「公的年金」と「企業年金」は同じ年金という名前がついていますし、どちらも老後の生活をまかなうための手段であることは変わりないのですが、運営の仕組みが全く違います。
したがって、それぞれの制度が抱えている問題点も全く異なります。
「公的年金」の問題点をひとことで言えば、払う人が少なくなる中で貰う人が多くなるということです。これに対して「企業年金」の問題点は、予定通りにいかないことです。
「公的年金」は賦課方式といって、現役世代の払う保険料が年金受給者に支払われるわけですから少子高齢化が進む中で財政が厳しくなるという理屈は容易に理解できるでしょう。
では「企業年金」の「予定通りにいかない」というのは一体どういう意味なのでしょうか? 予定って何の予定なのでしょうか?
予定通りにいかない企業年金
前回もお話したように「企業年金」や退職金は、分かりやすく言えば社員が入社した時からその人に将来支払う分を積み立てていきます。
ところが仮に定年時に退職金を支払うとすれば、積立を始めてから実際に支払うまでの間は何十年もあります。その間、全く金利がつかないということはありえません。
何らかの運用をすることで、得られる利益の分も予定することができるはずです。これがその予定なのです。
仮に5%の金利が入ってくる場合と1%の金利が入ってくる場合を考えてみましょう。
当然、運用の結果入ってくる収益は5%の方が多いのは言うまでもありません。だとすれば積立てるお金は少な目にしてもいいはずです。逆に1%しか利息が入ってこないという予定だと、少ない分積立てる金額を多めにしておかなければなりません。
企業にとってみれば積立てる負担は少ない方が良いわけですから、当然予定する利息を高めに考えたいでしょう。ところが高めに予定していたものが予定通りに行かないと年金積立て金の金額は少なくなりますから、不足分は会社が補てんせざるを得なくなります。
従来、多くの「企業年金」が高度成長で金利が高い時代につくられた制度であったために予定利率が高めに設定されていたのです。
その結果、予定を大きく下回ることによって企業はかなり巨額の追加負担が求められることになり、最悪の場合は、年金の負担が大きくなって破たんするということも十分起こり得ます。
米国でGMが破たんした大きな原因の一つがこの退職給付債務と医療保険の負担だったといわれています。
そこで1990年代後半から「企業年金」制度は大きく変わってきましたし、制度を維持できるよう、現在も変化を続けているというのが現状です。