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 “α-Synodos” 
vol.292(2021/10/15)
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〇はじめに

01.横田雅弘「ヒューマンライブラリーの可能性――「読者」(来場者)と「司書」(学生)の学びを中心に」
「ヒューマンライブラリー(human library)」という言葉を聞いたことがありますか。2000年にデンマークで行われたのがはじまりで、「人を本に見立てて読者に貸し出す図書館」という試みです。現在では、日本を含む多くの国で開催されています。障害者や社会的マイノリティに対する偏見を減らし、相互理解を促進することを目的とするもので、セクシュアルマイノリティや薬物やギャンブル依存からの回復者、難民、ホームレスなどが「本」として貸し出されています。この記事では明治大学で「ヒューマンライブラリー」を実践している横田雅弘先生に、具体的な仕組みとその効果についてご解説いただいています。

02.浅野幸治「J.ロールズの国際援助論の批判的検討(1)」
「私たちの現在の地球社会の基本構造は、約600万のユダヤ人を虐殺したナチス・ドイツの体制よりも10倍以上も不正だ」。第2次世界大戦中の5年余りの間に、ナチス・ドイツは約600万人のユダヤ人を虐殺しました。それに対して、現在、毎年1300万以上の人が、貧困に関連する原因で命を落としています。つまりわれわれは、同じ5年の間に、6500万以上の人を死に追いやっていることになります。現在の地球社会のこのような不正義を是正するために、本記事では浅野幸治さんがJ.ロールズの『万民の法』を検討します。はたしてロールズは、『正義論』を国際社会にどのように拡張しようとしたのでしょうか?

03.穂鷹知美「地球温暖化で人類は大移動の時代をむかえる?――パラグ・カンナの最新著書『移動 Move』についてのドイツ語圏での反響」
ドイツ語圏で大きな反響を呼んでいるパラグ・カンナの『移動 Move』について、その概要と、そしてカンナの議論への批判を、穂鷹知美さんにレポートしていただきました。カンナは、近い将来、地球温暖化が原因で、多くの地域で人が生活するのが困難となり、数十億人単位で人類が移動をはじめるといいます。アラブ首長国連邦、ドイツ、アメリカで育ち、現在はシンガポールに住むインド系アメリカ人であり、生粋のコスモポリタンであるカンナが提唱する「文明3.0」。そのとき世界はどのような対応を迫られるのでしょうか?

04.山根信二×井出草平「ゲーム障害は臨床的に必要な概念なのか?――病理化、スクリーニング、モラルパニック」
2022年に発効するWHOの診断基準ICDのバージョン11に、「ゲーム障害」という診断基準が掲載される予定です。この診断基準に基づいて、今年、国立病院機構久里浜医療センター院長の樋口進氏が、ゲーム障害(原語はgaming disorder)を推定する学術論文を発表しました。そこでは、日本の一般人口におけるゲーム障害の推定有病率は、男性7.6%、女性2.5%、全体で5.1%であったという結果が示されました。はたして、この数字は妥当なものなのか、そして論文そのものには問題はないのか、山根信二さんと井出草平さんが、病理化、スクリーニング、そしてモラルパニックという観点から検討しました。

05.芹沢一也「今月の1冊――『伝わる英語表現法』長部三郎」
新しくスタートする連載企画「今月の1冊」。新刊書籍からおすすめの一冊を紹介していきます。今回取り上げるのは長部三郎さんの『伝わる英語表現』(岩波新書)。さて、よく「英会話は中学英語で十分できる」と言われます。これについてはいろいろと議論があるのですが、ぼくの答えは「最終的にはイエス」です。実際に、帰国子女ではなく、国内で英会話力を磨いた人たちは、おしなべてシンプルな英語を話します。では、言いたいことを中学英語で話すことは簡単なことなのか、と言えば、答えは「ノー」です。なぜシンプルな英語を話すのが難しいのか、『伝わる英語表現法』からいくつか例を借りて説明してみました。

次号は11月15日配信です。お楽しみに!