登場キャラ(今回は基本的に女性化します)
死神…川上千尋 どこか達観しているようで心が熱い
母親…金元寿子 そこそこ年は行ってる
子供…金元寿子 とても誠実な女医に
神様…川上千尋 気楽な感じの人の良さ気な感じ
悪魔…川上千尋 魅惑的
王子…川上千尋 息だけなので、子供の年齢感に合わせて
BGM CI~
SE おんぎゃー!
母親「かわいい可愛い我が子……しかし、何故生まれて来てしまったの…… この貧しい私の許に……この子には苦労をさせたくない…… そうだ、せめてこの子を導いてくれるような名前を誰かに授かろう!」
BGM FO
SE 外
母親「う~ん、どなたか名付け親に相応しい人はいないだろうか?」
神様「おぉ!貧しい人よ、お前を哀れに思うよー。 このあたしが子供の洗礼をしちゃおうか?」
BGM CI~
母親「あなたは……高貴な雰囲気を感じますが……どなたさまでしょうか?」
神様「あんだって?」
母親「もしかして、さぞかし名の通った神父様ですか?」
神様「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」
母親「神様……ですか?」
神様「なぁに、今日は気分が良いし、その子を引き受け、 この世で幸せにしちゃおうじゃないか♪」
母親「神様なんかに、名付け親になんてなって頂きたくないですね」
神様「え? うっそー! なんでー?!」
母親「神様っていうのは、金持ちに与え、 貧乏人には腹を減らしたままにしやがるじゃないですか」
神様「いやいや、平等にしてるよ?」
母親「あなたの言う平等とは、貧乏人につらく当たる事なのですか? 世界平和を標榜(ひ
ょうぼう)して、神様を信じろと信仰を迫って来るバカも居る。 でも、信仰するにも金がかかる。 そんなの金持ちの道楽にしかならないじゃないの」
神様「あー、いやぁ…… 信者の考えまではあたしの責任ではないんじゃないかなぁ…… なんて。 だめ?」
母親「貧乏人の私、そしてその子供…… あなたがどう救いの手を差し伸べてくれるのか、 まったくもって想像も出来ませんし……消えろ下さい」 (ネットスラングの言い回しです)
神様「え? あ…… そりゃ、失礼しました……」
BMG入れ替わり
悪魔「ふはは♪ いやぁ、痛快だねぇ」
母親「何がですか?」
悪魔「まがりなりにも『神様』なのに、ずいぶんこっぴどく振ったもんだ。 これを痛快と言わず何と言う?」
母親「言うじゃないですか。『神は死んだ』って。 私は今ツライ。それを断ち切りたいと思っているのに、 あの人達は『ツライと感じるものこそ美徳である』と貧乏人の現世を 否定しながら、ワインを呷(あお)り、愉悦(ゆえつ)に溺れてるんですから」
悪魔「ならば、あたいが名付けの親になってやろうか?」
母親「『神への冒涜』を愉快と笑う、あなたはどなたですか?」
悪魔「冒涜を自分で行ってしまう当たり、本当にロックしてるねぇ、アンタ。 あたいは、悪魔さ。 もし、名付け親になれるならば、 その子にはたっぷりの金と愉(たの)しみを与えるよ? 我慢は毒さね」
母親「お断りするわ」
悪魔「おや? アンタの求める物はそう言う俗物的な快楽じゃないのかい?」
母親「その快楽の先にあるのは『堕落』よ。 私が求めるのは、快楽ではなく『報い』なんです。 一生懸命になったらなった分だけ救われたい。 与えられた快楽は報いではないの」
悪魔「トんだ哲学者だね。 それならばアタイの出番はないね。 ま、もしも心に隙が出来たら、甘い囁きをしに来るよ。 バイバーイ」
BGM FO
死神「神を否定し、悪魔を拒否する……ならば、私ならばどうかな?」
BGM CI~
母親「神でも悪魔でもないのかしら? あなたは、どのようなお方ですか?」
死神「死神さ。 生きている間の事柄には関知しない。 生きとし生けるものに平等に訪れる『死』を届けるに過ぎない」
母親「……平等……」
死神「この世に生を受ければ、かならず死を迎える。貧乏も金持ちも関係無く、ね。 金があろうが死ぬ時は死ぬのだから」
母親「なるほど。確かにその『絶対』は平等ね。 それでは、この子はどうなるのかしら?」
死神「人は『死』から逃げる事が出来ない。 その『死』を知る事が出来るとしたら…… それをどうするかは、その子次第かな。 少なくともどんなに金持ちでも、偉い人でも怯えるものを手にする事が 出来るならば、どれだけ泥水を啜っている環境からでも抜け出す機会は 得られるさ」
母親「……今度の日曜日が洗礼日です。 どうか、この子をよろしくお願いします」
BGM FO
子供「今日から成人として生きていくのね」
死神「おめでとう、と言うべきかね? 君が無事に成人した祝いを渡したいのだけれど、付いて来てくれるかしら?」
子供「あ、はい。わかりました」
SE 生い茂る林の中
BGM CI~
死神「さぁ、これが名付け親である私からの贈り物よ」
子供「これは……薬草?」
死神「あなたは医者になると良いわ。 そして、病人を診る時、私は必ずあなたの前に現れる。 もし、枕元に私が立っていたとしたらその人はまだ死ぬ運命には無い。 自信を持って『助かる』と伝えると良いわ。 そして、この薬草を煎じて与えなさい」
子供「もしも枕元ではなく、足元に立っている時は、その逆……助かる見込みが無い。死ぬ運命を待つ人……」
死神「察しが良いわね。その通りよ。死を正しく見分ける事が出来れば信用もされる。あとは、あなた次第」
BGM FO
子供「別に自分が死ぬ運命を握っているわけではないのだけれど、不思議な気持ちになるわね。今ではすっかり名医、か」
子供「ん?……え?王子が危ない?解ったわ、急いで連れて行って下さい!」
BGM CI~
王子「ん……(苦しそう)」
子供「随分と苦しそうだけれど……助けてあげたいわ……」
死神「おや、今日はこの男性かい。 しかし、もう目の前まで死が訪れている。 伝えると良いわ」
子供「でも、この王子をもしも救う事が出来れば…… もしかしたら王子に娶って頂けたりするのかしら……」
王子「んん……(苦しげに)」
子供「もしかしたら、今王子を抱き抱えて反対に寝かしたら、 助かったりするのかしら? でも、そんな事をしたら怒られるかな? だけど私は『名付け子』だから、大目に見てくれるかもしれないわ。 やってみましょう」
SE 抱き抱える
死神「あ、あなた、何をしているの?!」
子供「王子は助けます! そこの薬草を取って頂けますか?」
BGM UP~FO
死神「ずいぶんとフザケタことをしてくれたわね。 裏切られるとは思わなかったわ。ただ、今回だけは許してあげる。 あの王子とも良い関係になりそうだし、最後のご褒美よ。 死ぬ予定だったものを変えると言う事の重さは……高くつくわよ」
子供「ごめんなさい……」
BGM CI~(不穏)
子供「これは、運命のいたずらなのかしら」
子供「まさか、王子を誑(たぶら)かすお姫様を診る事になろうとはね」
死神「あなた、ずいぶんな表情をするようになったわね」
子供「そうかしら?……ねぇ、死ぬ運命にある人を殺さないのは大変として、 もし、その逆は死神にとってはご褒美だったりするのかしら?」
死神「ん?どう言う事?」
子供「こう言う事よ」
SE 動かす
死神「あなた……この人は死ぬ運命に無いのよ?」
子供「でも、私の王子を誑かすような悪女よ? 死ぬべきだわ」
死神「寿命を余らすと言うのは、無理に伸ばすよりは難しい事では無いわ。 ただ……」
子供「ただ?」
死神「人の運命そのものを弄ぶのは、神の仕事だわ。 死神の仕事では無い。 死神は死を管理するだけ」
子供「私は、王子無しでは生きていけないの」
死神「だから、神にでもなろうと言うの? なら、あなたはもう人ならざるもの、ね」
子供「!!」
SE 子供が倒れる音
死神「悪魔のように自分の欲望に負け、神の様に運命をもてあそぶ…… 人間が力を持つと、こうも変わってしまうのかしらね。 あなたの母親にとっては、随分な皮肉ね」
BGM UP~
END