大人になって読んでみると、また違った印象を受けることもあるかもしれません。夜眠る前に、雨降りの日に、もちろん晴れの日だって、絵本を読む時間はきっと貴重な時間となることでしょう。
というわけで、大人も子どもも楽しめる絵本の紹介をしていきたいと思います。第34回は、新見南吉作・黒井健・絵 『手ぶくろを買いに』です。
1988年初版の絵本です。
ストーリーはこんな風。
冷たい雪で牡丹色になった子ぎつねの手を見て、母ぎつねは毛糸の手袋を買ってやろうと思います。その夜、母狐は子狐の片手を人の手にかえ、銅貨をにぎらせ、かならず人間の手のほうをさしだすんだよと、よくよく言いふくめて町へ送り出しました。はたして子ぎつねは、無事、手袋を買うことができるでしょうか。
新見南吉さんの美しい言葉で綴られるお話や情景は日本や日本語のよさを再認識することができ、真っ白く幻想的な情景を思い浮かべることもできます。黒井健さんの可愛らしく、温かな挿絵も素敵な絵本です。
「母ちゃん、目に何か刺さった、ぬいて頂戴、早く早く」という言葉は、雪を知らなかった子ぎつねが雪におひさまがキラキラと反射し、あまりに強い反射を受けたので、目に何か刺さったと思ったこと。
そして、手が寒いという子ぎつねの手ぶくろを買いに、町に向かった途中に見えた町の明かりに「母ちゃん、お星さまは、あんな低いところにも落ちているのねえ。」と子ぎつねが聞いたこと。
まるで人間のお母さんと子どもの可愛らしい会話のようで微笑ましくなります。
そして、子ぎつねだけで買い物に行くことになり、母さんぎつねは、子ぎつねの手を片方、人間の手に変え、「人間の手の方を出しだして、この手にちょうどいい手袋を頂戴っていうんだよ。決してこっちの方のお手々を出しちゃだめよ。きつねだとわかると、捕まってしまうからね」と言い聞かせます。
手ぶくろが売っている帽子屋さんに行くと、子ぎつねは間違えて「きつねの方の手」を出してしまいましたが、白銅貨を2つ出すと、人間は子ども用の手ぶくろをくれました。
子ぎつねはお母さんぎつねに、間違えた方の手を出したことを話し、「人間はちっとも恐かないや。だって、間違えた方の手を出したけど、ちゃんとこんないい暖かい手ぶくろをくれたもの」と言います。その話を聞いて、母さんぎつねも「人間はいいものかしら。人間はいいものかしら」とつぶやいたのでした。
一方的な関係ではなく、人間と動物がこうやって共存できたらいいな。
寒い冬にほっこりした優しい気持ちになれる1冊です。
新見南吉作・黒井健・絵 『手ぶくろを買いに』[偕成社]