皆様こんにちは、ニコ生D&D解説担当の塚田です。フォーゴトン・レルム世界の設定を解説するシリーズの第3回となる今回は、今シーズンの物語の舞台となっているネヴァーウィンターという都市の歴史と現状をざっくりとご紹介します。より詳しい情報は『ネヴァーウィンター・キャンペーン・セッティング』をご覧ください。
北方の宝石
ネヴァーウィンターは大陸北西部のソード・コースト(剣の海岸)と呼ばれる海岸の北のほうに位置する港湾都市であり、昔から沿岸交易の拠点として栄えてきました。ネヴァーウィンターより北にある大きな港はラスカンのみであり、しかもこちらの都市は海賊と邪悪な魔術結社が跋扈する悪徳の都であったため、良識ある者にとってはネヴァーウィンターこそが最北端の港でした。ネヴァーウィンターが“北方の宝石”の美称で呼ばれていたのものこの時代です。
貿易都市によくあることですが、ネヴァーウィンターは大商人や地主、各種ギルドの長などの合議によって治められる一種の共和制が続いていました(戦国時代の堺や、中世のヴェネツィアなどに近いかもしれません)。しかし度重なる戦乱の中では強いリーダーシップを持つ指導者を求める声が高まり、ネヴァーウィンターのために力を尽くしてきた英雄である聖騎士(パラディン)ナシャー・アラゴンダー卿が民衆の支持によって代表者に選ばれます。ナシャーはあくまで市民の代表に留まろうとしましたが、死の寸前にようやく王として戴冠し、以後1世紀以上に渡ってアラゴンダー王家の統治が続くことになります。
ネヴァーウィンターの王権が神授でも血統でもなく市民の支持によって始まったという事実は、現在のネヴァーウィンターの政治情勢にも大きな影響を及ぼしていますので、なるべく覚えておいてください。
三度の災厄
今から110年ほど前、ネヴァーウィンターは“泣き叫ぶ死”と呼ばれる魔法災害に見舞われました(コンピューター・ゲームの『ネヴァーウィンター・ナイツ』での出来事です)。そしてその痛手から立ち直る間もなく、10年後、呪文荒廃と呼ばれる天変地異がフォーゴトン・レルム全域を襲います。ネヴァーウィンターが受けた直接的な被害は、他の地域に比べれば少ないほうでした。しかし、貿易に依存するこの都市にとって、他の港湾都市の荒廃と、海軍力の低下による海賊の増加は大打撃となります。経済活動の落ち込みに伴って治安は悪化し、モラルは低下し、復活したネザリル帝国の手先がネヴァーウィンター政府内に着々と入り込んでいました。
そして30年前、火山の噴火が腐敗しつつあったネヴァーウィンターにとどめを刺します。降り注ぐ溶岩と火山灰によって市民の半数が即死し、市内の地面が割れて地底から怪物どもが次々と這い上がって来ました。命を落とした市民たちの死体はひとりでにゾンビとなって起き上がり、港は瓦礫と死体で埋まって使い物にならなくなります。生き残った人々は難民となって各地に離散し、ネヴァーウィンターという街は死に絶えたかに見えました。
復興と再建
“大災厄”と呼ばれる災害によってネヴァーウィンターが壊滅した後も、100名足らずの市民たちが市内に留まり、父祖伝来の土地を守り続けていました。彼らは噴火の被害が少なかった建物に拠点を構え、“大裂溝”と名づけられた地割れから出てくる怪物どもを食い止めるために地割れをぐるりと囲む防壁を築いて、昼夜の区別無く防壁で見張りに立ち続けます。現状維持が精一杯の20年を耐え忍ぶ中、彼らの心は熱狂的な愛国心および今は亡き王家への忠誠心に凝り固まっていきます。
そして今から10年前、南方の大都市ウォーターディープのトップであるダガルト・ネヴァレンバー卿がネヴァーウィンターの再建に乗り出しました。彼は私財を投じて復興に必要な技術者、作業員、物資、傭兵を準備した上でネヴァーウィンターに乗り込み、この都の“守護卿”を自称して事実上の支配者となります。5年をかけて街の北西1/4が再建され、この一帯は“守護卿地区”と名づけられました。この頃から各地に避難していた市民たちも故郷に戻ってくるようになり、以後ネヴァーウィンターの復興は飛躍的な前進を続けています。
ネヴァレンバー卿の正体
ネヴァレンバー卿がネヴァーウィンターの街を再建するために努力していることは間違いありませんが、彼の真の目的が何であるかについては意見が分かれるところです(『ネヴァーウィンター・キャンペーン・セッティング』でも、この点はDMが自由に決めてよいことになっています)。彼が単なる善意で災害復旧に多額の寄付をしたと信じる人はいないでしょう。
比較的穏健な見方は、ネヴァレンバー卿をあくまでも金目当ての商売人とみなすものです。ネヴァーウィンターが交易都市として復興し、沿岸交易が盛んになることは、同じく交易都市であるウォーターディープにも大きな利益をもたらすでしょう。中でも一番儲かるのが、2つの都市の事実上の支配者であるネヴァレンバー卿であることは言うまでもありません。おそらくネヴァーウィンターはウォーターディープの従属的同盟国ないし属国になるでしょうが、ネヴァーウィンターが自力で復興できない以上しかたのないことです。
しかし、反体制派の見方は違います。彼らの目に映るネヴァレンバー卿は、ソード・コーストに商業帝国を築こうとする野心に満ちた奸雄であり、ネヴァーウィンターを征服しつつある侵略者なのです。ネヴァレンバー卿が掲げる「ニュー・ネヴァーウィンター」というキャッチフレーズも、昔のままのネヴァーウィンターを守るために血のにじむような努力を重ねてきた人々にとっては神経を逆撫でするような代物です。この人々は「アラゴンダーの息子たち」と名乗って反政府活動を続けています。
あるいは、ネヴァレンバー卿が誰かの操り人形であったり、別人にすりかわっているという可能性も、完全には否定できません。
いずれにせよ、このままネヴァーウィンターの復興が順調に進んで行けば、ネヴァレンバー卿に対する市民の感謝の念はやがて崇拝に近づき、ネヴァレンバー卿を王座に推挙する声が多数を占めることになることでしょう。そうなってしまえばアラゴンダー旧王家の血筋など何の意味もなくなります。
以上のような状況で、アラゴンダー王家の血を引いている今シーズンの主人公はどのようにネヴァーウィンターの運命に関わっていくのでしょうか。それでは、次回以降の配信もお楽しみに!
『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』
著:塚田与志也
監修:柳田真坂樹