハンス J. ウェグナー(Hans.J.Wegner)が手掛けたプロダクトで、前者はY字型の背もたれが特長的な不朽の名作として知られます。

リビングの本棚には、デザインリソースとなる書籍がびっしり。もちろんウェグナーの作品集も(写真右上)

「引っ越しの際、最初に購入したのがこのチェア。座面に丁寧に編み込まれたペーパーコードや、表面のなめらかな仕上げが気持ち良いです」(Ryosukeさん)

一方、後者のダイニングテーブルには、付属の天板を組み替えることで幅を伸長できるユニークなギミックが組み込まれています。

ペンダントライトは、デンマーク生まれの照明ブランド、ルイスポールセン(Louis Poulsen)の復刻プロダクト

「テーブルは、オーダーしてから到着までに4ヶ月ぐらいかかりました。ふたりとも料理が好きなので、友人を呼んで料理を振る舞うときに重宝しています。今はコロナの影響で大勢集まるのが難しいですが、早くまた活躍させてあげたいです!」(Yunaさん)

整然としたキッチンは、ふたりで調理を楽しめる広さ。料理好きの憧れ3口コンロも!

リラックススペースも兼ねたリビング

8.7畳のリビングは、主に作業部屋として利用。こちらも日当たり良好で、リモートワークが捗りそうです。

実はRyosukeさん、アートディレクターを務める傍ら、7人組ヒップホップバンドTOKYO RAVE GROUPIEでドラムを担当。楽曲のミックスやアレンジなども手掛けているそうです。

iMacの両サイドには巨大なスピーカーが鎮座し、“秘密基地感”を醸しています。う〜ん、男心をくすぐられますね……!

「このスピーカーは、フランスのFocalというオーディオブランドのプロダクトです。もともと音楽制作スタジオ向けの機材で、家に置くようなものではないのですが、輸入のときに箱が傷ついてかなり安くなっていたので、思い切って購入しました」(Ryosukeさん)

定価より随分お得に購入できたそうですが、購入時のお値段は1つで約30万円。優れたプロダクトには妥協を惜しまずこだわり抜く、アートディレクターらしい美意識が垣間見えた瞬間でした。それでいて、物件を決めたときと同じように安く手に入る時期を逃さない。“買い物上手”な一面もあるのかもしれませんね。

作業に疲れたときは、デンマークの家具デザイナー、ボーエ・モーエンセン(Borge Mogensen)がデザインしたこちらのチェアで読書を楽しむのだとか

お気に入りのアイテム

仕事を依頼したカメラマンさんの写真

額装してリビングに飾られた写真も、ひときわ目を引く存在。こちらは既製品ではなく、Ryosukeさんがとある化粧品ブランドのアートディレクションを担当した際、フォトグラファーの矢吹健巳さんに撮影を依頼したもの。

「矢吹さんは『装苑』や『VOGUE JAPAN』などの撮影でもご活躍されている、尊敬するフォトグラファーさんです。光の作り込みや絵の解像度、ディティールがとても美しく、この案件の時も驚きの仕上がりでした。

何度かご一緒させていただきましたが、いつも想像を上回る作品に仕上げてくださり毎度感動しています」(Ryosukeさん)

ズラリと並ぶ観葉植物

一方、Yunaさんのお気に入りはリビングに並べられた観葉植物たち。やわらかく差し込む日差しの中で、スクスクと成長しているそうです。

ときにはおふたりで少し遠出して、練馬区のガーデンセンター「オザキフラワーパーク」などでまとめて購入することも。この一角、まるで家の中に小さな森があるようで心癒やされますね。

「今年の夏、特に大きく育ったのがアフリカンプリンスです。幹自体はそうでもないんですが、葉っぱがものすごく大きくなって……! 形が似ているので、私たちは“キャベツ”と呼んでいます(笑)。他にも、エバーフレッシュには“エバちゃん”というあだ名が。愛称をつけると、より愛着が湧きますよね」(Yunaさん)

気になるところ

天井の低さと窓のサイズ

ここまでお話をうかがってみて、「部屋への不満なんてないのでは……?」という印象ですが、意外と気になるところもあるのだとか。

「ひとつは面積のわりに天井が低いところです。その分、光の抜けが良いというメリットもあるんですが、改善されたらより広く感じられるかな……と。

最上階だからというのもあると思いますが、窓が小さいことにも不満に感じています。たぶん、高さ180cmもないんじゃないかな? サイズの合うカーテンがなかなか見つからず、今は少し丈が余っちゃってますね」(Ryosukeさん)

部屋を見ているときには気付きませんでしたが、たしかに広さに対して天井は低めかも。それをカバーするために、壁紙や天井のカラーが白で統一されているのかもしれませんね。

シンクが小さくて片付けが大変!

「キッチン自体は広いんですが、シンクがあまり大きくないのが困りどころかも。ふたり分ぐらいなら大丈夫なんですけど、友人を招いて料理すると、すぐにお皿でいっぱいになっちゃうんですよね。後片付けが大変です」(Yunaさん)

暮らしのアイデア

靴の収納スペースをあえて増やさない

玄関に備え付けられた靴棚には、モノトーンを中心にブーツやスニーカーなどがズラリ。おふたりが取材当日に着ていた服も白と黒でしたし、好みのカラーが反映されている感じがしますね。

「実は、ふたり分の収納スペースとしては小さいんですが、棚などを増設する予定はありません。余分な靴を増やさず、新しい靴を買ったら古い靴を捨てる習慣ができるので、今の状態を保ちたいと思っています」(Yunaさん)

こだわりの玄関は“家の顔”。おふたりの美意識は、靴の収納方法にも現れているのだと感じました。

写真:Ryosukeさん

また、キッチンダイニングの壁にも秘密が。この物件がリノベ済みであることは先にもお伝えしましたが、引っ越し当初はこのように、パステルブルーの壁紙が貼られていたそうです。

DIYで貼った壁紙のアップ

「でも、オーダーした家具とのマッチングを考えると、この色はイマイチだな……という結論に至りました。

そこで、壁紙の上に重ねられるホワイトの壁紙を調達し、DIYで対応しました。最初はシールタイプの壁紙を試したんですが上手くいかず、今はのりで接着するタイプを使っています」(Ryosukeさん)

これからの暮らし

福岡へ移住したら一軒家住まいに

今年中に結婚を予定しているおふたり。リモートワークが中心になったこともあり、先々は東京を離れてRyosukeさんの故郷、福岡県に移住することも視野に入れているようです。

「以前より、東京に住むメリットが減ってきていると思います。気軽に飲みに行ける雰囲気ではないし、人に会う機会もかなり減りました。地元の福岡に拠点を移したら、一軒家を立ててより理想に近い生活がしたいですね。

この部屋はちょっと間取りが特殊なので、より広いダイニングキッチンなどがある物件に住めたら理想的かな」(Ryosukeさん)

「あと、次はペットと暮らせる家に住んでみたいですね。ネコちゃんも飼いたいし、キバタン(※)も飼ってみたい! 移住後はモデルの仕事も続けつつ、大好きな料理の分野にも挑戦しようと考えています。そのために、少しずつ栄養学の資格取得のための勉強をしているところです」(Yunaさん)

※鮮やかな黄色の冠毛が特徴的なオウム科の鳥。オス・メスともに体長は約50cmで、オウムと同じく人間の言葉を覚える。

傍から見ると完璧な暮らしにも思えますが、それに満足することなく新たな展望を見出しているRyosukeさんとYunaさん。

たとえ住む場所や家が変わっても、普遍的な価値を持つデンマーク家具や長年連れ添った観葉植物たちは、今後も空間を素敵に彩ってくれるでしょう。

おふたりがこれから叶えていく理想に、今から胸が高鳴るばかりです。

Photographed by Kaoru Mochida

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