大塚家具という会社があります。家具屋さんです。上場企業です。
そして今、企業の支配権を巡って、骨肉の争いが報道されています。
3月27日の株主総会で、企業側(現社長)の主張と創業者(元社長)の対立する意見のどちらが過半数を取るのか。過半数の株主の賛成を押さえた方の主張が通るのです。
そこで、相互に株主に対して自分の主張に賛成するように働きかけが行われています。自分に投票権を委任してくれと。これを委任状争奪戦「プロキシーファイト」といいます。
これまで「プロキシーファイト」というと、企業が溜め込んだ利益を株主のために吐き出せ、嫌だ、といったヘッジファンドと企業側の戦いや、競合他社との合併を仕掛けたい経営陣とそれを嫌がる創業家の争いなど、微妙にいかがわしい案件が多く報じられたことから、ちょっと印象が悪いです。
まして今回は、親娘で対立し、相互に相手を解任するなど、ちょっと派手な展開だということもあって、一層これを揶揄する向きが多いようです。
一般にはどうでしょうか
大方の企業人は、自社の株主総会では波風の立たない、いわゆるしゃんしゃん総会を願うのではないでしょうか。「だって部外者にごちゃごちゃ言われたくないし。変な風評が立ったら営業にも響くし。親娘でつかみ合いの喧嘩してるみたいで恥ずかしいし。こんな状況、もう嫌」って感じ。
しかし一部の報道では、これを日本の企業統治に対する問題提起と前向きに捉え、注視しています。私も立場的にはこちらに近いです。
企業は株主のものです。
そして、経営者が株主のために従業員を雇って仕事をさせています。もともとの成り立ちからして、経営者は株主の代理人、社員は株主の公僕なのです。
先の見えない経済動向の中、少しでも成功し、業績を改善し、企業を繁栄させるにはどうすべきか。正解は後になって結果が出てからしかわからない中、リスクを取って自分の見識に賭けていくのが経営者の正しい姿です。
しかし、それが自分1人だけの独断に偏ってしまっては反省の機会もなく、路線転換のきっかけもなく、過去の惰性に流されがちな経営になってしまうかもしれません。
全く別の考えを持つ有力な対抗馬が現れたら?
大塚家具の二人の経営者は、それぞれ方向性の違う経営方針を立て、お互いに譲り合わず、折り合いもつかず、真剣勝負をしています。それだけ、自社と経営の決断を重要なものと考え、大事にしているのです。
二人は暗闘するのではなく、公開の場で正々堂々と戦い、皆の見守る中でどちらが経営権を握るのかを決めるのです。
政治に置き換えてみましょう
あなたは、独裁者が君臨して重要な決定は暗幕の中で行われ、国民は疎外されて全く政治に参画できず、意見を言う機会もなく、統治者を選択する機会も与えられず、政府の職員は独裁者の顔色ばかりみて国民を蔑ろにするような国に住みたいですか?
それとも二大政党が存在し、選挙戦においてお互いの主張を戦わせ、公開の場で政権与党が決まり、公僕は権力よりも国民のために働く、そういう国に住みたいでしょうか。
民主国家は、たよりなく路線もフラフラするように思えるかもしれませんが、歴史的に独裁国家に競り勝っています。なぜなら、衆知を糾合するシステムを内部に持っているからです。独裁国家は独裁者の能力を超えることはできませんが、民主国家は文殊の知恵を活用できます。
同様に、企業統治(コーポレート・ガバナンス)のしっかりした企業は、不明朗な経営を行っている企業に競り勝っていくのではないでしょうか。
大塚家具の「プロキシーファイト」は、日本の企業統治について考え直す良い機会となるでしょう。
もし、あなたが上場企業にお勤めなら、あるいは投資家としてどこかの株式を保有されているなら、自らの関係する会社でこういうことが起こったら、と考えを巡らせてください。
従業員と経営者の相互依存関係によるぬるま湯体質が、ここ四半世紀の日本の低迷を作り出したのではなかろうか、と。