格闘技観戦における永遠のテーマともいえる「判定問題」。最近でもUFCのGSPvsジョニヘン、VTJの所英男vsウィル・カンプザーノの判定結果が物議を醸している。そこで今回、当チャンネルでバランスに秀でた視点でコラムを連載中の大沢ケンジ選手と、MMAやキック取材などで地方大会まで足を伸ばすライターの髙崎計三氏に判定について語っていただいた。


たまーに「2-1」の「1」になったジャッジが首を傾げてるときがありますよね。そこはもっと堂々としててほしいんですけど(笑)。


――大沢選手、高崎さん、今日は「判定」がテーマということでよろしくお願いします……結論が出しづらいテーマではありますけども(笑)。

大沢 自分は『ヴァルキリー』という女子格イベントでサブジャッジをやったことあるんですよ。引退したら格闘技界に残るつもりではいたんでレフェリーもやっておこうかなあという気持ちもあって。

高崎 格闘家ってジャッジの視点を持ちつつ試合をしてるところもあるんですよね?

大沢 どうですかねぇ……。イベントによってルールや採点方法は違ってくるんですけど、たとえばDREAMの判定基準はダメージがいちばん上で、次がアグレッシブ、コントロールの順でしたけど、そこを確認しないで試合をしていた選手は多いんじゃないかなあ。

高崎 とにかく一本KO決めるか、圧倒するかという感じで。

大沢 基準で言えば、DEEPはダメージを取りますね。修斗は……わかんないすねぇ。

――わからない!?(笑)。修斗は基準がないんですか?

高崎 いや、修斗の場合は時によって「ポイントがついた意味がわからない」というか……(笑)。

大沢 修斗はジャッジによって決まるんだって感じなんですね。これはボクの経験上の話なんですけど、『ケージフォース』だとジャッジが「いまの試合どっちを取った?」とか雑談したり、大会後のミーティングでレフェリー・ジャッジ間の意見統一がなされるんですよ。だから『ケージフォース』のジャッジ傾向はわかるんです。

高崎 そこはパンクラスやDEEPも同じなんだけど、修斗はその傾向がわからないときがありますよね。同じ大会でも「この試合の判定がこうなら第2試合の判定は逆になるんじゃ?」とか。

大沢 そうなんですよ。まあ、これはあくまで自分の意見でちゃんとあるのかもしれないですけど。

高崎 パンクラスやDEEPのジャッジ陣は顔ぶれが被ってますけど、修斗はジャッジの顔が見えづらいところも傾向がわかりにくい理由の一つかなって気がしますね。

大沢 そういえばよく知らない人たちばかりなんですよねぇ。VTJの場合は外部から中井(祐樹)先生や芹沢(健市)さんを呼んでますけどね。ただまあジャッジ個人の傾向は確実にあって、太田(章/レスリング五輪銀メダリスト)さんは組み技系で有利に攻めていたほうを取るんですよ。

――「ジャッジ、ダン!」でおなじみの小林(孝至/レスリング五輪金メダリスト)さんと同じですね。そのおふたりはレスリング系を贔屓してるよりもバックボーンからして「相手を倒す、投げることが一番強い」という思考が根付いてるんでしょうね。

大沢 ロシアの人間もその考えが非常に強いんですよ。ロシア人は倒れること、寝かされることが恥なんです。そういう文化的な背景もあって体幹が強いんだろうなって。で、セコンドをやってて思うんですけど、最近のジャッジはダメージを取るようになってきましたね。2~3分間トップキープしててもそのラウンドは簡単に取れないなって。そう思いません?

高崎 そうですね。いまは簡単にはつけないですよね。

大沢 昔だったら「ラスト1分でテイクダウンできたらこのラウンドを取れるぞ!」っていう考えた方があったじゃないですか。最終的に立たれても5秒くらい抑えこんだらテイクダウンしたことにしてくれるだろうって。

高崎 印象良くラウンドを終われるってやつですね。

大沢 それって昔はビッグヒットを一発入れたと同じくらいの価値があったと思うんですけど、最近はそうでもないなって。ラスト1分で抑え続けていれば違うんでしょうけど。

高崎 そこはDREAMDEEPの影響が出てきたんじゃないかって思いますね。PRIDEもそうでしたけど、ラウンドじゃなくて「全体の印象」で取ってたじゃないですか。それってダメージのほうがわかりやすいってところではありますよね。それでとくに日本はダメージに寄ってる気がします。

――でも、全体の印象って凄く難しいですよね。なんたって「印象」ですから(笑)。

高崎 それで前に思ったのはPRIDEのヴァンダレイ・シウバvsマーク・ハントって、ラウンドマストのジャッジだったらシウバが勝ってると思うんですよ。でも、PRIDEルールだったから一発の印象でハントになったんだろう、と。どっちが勝っても「なんでこっちが勝ちなの?」って思われた内容だったし、ルールによって勝者が変わってくるんだなって。

大沢 そこは難しいですねぇ。この前、DEEPに出たとき途中でバテちゃって判定で負けたかなって思ったんですよ。1ラウンドはマウントを取ったりしてトップキープはしてたんですけど、ちょいちょい殴られていたし、全然攻めてなかったし、DEEPってダメージが最優先じゃないですか。結果的に判定で勝ったんですけど、「ダメージ」といってもそこもジャッジの主観があるんだなって。

高崎 DEEPでいうとDJ.taiki選手がよく判定に文句を言うじゃないですか。「これはドローだけど俺が勝ってるだろ」って。本人に確かめたわけじゃないけど、そこはラウンドマスト意識が強いんじゃないかな、という気がするんですよ。例えば昨年の釜谷(真)戦なんかも、確かに2ラウンドまではDJ選手が取ってるんですけど3Rの最後にダウンを取られていて、全体の印象で見たらドローでもおかしくないという。そのへんの食い違いじゃないかなと。

大沢 どんなに冷静なジャッジがいたとしても、絶対に傾向ってあると思うんですよ。打撃を取るとか。だからDJの不満もそれは選手個人の主観でしかないと思うんですよね。ダメージにしてもどっちがあるなんてそれこそ実際はわからないし、だからよっぽどじゃないかぎりは判定に不満って持つべきじゃないと思ってて。日本でいちばんスプリットデシジョンの判定が多いボクが言うんですから(笑)。

――スプリットファイターですか!(笑)。

大沢 ホント多いんですよ。あんまり相手を圧倒しないんで(笑)。だからたいていの判定は受け入れられるし、判定で勝ったときも「あ、よかった~」って感じですよ。

――意外な判定に「えっーー!?」って驚くときはないですか?

大沢 昔はあったんですけど、判定は自分の見方だけじゃないんだなって。いちおう驚くんですけど、すぐに「そーゆー見方もあるんだなあ~~」(うんうん頷きながら)って落ち着きますね。

――なるほど、無の境地に達してるわけですね(笑)。

大沢 基本「そーゆー見方もあるんだなあ~~」ですよ(笑)。よっぽど酷いときもあるんでしょうけど、何十回もジャッジをこなしてる人たちの判断だからそう思わせる何かがあったんだろうなって。あとリングサイドで見てるのと、離れて客席から観るのもだいぶ違うんですよね。

高崎 そこはありますね。選手の表情が見える・見えないでもかなり違いますし。後楽園でもリングサイドと南側では見え方は変わってくるし。

――リングサイドのジャッジ、南側最上段のジャッジ、モニタージャッジに分けないといけない(笑)。

高崎 いや、本当にそう思いますよ(笑)。

――最近は数値化の説得力が増してますけど、そこはダメージまでもは計れないですね。

大沢 総合を数で判断するのはやめたほうがいいと思いますよ。ボクシングはパンチだけですけど、総合はパンチ、キック、タックル、寝技もあるし、組んだときにちょこちょこ当てるパンチはどう評価するのかだってあるし。

高崎 そもそも顔面にパンチが入ったのと、下から三角締めを決めかけたのはどう比べるんだって話になりますね。

大沢 いまだと決まりそうな関節は取らないんですよね。ダメージの見極めがつかないときにコントロールかアグレッシブで取るとは思うんですけど。『戦極』はそこよりもどっちが極めに近づいたかを重視していたんですよ。

――その基準ありましたねぇ。でも、団体のオリジナル性って取り扱いが難しいですね。

大沢 しかも「より極めに近づいたほうが~」とかその基準が本当にお客さんに浸透してるの?って話じゃないですか。

――つまり、それを込みでジャッジしてるけど、ファンからすれば意味がわからないケースが出てくるってことですね。

大沢 そうなるとジャッジも不安ですよね。しかもジャッジ3人が3人ともその概念を支持するかどうかもわからない(笑)。これは磯野(元/『ケージフォース』、『HERO`s』、DREAM等で競技運営に関与)さんが言っていたんですけど、DEEPって興行が多いじゃないですか。そうするとDEEPのジャッジに引っ張られて『ケージフォース』でDEEPの匂いが消えない、と。

高崎 『ケージフォース』に漂うDEEPの匂い(笑)。ジャッジの顔ぶれはほぼ同じですからね。

大沢 それでDEEPの価値観のままレフェリングやジャッジされちゃってると言っていたんですよ。要は切り替えらんないってことですよね。『ケージフォース』の場合、グラウンドはけっこう泳がすのにDEEPの早いブレイクのタイミングになっちゃう、と。磯野さんはミーティングのときに注意してましたけど、やっぱり人間だから引っ張られますよ。そこは感情もありますし。

高崎 ほぼ同じルールだからそうなりますよね。それが総合とキックなら切り替えはできますけど。

大沢 磯野さんのことはボクは信頼してるというか、ルールに対してとにかく厳格なんです。『ケージフォース』はたしかダメージ、コントロール、アグレッシブが優先順位だったんですけど。

高崎 そうですね。

大沢 それで「たとえばテイクダウンをして上になった奴が4分間コツコツとパンチを打ってたとして、最後に起き上がられて、顔にクリーンヒットを何発か当てられたとしたらどっちのラウンドですか」って聞いたら、磯野さんは「そこは顔のパンチのダメージですよ」って言うんです。最近はそういう傾向にあるんですけど、あのトップキープの傾向が強い時代にそのジャッジを下せる磯野さんの勇気って凄いなって。

高崎 要するに「え~~っ!?」というお客さんの声が挙がるジャッジってことですよね。

大沢 あの不満の声がジャッジの心によぎると思うんですよ(笑)。お客さんはなんとなくの雰囲気で「強そうに見える」ほうを支持すると思うんです。たとえば後ろに下がりながらでもパンチを当てていても、どんどん前に出てプレッシャーをかけてパンチを避けない奴のほうが強そうに見えるじゃないですか。でも、判定だと後者の負けなんですよ。

――UFCのカーロス・コンディットvsニック・ディアスなんかまさにそうでしたね。

大沢 あれもニックが「強そうに見えた」だけですよね。ニックはパンチやローキックをもらっても「おらー!」って前に出てたけど、でもおまえポイントも体力もどんどん削られてるから!って(笑)。

高崎 UFC日本大会の五味隆典vsディエゴ・サンチェスもそうでしたよね。サンチェスは下がってたけどパンチも当てていた。でも、判定のときに「えーー!?」という声が挙がって。そういう反応がジャッジからすると嫌なんですよね?(笑)。

大沢 メッチャ嫌ですよ! 怖いですよ。『ヴァルキリー』のとき、両選手のこの先を左右する試合のサブジャッジをやったときがあって。それが凄くいい試合だったんですけど、内心「これは判定が難しいなあ……」って焦りましたねぇ。

高崎 いい試合の判定ってやりずらいですよね(笑)。

大沢 結局、判定になって最初にボクのジャッジが読み上げられて、二人目がボクとは反対の選手に入れて、3人目がボクと同じだったんですけど。正直なんだかホッとしましたねぇ……。

――「2-1」の「1」にはなりたくない(笑)。

大沢 幸いボクは「2-1」という判定のときに「1」側になったことはなくて、「えー?」という反応を浴びせられたこともないんです(苦笑)。

高崎 たまーに「2-1」の「1」になったジャッジが首を傾げてるときがありますよね。そこはもっと堂々としててほしいんですけど(笑)。

……中編へ続く