春をとびこえて夏になったような陽気になるからか、光をやけにはっきりと感じます。やわらかくてぼんやりだったものが、白い線のようなくっきりしたものに変わってくると、ぼやけていた自分の輪郭もすみずみまで見えてきます。そうすると、やっと年を重ねたんだなとはっとするようなほっとするような。夏目漱石先生の『夢十夜』が頭に浮かびます。第一夜の最後シーン、百合の花を見た男の気持ちは今の私が感じているものと近かったのではなかろうかと思うのです。