みなさん、こんにちは。
ストップいじめ!ナビの弁護士チームでは、中学校での連携に向けた活動を行なっています。
今回は、具体的に中学校の生徒さんたちとの話し合いの活動報告いたします。
ストップいじめ!ナビ
弁護士チーム プロジェクトメンバー
井桁 大介
小島 秀一
真下 麻里子
今 一貴(修習予定者・文責)
第1 はじめに
先日施行された「いじめ防止対策推進法」(いわゆる‘いじめ法’)は、各学校に対して、学校独自のいじめ防止基本方針を定めることを求めています(13条)。そして、学校の基本方針は、「児童生徒の主体的かつ積極的な参加」により制定されることが望ましいとされています(基本方針第2.3(2))。
平成25年11月7日、私たちは横浜市立市ヶ尾中学校を訪問し、生徒会の皆さんと、市ヶ尾中学校独自の「いじめ防止対策規則」制定に向けた話し合いを行いました。
生徒の皆さんとの活発な意見交換により、どのようにすれば生徒達自身でいじめを防止していけるか、そのためにはどのような内容を規則に加えていくべきか等について、今後の規則制定への足がかりになる話し合いができたと感じています。
以下、話合いの内容をご紹介したいと思います。
第2 メンバーによるいじめ法の概要説明
会議の導入として、弁護士メンバーから生徒会の皆さんに、いじめ法の作成経緯や、その意義、特に、いじめ法が生徒達自身の能動的な活動を期待し、重視していることを説明しました。
また、今回の市ヶ尾中学独自の基本方針を生徒自身の手で策定していくプロジェクトは、いじめ法施行に伴い初めて行われることで日本における重要な歴史的意義を有するものであること、さらに立派な基本方針を策定できれば、今後全国の中学校における同様のいじめ防止対策の一つのモデルになり得るので、ぜひとも一緒に頑張ろうという話をしました。
この点について、生徒の一人からは、「とても強い責任を感じます。是非本規則の制定に向けて頑張りたいです。」との意欲溢れる発言がなされました。私たちは、今回の規則制定に関し、生徒たち自身が自主的に取り組まなければ、絵に描いた餅になってしまうと考えていましたから、このような生徒の皆さんの姿勢に接し、とてもうれしく感じました。
第3 規則の内容の検討
続いて、どのようにして生徒達自身でいじめを防止していくか、そしてそのためにはどのような内容を本規則に組み込んでいくべきかについて話し合いました。
初めに、些細なきっかけから、女子グループ内でいざこざが起き、一人の女子生徒がグループ内から外されてしまうという事例を下に、生徒会の皆さんが、どのようなものを「いじめ」と捉えているのか、そして、「いじめ」に対してどのように対処していくべきと思っているかについて意見交換をしました。
生徒からは、人から嫌な思いを抱くような行為を受けた場合、その気持ちを周りの人間に言いふらすのではなく、その行為をした相手に直接自身が嫌悪感等を抱いたことを伝えるべきではないか、他の人の力を借りるのはずるい、といった意見が出ました。
このような事態が生じてしまう点については、特に嫌悪感を抱いた人間は友人などの周りの人間にそれを吐露することにより、同情を求めようとしやすいこと、それにより味方が増え、当該行為をした人間が更に孤立していってしまうことが問題であるという意見も出ました。
また、このような状況から派生して、ある特定の人物への口撃が始まった場合に、それを聞いた周りの人間の取るべき反応の一つとして、周りの人間から、特定の人物の悪口を聞いたときは簡単に話を受け入れるのではなく、それが広まらないように努力すべきではないか、中立的に話を聞くべきではないか、といった意見が出てきました。特に、本人がいない場での悪口は、勢い、あることないことが話されがちなので、それを防ぐためには本人を呼んで一緒に話し合ったり、悪口を聞いた後に本人に真偽を確かめるようにした方がいい、といった意見も出ました。
その場で初めて事例を把握した生徒の皆さんからすぐにこのような意見が出たうえ、それが少しずつ具体的な規則の形になっていく過程が大変興味深く、これから規則の内容を考えていくうえでも非常に参考になるものであると感じました。
さらに、議論を進めていくと、生徒会の皆さんの周りでも「いじめ」と認識される問題が起こっているということが分かり、各々の身近で見聞ないし体験した経験を踏まえて、意見を出していただきました。
特に印象的な問題は、クラスでは一人ぼっちであり、むしろ自分からも全くクラスの人間とコミュニケーションを取ろうとしないが、他のクラスにいる友人とは積極的に会話を楽しんでいるという生徒への対応をどのようにすべきか、というものです。
確かに、この場合その子に話かけようとしないクラスの人間の不作為が俗にいう、無視・シカトというものにあたるのかどうかという点は、非常に微妙な問題ではあると思います。
しかし、これに対して、ある役員の方から出た意見が参考になると感じました。
それは、孤立している人間が、どうしてもクラスの輪の中に自ら入ってくるような素振りを見せなくても、あくまでその人を気遣うという気持ちを忘れずにいるべきというものです。
つまり、クラスの人間がある特定の人物に話かけようとしないという不作為も、一歩間違えば、深刻な「いじめ」問題に発展してしまうかもしれませんが、意識の違いによって、相手への優しさに変わるのではないか、という考え方と言えます。
そのようなことを中学生が考えているということに私自身は驚き、深く感心しました。このような微妙な機微が求められる状況についても、規則に盛り込めれば良いと感じました。
そして、この問題のように当該作為ないし不作為が「いじめ」にあたるか否かが微妙な場面においては、それが「いじめ」に該当するか否かは特別問題ではなく、相手にとって嫌な思いを抱かせることをしない、又は周囲の人間がさせないようにすることができるルール作りをしていくことが大切であるということを確認できました。
第4 結び
この度の訪問で、生徒会の皆さんのいじめに対する鋭敏な感覚に大変刺激を受けました。学校独自の規則は、生徒により主体的に策定されなければ、生徒自身にしみこむことが難しくなります。そういった意味で、市ヶ尾中学校の生徒会の皆さんの手で、自主的な規則が制定されることは、とても意義深いことだと感じます。今後とも、市ヶ尾中学校独自の規則を形あるものにしていただけるよう、できる限りお手伝いをしていきたいと考えています。
(終)