この日のメニューは、マーティン・パーさんの写真作品『ブリティッシュ・フード』(1995)から飛び出して来たかのようなブリティッシュテイスト溢れるものばかり。まずは、上と下の写真を見比べてみてください。上の写真が、マーティンさんが撮影したもの。そして、下の写真が今回のコースに登場したキャロットケーキです。
今回のコース料理は、すべてマーティンさんの写真をもとに再現されました。このケーキをつくったエレン・パーさんは、じつはマーティン・パーさんの娘だそう。この企画は、親子初のコラボレーションでもあったのです。
それでは、当日の様子をお伝えしていきましょう。
会場となったのは、hue plus。普段は、プロの写真家が料理の撮影に使うスタジオです。こちらはキッチンのひとコマ。もうすぐお客さんが来るという時になっても、余裕のムードでした。
インテリアコーディネートアーティストのアリス・ホッジさん(左)とシェフのエレン・パーさん (右)。 どこへ行っても楽しく、自分たちのペースで料理を提供するのが二人流です。
会場のインテリアも徹底的にコーディネートされていました。インテリアに使われたファブリックや置物、皿などは、ほとんどイギリスから持って来たそうです。
いよいよお客さんがそろいました。キッチンと客席がレースンのカーテンで仕切られていたのが、なんともいい雰囲気をかもし出していました。
スターターはこちら。ミルクティかと思いきや、中身はタイ風トムヤムスープ!遊び心がきいています。
ダイニングルームは、イギリスの雰囲気一色に。イギリス王室の写真や国旗が飾られ、ポップで風刺の効いたマーティンさんの世界観に通じるものがありました。
料理の方もいくつかご紹介したいと思います。
こちらは、エレンさん作の「フィッシュ&チップス with タルタルソースとホームメイドケチャップ」。右下に小さく写っている作品を元にしており、スーパーの袋まで再現しています。
上の写真は、マーティンさんの作品です。大きなドーナツと思いきや、子どもの手が小さいんですね。童心の頃を思い出させてくれる1枚です。
甘いドーナツは食事として食べられる、スパイシーなメニューになりました。その名も「南インド ドーナツ with ココナッツ・チャツネ」。
このほかに、 「そら豆のピューレ、半熟玉子、パプリカと豚肉」や、「ジン、エルダーフラワー、ローズウォーター、チェリーのウェルカムドリンク」などのメニューがありました。
そして会場には、この日のために来日したマーティン・パーさんの姿も。
イベントを終えたばかりのマーティンさんに、さっそく質問させていただきました。
──娘さんとの初のコラボレーションはいかがでしたか?
マーティン:とても楽しかったです。エレンが、私のスタジオにやって来て『ブリティッシュ・フード』シリーズの作品群の中から、今回のコースに合う写真を選んで行きました。私は特にフードについては意見していません。彼女が自由にレシピを考えました。同じコンセプトのイベントを、これからロンドンでも開催する予定です。
──とてもハッピーな雰囲気に包まれたイベントでしたね。やっぱり食事は皆で楽しみたいと思われますか?
マーティン:そうですね。ポップ・アップ・レストランは、大人数で食事ができて素晴らしいですよね。日本でも、もっと増えるといいなと思います。
──今回は久しぶりに来日されたそうですね。日本でお気に入りの場所はどこですか?
マーティン:絶対に行くのは、書店ですね。必ず写真集探しをします。長い間来日していなかったので、 今どういったものが面白いのか、 遅れを取リ戻すべく見つけに行きたいと思います。
マーティンさんは今年で61歳になられるそうですが、好奇心と情熱に溢れたとても素敵な方でした。
マーティンさんの写真には、よく食べる人の姿や、食べ物が登場します。食べる人の姿って、決して美しいとは限らない、人間の正直な姿を表しているもの。でもなぜか、とても愛おしさを感じさせるものでもありますよね。マーティンさんの写真の世界に触れて、あらためて食べること、そして写真っていいな、と思わされました。
マーティン・パー[IMA ONLINE]イベントページ[IMA ONLINE]
画像/素材提供:© Martin Parr / Magnum Photos. Courtesy GOLIGA
(宮越裕生)