【みんなの部屋出演者】ちょい足し「キッチン収納」まとめ
本記事はROOMIEらしいレビューを含んだ、短編小説・第2話です(全3話完結)。

<前回までのあらすじ>
都内の食品メーカーで広報として働く29歳の小春。
家にいる時間が増えた今、フットワークが重く“諦め癖”がついていることに悩んでいた。
しかし後輩の青山くんの影響で、少しずつ気になることに挑戦ができるようになる。今回チャレンジするのは……?
第1話はこちら|「りんご箱」を使ってDIYデビューした話

「これ、小春が作ったの!?」

部屋に置いてある棚を指差して「この間りんご箱のDIYをしたんだ」と伝えると、澪は驚きの声をあげた。「あれほど『フットワークが重い』って言ってた小春がねえ」と感心したように呟いている。

「すごくいいね」

「ありがとう」

りんご箱のDIYをして以来、「いつか」と先送りにしていたことに少しずつ挑戦するようになった。

行きたいと思っていたお店に行ったり、持ち物を買い替えたり。「どうせ似合わないだろう」と試着もせずに諦めていた洋服を試しに着てみた日は、とても楽しかった。

チャレンジするまでは「面倒くさい」「いつかでいいや」と先送りにする癖がついていたけれど、いざやってみると、どれも案外簡単なことばかりだった。「まずはやってみる」って大事だな。

「あ、そうそう。このりんご箱ね、同じ部署の青山くんがきっかけなの」

青山くんがりんご箱を注文していた話をする。

「青山くん……って、去年異動してきた子か」

「うん。あの人すごく多趣味でアクティブなんだ。青山くんの楽しそうな姿見てたらさ、『私も』って不思議と思えたんだよね」

そう言うと澪は「へえ」と返事をした後、何かしっくりきていない表情をした。

澪は青山くんと入れ違いで他の部署に異動したので、直接的な関わりはない。

「どうかした?」

「いや、前に青山くんの話聞いたことあるんだけど……、そんなにアクティブじゃないイメージだったから意外だと思って」

アクティブではない青山くんの姿が想像できない。

「前の支社ではプライベートを公にしてなかったのかもね」

澪は自分で納得して、紅茶が入ったマグカップに口をつける。小さく「おいし」と言ったあと、「次はどんなことをやるの?」と聞いた。

「それが考え中なんだよね」

暮らしの中で憧れていたものの、まだ手を出していなかった“何か”に次は挑戦してみたい。

でもそれが何か、いまいちピンときていない。

「淹れたてのコーヒーを楽しむ生活とか?道具を買い揃えてさ」

「いいね〜」

「お菓子やパン作りを始めるとか」

「最高」

「習い事をする、ジムへ行く、朝活を始めてみるとか……」

澪は私がイメージしやすいように、アイデアを次から次へと出していく。

どれもすごく楽しそうだし、やってみたいことばかりだ。これから出会う“何か”にワクワクする。

「次は何しようかな」

お昼休憩も残りわずか。デスクで温かいお茶を飲みながら、隣の席の青山くんと話していた。

私たちはりんご箱をきっかけに、今まで以上に雑談をする仲になっている。

青山くんは先日デイキャンプに行ってきたらしく、何枚か写真を見せてくれた。「カメラも好きなんです」と楽しそうに話す姿に、また関心してしまう。

澪が言っていた「アクティブじゃない」という言葉が信じられない。昔の話を聞いてみたい気もするけれど、やっぱりやめた。

「小春さん、観葉植物を育ててみるのはどうですか?」

「観葉植物?」

青山くんがスマホを私に向ける。画面には植木鉢に入った観葉植物が映っていた。

「これ家で育ててるやつなんですけど、部屋にグリーンがあると癒されるんですよね。毎朝水をやって、成長する過程を見るのも楽しいし」

「へえ〜いいな。てゆうか、青山くんは観葉植物も育ててるんだね」

「やっていない趣味はないんじゃないか」と思うほど、青山くんはあらゆるキーワードに対応している。

登山に、DIYに、キャンプに、カメラに、観葉植物か。

そうだ、前に「コーヒーも勉強してる」って言ってたな。一体どこからそんな時間を捻出しているのだろう。不思議な存在である。

「……って、聞いてます?」

「あ、ごめんごめん」

「葉の状態を観察したり水をやったりする時間って、スマホもパソコンも見ないので、時間がゆっくり流れてる感じがするんですよね」

「そうなんだ」

一人暮らしを始めた頃から、観葉植物への憧れはあった。おしゃれな人の家には必ずあると思っている。

手を出してみたいものの、毎日の世話や虫対策ができるのか自信がなくて、最近では考えなくなっていた。

単発で終わるような「やりたいこと」ばかりを思い浮かべていたけれど、観葉植物を育てるような、日々の成長が分かるものがあると暮らしがより楽しくなるかもしれない。

「観葉植物、いいかも」

時計の針が13時を指している。ひとまず青山くんに「ありがとう」とお礼を伝えた。

早速帰りに花屋を覗いてみることにしよう。

会社を出た後、遅くまで営業している花屋へ向かった。何度か利用したことのあるお店で、ここは花だけでなく観葉植物も多く取り扱っている。

植物がギュッと集まった店内を見回す。

一人暮らしでも挑戦しやすそうな小さな観葉植物がいくつもありワクワクしてきた。

ついに私もグリーンデビューするのかと思うと、自分が大人になったような気持ちになる。

店員さんを呼ぼうとしたとき、ふと入口の近くに置いてある苗に目が止まった。

札には「大葉」と書いてあり、価格は100円だ。

「もうこれが最後の苗なんです」

しゃがみ込んで見ていた私に、店長が声をかけてくれた。

「大葉はプランターで育てられるので、気軽に挑戦しやすいですよ」

大葉は生命力が強いため、大掛かりな虫対策も必要なく、家庭菜園初心者に人気だという。

苗一つで何枚も収穫ができるらしく、「収穫」というゴールがあるのが随分楽しそうに思えた。夏の食卓を彩るのにもぴったりかも。

風に揺られている大葉を見ていると、不思議と「いいな」と思った。

でも、私は今回観葉植物を買いに来ているのだ。大葉のことは一旦置いておき、観葉植物について質問しよう。

店長は観葉植物の種類や世話について丁寧に教えてくれた。

「うんうん」と頷きながら聞いていたものの、入口付近で小さく揺れている大葉に、なぜか惹かれてしまう。

なんでだろう。

同じグリーンでも、全然違うのに。

観葉植物を買おうと口を開いたのに、気がついたら私は「大葉の苗をください」と言っていた。

お店を出たあと「なんでこんなにも大葉に惹かれてしまったのか」と自分で首を傾げる。

信号待ちをしている間、ビニール袋の中を覗くとふわっと大葉の香りを感じた。

不思議と懐かしい気持ちになった。

**

翌朝、100円ショップ「セリア」で買った植木鉢と野菜栽培用の土をベランダに出した。

腕まくりをしてしゃがみ込む。

苗を買った帰り、お店をはしごして必要な道具を揃えた。

最初はデザインが凝った植木鉢を買おうとしていたけれど、いきなり頑張りすぎるのはよくないと思い、100円ショップでシンプルなデザインの鉢を選んだ。

今の100円ショップはすごい。

いつも素通りしていたガーデニングコーナーには、植木鉢をはじめ、土や肥料、虫除けネットなど必要な道具がほとんど揃っているのだ。

初心者でも気軽に挑戦できる体制が整っていることを私は知らなかった。

「まずは植木鉢に土を入れて……、真ん中にくぼみを作るのか」

ネットで調べた大葉栽培の仕方を参考に、黒いビニールポットからそっと苗を取り出す。

作ったくぼみに優しく入れて土を被せた。

最後に、通販で買った小さめのじょうろで、たっぷりと水をやる。

じょうろはコップでも代用できるけれど、じょうろがあるだけで気分が上がる。

毎日水をやるからこそ、楽しくなるアイテムを使いたかった。

ぐんぐんと土が水を吸っていく。プランターの中でゆらゆらと葉を揺らす様子を眺めていると、目の前にある大葉が急に愛おしく思えた。

我が家で唯一のグリーン。

観葉植物のようなおしゃれさはないけれど、私の暮らしにはぴったりかも。

2週間が経過する頃には、葉の数も随分増えた。

今のところ虫対策もほとんど必要なく順調に育っている。

たまに肥料をやって様子を見ているくらいで、栽培は想像以上に簡単だった。

日課となった朝の水やりも楽しい。

カーテンを開けて、昨日よりも大きくなっている葉や茎を観察するのが癒しになっている。

青山くんが言っていたみたいに、スマホやパソコンを見ないと、時間はゆっくりと流れていく。

ほんの少しの時間なのに、これまでの挑戦とは違った充実感がある。

「もうそろそろ収穫かな」

スーパーで売られていそうなサイズ感になったある日。ついに大葉を収穫した。

立派に育った大葉を何枚か摘んで、早速晩ごはんに使ってみる。

豚バラ肉に採りたての大葉と、チーズをのせてくるくると巻く。

フライパンで焼いて甘辛い味付けをすれば、簡単でボリューミーなおかずの出来上がりだ。

甘辛くお肉の旨味が詰まった中に、大葉の爽やかな風味を感じる。

こってりとした味わいに大葉が加わると食べやすくなる不思議。あっという間に平らげてしまった。

「ふう、美味しかった」

まだまだ暑い8月終わり、自家製の大葉にお世話になりそうだ。

一人暮らしの小さな部屋で、自分で育てた野菜が収穫できるとは、なんて豊かなんだろう。

ミニトマトやネギ、バジルやミントなど、他の野菜やハーブも育てられたら、自給自足も夢じゃないかもしれない。

……なんて気持ちが一気に広がっていく。

思わず大葉の様子が見たくなってベランダに出る。

薄暗い中しゃがみ込んで大葉を観察していると、急に懐かしい記憶が蘇ってきた。

***

「小春、庭の大葉摘んできて」

昔、母は庭で大葉を育てていた。

小学2、3年生の頃、友達の家から帰宅すると、商店街のイベントか何かでもらった大葉の苗を、プランターに移し替えようとしていたのを覚えている。

「それなに?」と聞いたら「夏にぴったりの和のハーブだよ」と教えてくれた。

母は花が好きでよく生けているけれど、「野菜を育てるのは大変だから」と家庭菜園には手を出していなかった。

そんな母が、ひょんなことから手に入れてしまった大葉。

いただいたからには育ててみようと、私が朝顔の観察日記を書いていたときに使っていた、青いプランターを引っ張り出してきた。

「うまく育つといいね」なんて言いながら、移し替える作業を手伝う。

スーパーで見る大葉よりもまだ葉はギザギザしていなくて、全体的に小さい。

水をやるとあっというまに土に吸い込まれていった。

しばらくすると、小さかった大葉はギザギザに変化していった。プランターの中は大葉でいっぱいになり窮屈そう。

「大葉の栽培って、こんなに簡単なのね」

特別な肥料も、大掛かりな虫対策もなく育てられることに、母はとても感動していた。

「今日は素麺だから。小春、庭で大葉摘んできて」

もう十分収穫できる頃になったある日、母にザルを手渡されて大葉を摘みに行った。

大きな葉を何枚かプチっとちぎる。

摘みたての葉に少しだけ鼻を近づけてみると、大葉特有の爽やかな香りが広がっていく。「夏がきた」と思った。

初めて自分たちで育てた大葉を食べた夜。私は子どもながら、自分で何かを生み出せることに感動を覚えていた。

「お母さん、これで自給自足できるね」なんて、覚えた言葉を言っていた気がする。

大葉だけでは日々の食事はままならないのに、なぜか母も同じような感動を覚えていて二人で盛り上がった。

それからしばらくの間、毎年大葉を育てるようになった。

しかし高学年に上がってからは友達との遊びや勉強に夢中になり、次第に世話自体を母に任せきりになった。

いつのまにか育てていたことすら、すっかり忘れていた。

今でも母は家庭菜園を続けている。大葉から始まり、ミニトマト、ナス、きゅうりと種類も増えた。

他の野菜の主張が強いから、大葉の存在が隅に追いやられていたけれど、きっと今年も母は大葉を育てているだろう。

大葉は、私の暮らしの近くにずっとあったのだ。

一人暮らしも長くなり、毎日忙しく働いているうちに、そんなことはすっぽり頭から抜け落ちていた。

私は、育てる喜びも、収穫する喜びも、この香りも知っていたんだ。

庭で行う小さなプランター菜園が、とても豊かであることも。

****

大葉の写真を撮影して母に送る。昼間に撮影したらいいのに、今すぐ送りたくなった。

薄暗いベランダでポツンと映るプランターを、果たして母は大葉だと気がつくのだろうか。

なんて返事が返ってくるのか、想像している時間も楽しかった。

最終話は、8月31日更新予定です。お楽しみに。

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