さんたく!!!朗読部『羊たちの標本』
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第六話『秋のスープ』
(作:古樹佳夜)
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◆◆月見草とスープ◆◆
まん丸で真っ白い、お月様だ。
おまんじゅうに見える。
いや……マシュマロかな?
半分のお月様はおやつのパンケーキ。
三日月はかじっちゃったクッキーの形。
……ああ、お腹減ったなぁ……。
「海月君、またですか?」
「お、お腹の虫がぐぅ〜って鳴いてる」
「だ〜って、夕飯足んないんだもん……」
隣に座っているのは、いつものように
スケッチをしている羊と、
月明かりで読書をしている月兎だ。
「ゆ、夕ご飯いっぱい食べてたじゃない……」
「はい。あれから二時間くらいしか経ってないです」
二人とも僕を呆れた目で見つめている。
ちょっと、そんな顔する事ないじゃん?
「あのさ、僕だって好きでお腹減るわけ
じゃないんだよ?
生まれつきこうなんだ。
羊が急に眠くなって気を失っちゃったり、
月兎がお日様に当たると
動けなくなっちゃうのと一緒なんだ」
そう、我慢しようったって上手くいくはずない。
細かいメカニズムはわかんないけど、
人それぞれ変えようもない
特徴ってのがある。
それに対してとやかく文句をつけるのは、
バカバカしい。
考えるだけ無駄ってもんだ。
「ん〜……それはとても辛いですね」
「う、うん……。み、海月君……
わかってあげてなくて……
その……ご、ごめんね?」
「へへ。わかればいいんだよ」
鈴に同じ事を言ったらため息をつかれたけど、
さすが、二人は親友だね。
僕の気持ちをちゃんと
理解してくれたみたいだ。
「あ〜あ。それにしたって、お腹減った。
食堂に何か残ってないかなぁ」
「ないと思いますけど……」
「す、鈴兄が『海月が食べ過ぎるから』って、
厨房の食料庫に、か、鍵をつけていたよ」
「え!? 鈴ったら何てことを〜〜!」
「鈴君は食べ過ぎを
心配しているんだと思います」
「そんなの知らない!」
プイッと顔を背けると羊が
顔を覗き込んできた。
嗜められているみたいだ。
「もういいよ!」
僕は庭の奥に歩いて行く。
「海月君、どこに行くんですか?」
「庭の食べものを探すの。
もしかしたら果物が生ってるかもしれない」
「お、怒られるよ……。
か、葛君のことで、
鈴兄、いつもよりピリピリしてるから……
み、見つかったら、大変……」
「本当は庭に出るのも止められましたからね」
「で、でも、庭先に三人で居るくらいなら……
ゆ、許してくれるとおも、思う。
でも、出歩いたら……」
「う……」
葛……あいつは神出鬼没で、怖い。
何考えてるかもわかんないし、
恐ろしい殺人鬼だ。
二人の言葉を聞いて
少しだけビビってしまった。
「月兎君も葛君が怖いんですか?」
「ち、違う……鈴兄に怒られるのが……
嫌なだけ……」
月兎は鈴のことを誰よりも信頼している。
だから、なるべく言いつけ
を守ろうとするんだ。
鈴も月兎を弟みたいに可愛がる。
本当にお互い『兄弟』とでも
思っているのかな?
たった2つしか違わないのに。
だいたい、色々行動を指図したり、
鈴は偉そうなんだよね!
僕のことは弟じゃなくて
子分と勘違いしてるかも?
「……なんか、腹立ってきた」
「え、な、なんで?」
「お腹空きすぎてですか?」
「違う!!」
『グゥ〜キュキュ』
腹の虫が盛大に鳴った。
「ふふっ!」
不意を突かれて羊が噴き出した。
つられて月兎もくっくっと肩を震わせている。
「言ってることと全然違うじゃないですか」
羊は珍しくお腹を抱えて笑っていた。
僕はそれが悔しくて、頬を膨らませる。
「ねえ! 笑ってないで二人も
食べ物探し手伝って!」
「え、え〜……」
「そうだ、三人で探そうよ。
それなら安心でしょ?」
ようやく笑い終わった羊は、
ふう、と息をついた。
「わかりました。
でも、月明かりだけでは
少し心もとないです。
ランプを持ってくるので……」
「よ、羊君……
その心配は……
ないみたい」
「え……」
月兎は僕を指差した。
ハッとして自分の身体を見渡してみる。
気づかなかったけど、
僕はさっきから光っていたみたいだ。
「これなら夜の庭でも歩けますね」
そう言って羊は笑った。