生き残った漫画家の共通点
前回のゲストは同じ時代を生きた「盟友」でもある、漫画家のきたがわ翔だった。
彼とは10年近く会っていなかったのだけれど、会ってみると何も変わっていなかった。
僕らが会っていなかった10年は、漫画産業の衰退が激しくなってきた時期に、自分たちも40代に入って「時代の感覚」と「自分の感覚」のズレに苦しむ時期だった。
誰もが知る「国民的キャラクター」や「お馴染みのシリーズもの」を作っていない漫画家はこの時期に淘汰の波にさらされる。
僕もきたがわも、ある世代なら知っているタイトルやキャラはあるものの「ちびまる子ちゃん」や「北斗の拳」などの圧倒的に認知されたコンテンツホルダーではないので、現役を続けようと思うと、かなりの試行錯誤を強いられる時期に入っていたのだった。
僕らが20代前半だった頃に、一緒に遊んでいた漫画家の多くは、漫画家を辞めているか、商業誌の表舞台からは消えている。
その件について僕はあまり否定的ではなくて、ある時期を過ぎて漫画から別の世界に移行するのは悪い事ではないと思っている。
「あの人消えたね」なんていう「人の不幸が大好物な連中」の話なんかどうでもいい。
そもそも人生は変わらないとつまらないのだ。
「王座の維持」もいいけど、僕は「王座奪還」とか「新天地への旅」なんかにときめく。
だがしかし!「どうしても続けたい事」ってのもある。
僕ときたがわにとって「漫画を描き続ける」ということは、物凄く重要なことなのだ。
昔からきたがわは「残りの人生であと何作くらいの漫画が描けるだろう」という話をしていた。
今回久しぶりに会った彼が、それとまったく同じ話をしていて、どうして彼がまだ漫画家を続けられているか改めてわかった気がした。
僕が昔から知っていて、今でも現役で描いている漫画家の多くは「基本的に漫画を描くことに真剣だった人達」だ。
多くの新人漫画家は漫画をナメていた。
「締め切りを守らなかった話」や「担当の態度」や「原稿料の話」が好きだった。
男たちの多くは「風俗の話」が好きで、合コンの企画やキャバクラの話も多かった。
当時の僕は、そんな話に調子を合わせつつ「何でこいつら漫画の話しないんだ」とか「そもそも表現の本質について話したいのに」とか思ってイライラしていた。
もちろん当時は「真面目な話なんかしたくない」とか「漫画家と漫画の話をするのには抵抗がある(ビビってた)」なんて人もいたとは思うけど、その頃の僕は「蒼く尖りまくっていた」のだから無理がある。
そんなこんなで僕は漫画家たちとの浮かれた集まりから距離を取っていったのだ。
そんな中で、数少ない「漫画に命をかけたイカれたヤツ」に見えたのが、きたがわ翔と井上雄彦だった。
放送ではあまり見せないけど東村アキコもそういうタイプの漫画家だと思う。
漫画という「大衆娯楽」の世界は「これが正解」というのがないけれど。続けていくために「必要な要素」はある。
それが、今回きたがわが放送で言っていた「自分の世界に陶酔できる」という「ナルシシズムの才能」なのだ。
言い換えると「自己陶酔の才能」「人の目は気にしない才能」でもある。
【空気を支配する漫画】
漫画の世界は基本的に「誰かの作った空気」に支配されている。
かつての「手塚治虫の空気」が「石ノ森章太郎の空気」に変わっていき、そこから「新しい少女漫画の世界」が生まれたりしたのだ。
それは「ちばてつやの空気」で満ちていた時代を終わらせた「大友克洋」の持つ「新しい空気」も同じで、他にも「鳥山明」「紡木たく」など、その人が登場した瞬間に「世界の空気」が一変してしまった。
その人達に共通するのは「今まではそうだったかもしれないけど、私はこう描く」という意志だ。
鳥山明ほど有名でなくても、残っていく人は皆どこか「私は私」という核がある。
それは「絵」でなくても「キャラ」や「セリフ」「哲学」「構成」「テーマの選択」などにも現れる。
そして、概して世間はこういう「これが私」という人を潰したがる。
ところが、こういう「私は最高」という人がある程度の評価を受けだすと、一転「カリスマ」などと言われだす。「自己陶酔」も「魅力」に変わってしまうのだ。
結局は「自分があるかどうか」で決まる。
どんなに変化をしても「自分」が核にあれば大丈夫なのだと、つくづく思うのだ。
【グレイテスト・ショーマン】
少し前に「グレイテスト・ショーマン」という映画を観た。
放送で語る要素は少なかったので、取り上げなかったけど、この映画には2つ「好きな部分」があった。
1つは「権威と自分の過去に縛られたお坊ちゃん」を「何でもありのショウビジネスの世界」に引っ張り出す主人公の関係。
そして何と言っても映画の後半に「世間に迫害を受けてきた異形の者たちが『This is me』という歌を歌い踊るシーン」だ。
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