LINEいじめ、SNS依存による鬱、バカッター(Twitterに不謹慎な投稿をすること)による炎上...。センセーショナルな事例で報道されていることは氷山の一角で、実際には私たちが思う以上に多くの若年層がネット上のトラブルに巻き込まれています。
では子どもからスマホを取り上げてネットから遠ざければ安全かといえば、それも適切な解決方法ではありません。なぜなら大人になってから、さまざまな危機管理を含めたネットリテラシーがないまま、初めて不慣れなネットとつき合うことのリスクが大きいからです。
私たち大人もまたネット上のトラブルと無縁ではありません。ほんの少しの注意と知識がないばかりにサイバー犯罪の被害に遭い財産を失うかもしれません。ネット上の不用意な振る舞いにより本人だけでなく企業が社会的信用を失う事例も後を絶ちません。
私たちはどのようにネットとつき合っていけばいいのでしょうか? 親として子どもを守るために、どのような知識を身につける必要があるのでしょうか?
元小学校教員のITジャーナリスト高橋暁子さんの新刊『ソーシャルメディア中毒-つながりに溺れる人たち』(以降『ソーシャルメディア中毒』)は、綿密な取材に基づく現状分析とともにいくつかの道筋を示してくれます。
スマホに支配される子どもたち
本書を通して今の子どもたちの様子を見ていると、彼らはスマホを活用しているというよりもスマホに支配されているように見えます。人との距離感を適切にとれるほど精神的に成熟していなく、常に人からの反応を求めてしまうが故にスマホを介したメッセージのやりとりに没入していきます。まるでLINEなどのネットコミュニティが実生活よりも大切な居場所であるかのように。
早ければ小学生のうちからLINEを使いはじめ、相手の反応に一喜一憂します。送ったメッセージに「既読」がついても返事が来なければ「何か気に触ることを言ったかな」と気を揉み、逆に「相手を無視していると取られないように」友達からのメッセージには即返信をします。
いつまでも返信をしないことは「既読スルー」と呼ばれ、相手をないがしろにしたとみなされます。場合によってはそれが元でいじめが起きることもあるので、寝不足で体調を崩したり勉強などに支障をきたしてでも彼らはスマホの画面にはりつくのです。
学校から帰宅しても言葉で袋だたきに
ネットいじめはささいなきっかけで起き、身体的な暴力と同様に被害者を精神的に追いつめます。現代のネットいじめが昔と違うのは家に帰ってもいじめから逃げ出せないことです。LINEからのメッセージが止まることはないからです。いじめの方法も証拠となるトーク履歴を削除させたり、集団で延々と悪口を書き込んで孤立感を感じさせたり、羞恥心をあおる写真を撮ってそれを公開したりと、より陰湿なものになっています。
孤立した子どもが悪意を持つ大人に狙われることもあります。いじめに悩んでいた女子中学生がネット上で相談に乗ってくれた人にだまされて、性的な写真を送らされたり犯罪に巻き込まれる事例もありました。あまりに無防備な...と思うかもしれませんが、ネット上で知り合った人と実際に会うことは、もはや中高生にとってふつうのこととなりつつあるようです。そして優しくしてくれただけで「いい人だ」と、いとも簡単に信じてしまいます。
アイデンティティがまだ不安定な彼らは、誰かにその存在を認めてもらうことで自分の存在価値を見いだしがちです。だからInstagramに笑顔の写真を投稿し、ツイキャスで動画を共有するのです。「おもしろいね」「かわいいね」という反応を求めて。なかにはハッキングなどの違法行為をしたり人の面白い投稿を自分のアイデアであるかのように投稿する「パクツイ」をしてでも、自分の能力や存在感を誇示する子どももいます。
知ることが解決への第一歩
本書の中盤以降では、ネット依存症状の4つの傾向とそれらが起きる心理的なメカニズム、治療方法について解説しています。親が子どもを指導するためのケースが中心ではありますが、大人がネット依存症になった場合にも有効な方法でしょう。ネット依存症の度合いを知るチェック項目とともに具体的なリハビリ方法も書かれています。
ネット依存に限らず何か問題が起きたときには、それが何故起きたのかということを当事者の心理的背景や社会的背景とともに知ることが解決への第一歩となります。本書はその意味でも、ネットが生活に欠かせない現代社会において誰もが知っておくべき知識が詰めこまれているといえるでしょう。
『ソーシャルメディア中毒-つながりに溺れる人たち』
高橋暁子 著
定価 :778円+税
出版社:幻冬舎
出版日:2014年12月5日
ISBN :978-4-344-97951-2 C0295
【目次】
一章・今、若者のあいだで何が起きているのか
二章・止まらない承認要求の連鎖
三章・進化するネットいじめ
四章・あらゆる人に迫るネット依存
五章・大人社会に蔓延するSNSの闇と罠
六章・「ソーシャル疲れ」が呼び込むうつと孤独
七章・SNSがもたらす違和感
八章・ソーシャルメディア中毒への処方箋