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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2017/08/21
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おはようございます。

今回の記事はニコ生ゼミ8/13(#191)より一部抜粋しました。

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 「『シン・ゴジラ』の元ネタ、宮部みゆきの怪獣小説『荒神』がスゴすぎるという話」


 「シン・ゴジラ1周年企画」ということで、『シン・ゴジラ』の元ネタとなった作品を紹介します。


 まず、『荒神』。

 荒神と書いて「こうじん」と読みます。宮部みゆきの小説ですね。
 これ、実は、朝日新聞に連載していた新聞連載小説なんだよね。

 新聞連載小説って難しくて、一日あたり、単行本でいうと“一見開き半”くらいしか載せられないんだよね。
 その掲載枠の中で、ある程度、面白くなきゃいけないんだけど、それを1年やっているんだよね。

 連載していたのが2013年から2014年の春までなんだけど。めちゃくちゃ面白いんだよ。

・・・

 関ヶ原の合戦から、ちょうど100年後くらいの話なんだけど。

 東北の方に2つの藩があった。1つは“永津野藩”。もう1つは“香山藩”と書いて、たぶん「こうやま藩」と読むと思うんだけども。

 もともとは1つの国だったのが、内紛があって2つに分かれて、関ヶ原の戦いで片一方が西軍を裏切って東についた。

 つまり、「外様なんだけども家康さまの覚えめでたく、藩として認められた」という感じなんだ。

 この2つの藩は、めちゃくちゃ仲が悪いんだけど、「この国境の村が、一夜にして消えてしまった」というのが、物語の発端なんだ。

 だけど、両方の藩とも、「村の人が消えた」ということがわかってからの初動捜査がなかなか上手くいかない。
 なぜかというと、この永津野藩と香山藩というのは両方が仲が悪いからなんだ。

 香山藩の藩主はなかなか立派な人で、“新田開発”と言って、山をどんどん畑にして増やしていくから、元は小さい藩ながらも、だんだんと財政状況が良くなっていく。

 ところが、それに対して、もう1つの永津野藩というのは、香山藩より大きい国な上に、昔は金が出で、そこそこ潤っていたもんだから、何も殖産していなかった。
 つまり、新たな産業を興してなかったんだよね。
 
 で、今さら、蚕の養殖を始めて絹を売ろうとしてるんだけども、この間まで金山から金が出ていたから、武士たちの心はなかなかそっちにいかない。

 おまけに、ただでさえ食べるギリギリの量しか米が獲れない。
 なのに、「蚕を飼え! 桑の畑を作れ!」って、田んぼを潰していくわけ。

 なので、「桑を育てて、蚕を飼って、糸を取って、絹にして、絹織物を作って、都に持って行って、売れてと、金が入るのは一体どれだけ先の話なんだ!?」 「その間、私たちは飢えて我慢しなければいけないのか!?」って、百姓がすごい反乱を起こすのね。


 そんな感じになっているので、永津野藩の方から、人が散り散りに逃げようとしているんだ。

 一応、国境のところに防衛線が引かれていて、「一切逃がすな!」ということになってるんだけど、なんか“ベルリンの壁”みたいな状態になってるんだよね。

 そんな中で、突然、村が1つ丸ごと消えちゃったもんだから、両方とも相手を疑う疑う(笑)。

 で、そこで出てくる正体不明の怪獣がね、すげえんだよ。

・・・

 さっき、「シン・ゴジラの元ネタ」と言ったのはどういうことかというと。

 一番最初に出てきたのは、トカゲのようでいてガマのようでもある……小説だからいろいろ抽象的な描き方で出てくるんだけど、そんな怪獣で。

 おそらく、体長は2~30mくらいなんだけど、最初のうちはその正体が全くわからない。

 なぜかというと、これは後にわかるんだけども、そいつは体表面の色をカメレオンみたいに自由に変えられて、消えることもできるんだよね。

 なので、最初は夜中に現れるんだけども、その後の昼間に現れる時の描写では、竹林がザワザワと音がして、何かと見たら、遠くの方から、竹がワーッと2つに分かれて行くのが見えるんだ。

 だけど、「あれはなんだ!? あの竹の下にどんな大きいものがいるんだ!?」って、目を凝らしてもよく見えない。当たり前だよね。保護色みたいな形になっているから。

 その竹林から出て来た怪獣がというのが、巨大なトカゲみたいな状態で、それが人を襲って食うんだよ。


 宮部みゆきの筆力(小説を書く力)って、たぶん、日本で一番上手いんだよね。

 その日本一の作家が、本気で怪獣小説を書いちゃったもんだから、おまけに、本人も「これは絶対に映像化は出来ないだろう」という感じで書いちゃったから、迫力がすごいんだ。

 そのトカゲ型の怪獣は、ものすごく速く動くんだけど。

 「あんな足で、どうやって速く動くんだろう?」とよく見ていたら、手足をひっこめてヘビ状の身体になって、ズルズルっと谷底へ滑り降りてるんだよ。

 ……もう、これ、どう見ても“蒲田くん”なんだよな。
 あとは、口から胃液みたいなものを吐くし、「蒲田くんのイメージ元はこれか!」っていう(笑)。


 ※蒲田くん … 『シン・ゴジラ』の第二形態の俗称。蒲田に上陸した、やや可愛らしいフォルムの怪獣なので、ファンの間ではこんなふうに呼ばれることがある。


 その後、身体の内側を攻撃されて、ついに2本足で立ちあがるシーンがあるんだけど。
 立ちあがった瞬間に、また形態変化して、胴が太くなって下半身が強くなって、2本足で立てるようになる。

 これが、シン・ゴジラの第3形態っぽいんだよね。
 
 その怪獣が、口から霧状の可燃物をファーって噴くと、周りが紅蓮の炎にブワーッと飲まれて、永津野藩が領民を逃さないように作ってる砦がどんどん焼け落ちていく。

 そんな中で怪獣と戦うんだけど……また、ここで出てくる戦国武士たちが、怪獣とけっこういい試合をやるんだよな(笑)。

・・・

 やっぱり、この『荒神』は、時期的に見て、どう考えても『シン・ゴジラ』の元ネタなんだけども。

 シン・ゴジラよりも優れているところは、「なんでこんな怪獣が出現したのか?」という部分や、登場人物の関わり合いというのをちゃんと描いているところなんだよね。


 あのね、怪獣映画って本当に難しいんだよ。シン・ゴジラでも、やっぱりそこが出来てなかったんだけども。

 怪獣と登場人物との間にはサイズの差があるし、あとは、怪獣の方に“人格”があったらダメなんだ。下手に人格を付け加えてしまうと、卑小化されてしまうから。

 つまり、怪獣は、人類とか文明に対して、なんとなく無関心な感じで歩いてないと怖くならないんだよな。

 ところが、映画を作る時にはこの登場人物、特に主人公と怪獣との間に何か感情的な関わりがないとお話にならない。

 そこら辺を、すごく上手く処理しているのが、たぶん『うしおととら』のラスト5巻で大暴れする、白面の者という大怪獣。

 あれが“人格を持った大怪獣”として成立しているギリギリの形なんだよな。


 この『荒神』の中でも、怪獣は相変わらず人格を持ってないんだけども、登場人物の関わり合いというのをちゃんと作っていて、それぞれの人間が「怖い」とか「食われる」だけでなくて、お話の中でドラマとしてちゃんと成立するようになっている。

 逆に言うと、こういう怪獣モノのストーリーを映画として作る時っていうのは、そういった怪獣と登場人物の関係やドラマというのを全部捨ててしまわないと、成立しないんだ。

 だから、シン・ゴジラがやった「ドラマを全部捨てる」っていうのは、素晴らしい大英断だったと思うんだけども。

 荒神はその逆で、「とことんドラマを重視して、女性作家がものすごいリアリティで怪獣モノを描いたらどうなるのか?」ってことをやってるんだよね。

・・・

 これ、本の帯に「NHKドラマ化決定!」って書いてあるけどさ……絶対に面白くならないから!(笑)

 もうね、キャストを見てるだけでわかるし、何より、わずか100分の特番みたいな形でやろうとしているみたいだから、「これ、もう、ダメだなあ」と思って。


 あとは、この本の巻末で、“樋口のしんちゃん”が解説を書いてたんだけど。

 そこで樋口真嗣の名前を見て、「お! これはすごい!」って思ったんだ。

 というのも、読んでる間「この『荒神』の映画化なりドラマ化なりを、樋口真嗣がやるんだったら面白いだろう!」って思ってたからなんだけど。

 ところがね、その解説を読んだら、「樋口真嗣がやっても、ダメなんだ」って思っちゃって。

 なぜかというと、そこに書いてあったのは、解説と言いながら、「どうすれば、この作品を特撮映画として日本で撮れるか?」だったからなんだ。

 5億から10億くらいの予算で撮る方法みたいなのが、延々と書いてあったんだけどさ、これを読んでると、めちゃくちゃ醒めるの。

 たとえば、さっき話した「竹林がワーッと分かれて、中に何かがいるけど、見えない!」というシーンを撮るには、もうどう考えても、ヘリコプターを呼んできてホバリングさせるしかない。

 しかし、ヘリコプターのホバリングっていうのは、これくらいの金がかかる。

 そして、竹林がしなるくらいの風を起こすためには、ヘリをかなり低く降ろさなければいけないんだけど、そのためには天気が良くないといけない。

 そういう、特撮を行う上でのいろんな事情が書いてあって、読んでいる分には面白いんだけども、読めば読むほど「荒神を映画化したとして、どれくらいのバジェットの映画で、どんな画面になるのか?」っていうのが、もう、簡単に予想できちゃうんだよね。


 樋口真嗣の映画って、『日本沈没』とか、画面は派手に見えるんだけど、「見通しが良くない」って言うのかな?

 風景が美しくないんだよ。

 それはなぜかというと、いろんなものに気を使い過ぎて、俳優さんに気を使って、ロケ地に気を使って、格好いい画面に気を使っちゃうもんだから。

 一番の基礎の基礎の部分が疎(おろそ)かになるからなんだよね。


 スタンリー・キュービックの映画なんて、風景がとんでもなく綺麗だし。
 
 あと、さっき話した『スパイダーマン・ホームカミング』も、ただ単にニューヨークのステタン島からニュージャージ州に行くフェリーに乗っているだけのシーンでも、めっちゃ格好いいんだけどさ。

 樋口真嗣の映画って、絶対に「風景が綺麗だな」というのがないんだよね。


 だから、その解説を読んで「うーん、樋口真嗣に撮らせたとしてもこんな感じになるのか」って思いながら、2回目の絶望を覚えたよ。

 「NHKのドラマ化は……ダメだ!」「じゃあ、樋口真嗣が撮ったら……やっぱりダメだ!」って、勝手に2回絶望しながら読んでしまいました。

・・・

 まあ、『荒神』自体は、すごく面白いし、この間、文庫になったところだから、みなさんもぜひ読んでみてください。

 「ハリウッドに売り込めば?」(コメント)
 
 そうだよね。
 Netflixがやった方がまだマシかもしれないね(笑)。


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