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些々暮さん のコメント


二度、阻まれた。人生選択スイッチ。
もしかしたら押さないほうが良かったのかもしれない。

二十五年前に流行ったドラマが再放送されるらしいから一緒に観よう

いつもは世の中の流行り廃りに興味のない人間がこれでもかと目を輝かせ訴えかけてきたので気乗りはしなかったが微笑み、肯いた。
昔、この人は一人でこのドラマを見ていたらしい。
それを知り静かに胸が痛んだ。
今日は感傷的になりやすい日だ、良くない。

そう頭で理解していても、作中から興味を唆られる単語が飛んでくれば自ずと聴覚は尖り、視覚がそれを捉えてしまう。
そうして完璧に画面から目が離れなくなるまで、きっと数分も掛からなかった。

始めは浅瀬の関心でぼうと画面を眺めていたが、度々ギクリとさせられた。
テレビの中の女、その口から紡がれる言葉の数々が心の柔らかいところにグサグサと突き刺さってくる。

落ち着け、この動揺を隣にいる者に気取られてはならない。

得意のポーカーフェイスを用いてサッとテレビから目を逸らす。聴覚だけはそこに置き去りにして。
当の本人は画面に釘付けで私のことなどお構いなしのようだ、良かった。

ヒロインはどのシーンでも気丈に笑っていた。
私たちは同じ感情を持ちながら、きっと言動は全く違う。
そうか、これは鏡か。
心とはちぐはぐで、胸の奥にある願望を現実のものとしてそのままそっくりに映した。
配役と設定が違うだけ。
隣の芝生はいつだって、恐ろしいほどに青い。

ただ、私の気持ちだけ行き場がない。
重く、惨めったらしい。
今日も一人、小石を蹴って帰るように。
世俗のちゃちな言葉で表すことが出来ないほど水気を含んだそれが理由もなく心の貯蔵庫に溜まっていく。
これは多分、性だ。生まれながらの。
ただぼんやりと影を作り、それを周りに気取られぬよう生きていく。

「私はあなたと出会えて世界が
いえ 出会った日からちょっと
世界が変わりました」

思わず目を向けた。
それから暫く目が泳いでいたと思う。
強烈だった。ありふれた言葉。
鏡は私が口に出来ない言葉を軽々と言う。
飛び超えてそのまま遠くへ…。
泣いてしまいたかった。
泣いて、恋しい人の胸に飛び込むことが出来たならその時死んでも良いと思った。


どうだった?

隣人は無邪気に問う。

最近流行りのドラマより面白かったよ

私は取り澄ましそう答えた。


夜のしじまに浮かび上がる

果ては幸せ

雨上がりの澄んだ
夜みたいな目をした君は
やはり変だった

明日も生きる保証がないから
人は欲深くていけない。
No.24
53ヶ月前
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なんだかんだと6月である。 2020年も折り返し。 てんやわんやとしていてもゆく河の流れは絶えず、片や己の姿を見つめ直してみると淀みにぷかぷかと浮いているという体たらく。 遊惰の身となって揺蕩うこの四畳半は長らく放置された水槽のように感ぜられるが、存外それが心地良い。唯一、高窓から明かりが差し込む様などは、暗い水底から見上げる陽の光を彷彿とさせて乙である。 さて、見下ろすと見渡す限りに紙の類やら、衣服の詰まったコンテナ、挙句自分でもよく分からないものの成れの果てが転がっていて足の踏み場もない。東京に残された最後の秘境とは正しくこの部屋のことではないか。文化庁は今すぐ文化遺産保護制度を適用せよ。日本遺産に認定された暁には観光客に茶の一杯も出すのもやぶさかではない。 とはいえ、さしもの僕といえど、この有様では客人に遭難の危険性が伴うのではというほんの少しの懸念というか、有り体に言えば心苦しさ
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