皇女カタリーナが、宮殿の塔の上に立ち、ミドンヘイムの旗を振る。
街の人々へ、そして街を脅かしているスケイブンどもへ、ミドンヘイムが勝利したことを知らせるために。
将校チーフテンを失ったことを知ったスケイブンどもは、次々に下水へと逃げてゆく。
生き残りの騎士たちが歓声を上げ、意気を取り戻して残党狩りを始めた。
ミドンヘイムの岩壁の外では、近隣の街によって派遣された軍隊が集合しつつあった。
自分の役目は終わった、と選帝侯ボリス・トッドブリンガー伯は語った。今や混沌の影響を受け、脚一本の姿となり果てているのである。彼は、娘であるカタリーナを次の選帝侯として指名し、バルデマーら一行をその証人とした。
選帝侯を人目にさらすわけにもいかないため、任命の儀式はその場で行われた。シグマーの司祭であるヨハンが、グルンディからグロムリル鋼の剣を借りて、カタリーナのために祈りを捧げた。
父以外に選帝侯などないと頑なに拒んでいたカタリーナも、やがては覚悟を決めたのだった。
選帝侯の脚はミドンヘイムの旗にくるまれ、戦いで命を落とした騎士たちの身とともに、炎の中で灰となった。気高い騎士たちの歌の奏でられる中で、ボリス伯は騎士たちの魂を伴って、ウルリック神の御許へと去った。
城下の混乱はまだ収まらないが、それも少しずつ解決されていくだろう。
地下道にいたワイトが地上へと姿を現し、カタリーナを選帝侯と認め、そしてバルデマーら一行を、その友として認めた。ミドンヘイムにおいて、一行は図らずもその名を知らしめることになったのだった。
その働きにふさわしいものを、皆は賜ることになった。
故郷の紋章を刻んだ武器を、グルンディは受け取った。今や彼も、並ぶ者なきドワーフの猛者である。
皇女の傍で身を守る軍曹の役目を賜ったグレッチェンは、良質の防具を受け取った。
物語から抜け出たようだとまで評されるようになった魔術師ウルディサンは、新しい魔導書を選び、天空の魔法体系の道を究めることに決めた。
包丁と言葉をともに武器として戦ってきたウドーは、ゆくゆく進む道を見定め、最高精度のレイピアを求めた。
一行は、貴族の風呂を使うことを許された。
バルデマーは湯にひたりながら、これから先の道を悩んでいた。ここまで行動をともにした皇女のこと、この国のこと、身につけた大道芸と旅の生活――やがてバルデマーは、密偵として働いてゆこうと決めた。
一方、皇女とアンヤとグレッチェンも、ともに風呂に入っていた。
グレッチェンの眼の包帯を、アンヤが換えようと申し出た。その眼を覗きこんだアンヤは、息をのんだ。グレッチェンの、黒一色となった眼。アンヤはめまいを起こしたように、ふらりと力を失った。邪眼の力が、アンヤに及んでしまったのだ。
のぼせたのか、と尋ねるカタリーナだが、アンヤは気丈にふるまい、グレッチェンに心配をかけまいとした。だが、グレッチェンは、なぜか自分がアンヤを害したことを理解していた。
表情を曇らせるグレッチェンを気遣うように、アンヤはこれから先の道を彼女に相談した。グレッチェンは、相談ならバルデマーに、と彼女を促した。バルデマーにも助言を受け、アンヤが選んだのは、廷臣としてカタリーナを支えてゆく道だった。
新しい生き方を考える一行に、カタリーナは厳しい表情を見せる。
まだ事件の元凶を倒したわけではない、これからもミドンヘイムを危機が襲う可能性は高い。
アンヤもまた、父への恐怖を口にした。まだなにか企んでいるかもしれない、と。
一方、デルベルツの街で――
腐敗した市警たちが、今日も巻き上げた金で機嫌良く酒をあおる夜。
そんな彼らを蹂躙し、惨殺したのは、骸骨。死者の群れが、街道を覆い尽くし、行進している。
道の先にあるのは、ミドンヘイムである。