賢明な読者諸氏におかれましては、今日まで俺の予想によって多大なるご迷惑をかけてきたことと思う。連絡がつかなくなった友人知人も何名か見受けられる。約半年間、おそらく本稿で本命にした馬が勝ったことは一度もない。もちろん穴馬を狙い続けてきたということもあるが、そんなものは言い訳にならないし、意を決して人気馬を本命に指名した時ですら、その馬が不可解な凡走を繰り返すという情けない結果となってしまった。そこで春競馬が終わるこのタイミングをもって、当競馬コラムも一旦、一区切りすることを決断した。
競馬の才能がないのかもしれない。そしてそのことに自分自身、とっくに気が付いていたのかもしれない。昨年末、有馬を外した時点で赤ペンを置こうとした俺の腕を取り、「でも、やるんだよ」と師は言った。俺は思わず師と抱き合ってダービーまで赤ペンを握ることを誓った。北千住の呑み屋「永見」でのことだった。
ダービーウィークという言葉がある。我々ホースマンにとって1年でもっともワクワクする一週間。世間で言うならクリスマスから大晦日あたりの時期に相当するのではないだろうか。
毎年8千頭のサラブレッドが生まれ、その中でデビューできるのが約3千頭、そして1勝できるのが約750頭、さらに勝ち残って日本ダービーに出走できるのはわずか18頭。そこから2400メートル駆けっこして、たった1頭のダービー馬を決めようというのだから気の遠くなる話である。
作家の高橋源一郎先生は、ある年の日本ダービーのファンファーレを聞いて胸が高鳴らない自分に気付き、競馬から一線を退いたという。俺もいずれそう遠くないうちにその日がきっと訪れるだろう。幸か不幸か、今はダービーに向けて抑えきれない気持ちで一杯である。
今年の日本ダービー。前哨戦の皐月賞ではデムーロ騎乗のドゥラメンテが皐月賞では珍しく、後方から豪快に捲ってそのまま押し切って勝利した。確かに誰の目にも強くは映ったが、どうしても府中の直線で突き抜けるイメージが湧いてこない。
何度もシミュレーションを重ね、この1週間で予想が二転三転した末、最終的に俺はアダムスブリッジにもっとも重い印を打つことを決めた。デビューしてわずか3戦だが、その3戦すべてで上がりタイムは最速。前走は大幅な馬体重減に加えて、完全な前残りの展開。そこで図太く伸びてきての3着なら、直線の長いダービーでは勝ち負け、少なくとも複圏には十分食い込めるとの判断を下した。相手には巻き返し必至のサトノクラウン、リアルスティール。日曜午後の天気予報は今のところ、曇りのち雨。大勝負をかますにはおあつらえ向きの天気と言えるかもしれない。
ダービーが終われば夏が来る。夏が来れば新馬戦が始まる。そして来年のダービーへと途方もなく長い道のりが再び続いていく。世界はときどき美しい。
またどこかのターフで。
2015年5月31日
新爆