最近、雑誌連載が行われているのですが、週刊誌で軽く読むのはあまりにももったいないと、コミック化を待っていた一冊です。それが「草子ブックガイド」。
■「小説のレビュー」をビジュアルで楽しむ
主人公の草子ちゃんは家庭環境も芳しくないうえ、引っ込み思案な性格もあって中学校でもなかなか友人を作れません。そんな彼女の特技、「人の心を打つブックガイドを書くこと」を古本屋の老主人が発見するところから物語は始まります。
彼女は本を一冊読み終えるたびにブックガイドを書き上げていきます。そのブックガイドは老主人の心を打ち、学校の司書教諭を動かし、母との再会や父親とのコミュニケーションの力となり、図書委員の友人を得るきっかけとなります。
彼女が著すブックガイドは文字だけで書かれた感想文ですが、コミック内においてはビジュアル化してその世界が描かれます。お話の世界観のビジュアル化はもちろん、彼女が感じた心象風景も美しく描かれます。
小説を文字通りコミカライズする方法もあります(近代小説のコミカライズをコレクションするのが私の密かな愉しみです。オススメは池上遼一「近代日本文学名作選」、 榎本ナリコ「こころ」です)。しかし「草子ブックガイド」で試みているのは単純なコミカライズではなく、本編を読む気にさせるような「さわり」の部分のコミカライズと、主人公の生き様を通じて「人が小説を読んだときに心動いた様子」を描くことです。
それがとても効果的で、「コミックならでは」の世界を作りだしています。
■ SF、小説、ファンタジーと読書家の世界はどこまでも広がる
タイトルのとおり、主人公の草子がいろんな書籍のブックガイドを作る、というのが基本的なストーリーですが、「夏への扉」のようなSFから、「李陵/山月記」のような日本の近代文学、西行の古典から「銀河鉄道の夜」「飛ぶ教室」のような童話まで幅広くブックガイドしているのもこの作品の特徴のひとつです。
読書家(本読み、ともいう)の楽しみは、新しい世界を発見することですが、人から紹介されるのも楽しみのひとつです。本作品を通じて、「実は興味があったんだけど、まだ読んでなかったんだよなあ」というようなきっかけを得たり、既読書について「ああ、分かる分かる」というような楽しみ方もできます。私は周囲の人があまりに褒めるので「夏への扉」を遠ざけてしまったのですが、草子ちゃんのブックガイドを読んで、いつか読もうと思いました。
若い人にとって、いかに多くの読書体験を積めるかは、その後の人生の厚みに少なからず影響してくると思いますが、本書を通じてそうしたきっかけが得られれば、それはとても幸せなことではないでしょうか。もちろん、年をとってから新しく見つけられた読書体験も同じくらい価値あるものだと思います。
「草子ブックガイド」、ぜひ読んでみてください。
ところで、コミックを買った人は、一読後、カバーを外してみてください。表紙の淡い色彩がどのように作られていたかわかって驚くと思います。紙の本の楽しみのひとつは装丁ですが、編集者がこの作品を愛していることが伝わってくると思います。
これは、しっかり本を買った人だけが共有できる秘密です。