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52歳にして大晦日RIZINのギャビ・ガルシア戦に挑む「ミスター女子プロレス」神取忍。これからご紹介するインタビューは以前Dropkick誌上で掲載されたもので、聞き手は『1993年の女子プロレス』などの著作で知られる柳澤健氏。記事の内容は北斗晶やブル中野、そしてジャッキー佐藤戦を中心に語っている。
ジャッキー佐藤戦といえば、ジャパン女子プロレスで起きた伝説のシュートマッチだ。一線を越えた戦いは神取がアームロックで勝利を収め、ジャッキーはこの試合を最後に引退。今回のRIZIN参戦を受けて「心が折れる」という言葉の起源が神取忍だったことを知った方も多いだろう。いまや日常的に使われるこの言葉は、神取がこの凄惨試合を振り返って発したものだった。神取はジャッキー佐藤の心を折りにいったのだ。52歳にしてMMAのリングに足を踏み入れる神取にとって、ギャビ・ガルシア戦は厳しい戦いになることが予想されるが、この記事から神取忍というプロレスラーの凄みを感じ取っていただきたい。
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http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar1146649
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●OMASUKI FIGHTのMMA Unleashed
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●ジャン斉藤のMahjong Martial Artas
川尻達也、あがき続けた先のRIZIN参戦
●MMAオレンジの色の手帖
・UFC帰りの日本人格闘家、その後の戦績108勝36敗5分1NC
・格闘技レガシィー?〜会場の変遷から見る日本の格闘技〜
●二階堂綾乃
・プオタは変わっているのか?〜流智美は他人の誕生日の曜日をすべてわかる説〜
・優しさはいらない!? 「鍛える女子」の口説き方
●中井祐樹の「東奔西走日記」
http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar1146649
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神取 (93年に発売された『Number』女子プロレス特集号を手に取りながら)うわぁ、なつかしいね。
――じつはこの特集を作ったのはボクなんですよ。
神取 あ、そうなの!
――この中に北斗晶さんのインタビューがあるんですけど「93年の女子プロレスはこれからもずっと語り継がれていくし、私と神取の名前は必ず出る」と断言している。まさにそうですよね。
神取 ハハハハ、そうかな?(笑)。
――ボク自身はこのときの北斗さん、神取さんあたりから女子プロレスというものに興味を持つようになって、『kamipro』のインタビューをまとめた『1993年の女子プロレス』という本を出したり、『1985年のクラッシュ・ギャルズ』という本も書かせてもらっているんです。
神取 ああ、本屋さんで見たことある。
――じつはボク、文藝春秋にいた頃は井田真木子さんともお仕事をさせていただいてるんです。
神取 へえ、凄い縁だね。私は井田さんには頭が上がらないもんね。
――井田さんが亡くなったとき、井田さんはちょうどプロレスを離れていた時期じゃないですか。だから、ボクが女子プロレス全団体にFAXを送って、葬儀の連絡をしました。神取さんも桐ヶ谷斎場にいらしてましたよね?
神取 いまでもお彼岸とかにはお参りに行ってるもん。
――葬儀のときに号泣していらっしゃったのをいまでも覚えてます。
神取 私、泣き虫だから(笑)。井田さんがいたから、いまの自分があると思ってんの。唯一の理解者だったから。
――井田さんの話もちろんですけど、今日は伺いたいことがいっぱいあるんですよ。
神取 ええ~、ドキドキしちゃうなあ(笑)。
――まず、柔道時代のお話からお聞きします。神取さんは女子柔道で世界3位までいかれましたよね。あの「世界3位」は自分にとってはMAXだったんですか、それとも、もっと行けたけど途中で辞めたくなったということなんですか?
神取 スポーツ選手には運もあって、またピークのときにどの大会にぶつかるか、っていうこともあるわけじゃない? 自分はソウル五輪前の世界選手権がピークだったと思うけど、ソウル五輪はまだ女子柔道が公開種目だったの。
――88年ソウル五輪が公開種目で、正式種目になったのは92年のバルセロナ五輪からですよね。
神取 でさ、公開種目って3位以内に入ってもメダルのうちには入らないんだよね。「だったらやってもしょうがないじゃん」って(笑)。正式種目になるのはさらに4年後だよってなったときに「こんな練習、嫌!」みたいな(笑)。
――う~ん、さすがですね(笑)。
神取 日本人が最も得意としてるしがらみってもんが、町道場にいた自分にはまったくないから。「じゃ、辞めま~す」って感じで辞めちゃったんだよね。あれが、どこかの大学なり実業団なりに入ってたら辞められなかったと思うけど、あくまで町道場なんで「何か問題でも?」みたいな。
――凄いなあ! じゃあ、山口香なんかとは全然、人種が違うと。
神取 人種が違うね。でもあの子、会話してたら凄く気が合うのよ。全然異質なぶん、お互いに興味があるみたいな(笑)。
――神取さんはソウル五輪には出ないで、「柔道じゃご飯が食べられないから、これで食べていくよ」ってジャパン女子プロレスに入るわけじゃないですか。どうして老舗の全女じゃなかったんですか?
神取 私はもともと女子プロレスラーになるとは思ってなかったから。柔道やってるときに、ちょうどクラッシュ・ギャルズが全盛でテレビでバンバンやってたんだけど、柔道家の目から見ると「なんで技を受けるんだ?」って感じだったの。
――競技をやってる人間からすると当然そうなりますよね。
神取 なかには柔道やってても、凄くプロレス好きな人もいるじゃない。「クラッシュがカッコいい」とか「おもしろいよね」とか。でも、私の場合はおもしろさより、クエスチョンのほうが先に来てたから、「こんなの返せばいいじゃん」とかプロレスを斜めから観るタイプだった。それを日頃から言ってたから「プロレス嫌い」って言われてたんだけど。
――柔道家の頃はプロレスに批判的だったんですね。
神取 だからプロレスラーになるつもりなんて全然なくて、ジムのインストラクターとか、そういう職業につくつもりだったの。でも、そのときちょうどジャッキーさんが新団体を旗揚げするときで、プロレスが好きな昔からの友だちが「あんたはプロレスを批判してるけど、絶対にプロレスラーになったほうがいいよ。性格的にプロ向きだよ」とか言ってて、冗談半分で履歴書送っちゃったんだよね。
――神取さんに黙って、ジャパン女子に送っちゃった。
神取 そしたらジャパン女子から実家に連絡が入ったらしく、親もびっくりしちゃってさ。家に帰ったら「あんた、プロレスラーになるの?」なんて言われて、でも私は知らないし(笑)。で、「連絡先を聞いてあるから、電話しなさい」って言われて、そこからだよね。
――自分の意思じゃなかったんだ。
神取 一応社長と話したんだけど、ジャパン女子ってイケイケだったじゃない?
――時代もあって、バブリーな感じでしたよね(笑)。
神取 なんか(当時のトップアイドルである)少女隊が応援したり、みんなのリングネームを秋元康さんがつけてくれたりさ。社長は「プロレスラー税金対策だ」とか言ってて、こっちは「税金対策って何?」って感じなんだけど(笑)。若かったし、社会経験もないから「凄いことなの、それ?」みたいな感じでいろんな話を聞いて。そういうなかで「闘って人前で表現できて、それが仕事になるのは確かにいいかも」って思うようになって、それで入ったんだよね。
――なるほど。デビュー戦がいきなりジャッキー佐藤さん。
神取 デビュー戦がメインだからね。よく考えたら凄いよね。
――いや、凄いですよ。実際に試合内容自体も素晴らしいもので。あの頃、井田真木子さんは『デラックス・プロレス』で長与千種インタビューを連載してたんですけど、その中で神取vsジャッキーを観に行った井田さんに向かって長与千種は「神取はどうだった?」って聞くんですよ。そのとき井田さんは「天才かと思ったわ」って。
神取 嬉しいね~。
――あの当時、千種さんは全女がおもしろくなくなっていて、神取忍という好き勝手にやってる人にどんどん興味を持ち始めるんですよね。
神取 当時は私、全女を大批判してたからね(笑)。
――なんのしがらみもなく好きなことを言って、たぶん、神取さんが羨ましくてしょうがなかったらしいんですよ。
神取 そうだよね。あの頃は「クラッシュなんて片手で充分」とか「ダンプは10秒で倒せる」とか言って、ダンプ松本以上のヒールになってたから(笑)。
――ジャッキーさんとのデビュー戦の時期は、やる気満々というか、プロレスに前向きだったんですか?
神取 もちろん。ただ、プロレス知らないのに、いきなりジャッキー佐藤、ナンシー久美、風間ルミ、神取忍で“四天王”ってことにされちゃったから、必死だったよ。で、当時は新日本プロレスさんと提携してて、コーチが鬼コーチで有名な山本小鉄さん。ホントにメチャクチャな練習で凄かったんだよ。新日本の道場に行って練習してたから。
――えっ!? 上野毛の道場に行ってたの?
神取 行ってたのよ。それで道場は夏でも窓閉め切りでね。小鉄さんは「プロレスラーはコレ(シュートサインをしながら)が強くなくちゃいけないんだ」って言って、私に新人の男子レスラーとスパーリングやらせるのよ。
――え~っ!? 神取さんって当時は体重60キロ台でしょ?
神取 そうそう。
――それと90キロぐらいはある男子レスラーとやらせるって、どう考えても無謀でしょう。その体格差でシュートでやらせるの?
神取 もちろん。新日本はまずシュートでやらせるからって。
――すっごいねえ。でも、そんなスパーリングやらされたのって、神取さんだけでしょ?
神取 うん、私だけなんだよね(笑)。
――アハハハハ! そりゃそうですよね(笑)。
神取 関節技知ってるの私だけだからって。でも、スパーリングやると柔道の癖で、ついつい握っちゃうわけよ。道着を着てないから相手のTシャツとか肉をつかんじゃって、そしたらそのレスラーに「何やってんだよ!」ってバーンと殴られたりして。いつも顔腫らせてたもん。
――うわぁ、ひどいねえ。そのとき、誰とスパーしたか覚えてます?
神取 誰とやったのかは覚えてないんだよなあ。でも、みんな私が男子レスラーとスパーリングやったり、天龍さんと試合したりするのを「凄い」って言うんだけど、自分としては違和感ないんだよね。もともと柔道も町道場でやってたから、練習はいつも男子とばっかりだったし。こういう格闘技っていうのは、男とやるもんだと思ってるから。
――まあ、伊調馨なんかも自衛隊で男子とやってますからねえ。それでジャッキーさんとのデビュー戦では、自分でも「やるぞ!」っていう気合いが入った感じですか?
神取 そうだね。私自身、「全女なんて10秒いらねえ」とか、生意気なこと言った手前、みっともないまねはできないし。ジャパン女子っていう団体も舞台設置に凄いお金をかけてて、周りが盛り上がってるから「これはもうコケられない」って感じだったしね。あとは柔道界から「あいつはプロレス界じゃもたないよ」とか「絶対に3カ月で辞めるよ」とか言われてて、そういうの大嫌いだから、「やってやろうじゃないか!」っていう気持ちは、とにかくあったね。
――何がなんでもデビュー戦で凄い試合をやらなきゃいけない、と。
神取 やらなきゃいけなかったね。
――対戦相手のジャッキー佐藤は大スターで、ある種「ジャパン女子は私の団体だ」ぐらいに思ってた人じゃないですか。非常にプライドの高く、全女のスーパースターとしてトップを張ってきた人と初めて試合をしてみて、いい試合をするために神取さんがやったことはなんだったんですか? 向こうが「こういう試合にするよ」って決めてくるのか、それとも打ち合わせは最小限にして緊張感を高めたのか。
神取 当時のジャパン女子は、プロレスに関する教育とかはすべて山本小鉄先生に委ねていたので、新日本流のプロレスだったんだと思う。だから、組み手にしても、ロープへの走り方にしても全女と男子プロレスは逆だったから、ジャッキーさんも小鉄さんの指導どおりに“新日流”に直して、自分らとともにジャッキーさんもそれを学びっていう感じだったの。
――なるほど。ジャッキーさんは大先輩だけど、男子の左構えでやるのは初めてだったんですね。面白いなあ。じゃあ、デビュー戦をどんな試合にするのかという、基本プランを作ったのも小鉄さんなんですか?
神取 それは何人かでやってたと思うんだけど、自分的にそのへんはまったく畑の違うとこだと思ってるから、言われるがまま。ヘンなところは妙に素直だから、「はい!」みたいな(笑)。
――納得がいくことに関しては素直に聞くと。凄い選手はみんなそうですね。デビュー戦は素晴らしい試合だと周りからも評価されたと思うんですけど、そのうちだんだんジャッキーさんとの関係が険悪になっていくわけじゃないですか?
神取 ハハハハハ! そうだねえ(笑)。
――普段の何気ないタッグマッチでもギクシャクして。このあいだ山本雅俊さん(元JWP代表)にたまたま会ったときに聞いたら、ジャッキーさんが場外でラリアットにいくふりをして、神取さんの目に指を入れてきたみたいですね?
神取 そうなんだよ。「へ~、こういうことしていいんだ、プロレスって。山本先生はそんなこと言ってなかったよ」みたいな。
――そもそもどうしてジャッキーさんとギクシャクし始めたんですか?
神取 やっぱりジャッキーさんはずっと女子プロの世界で生きてきて、私は違う世界から来たわけで。世間の常識が女子プロの世界では非常識、またその逆もあって「おまえ、何言ってんの?」ってことが多々あったの。
――なるほど。神取さんはじつは世間的にはまともなことを言ってるんだけど、非常識な女子プロの世界では異端に見えてしまう、ということなんですね。
神取 そうそう。たとえば当時の女子プロには公傷制度がなくて、試合でケガさせられても「ケガをしたお前が悪い」って世界でさ。でも、身体一つで生きてきたこっちとしては、仕事でのケガは会社が面倒みてくれなきゃ、やってられない。でも、そういうことを主張すると、会社やジャッキーさんは「全体を乱す」って目でこっちを見るようになったんだよね。
――なるほど。女子プロの世界に“常識”を持ち込むことが悪とされてしまった、と。でも、目に入れてくるって、よっぽどのことですよ。
神取 だからこっちは「へえ、プロレスにはそういうやり方があるんだ」って感じで。でも、私は自分からケンカは売らないけど、売られたケンカは大好きだから。「そういうことをするんだったら、最初っからそのつもりでやろうよ」っていうね。
――神取さんが「じゃあ、いいよ。シュートで決着つけよう」と言ったわけですか。
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