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ブルックリン物語 #59 我が心のジョージア”Georgia on my Mind”
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ブルックリン物語 #59 我が心のジョージア”Georgia on my Mind”

2019-04-11 18:00


    2017
    年クリスマス、最初にミネアポリスのセントポール国際空港で演奏してから駆け足で一年が過ぎ、次の冬がやって来て再び同じ場所で弾くチャンスをもらったので、早速行って来た。 

    ミネアポリスの大地は雪に包まれ寒そうだった。表情豊かな自然に育まれた雪景色が飛行機の窓の向こう側に流れていく。通路側からほんの少し首を伸ばして一年前に思いを馳せる。空港で行き交う忙しい人たちに向けての演奏なんて果たして聴いてもらえるのだろうか? そんな不安な気持ちを抱え窓からミネアポリスの景色を眺めたのを憶えている。時の流れは早いものだなと物思いに耽ける間もなく、飛行機は急降下しあっという間にランディング。

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    若干の揺れをも諸共せず、必死でブレーキをかけながら滑走路に機体を留まらせようと踏ん張る飛行機。そうこうするうち子犬が飼い主に宥められるように徐々に静かになってスーッと深い息を吸って吐く。急速な降下が嘘のようにそのあとはしばらく動かない。機内はずっと無言のままでどことなくその空気は気まずい。やがて窓にゆっくり横切る景色が地上への帰還をそっと僕たちに教えてくれる。着陸時にシャッフルされたわが心はゲートへと静かにゆっくり誘導される。
     

    ミネアポリス。

    初めてこの街を訪れたのは2017年の秋だった。中西部をライブで回った時でシカゴのライブ会場、オハイオ、コロンバスの小児病棟での演奏を経て、最後ミネアポリスに到着した。その旅で四海(Sihai)というこの街に住む中国出身の映像監督が、チームとともにドキュメンタリー「A Conversation with Senri Oe(大江千里との会話)」を撮影したのだ。ミネアポリスでは500人ほど入る劇場での演奏(日系のイベント)ともう一つ、アメリカ1大きいと言われているモール(Moll of America)のアメリカ1小さな(僕はその時そういう風に表現した)雑貨屋さんでの演奏だった。アジアの「KAWAII」を集めた店のオーナーはダニー、韓国系アメリカ人の男、四海や彼女のプロデユーサー、フレンチの友人だ。彼が僕に興味を持って場所を提供してくれたのだ。

    https://www.youtube.com/watch?v=COtYMRg28W8

    飛行機の窓から見るアメリカ大陸は無謀に大きく、ここのどこかの街で誰かと知り合ったり一つの仕事に結びつけたりしていくのは砂漠で水を探すごとく大変なことのように思える。しかしこの大きな合衆国の中の小さな場所で知り合う「たった一人」でいい。その「一人」と深くなっていくと必ずそこに切れ目を入れることができる。漠然とした景色に、ふと自分が混じっていることに気がつく。そこから始まる。音楽があると言葉を超えて先へ行ける。

    その時に仲良くなったダニーが、ホリデイシーズンにミネアポリス空港でやっている演奏会の主催者に僕を推薦してくれた。そのシリーズを牛耳る妙齢の女性は、僕にチャンスをくれた。その1回目が2917年の冬、クリスマス前のこと。僕と並びの人たちは地元で活躍するプロのジャズミュージシャンの面々。無我夢中で与えられた2時間を汗びっしょり

    で終えた。思ったよりもたくさん人が耳を傾け立ち止まり拍手をくれた。僕だと知っている人の前で演奏することに日本では慣れてしまっていたので、アメリカの、しかも空港という場所でのこの経験は僕の中に風穴を開けた。その夜は流石にヘトヘトだったが心は不思議と爽快だった。

    https://ch.nicovideo.jp/senrigarden/blomaga/ar1389488


    そして、嬉しいことに再び次の冬に、2回目、空港での演奏会への発注をいただけた。


    ミネアポリス、セントポール国際空港。

    去年と同じように一般入口の右に位置する関係者専用口へ行って事情を話しSecurityをパスする。ぴもパパ同様のやり方でSecurityをくぐる。次に地図にある別階の総合受付で就労ビザを提示しフォームに記入、空港内での仕事の許可を貰う。1回目の時はこの場所までアシストの人が迎えに来てくれたが今回は自分で現場へ行けということだ。確かに初めての時とは違う別の緊張感が増してはいるが、同時に心のどこかに自分が一度音を奏でた場所へ戻って来られた安心感がある。発着が交差しレストランが乱立するエリアに演奏した場所があったのをおぼろげに覚えていたので、「確かここら辺にスタンウエイのピアノがあったよなあ」とウロウロしていたら、「Senri Oe Piano Concert 」の立て看板が! やっぱり動物の勘は外れていない。並んで記念撮影をしていると、空港関係者が横を通り過ぎ「同じ顔」が実写と本物で並んでいるので「ギョッ」とされる。どうも、こんにちは!

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    「今回、現場を任されたフィリップです。君がSenriだよね? 本番まであと1時間あるからどこかでランチを食べてる、それとも?」

    「あ、そこのベンチでのんびりしてますから気を遣わないで、大丈夫」

    去年弾いたスタンウエイは少し離れた総合案内の後ろにある。早く定位置に移動させないとと内心気がかりなのだがKayさんが、

    「何か召し上がられます? リハから本番、そして2時間ぶっ通しだから、今お腹に入れといたほうがいいのでは?」とsuggestion 

    「いや、いいです。Kayさんだけ食べてください」

    と言ったものの隣でサクサクいい音を立てて食べるKayさんを見ていてお腹がぐうと鳴る。

    「やっぱり欲しいんでしょう? どうぞ召し上がってください」

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    「いい犬ね。私も実家に同じ犬種がいるのよ」

    中国系の女性が話しかけてくる。

    「ちょっと撫でても構わない?」

    もちろん!

    ぴはどこか誇らしげに首を反らせて彼女の手のひらにされるがままにしている。

    そうこうしている間にフィリップとそのアシスタントの男の子たちが「エンヤトット」ピアノを動かし始める。あっという間に去年と同じ位置にスタンバイ。クリスマスを祝う盛大なツリーが今年はないのがちょっと寂しいが形は整った。Kayさんはデスクを借りてきてCDを並べ即売のdisplayを始める。ぴは「またここか。前にも来たよね」と余裕の表情でふて寝を決め込む。

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    一度でも弾いたことのあるピアノだと指が覚えているので音出しやリハは問題なく終了し、程なくスルスルっと本番が始まった。1時から3時まで、ランチ終わりの時間帯。ピアノの音が聞こえるとすぐに立ち止まる人がいる。1曲終わると「僕の名前はSenriN Yからやってきたジャズピアニストです。気に入ったら座って聴いていってね。時間がない人はこれだけ頭にメモして。peaceneverdie.com  そこに居る僕12年前アメリカに来て今も一緒に頑張ってる「ぴ」が元気でいるようにと付けた名前だよ。Peaceが元気でいるように。peaceneverdie.com

    「いやだ、パパ。照れるじゃあーりませんか」

    http://www.peaceneverdie.com/index.html

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    演奏やmcを聴いて立ち止まる人。立ち止まるけれど再び歩き出す人。曲は最初のセット、ノリノリのHoliday モード一色でいった。すると「あ、去年も来たよね、彼。そしてあの犬」レストランのメートルが手を振る。こちらも弾きながら振り返す。そんなやりとりに笑みが溢れ思わず携帯で撮影する人。近くまでやってきて鍵盤を覗き込む人。振り返るとレストランの席でハンバーガーを頬張りながら体を揺らす人もいる。

    いいぞ。いいぞ。

    働いている最中にも音楽が聞こえる時がある。アナウンス、笑い声、オーダーをとる声……辺りに舞うその音の全部が心の隙間に入り込むと「音楽」になる。そんな音に混じって僕の指も鍵盤の上を舞う。

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    ミネアポリス。

    帰ってきた。

    去年も行き交う人、すれ違う一瞬触れた人が「届けてくれてありがとう」と返してくれた。

    そう、そのシンプルな気持ちに触れると、ああ、帰って来た。と心の奥で思える。

    どうせ無料だろ? とかふん! とか、やり過ごす人が以外にいない。「おっ」と音で反応し顔がほころび笑顔になる。それを見ると僕も音に「ありがとう」を込めて飛ばす。ちょっとの間聴き入ると「あ、行かなきゃ」我に帰る人がいる。そういう時にと目があうと「ごめんね、でも楽しかった。ありがとう」と会釈をくれる。僕も「大丈夫だよ、きっとまた会おうね」って心を投げ返す。

     
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